2008年06月
2008年06月29日
下北沢Ｘ物語（1118）〜幻想的ダイダラボッチ論３〜
わたしたちが生きている機械時間はたかだか１３６年前に始まったばかりだ。つまりは明治五年に新橋と横浜との間の鉄道が開通した。そのことによって近代時間は刻まれ始めた。機械は周知された時間割通りに動くことによって意味を持つ。鉄道開通が時計を普及させたというのはよく知られた事実である。
古代における移動は「歩く」ことが中心だった。近代における移動は「乗る」ことである。歩くから乗るへは大きな変化だった。歩くことにおいて獲得していた全円的な視野は乗ることによって１２号程度の額縁に変わってしまった。つまりは車窓である。そこを通して世界を覗くというようにもなった。機械近代はわれわれの想像力を狭い空間に押し込めたともいえる。
機械近代はダイダラボッチ的な存在に幻想的郷愁を持っていたのかもしれない。ゴジラという巨漢、恐怖物を想像し、その怪獣が近代化した都市東京を襲う。走っている新幹線を手でひょいとつかまえて潰してしまう。近代文明に対する、古代の復讐というような意味合いもあったのだろうか。ダイダラ坊は全円的視線でやっと捉えられるが、ゴジラは画面的視線で捉えられるものだ。近代は視界に入るものしか想像できないのかもしれない。
ダイダラボッチ伝説は古代、「歩く」という原初的な移動方法がすべてであった時代において生まれたものだ。近代では生まれ得ないものである。その存在は悪意的ではなく、善意的であった。山を、川を、水路を創ったというような伝説が多い。人間には好意的ではあるが時としてドジを踏む。愛される存在であった。代田橋をガリバーのようにひょいと架けたことも愛らしい行為だ。
柳田国男は武蔵野におけるダイダラボッチの足跡を次のように述べている。
代田と駒沢とは足の向いた方が一致せず、おまけにみな東京を後にしてゐるが、これによつて巨人の通つた路筋を考へてみることは出来ぬ。地下水の路頭のために土を流した場処が、通例かういう足形窪を作るものならば、武蔵野は水源が西北にある故に、ダイダラ坊はいつでも海の方または大川の方から、奥地に向いて闊歩したことになるわけである。
「ダイダラ坊の足跡」
2008年06月28日
下北沢Ｘ物語（1117）〜幻想的ダイダラボッチ論２〜
ダイダラボッチは言葉の次元の穴である。それは語が持つ特有の響きにある。われわれが普段耳にしないリズムを持っている。この響きは何時から伝えられてきたのだろうか。
ダイダラボッチを素材にした「幻想朗読劇 ダイダラボッチ」の台本を書き記している。謂わば言葉の井戸をのぞき込む物語である。ここには語り部を登場させている。
「いいか、言葉というと、ついわれわれは文字のことを考える。ところが太古の昔はそういうものはなかったんだ。それで大昔の人は言葉に心地よい響きを仕込んで、後の世に伝わるようにしたんだ。つまり、ダイダラボッチというリズムのある言葉にして、耳に残るようにしたんだ。そうすることで口づてに受け継がれてきたんだよ。」
これは自身の想像を書き記したものだ。ダイダラボッチという響きのよい言葉は口承によって引き継がれたものであろうと想像している。柳田国男も「ダイダラ坊の足跡」のまとめの箇所で次のように述べている。
村にさびしく冬の夜を語る人々に至つては、その点に於いてやや自由であつた。彼等は沢山な自分の歴史を持たぬ。さうして昨日の向う岸を、茫洋たる昔々の世界に繋ぎ、必ずしも分類せられざるいろいろの不思議を、その中に放して置いて眺めた。一旦不用になつて老媼の親切なる者などが、孫どもの寝付かぬ晩のために貯へてゐた話も、時としては再び成人教育の教材に供せられる場合があった。即ち童話と民譚との境は、渚の痕の如く常に靡き動いてゐたのである。
炉端の語りとしてのダイダラボッチ伝説は語り伝えられてきた。娯楽のない昔は媼によって語られる話が楽しみであった。往古の昔は乏水の歴史の中にあった。土と苦闘し、格闘しようやっと生きながらえていた。子供らはおやつとて満足には与えられてはなかったろう。炉端の語りは言葉のごちそうであった。
2008年06月26日
下北沢Ｘ物語（1116）〜幻想的ダイダラボッチ論〜
ダイダラボッチ伝説は深遠である。謂わばダイダラボッチは今日に残っている言葉の井戸のようなものである。次元の穴とも言える。このたった一語を通して、過去という深い深い井戸が覗き見えるようである。底は真っ暗闇で何も見えない。石を投げ込んでみる、が、いつまで経っても水音は聞こえてこない。諦めかけた頃に、だぃならほっち、という奇妙な響きの音が返って来た。
言葉は物差しである。ダイダラボッチというたったの一語はとりあえず事象を測るものさしである。まず、言えることは異音であることだ。ダイダラボッチ、聞きなれない、耳慣れない音である。和語は濁音、半濁音からは始まらない。そのことからこのダイダラボッチという語は日本固有の語でないことは言える。
音楽的な響きを持っているということは言える。daidarabotuchi、奇妙な音であるが、調子や響きがよい。独特の響きは耳に残る言葉である。そこに発信者の意図を想像することができる。
伝説や伝承はほとんどが口承である。口から口へと伝えられたものだ。ダイダラボッチ伝説も、その音楽性から間違いなく口承として伝えられたものだ。
今、自分自身はパソコンに向かって文章を打ち込んでいる。FMラジオを聴きながら作業をしている。驚いたことに、そのラジオからダイダラボッチという言葉が聞こえてきた。全国学校音楽コンクールでダイダラボッチを題材にした歌を合唱した学校があったようだ。それに対する合唱指揮者の講評が流れていた。
「ダイダラボッチというのは巨人伝説ですね、何かこれには一人だという寂しさが感じられます。それを音楽的に表出することが欠けているように感じられます……」
