2004年12月24日
下北沢Ｘ物語（１０４）〜下北沢小田急踏切紀行（１）〜
クリスマスイブである、今日は順番からすると踏切遮断量の多い踏切、その三番目の物語となるはずである。「交通量が三番目に多い踏切はヒミツですよ」、なんて、そんな隠し立てはしない。下北沢の西、鎌倉通りを渡る下北沢３号踏切が、それである。
その物語はできてはいない。宣伝しとおりにはいかない。十ある踏切の浮遊物語の二つ目が昨夜やっと終わった。けれども思いの外むずかしい。リアルな踏切を題材にしているから、そこの様子がわからなくてはならない。
「あれ、あそこどうだっけ」
踏切をイメージするときにわからないことがいくつも出てくる。名称が書かれてある鉄柱、信号のある位置、どうでもいいといえばどうでもいい。が、曖昧にするよりも行った方がいい。行くとおもしろいことがある。
「よし、行こう」
十の踏切を全部自転車で走り回るのも面白い。思いがけないことがあるかもしれない。予感は的中だ。下北沢２号踏切で試運転中の最新型ロマンスカーに出会った。
箱根行き新特急は清純のまっ白で試運転。
用事も一つあった。日本近代文学館でどうしても調べたいことがある。それで駒場まで自転車でひたすら走った。
若林から代田へ、淡島通りを走る。そこら辺り思いついたところの路地に踏み込むと生い茂った樹木の中に洋館があって、混血の美少年が住んでいそうな予感もする。森茉莉的世界が近づくとそうなる。
代沢十字路交差点を過ぎると右手に広大な敷地が見える。かつて陸軍衛戎病院があったところだ。高層ビルの建築中だ。敷地の果てに円泉寺の塀が見える。林芙美子が住んでいた長屋がそこにある。道は下りながら左にカーブし、淡島交差点に着く。左に行くと倉運荘アパート、森茉莉の壮大な物語が創られたところだ。もちろん今はない。
その森茉莉の小説「枯れ葉の寝床」の冒頭を思い出した。
その物語はできてはいない。宣伝しとおりにはいかない。十ある踏切の浮遊物語の二つ目が昨夜やっと終わった。けれども思いの外むずかしい。リアルな踏切を題材にしているから、そこの様子がわからなくてはならない。
「あれ、あそこどうだっけ」
踏切をイメージするときにわからないことがいくつも出てくる。名称が書かれてある鉄柱、信号のある位置、どうでもいいといえばどうでもいい。が、曖昧にするよりも行った方がいい。行くとおもしろいことがある。
「よし、行こう」
十の踏切を全部自転車で走り回るのも面白い。思いがけないことがあるかもしれない。予感は的中だ。下北沢２号踏切で試運転中の最新型ロマンスカーに出会った。
箱根行き新特急は清純のまっ白で試運転。
用事も一つあった。日本近代文学館でどうしても調べたいことがある。それで駒場まで自転車でひたすら走った。
若林から代田へ、淡島通りを走る。そこら辺り思いついたところの路地に踏み込むと生い茂った樹木の中に洋館があって、混血の美少年が住んでいそうな予感もする。森茉莉的世界が近づくとそうなる。
代沢十字路交差点を過ぎると右手に広大な敷地が見える。かつて陸軍衛戎病院があったところだ。高層ビルの建築中だ。敷地の果てに円泉寺の塀が見える。林芙美子が住んでいた長屋がそこにある。道は下りながら左にカーブし、淡島交差点に着く。左に行くと倉運荘アパート、森茉莉の壮大な物語が創られたところだ。もちろん今はない。
その森茉莉の小説「枯れ葉の寝床」の冒頭を思い出した。
厚木街道の外れ、薮内郡の、一塊の家の集団から一軒遠く離れた家がある。街道から下へ二度大きくうねる細い道が、荒れた畑地を通り、その畑地もすぐになくなって、その大きな竈のような建物にぶつかる。（新潮文庫、昭和五十四年刊）
厚木街道は具体的である。だからつい具体的な想像をする。「二度うねる」、うん、うねるなと思う。厚木街道は２４６と呼び習わしている国道だ。薮内郡は、荏原郡であろう。街道は明らかに茶沢通りを想起させる。三軒茶屋の丘から真北に向かう道はいったん下りまた上る、「サミット」というスーパーがあるサミットが代沢十字路である。そこを過ぎてまた下る。地理的には代沢四丁目である。つまり、森茉莉がの居住空間に近い、実際は「倉運荘アパート」で、彼女の頭に築かれた空間世界である。アパルトマンはボロだが、想像である。回りをクヌギ林にしてしまう。つぎの段落では「処々欠け落ちた外郭に比して内部は豪奢なものをひそめている」と記される。なるほど、こういう展開かと納得する。そのあっけらかんとした嘘が魅力だ。ボロアパルトマンが広壮な趣のある邸宅となる。
