2005年01月22日
下北沢Ｘ物語（１２８）〜下北沢の水上勉３〜
自転車で街をあちこちと巡り歩くのは楽しい。だが、人に出会った分、探し回った分、情報が集まる。それを整理しておくというのも大切だ。昨日のフィナーレは、珈琲店「邪宗門」であった。ご主人、それに奥さん、また、居合わせたお客さんからも思いがけないお話を伺うことができた。
下北沢の水上勉を中心とした話に戻るとしよう。彼が文潮社に嘱託として勤めていたのはわずかな期間である。文潮社の本の発行年月を見ると昭和２１年から２４年までのものがほとんどだ。戦後の出版の戦国時代に生まれ、そして消えた会社だ。水上勉が勤め始めたのは昭和２３年である。
「下北沢駅前で焼酎を売る屋台店があった。英光さんとよくご一緒したことがあった」（「私版 東京図絵」水上勉 朝日文庫 １９９９年刊）英光は田中秀光である。ここで言う駅前というのがどこなのか前から気になっていた。
けれどもその疑問は「邪宗門」の奥さんから話を聞いてたちどころに氷解した。
「昭和２３年頃ですか、そのときは南口はまだなかったですね。今の下北沢駅ガード下、ほら公衆トイレがあるでしょう。その前に小田急トラベルがある。そこに地下道がありましたよ。そこを通って北口に行きました。なんだかあなぐらみたいで気持ちのいいものではありませんでしたよ。駅前の屋台というと、今の駅前食品市場あたりでしょうか。小さなお店がいっぱいありましたね」
南口と北口をつなぐ地下道があった、それは初耳である。
「英光さんは親爺さんさんに怒鳴り散らしておいて駅の改札口へさっさと歩いていく。下北沢駅は階段がすぐであった」（「私版 東京図絵」）
昨日北口駅前の三省堂で本を買った後、駅の階段を上った。まず階段が５段ある、踊り場があってまた階段である。段数が２０あった。（写真は下北沢駅北口）
田中英光は北口の踊り場でいったん止まって後ろを伺った。親爺の影が見えた。とたんに二十段の階段を六尺の大男はライオンのように敏捷に登っていった。水上は追いつくのに息が切れた。
下北沢の水上勉を中心とした話に戻るとしよう。彼が文潮社に嘱託として勤めていたのはわずかな期間である。文潮社の本の発行年月を見ると昭和２１年から２４年までのものがほとんどだ。戦後の出版の戦国時代に生まれ、そして消えた会社だ。水上勉が勤め始めたのは昭和２３年である。
「下北沢駅前で焼酎を売る屋台店があった。英光さんとよくご一緒したことがあった」（「私版 東京図絵」水上勉 朝日文庫 １９９９年刊）英光は田中秀光である。ここで言う駅前というのがどこなのか前から気になっていた。
けれどもその疑問は「邪宗門」の奥さんから話を聞いてたちどころに氷解した。
「昭和２３年頃ですか、そのときは南口はまだなかったですね。今の下北沢駅ガード下、ほら公衆トイレがあるでしょう。その前に小田急トラベルがある。そこに地下道がありましたよ。そこを通って北口に行きました。なんだかあなぐらみたいで気持ちのいいものではありませんでしたよ。駅前の屋台というと、今の駅前食品市場あたりでしょうか。小さなお店がいっぱいありましたね」
南口と北口をつなぐ地下道があった、それは初耳である。
「英光さんは親爺さんさんに怒鳴り散らしておいて駅の改札口へさっさと歩いていく。下北沢駅は階段がすぐであった」（「私版 東京図絵」）
昨日北口駅前の三省堂で本を買った後、駅の階段を上った。まず階段が５段ある、踊り場があってまた階段である。段数が２０あった。（写真は下北沢駅北口）
田中英光は北口の踊り場でいったん止まって後ろを伺った。親爺の影が見えた。とたんに二十段の階段を六尺の大男はライオンのように敏捷に登っていった。水上は追いつくのに息が切れた。
水上勉が「文潮社」の嘱託になって「浦和から東北沢へ通った。」というのは昭和二十三年である。東北沢という地名はない，駅はある。かつての「北沢二丁目１７３」は今の「代沢二丁目二十四」，森厳寺の裏あたりだ。最寄り駅は井の頭線「池の上」駅で，徒歩五，六分の距離である。浦和から渋谷まで来て井の頭線に乗り換えて池の上というのが普通だ。
小田急線「東北沢」も考えられなくはない。新宿で小田急に乗り換え東北沢駅で下りる。そこからだと二十分ほどかかる。徒歩の時間は長いが電車の乗車時間は「東北沢」に来る方が幾分短い。運賃も少し安いはずだ。生活を切りつめての修行時代である。東北沢駅で降りて代沢まで歩いたのかもしれない。
昨日は代沢の丘を自転車でぐるぐる廻った。旧横光邸の前は二度通った。玄関まで続く石畳があった。コンクリートではないかと思っていたが加工した自然石のようだった。青みがかっていた。ちょうど隣が新築中で道路警備員がいた。ゆっくりと走りながら見ていった。辺り一帯は邸宅街である。緑が深くて静かだ。
代沢二丁目２４番は森厳寺の裏手だ。寺の裏手を道が左にカーブを描いて流れていく。塀の上には卒塔婆がのぞいている。花の時節、坂の上から眺める寺の桜は寂しくて美しい。何度も立ち止まったことがある。
「文潮社ですか。聞きませんね、わたしずっとここに住んでますけどね。ええ、空襲ではここら辺は焼けませんでしたよ」
たまたま玄関から出てこられた２３番地の森さんの奥さんが、そう教えてくれた。
小田急線「東北沢」も考えられなくはない。新宿で小田急に乗り換え東北沢駅で下りる。そこからだと二十分ほどかかる。徒歩の時間は長いが電車の乗車時間は「東北沢」に来る方が幾分短い。運賃も少し安いはずだ。生活を切りつめての修行時代である。東北沢駅で降りて代沢まで歩いたのかもしれない。
昨日は代沢の丘を自転車でぐるぐる廻った。旧横光邸の前は二度通った。玄関まで続く石畳があった。コンクリートではないかと思っていたが加工した自然石のようだった。青みがかっていた。ちょうど隣が新築中で道路警備員がいた。ゆっくりと走りながら見ていった。辺り一帯は邸宅街である。緑が深くて静かだ。
代沢二丁目２４番は森厳寺の裏手だ。寺の裏手を道が左にカーブを描いて流れていく。塀の上には卒塔婆がのぞいている。花の時節、坂の上から眺める寺の桜は寂しくて美しい。何度も立ち止まったことがある。
「文潮社ですか。聞きませんね、わたしずっとここに住んでますけどね。ええ、空襲ではここら辺は焼けませんでしたよ」
たまたま玄関から出てこられた２３番地の森さんの奥さんが、そう教えてくれた。
rail777 at 18:50│Comments(0)│TrackBack(0)│