2008年06月25日
下北沢Ｘ物語（1115）〜ダイダラボッチ探索行３〜
地域文化はその土地固有のにおいや特徴である。それが住民生活に関わって伝承されたり、保存されたりしているものである。ダイダラボッチ伝説も土地特有のものであった。ところが、近代になって一帯は都市化してしまった。それで、土地の恩恵に預かって生活することもなくなり、その伝説も都市空間の闇に消え果ててしまった。
ダイダラボッチ伝説はかつては生活の中にあった。命を持った話として口伝えで語り伝えられてきた。ダイダラボッチの窪地に湧き出る水は農業生産、生活飲料として貴重なものだった。乏水の歴史を歩んできた一帯の人々は窪地の水への感謝の念を忘れなかった。それゆえに湧水のまん中に小島を設え、そこに弁財天を祀った。
我々はダイダラボッチの源となった宇田川湯支流の痕跡を求めて辿った。川はない。が、それが抉った谷の痕跡は眺められる。環七と羽根木通りが交わる交差点から南を見ると六車線が下ってまた上っている。宇田川湯支流の凹みが道路表面にくっきりと浮き出ている。不思議なことにその左手前に堀之内道の古道が弓状のカーブを描いて１００メートルばかり残っている。環七は、古い人はオリンピック道路だという。東京五輪に合わせて、旧道の堀之内道に沿って拡幅されてできた。
「柳田国男は代田のダイダラボッチは右足だというのですね。北を向いているのですよ。そうするとちょうどこのこの堀之内道に符合するのですよ。経験から言えることは古道は自然地形に沿って作られるということです。この弓形の膨らみは西から丘が押しよせてきている。それを巻くように古道が作られているのですよ。ちょうどそれが巨人の土踏まずに当たるのです。これを東に移動させるとダイダラボッチになります。」
わたしそうは説明した。後の反省会で笑い話となった。リアルだったようだ。
『きむらさんの話にだまされないようにとしっかり聞いていたんですけどね。いや、あれはね……』
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2008年06月23日
下北沢Ｘ物語（1114）〜ダイダラボッチ探索行２〜
言葉はものさしである。一語しか残っていない言葉を通して、太古の昔の人々の行いを推し量る。その場合は江戸時代程度にとどまらない。遠い古代まで遡るはずだ。
代田橋を架けたのはダイダラボッチだという伝説が江戸時代の地誌「紫の一本」に記されている。人工的に作られた用水の架橋については民族学者も「巨人の偉績としては甚だ振はぬものである」と述べている。が、代田という地名の由来の一つの傍証と考えて柳田国男はこの巨人の所業を「村の名の代田は偶然でないと思ふ上に、現に大きな足跡が残ってゐるのだから争はれぬ。」と言い、巨人による代田橋を架橋伝説を肯っている。
しかし、この架橋は巨人伝説にそぐわない。ダイダラボッチの所業にしてはスケールが小さい。そして時代も新しい。玉川上水の通水開始は承応3年（1654）である。３５０年ほどの前のことである。民族学者は取り敢えずはこの橋を訪れたようである。
私は到底その旧跡に対して冷淡であり得なかった。七年前に役人を罷めて気楽になったとき早速日を卜してこれを尋ねて見たのである。ダイタの橋から東南へ五六町、その頃はまだ畠中であった道路の左手に接して、長さ約百間もあるかと思ふ右片足の跡が一つ、爪先あがりに土深く踏みつけてある、と言ってもよいやうな窪地があった。内側は竹と杉若木の混植で、水が流れると見えて中央が薬研になって居り、踵のところまで下るとわづかな平地に、小さな堂が建ってその傍に湧き水の池があった。即ちもう人は忘れたかも知れないが、村の名のダイタは確かにこの足跡に基いたものである。 「ダイダラ坊の足跡」
この記述に、「七年前に役人を罷め」とある。これは大正8(1912)年12月に貴族院書記官長を辞任したことを指すのであろう。とすれば、代田ダイダラボッチ探訪は昭和元年あたりのこととなる。その頃、「代田橋」は残っていたものだろう。彼は京王電車に乗って来て、橋を一応眺め、それから東南の「ダイダラボッチ」へ向かったようだ。
われわれは東南に向かわないで真南に向かった。ところが今回、面白いものを発見した。旧代田橋上にかかっている歩道橋を下り、埋もれた玉川上水上を２０メートルばかり西に行って、道を右折した。妙に広い道路である。おかしいなと思っていると道の両側に御影石の縁石が南へずっと続いている。道は京王帝都電鉄の踏み切りを渡り、淀橋浄水場にまっすぐに向かっている。そのことから玉川上水から淀橋浄水場へと繋がる導水路であろうと推理した。踏み切りは代田橋４号（写真）であった。ここで面白いことに気づいた。その導水路がちょうど尾根に当たっていることにだ。踏み切り上でそれがはっきりと分かった。線路は西に向かっても、東に向かっても下っていた。
2008年06月22日
下北沢Ｘ物語（1113）〜ダイダラボッチ探索行１〜
ダイダラボッチは異文化である。既に言葉そのものに特異な響きがありリズムがある。その音自体に固有性がある。清音にしてみるとそれがよくわかる。「たいたらほっち」である。音としてはだいぶおとなしくはなるが、それでも馴染みのない音である。
ダイダラボッチは地域的なものではない。日本だけのものでもない。グローバルなものである。昨日、ダイダラボッチ探索行を行った。このテーマに魅せられてとある女性が探査に加わった。彼女は、地元が豊橋で、そこの石巻山にもダイダラボッチ伝説があるとのこと。今回のダイダラボッチ探査行の話を聞いて興味を持ち参加した。代田ダイダラボッチが石巻山ダイダラボッチを引き寄せた。