三軒茶屋から丘一つ越えると土地の趣が違ってくる。北沢川も森茉莉に言わせるとスモールテムズとなる。そのおしゃれな感覚が代沢にはよく似合う。土地の持つ雰囲気から来ている。スモールテムズ近辺は下町的である。ところが近隣の丘は高級邸宅街である。「代沢の住宅地」として世田谷百景にも選ばれている。著名人が多く住んだ。横光利一もその独りであった。すぐ北の丘を上れば新感覚派の横光邸である。
が、スモールテムズ近くの貧相なアパルトマンに住む彼女はもっと進んで未来感覚である。本当に感覚は計り知れないものがある。
常識が通らないというのが面白い。彼女は鉄道的世界観というのを持ち合わせていない。道路的な、「カア・ウェイ」感覚でとらえていることだ。
代田の丘の萩原朔太郎、代沢の丘の横光利一は、「厚木街道の外れ」的な感覚ではない。朔太郎は小田急線の世田谷代田駅を、横光利一は下北沢駅を最寄り駅ととらえていた。鉄道的な世界観があった。クロスする鉄道交点としての下北沢が彼らにはあった。もっとも利一の場合は井の頭線が開通してからは池ノ上駅が最寄り駅となるが。
森茉莉は淡島車庫脇に２２年間住んだ。最寄り駅は下北沢駅である。だが、渋谷に出るのなら淡島車庫から出るバスの方が速い。彼女の方が近代的だ。じっさい、「ウェストサイド物語」で有名なジョージチャキリスに飛行機で会いに行っている。また、「富士山麓の自動車レェス」というエッセイ（森茉莉全集 ３巻 筑摩書房 １９９３年刊）」には「明治生まれの婆さんが、カア・レェスのスリルに憧れてそわそわしている」とある。鉄道より自動車である。彼女の父、鴎外はドイツの汽車に乗って車窓を克明を描写している。娘の茉莉は倉運荘にいて貧相な室内を豪華に描き上げた。
おい、踏切はどこ行った、と、言われそうだ。が、今日、踏切紀行しているときに思いがけないことに出会った。東北沢５号踏切脇で森茉莉に関わる意外な発見である。
スモールテムズを渡って自転車で北上した。すると駒場公園の中に近代文学館はあった。深閑とした森の中にそれは建っていた。用件を無事に済ませ園内の砂利道を自転車でジャリジャリ走っていると、
「自転車は入ってきちゃだめだ！」
警備員に怒鳴られてしまった。見ると正門に自転車ではいらないように、ちゃんと自転車の踏切があった。走行中の妄想はやめなければと反省した。
が、スモールテムズ近くの貧相なアパルトマンに住む彼女はもっと進んで未来感覚である。本当に感覚は計り知れないものがある。
常識が通らないというのが面白い。彼女は鉄道的世界観というのを持ち合わせていない。道路的な、「カア・ウェイ」感覚でとらえていることだ。
代田の丘の萩原朔太郎、代沢の丘の横光利一は、「厚木街道の外れ」的な感覚ではない。朔太郎は小田急線の世田谷代田駅を、横光利一は下北沢駅を最寄り駅ととらえていた。鉄道的な世界観があった。クロスする鉄道交点としての下北沢が彼らにはあった。もっとも利一の場合は井の頭線が開通してからは池ノ上駅が最寄り駅となるが。
森茉莉は淡島車庫脇に２２年間住んだ。最寄り駅は下北沢駅である。だが、渋谷に出るのなら淡島車庫から出るバスの方が速い。彼女の方が近代的だ。じっさい、「ウェストサイド物語」で有名なジョージチャキリスに飛行機で会いに行っている。また、「富士山麓の自動車レェス」というエッセイ（森茉莉全集 ３巻 筑摩書房 １９９３年刊）」には「明治生まれの婆さんが、カア・レェスのスリルに憧れてそわそわしている」とある。鉄道より自動車である。彼女の父、鴎外はドイツの汽車に乗って車窓を克明を描写している。娘の茉莉は倉運荘にいて貧相な室内を豪華に描き上げた。
おい、踏切はどこ行った、と、言われそうだ。が、今日、踏切紀行しているときに思いがけないことに出会った。東北沢５号踏切脇で森茉莉に関わる意外な発見である。
スモールテムズを渡って自転車で北上した。すると駒場公園の中に近代文学館はあった。深閑とした森の中にそれは建っていた。用件を無事に済ませ園内の砂利道を自転車でジャリジャリ走っていると、
「自転車は入ってきちゃだめだ！」
警備員に怒鳴られてしまった。見ると正門に自転車ではいらないように、ちゃんと自転車の踏切があった。走行中の妄想はやめなければと反省した。
rail777 at 21:09│Comments(0)│TrackBack(0)│