「なんだかんだいって結局は鉄塔沿いを歩いていましたね……わたしは何十年と住んでいますけど、地元のことはまったく知りませんでした。今日歩いたコースは自分の子ども時代から馴染んだところです。そこに一つ一つ文化的な歴史的な過去があったというのは驚きでしたね。」
黄金井達夫さんがそんな感想を述べた。言われた通り、たしかに高圧鉄塔駒沢線沿いに歩いていた。ダイダラボッチと駒沢線の関係性の有無というのは興味深い観点だ。古代と近代を結ぶラインである。つい推理してみたくなる。
ダイダラボッチは巨人である。大きさも、歴史もスケールが大きい。それが我々を刺激する。すると、フィールドワークをしているうちにダイダラボッチ的な視点となる。つまり、視線や視点が高く大きくなる。実際そうだった。上空数百メートルの視点から地勢を見たり、構造物を眺めたりするというようになる。現地探索行の面白さである。ダイダラボッチを求めて歩くと自然と空を飛翔する鳥の目を持つようになる。柳田国男も代田のダイダラボッチを探索して想像の視線を高くしたのではないだろうか。
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2008年06月20日
下北沢Ｘ物語（1112）〜ダイダラボッチ幻視行２〜
時は転変し、折り畳まれていく。刻一刻と動いていく時間スピードの速さにとまどうほどだ。昨日は転変ショックとも言うべきことに遭遇した。
開通したばかりの副都心線に乗った。渋谷から和光市までである。三十数年来、このルートは通って来た。自身が講師をしている研修施設に通うためである。従来は、山手線、東武東上線で通っていた。ちょうどその経路が地下鉄で行けるようになった。それで渋谷から急行に乗った。風景は見えない。ところがしばらくして地下を抜け出た。外を見ると地形に見覚えがある。和光市手前だった。所要時間わずか２５分で最寄り駅に着いてしまった。経路を違えて行くと駅がよそよそしく見える。駅前に清水かつら作詞童謡「しらかれて」の歌碑があった。もしかして違う駅に下りたのではないかと思った。が、タクシー乗り場はいつもと変わらない、間違いなく和光市だった。
いつものように講義を始めたが何か落ち着かない。学生にはそのカルチャーショックを話した。
「新宿、池袋の街並みを眺めてこの研修所に着いていたのですが、それもなしにあっという間に和光市に着いたときは狐につままれたようでした。君たちに言ってもわからないでしょうけど、前に旅行したときに京都で函館行という表示板をつけた列車を見てカルチャーショックを受けたことがあります。北海道に行くには青函連絡船というのが固定観念としてあって、陸路、しかも京都から函館へ直通するというのは信じられなかったものです。……便利になるのはいいのですが、その便利さが当たり前となったとき、人は更なる便利さを求めますね。そこが恐いと思うのです。」
「ことばはものさしです。わたしたちは言葉という体系を通して全部がわかったように思っていますが、実は世界のほんの一部しか知らないのだと思うのです。未知の世界に言葉というものさしをあてがってみると新しい世界がみえてくるものです」
2008年06月19日
下北沢Ｘ物語（1111）〜ダイダラボッチ幻視行〜
ダイダラボッチ伝説は不思議な話だ。これを素材にした「幻想朗読劇 ダイダラボッチ」を書きはじめている。これまで劇の台本などは手がけたこともない。手探りで書いている。ところが、題材がきっとそうさせるのであろう。空想が果てもなく広がっていく。とんでもない世界へとこの言葉がいざなってくれる。
「はまると、はまる、ダイダラボッチ、はまると、はまる、ダイダラボッチ」
台詞の一節にこう書いたが、これは自分自身のことでもある。
言葉というのは物差しである。それをあてがうと、今まで分からなかったことや、知らなかったことまで見えてくる。今日、研修施設での講義でこの話をしたところ、若い学生が、授業で印象に残ったこととして「言葉はものさしだ」ということを挙げていた。物差しをあてがってみたら新鮮な反応があった。
例示した繰り返しフレーズも台本を書いていての一つの発見である。繰り返し、ダイダラボッチと書いているうちに気づいた。音韻的な言葉の響きにこの語の秘密があるのではないかと。これに慣れ親しんでいるうちに自然とこの言葉がリズム、響きを持った語としてとして台詞に躍り出てくるようにもなった。
ダイダラボッチ、この言葉の響きから感じ取っているものはユーモアと明るさである。そうであるゆえに物語の展開が、ひとりでにリズム性を帯びてくる。そんなことからある予感が生まれた。これは文字言葉ではない、人々の耳に伝承されてきた言葉ではないかという直感が閃いた。じっさいそうに違いない。この言葉が勝手にリズムを取って動き出すのはそのためだからではないか？。これから物語はどう展開していくのか自分にも分からない………
このところ自転車はやめて歩くことにしている。乗るから歩くへの転換である。ところがこのことによって気づいた点もある。
四つのエピソードを語ろう。
2008年06月17日
下北沢Ｘ物語（1110）〜荏原地域文化「乏水」から「乏情」へ４〜
人は誰もが旅に憧れる。古来からそうであった。濃密な人間関係から抜け出て新しい風景や人に出会いたいという願望が強かったからであろう。田舎や田園における人間関係は濃厚である。それからの脱却願望は誰にでもあることだ。
ひと頃、鉄道交点に居住していた詩人、俳人、歌人の作品を片っ端から調べたことがある。土地の匂いのする作品があるかもしれないと思ってのことだ。ところが思いがけないことが分かった。居宅にいるときの作品は少ない。しかし、旅に出るととたんに作品は数が多くなる。ことに短歌や俳句などには顕著にそれが見られた。
居住地よりも旅先で詩心が動かされる。当たり前のことだが、詩人が漂泊に憧れる理由が分かったように思った。加藤楸邨の下代田居住時代の隠岐への旅はなかなかいい。彼の地へ流された後鳥羽院を追慕しての旅である。孤島に住まった詩人の「ひとりごころ」とはいかなるものかを求めての旅である。
近代の鉄道交接点も漂泊という観点から眺めると面白い。出会いと別れの方向が四方向にある。さまようには都合がよい。たやすく出会えて、たやすく別れられる。乏情の基本のように思える。土地への気安さが人を集めた。詩人を参集させたともいえる。
昭和九年の「北澤三丁目町会」の地図を見ると、目に付くのは「○○医院」である。その数が多い。前年の昭和八年に帝都線が開通していて、鉄道がクロスする町はいっそうに便利になった。乗り換えの途中に下車して、歯医者へなどということはあったはずだ。
中村草田男の北沢在住時代に「崖上の医者の窓よりマスクの人」（「来し方行く末」）という作品がある。野屋敷に住んでいいた彼は、南中通、北中通を通って帝都線の下北沢駅まで通っていた。途中一旦丘を下りてまた上る、そんな折りに見かけた光景ではないかと思っている。
2008年06月16日
下北沢Ｘ物語（1109）〜荏原地域文化「乏水」から「乏情」へ３〜
ひょんなことから、ああ、そうだったのかと気づくことがある。
とあるテレビ番組を見ていたら、新宿戸山公園にある箱根山が山手線内で一番高い山だと紹介していた。お椀を伏せたように土盛りがされている築山である。４４，６メートルも標高があると説明をしていた。
「代田橋などだと平地でも４８メートルほどもあるんだぞ」
自分でそんなことを一人呟いていた。が、ふと思い出したことがある。世田谷代田駅前の谷亀さんのビルの屋上からの眺めである。北側は淀橋台が西から東へと屏風のように連なっている。確かに言われたとおり遠くまで眺望が利かない。延々と土塁が続いているように思った。が、箱根山の標高を聞いて、西から東へ行くに連れ標高は段々に低くなっていたんだと思い起こした。淀橋台の尾根筋をたどって玉川上水は四谷大木戸まで流れていた。羽村から四谷までの標高差は百メートルあって、その高低差を活用して水を流しているのだったと。
武蔵野台地は南に行くに連れても標高が下がっている。多摩川河畔の多摩川台古墳群で最古の「蓬莱山古墳」は３７，５メートルある。ところが国分寺崖線上にあるこの墳丘は西側の斜面が多摩川の河原に転げ落ちているので視覚的にはとても高く感じられる。多摩川左岸の丘陵が半島状になったこの尾根筋には八基もの古墳が連なっている。古代荏原の首長たちの墓である。
自身の自転車による荏原一帯の探査行から、「ああ、最も景色のいいところを選んで墓を作ったんだな」と思っていた。上流から流れて来た多摩川は川崎側からこちらへぐっと蛇行して半島の裾を洗うように回り込んで、下手に流れている。抉られた崖上に多摩川台古墳群はある。川によって削り取られ谷は彫りが深い。屹立した墳墓からの眺めは抜群である。対岸は平地から山地になって、それらの山向こうに富士が望める。土地に根付いて暮らしていた者たちである。それだけに墳墓を作るのに最適な地だということをよく知っていたはずだ。
今連想的にわたしは過去に眺めてきた風景を思い起こしつつ書き記している。話題はあっちへ行き、こっちへ行きしている。それでも「乏水」は忘れていなかった。が、水と古墳とはうまく頭の中で繋がっていなかった。ところがここまで書いてきてふっと水と古墳とが繋がった。
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2008年06月14日
下北沢Ｘ物語（1108）〜荏原地域文化「乏水」から「乏情」へ２〜
丘陵の変転、畑地から宅地へ、それは乏水から乏情への変化である。
起伏の大きい武蔵野での生活は過酷であった。水不足、乾いた表土は風に吹き飛ばされた。収穫される穀物は粘り気がない。餅は協働することによって素早く搗き、なんとか粘りを出すことができた。絆を強くして起伏のある土地を開拓していかなければならなかった。
荏原一帯の起伏は作物を産出するには不向きだった。ところが古代から近代になって土地の使われ方に大きな変化が生ずる。江戸から東京になり、近代化された都市には大勢の人々が地方から集まってきた。人口の集中が近郊に大きな影響を及ぼした。
当初、都市近郊は、都会で消費する野菜や肉の産出地だった。豚舎、鶏舎、牧場もつぎつぎに出来た。明治二十九年渋谷村上渋谷（現在の渋谷区役所のすぐそば）に国木田独歩が住んでいた。そこを田山花袋が訪ねて行く。「私たちは水車の傍の土橋を渡って、茶畑や大根畑に添って歩いた。」（「東京の三十年」）これはかつての宇田川に沿ってのことだろう。やがて、独歩の家に近づく。「少し行くと、果たして牛の五、六頭ごろごろしている牛乳屋があった。」ここで述べられている場所は、現在の渋谷区役所のすぐ近くである。丘の西のり面で、それからそれへと続く世田谷の丘陵の緑がよく見渡せるところであった。
武蔵野の丘陵地帯は作物を作るのには不適であった。ところが動物や人を鍛錬する場としては申し分なかった。荏原一帯に馬のつく名が多いが、かつては馬の放牧場だったところからついた。坂道は馬の足を鍛える。近代になっても鍛錬の場として使われた。
駒場の農科大学の裏門あたりに行くと、新しい家もちょいちょい見えるが、何処か浮世離れたようなところがある。この近所は練兵に適した地で、歩兵や砲兵の隊の演習しているのによく邂逅する。騎兵が一散に丘の上の秋の日を帯びて走って行くなどをよく見る。 田山花袋 「東京近郊一日の行楽」
一帯の土地の使われ方が見えて興味深い。畑地、牧場、練兵場である。そして、宅地である。その家が「何処か浮世離れたようなところ」というのが一層に興味を惹く。
2008年06月13日
下北沢Ｘ物語（1107）〜荏原地域文化「乏水」から「乏情」へ〜
武蔵野は乏水の歴史だったと言う。いかにして水を手に入れるかということが最大の難関だった。「武蔵野は乾きの土くれで、つねに巨大に迫る。この風土に挑んだ、先人たちの開拓魂は、どう継承され現代まできたか、未だ解明の鍵が残る」と「歴史細見 武蔵野」（桜井正信著）では書かれている。
武蔵野開拓は水との闘いだった。それは現代でも多くの痕跡を残している。この一帯は用水が掘削される前は、沢のハケから流れ出る僅かな水に頼っていた。目黒、世田谷、大田を自転車で探訪していると谷陰や窪や池に弁財天をよく見かける。ハケには水の神を祀って崇めていたことがそれらのことでもよく分かる。また多くの八幡宮でも弁財天を祀っていて、境内に池を設えているところもある。
乾きの土くれを耕すには単独ではできない。協働は欠かせないことだったろう。しばらく干天が続くと直ちに若衆を集めて、大山へ詣でさせて雨乞いをさせた。
吉良氏没後、代田七人衆は帰農して一帯を開拓した。水田は北沢川の流れに沿って細長くあるだけで、後は陸稲、稗、粟を作っていた。餅にする場合は大勢で素早く搗かないと粘りが出ない。それで集団で餅を搗いた。三土代会によってそれは今に伝承されている。（写真）
都市近代の今日では電気、ガス、水道は整備されている。「乏水」は解決できているが新たな問題には直面している。「乏情」である。心の砂漠化である。これは今、都市が直面している大きな課題である。情線の梗塞である。
この頃自転車に乗っていて見かけるのは青色回転灯を点滅させた車だ。防犯パトロール車だ。小学生の下校時によく走っている。不審者への警戒である。が、このところ、「地域の皆さんにお知らせします。振り込めサギが多発しております……」とこの車が触れ回っている。
2008年06月11日
下北沢Ｘ物語（1106）〜言葉からウロコ４〜
大谷石で土止めされた土塁が壊される。そこに植えられていた沈丁花の木は無惨にもパワーシャベルで引っこ抜かれる。庭の太い欅もたちまちにチェンソーで切り倒される。緑の濃い地所にあった和洋折衷のお屋敷は潰されて、二三日で更地になる。土地の片隅に転がされた赤錆びた井戸ポンプだけがわずかな生活の片鱗である。が、やがて、そこは五区画に仕切られる。基礎工事が終わると、まるで筍のように合板柱がつぎつぎに立つ。建物下部はレンガ、上部はピンク色の塗料、ほとんど同じ造りの南欧風の五棟の建物である。
とある日、赤い幟が立って、建て売り住宅が売りに出される。土日に家族連れがやってくる。ネクタイを締めた不動産会社の営業マンが恭しく彼らを迎え入れる。駅からやや遠いが値段はお手頃だったのだろうか。しばらくすると家のガレージには車が入っている。半年も経った頃だろうか、土曜日の夜に敷地のまん中の通路に机や椅子が運び出される。五軒の住民の親睦パーティである。テーブルにワインの壜が行き交う。しばらくするとその周りを子供が賑やかに走り回る。が、都市変転、うたかたの夢、その懇親会も二三回程度開かれて、パーティの幕は閉じられる。
やがて二世たちの子どもっぽい顔つきも消え、大人っぽくなってどこかの私立高校の制服を着て出ていくようになる。車庫には自転車が増えていく。西欧風の家々は今一つ地域風景としてそぐわないままに壁のペンキだけが色褪せていく……。
都心回帰が言われはじめた頃から、荏原乏情光景を目にするようになった。自身の自転車荏原巡遊からの回想風景である。都市人は直接的な情の取り交わしを捨て間接的な繋がりへと回路を変えていく。ネットや携帯へとだ。都市は景情ともに変転していく。
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2008年06月10日
下北沢Ｘ物語（1105）〜言葉からウロコ３〜
情報と時間は密接な関係がある。体系づけられた今日の機械時間は新情報を追い求めてやまない。機械時間によって情報は消費され、たちまちにそれは古びていく。機械時間に参加している人間もまた情報に翻弄されている。追い掛けられている。人間そのものも時間に消費されている。
人は次第にくつろげなくなっている。時間の高速化が人を休めなくしている。時間のスピード化はますます高まるばかりだ。若者が、老齢者は、そこからつぎつぎに転げ落ちている。時間の高速化は人を煽り立てる。文章もまた煽り立てられる。
スピードは言語にも悪影響を与える。あるスピードを超えると、言葉には皮肉をこめるゆとりも、遊びを含めるスペースもなくなる。高速言語は浮薄なファッションの被害者で、はやり言葉、はかない流行を追って、あっという間に使いつくされ、すりきれ、捨てられていく、言語のスピード化は、言語能力の釣り銭サギを（ショート・チェンジ）を生みだす。「簡潔であれ」ばかり。どうして「冗長であれ。滑稽であれ。脱線せよ。」という教えがもっと目につかないのだろう？ 能率的で簡素化された情報伝達によって、直観による、あいまいで暗示的なニュアンスは失われる。スピードはきまり文句を、踏みならされた言葉の常道を、高速道路を要求する。いくら言語が景色のいいルートをたどろうとしても、自由な道草は不法通行とみなされ、言語はスピードの囚人にされて、ときどき保釈で出所できるだけだ。ところで、語呂合わせは言語のスピードを一時停止させ、もっとゆっくり読み、もっとゆっくり書くようにさせる。世界一の語呂合わせの達人ジェイムズ・ジョイスは、「ユリシーズ」の大部分を、一日八時間に二センテンスの割りで書いた。あるときジョイスは、彼の語呂合わせについて、それはささいなものか、とたずねられたことがある。彼は、「いやすくなくともしさいなものだ」と答え、質問者を四次元の絶句状態に追いこんだ。「《まるい時間》を生きる女、《まっすぐな時間》を生きる男」ジェイ・グリフィス
飛鳥新社刊）
ふと気付くと、効率的、能率的な時間を追い求めている自分に気付く。確かに、自分に言い聞かせている、「簡潔であれ」「短文でまとめよ」などとうるさく言い立てている。ブログは冗長さ、暢気さを失っている。ああ、時間が来たアップしなくてはならないと、じつはほんとうにアップアップしているというのが本当のところだ。この頃、手に入れたこのジェイ・グリフィスの言語時間論については自己の痛いところを鋭く衝いていると思う。
自分の文章も、高速化する時間に追い立てられている。文章が直線化しつつある。よどみにこそ文化は潜むものだ。ユーモアや冗長も、あるときには文章をひきたてるものだ。心しよう。
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2008年06月08日
下北沢Ｘ物語（1104）〜言葉からウロコ２〜
人の書いた文章にはその人の資質や性向が匂うものだ。その人が生まれ育ったところの思い出を語っている場合には、その土地の匂いも滲み出て来る。どうやら彼は、往時、近辺の坂に馬糞が転がっているのを見、牛舎の匂いも嗅いでいたようだ。
川の瀬音が聞こえるところに家はあった。北沢川左岸の高台に家はあり、対岸に牧場があった。これだけ具体的な材料を出されると場所が絞られる。イラストレーターは「川の向こうは牧場で牛が鳴いていた。」と書いているが、これで場所が特定できる。その牧場は、竹中牧場である。代田二丁の高台から一丁目の川べりにある牧場が見下ろせた。が、和田誠氏の話によるとそれは戦後になって麦畑となったとある。往時の風景が見えて来る。その麦畑近辺には今は「信濃屋ワイン館」があって、ワインや麦焼酎も並べられている。が、麦畑は知らないという顔をしている。
代田二丁目の南のり面の地誌文化歴史も面白い。土地の字名は、「砂利場」、「吹上」である。川のそばで赤砂利が採れたこと、風が吹き上げてくる急峻な丘であったこと、それによって地名はついた。
江戸から明治初頭、一帯は主には雑木林であった。赤松、楢、竹薮などの林である。かつてはここで取れた筍を出荷していた。農家では竹製品も作られていたはずだ。明治になって政府は殖産振興を推進した。それで雑木林は切り開かれて茶園となった。が、皮肉なことに文明開化によって出現した鉄道によって茶業は衰退する。明治２２年に東海道本線が開通し、これによって宇治から大量の茶が運ばれてきた。それで荏原の茶は姿を消してしまう。が、鉄道とこの地は縁が深い。
2008年06月07日
下北沢Ｘ物語（1103）〜言葉からウロコ〜
鉄道交点周辺にはひっそりと文化が隠れ潜んでいる。人によっては次元の穴がどこかに潜んでいると考えている者もいる。鉄道と鉄道とのクロスによってできたゆがんだ座標軸、それと、鉄道線と高圧線・駒沢線の直交十字クロス、それが元になって特異な磁場ができた。目に見えない力が人の想像力を刺激するのかもしれない。
一帯には込み入った流れがある。人員搬送の流れ、電流の流れ、北沢川の支流も含めた流れが輻輳している地域である。ちょうど北辺、北沢には人工河川の流れもあった。いわゆる玉川上水、そして三田用水である。北沢の北は北辺という意味、すなわち境界地域である。交点一帯は都会の辺境、へりである。
電車のロングシートはへりから埋まっていく。へり、とか、ふち、さわ、そんなところに人は安閑と住んでみたいと思うのだろうか。今になって気付いてみると、なんだあの人もいたのか、この人もいたんだ、憎らしい人も、優しい人も、入り乱れて居住していたことが分かってきた。
仲間の米澤さんから聞いた話である。彼が事務局の「邪宗門」に会報を届け、コーヒーを飲んでいたら、『地図や冊子を作っているのはこの店ですか？』と、帽子をかぶった人が尋ねて来たという。その彼は、４月の「北沢川桜祭り」で地図を渡した、鑑定団のN氏だったという。彼が「もらった地図が素晴らしい！、代田に４０年住んでいるが、（こんなに大勢文士がいることは）知らなかった」という。そういえば、桜祭りのときのことを思い出した。
「この門は左右同じですが、表札の穴の大きさが違いますね。右側は何かの理由があって後になってセメントで埋めて狭くしてありますね」
代沢小の安吾門柱に使われている門の左右を子細に見ながら、N氏はそう指摘した。今まで気付きもしなかったことだけに新鮮な印象だった。物を見る目というものを持っているのだろう。そういう人が北沢川やその支流にひっそりと住んでいる。
代沢小で見つかった小さな詩集からイラストレーター和田誠氏のことを調べた。すると彼にエッセイがあって、それには家の側を流れていた北沢川のことが書き記されていた。タイトルは「指からウロコ」である。それの本を読んで、わたしは「ああ、あれはそうだったのか」と思うことがしばしばあった。言葉を通して目のウロコが落ちたようにも思った。以下、彼のその文章を引用する。「ぼくの世田谷」という題である。
2008年06月05日
下北沢Ｘ物語（1102）〜小さな詩集との出会い3〜
詩は言葉を縮約した置き換えであり、単体独立した響きのいい文である。文章芸術の最高峰である。その韻文文化の陰影がレールが斜めにクロスした街にそこかしこに潜んでいる。子どもですら詩的感性が鋭かった。
小さな詩集「ＯＲＩＯＮ２」は「花の詩集」と「動物の詩集」とに分けられている。前者は女生徒、後者は主には男子生徒が詠んでいる。男子生徒の作品に「馬」をテーマとした詩が二編載っている。
それは「荷馬車」であり、「同じく荷馬車」である。題名の付け方からあるいは前者を見て、それに刺激されて後者は詩をまとめたように思われる。桑田耕一君の作品である。荷馬車の馬に青草を食べさせるという場面を描いた詩の後半だ。
やはらかそうな草をとって ぼくたちは
馬の口へもっていった。
大きな口で、ぼくたちの小さな手が
かじられそうだ。
草を投げてやった。
小さな子が手でやっている。
こわいということをしらないのかしら。
ぼくもやってみた。
大きな口を半分ぐらいにあけて
マージャンパイみたいな歯で
おいしそうにたべた 二二・五・二〇
締めくくりの比喩が巧みだ。青草に噛みつく馬の歯が目前に見えて来るようだ。馬の歯をマージャンのパイに見立てた置き換えが見事だ。馬が口を半開きにすると長四角の白いマージャンパイが並んでいるようであった。それが動いて青草を噛む。桑田君は和田誠君の詩を見てよしおれも書いてやろうと思って作品を創ったに違いない。つぎはその「荷馬車」である。
2008年06月04日
下北沢Ｘ物語（1101）〜小さな詩集との出会い2〜
鉄道交点における芸術系の遺伝子の参集、これはありうることだろう。戦後、交点一帯の少年少女が文学へ傾倒していた。ハイレベルの同人誌だった。昭和二十四年に代沢小六年生によって発行された詩集「ＯＲＩＯＮ」もその一つであろう。一つあれば二つある。昭和二十二年である。東大原小出身者の手によって同人誌が発行されている。「胡桃会誌」と名づけたそれの装幀は詩人福田正夫の息子が手がけている。古びた同人誌は今井兼介氏が見せてくれたがそれには小説や詩が載っていた。早熟な文学少年と文学少女を思ったものだ。鉄道交点近辺の子弟はませている。
「胡桃会誌」の同人だった今井兼介氏はこんな話をしていた。
「戦後になって活字には飢えていましたね。『チボー家の人々』を同人で回し読みしたのを今でも覚えています。そうですね、日本が負けて占領軍が入ってくるでしょう。それによってアメリカ文化がどっと入ってくるんですよね。それに同調する者と反発を持つ人とに分けられましたね。反発する人はヨーロッパのレジスタンス運動に共鳴して、フランス文学とかに傾倒していきましたね……」
戦後、戦時体制は崩壊し、抑圧は取り除かれた。活字に対する飢餓感を誰もが持っていた。本を読みたいという渇望が活字文化を開花させた。焼け残った街には小出版社が多くできた。そのことから文学者が多く交点に寄り集っても来た。
一方、戦後、解放感から多くが表現熱にも取り憑かれていた。交点一帯もそうだった。文化的には進取の気風は濃厚であった。この辺の少年少女も同じだった。一帯に住まう創造者や、その親の持つ表現力も間接的な影響を与えていたように思う。
2008年06月02日
下北沢Ｘ物語（1100）〜「北沢川文化遺産保存の会」会報 第２２号〜
「北沢川文化遺産保存の会」会報 22号
会長 長井 邦雄
２００８年６月２日発行
事務局:世田谷「邪宗門」（木曜定休）
155-0033世田谷区代田1-31-1 03-3410-7858
会報編集・発行人 きむらけん
１，戦争経験を聴く会、語る会
先月５月２４日に代沢小で 「戦争経験を聴く会、語る会」を開きました。薄れゆく戦争の記憶を経験者から聞けたことは大きな成果でした。終わった後に会の運営についての意見が出されました。戦争を起こさないための方策も探って行くべきではないかと。が、我々はまず聴くということを大切にしたいと思います。もう二度と戦争は起こしてはならないと思う気持ちは誰にもあるだろうと思うのです。
過去のことを通して未来を見通すということは必要だと思います。が、薄れ行く記憶を聞いて置くというのは大事なことだと思います。そのことによって愚かなことは繰り返さない。その認識が深まればよいと考えております。
この会の開催は地域でも反響を呼んでおります。北沢地区でもぜひやりたいとのことです。それで今、日程調整をしています。７月下旬に開催することになりました。真龍寺が場所を提供してくださるとのことです。東大原小の卒業生の方が来られるとのことです。が、一般の人たちの参加も歓迎します。具体的な日時が決まりましたらまたこのブログでお知らせします。
２ 歩く会情報
都市物語を旅する会
「北沢川文化遺産保存の会」は毎月テーマを決めて下北沢周辺の文化探査をしています。毎月、第３土曜日の午後１時に集まっています。集合地点はそのコースごとに多少違っています。基本的には少人数、10名程度ということにしていまます。それぞれがこの歩く会に参加して楽しむというものです。最後は世田谷「邪宗門」にたどり着いてお茶を飲みながら歓談します。参加費は徴収しておりません。歓談の際の飲み物は各自でお支払ください。なお、保険には加入しておりません。
この会は参加の義務はまったくありません。ふらりと参加して、歩き、そして、歓談して終わりです。またいつかテーマで面白いなと思った時に参加する、そういう自由な会です。
これまで実施したコースはつぎの通りです。１．代田連絡線の跡を歩く、２．小説猫町を歩く、３．下北沢の大谷藤子を歩く、４．下北沢・淡島の森茉莉を歩く、５．銭湯を歩く、６．下北沢の無頼派を歩く、７。下北沢の教会を歩く、８。坂口安吾が歩いた道を歩く、９．駒沢線鉄塔を歩く 10．下北沢の映画痕跡を歩く、11．茉莉を歩いて茉莉に会う。12．だいだらぼっち川を歩く。13、小説『猫町』 を歩く。14、下北沢の稲荷社・庚申塔・地蔵尊を歩く。15「ダイダラ 坊」の痕跡を求めて歩く。16、代田の詩人師弟を歩く（萩原朔太郎・三好達治）17.林芙美子から坂口安吾を歩く 18.「下北沢店員道場を検証する」19、池の上の古い町並を歩く 20.「下北沢の教会を歩く」21 「下北沢の詩人痕跡を訪ねる」 22「坂口安吾の通勤ルートを歩く」、23「茉莉を歩いて茉莉に会う」,
24、「森厳寺川の源流を探索する」、25,「代田の歴史を歩く」 26、小説「猫町」を歩く
○今後の予定（変更になることがあります）
・第２７回 ６月２１日（土）午後１時 京王線代田橋駅集合
「再度東京市巨人伝説を検証する」
ダイダラボッチ伝説を求めて代田橋の跡と足跡をフィールドワークする
＊幻想朗読劇「ダイダラボッチ」〜東京市巨人伝説物語〜
来年度代沢小は１３０周年を迎えます。その記念行事の一環としてこの公演の開催を関係者が予定しています。その依頼を受けてこの台本を現在執筆中です。
・第２８回 ７月１９日（土）午後１時 井の頭線 新代田駅
・代田連絡線徹底検証 ツアーコンダクター 米澤邦頼
小田急地下化工事が進行しています。代田連絡線分岐部分も工事が進行しています。いまのうちに再度連絡線の面影を確認しておくというもの。
・第２９回、 ９月２０日（土）
駒沢線を歩く 午後１時 井の頭線 新代田駅
駒沢鉄塔ラインはドラマに満ちたラインです。そこを辿ります。
小田実、日野啓三、武林夢想庵、中山義秀、安岡章太郎、帝国音楽院、河口彗海、
萩原朔太郎、三好達治など
・第３０回 １０月１８日（土）午後１時 代田橋駅
森厳寺川源流再検証
下北沢の地形を決定づけている川がこの川です。再度検証するための会です。
・第３１回 １１月１５日（土）午後１時 東北沢駅集合
「下北沢Ｘ惜別物語」を歩く
小田急地下化工事が進捗しています。地表線踏み切りは将来なくなります。
「下北沢Ｘ惜別物語」に記録した踏み切りを全部見て回ります。
・第３２回 １２月２０日（土）午後一時 下北沢駅北口集合
「下北沢の教会を歩く」 恒例の大久保良三による三度目のツアー開催です
世田谷カトリック教会、頌栄教会、富士見教会、聖三一教会
これを巡って今年の締めとしたいと思います。
＊今年は既に臨時的な催しを二度行いました。それで８月はちょうど盆休みと重なるのでお休みにします。予定ですので、コースが変更になることがあります。
＊参加を希望される場合には事務局に必ず連絡をしてください。
４，「せたがや町づくりファンド」への応募
今年度も公益信託「せたがや町づくりファンド」に応募します。昨年は、ここで「北沢川文化遺産保存の会」の活動が認められて助成を受けることができました。このことが「安吾文学碑」建立へと結びつきました。
今年度、かねてから私たちが提案していた呼称としての「北沢川文学の小路」が世田谷区の案内板に記されました。また、運動の推進によって代沢小の一角に安吾文学碑も建ちました。ここは新しい風景、新しい名所となりました。わたしたち、手弁当の市民ボランティア団体の提唱によってこれができたことを誇りに思っております。
わたしたちは新しい街並みづくりを考えています。風景の掘り起こしです。第一弾が安吾文学碑の建立でした。第二弾は「代田の丘の６１号鉄塔」です。既にこれについては「世田谷区の地域風景資産」に選定され登録されました。萩原朔太郎ゆかりの鉄塔です。この鉄塔基部に案内板を建てることを提唱しています。
これらが完成することで「北沢川文学の小路」沿いに文学旧跡風景の回路ができてきます。６月８日にプレゼンテーションを行って審査を仰ぎます。
安吾文学碑、朔太郎ゆかりの鉄塔、ここまでは実現しました。「せせらぎ公園」は森茉莉ゆかりの倉運荘そばにあります。この公園に買い物袋を下げた彼女のブロンズ像などが建つと「北沢川文学の小路」は具体的な大きな風景回路となります。費用などの当てはありません。が、夢を考えることは大事です。あるいは、この考えに賛同される人がこの発信によって出てくるかもしれません。
■ 編集後記
「戦争経験を聴く会、語る会」は好評でした。ところがこれは後始末が大変です。当日撮影したビデオをＤＶＤで見ながら記録を起こしています。やり始めると際限がなくなってしまいます。これは時間をかけてゆっくりやろうと思います。
「下北沢文士町文化地図」の改訂版発行を考えています。できたら今度は戦災地区も分かるようにしたいと思います。
当会報への連絡、お問い合わせは、事務局か、編集、発行者の きむらけん へ
aoisigunal@hotmail.com
（写真は最近大きく様変わりした東北沢４号踏切）
2008年06月01日
下北沢Ｘ物語（1099)〜小さな詩集との出会い〜
時は我々を乗せてつぎの場面へ運んでいる。せわしない、一瞬、一瞬の時間はたちまちに過ぎて古びていく。聞きつけた情報も畳もうとして整理していると見ているうちに色が褪せてしまう。のろくさい時間を望んでいるのに新情報が古情報を駆逐していく。
一日中雨だった昨日のことだ。ところがこの雨が古びた小さな詩集に出会うきっかけを作ってくれた。代沢小に地域文化を展示する陳列棚が区教委が提供してくれた。そのケースをどう使うかということで小学校を訪れた。が、行ってみて分かった。この日運動会が予定されていてそれが雨で流れたようだった。晴天で運動会が行われていれば校長は我々の相手をする暇などなかったに相違ない。
小林校長は校長室にある宝箱を見せてくれた。歴代の記念アルバムである。運動場に生えている一本松の写真、建築中の校舎写真、昭和初年の玄関写真、いずれも貴重な歴史写真である。それらのアルバムの一冊に小さな詩集が挟まっているのを同行していた梶さんが見つけた。手の平に収まってしまうほどのものだった。その表紙は紙が傷んで一部は剥がれていてタイトルが分からない。「…の詩集 動物の詩集」とある。どうやら「花の詩集」と書かれていたようだ。その表紙には茎と花をかたどった切り絵が貼り付けられている。ガリ版刷りの小詩集である。
中表紙にアラビア数字の年号が入っている。「１９４９．３．１５」という数字が判子で捺されている。最終ページには奥付もある。
「ＯＲＩＯＮ ２ 1949.3.15 ORION CLUB 東京 世田谷 代沢小学校 六年一組」
発行数限定の詩集だ。ー１００ーそのＮＯ９−と書かれている。１００部刷ったうちのＮＯ、９である。これがアルバムに挟まっていた。この奥付にはカットが入っている。燃えているローソクが描かれている。版画のようだ。このカットは本文にもある。その製作者は和田誠とある。イラストレーターとして著名な和田誠氏である。
