2009年01月
2009年01月31日
下北沢Ｘ物語（1259）〜６４年目に日の目をみた疎開児童愛唱歌５〜
ブログでの物語は新しいジャンルである。それは今我々が過ごしている時間とほぼ同時的に進行していくという点があるからだ。スリリングである。明日の展開が読めないという面白さと怖さがある。
日々書かれている物語の筋に、ダイレクトに真実の詰まった情報が書き込まれる。矢花克己さんからのコメントは大きな波紋を呼んだ。ここのところずっと探し求めていた疎開先での愛唱歌がたちどころに氷解したからだ。が、それは単なる解決では終わらない。その背景には幾つも幾つもの物語がある。
矢花克己さんは山梨県で骨董を扱っておられるそうだ。ついこの間の、２５日の日曜日、地元の骨董市で買われた葉書類の中に「鉛筆部隊」と書かれたものがあった。不思議な語句に惹かれて彼は検索をかけたようだ。そうしたところ、このブログに行き当たった。そして折も折、それら手紙類の中に「聖丘学寮歌」の歌詞と楽譜が入っていた。彼自身、思いも掛けない展開に驚き、さっそく歌の歌詞をブログにコメントしてきたものだ。
その当の矢花克己さんとは記されているメールアドレスによって連絡が取れた。彼も探求心が働いて、手紙類を出した業者に当たったようだ。すると仲間の紹介で、その業者は東京都下のとあるマンションの片付けに行った、そこで手に入れたようだ。その持ち主はマンションを処分して病院に入っているとのことだった。そして彼からのメールにはこう記してあった。
2009年01月29日
下北沢Ｘ物語（1258）〜６４年目に日の目をみた疎開児童愛唱歌４〜
思い出の歌というのがそれぞれにあるだろう。が、それは多くは一般化された歌曲である。個別的なローカルなもので今もなお人の心の内に生きているものは数少ない。「聖丘学寮のうた」は知るものにとっては言葉の宝石箱のようなものだろう。その失われた言葉の宝石が偶然的なことから見つかった。立川裕子さん繋がりの奇縁である。
「この二番、だいたいわたしが覚えていたとおりですね。この釣瓶取るってこわかったんですよ。滑車にひっかけられたロープを引っ張るんです。でも重いから手がもっていかれそうになるんですよ。井戸は深い深い井戸で、底の底の方に丸い光が見えていましたけど、落ちたらどうしようなんて真剣に考えながら水汲みやっていたんですよ。」
松本明美さんは「聖丘学寮のうた」を見ながらそういう。
「ほんとうに懐かしいですよ‥‥」
彼女は歌詞を読みながら低くメロディを口ずさんだ。四番は、「廣丘のゆかしいお寺 郷福寺 夜の森 ぼくたちのあかるい声を ふるさとへ 風がはこぶよ」だ。ここで言うふるさとは下北沢のことだ。郷福寺の本堂に高らかに響き渡る明るい歌声、それにつられてお寺の子たちも唱和した。するとお寺の杜のフクロウも鳴き始める。子どもたちはいっそうに声を張り上げて、この四番を歌った。きっとこの元気な歌声は信州の風が下北沢まで運んでくれるだろうと思った。が、今となっては、この歌はゆかしい郷福寺を思い起こすよすがとなっている。われわれが今失いつつある郷愁である。
2009年01月28日
下北沢Ｘ物語（1257）〜６４年目に日の目をみた疎開児童愛唱歌３〜
ネットでの思いがけない繋がりが機縁となって過去の埋もれていた事実がつぎつぎに掘り起こされている。そんなことからここ数日、なんとも言い様のない思いに包まれている。劇中のドラマよりもスリリングなことのなりゆきにため息をついたり、胸をおさえたりしている。
ここのところ起こっている出来事は何なのだろうか？。このところずっと歩きながら自問自答している。思いついたことは「偶然性の濃厚な地域だ」ということである。場所は小田急線と井の頭線が交わる下北沢鉄道交点である。一帯には縦糸と横糸で紡がれた文化のネットが形成されている。が、その縦と横の相互性は希薄である。何かの折りにそこを掘り返してみると縦と横の情報が繋がって驚くことがある。ずっとそういうことばかりだった。芸術文化が一帯に参集しているが、それは個別偶然的に集まっていたと言える。
疎開児童愛唱歌を掘り起こしていると文化論の新しい観点が見えてくる。そういえばあの人は音楽的感性が豊かだった。あの人は文芸的なセンスがよかった。そういえば、あの人は、広丘村ではラッパの名手だった。
「朝、六時になると、郷福寺で起床のラッパが鳴るのね。眠くて眠くてたまらないけど鳴ったら起きなくてはなりませんでしたね。それを吹いていたのは鳴瀬速夫さんですよ。」
松本明美さんがそう教えてくれた。昨日、矢花克己さんの情報を得て、わたしは松本明美さんを訪れた。すると彼女はそんな話をしてくれた。ラッパの名手は今はハーモニカ演奏の第一人者である。そんなことに端を発してまたつぎに新しいエピソードが発掘される。
疎開先の広丘村で歌われていた寮歌の全貌が分かった。ネットでの思いがけない結びつきによってそれが時を経て、６４年ぶりに日の目をみることとなった。歌詞が分かったという知らせはまずは旭正章さんからだった。１月２３日の夜にいただいたメールである。
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2009年01月26日
下北沢Ｘ物語（1256）〜６４年目に日の目をみた疎開児童愛唱歌２〜
疎開先で歌われていた寮歌が懐かしいという独りの人の熱い思いが、あっちへ転び、こっちへ転びしてとうとう行き着くところに、行き着いた。比喩的に言うとその発信はブーメランのようだったと言える。
発信者の旭正章さんは疎開児童ではない。郷福寺にいて日々寮歌を聴いていた。都会の子どもたちが歌うその歌声は爽やかなものだった。男女がそれぞれ歌詞を歌い分けていた。ボォイソプラノが郷福寺の夜にこだまし、少女たちの透き通った声が本堂の薄暗い天井の隅々まで届いて、蜘蛛の巣を払うようだった。
清新な、溌剌としたそれらの歌声が、歌っている本人たちよりも聴いている方に深い感銘を与えた。大人になってその歌詞の切れ切れの断片を思い起こすと、広丘村の景色が浮かんでくる。屹立したアルプスが向こうに見え、そして郷福寺の杜が、山門が、参道が思い浮かんでくる。本堂に上がる五段の石段の一段一段に思いが残っている。歌の歌詞のワンフレーズ、ワンフレーズがとある場面を、そしてまたとある情景を呼び起こす。旭さんはそのとき五、六歳だったという。
切れ切れの歌詞への熱い思いはそこが源泉だった。それでたまたま検索で行き着いたわたしのブログにコメントを記されたものだろう。それが機縁となって発信は人から人へと繋がって行った。代沢小の現副校長を通して、疎開児童だった鳴瀬速夫さんに、そして松本明美さんに繋がった。
松本明美さんは歌詞の二番を覚えていた。このことがきっかけとなって彼女もまた調べを進めていた。郷福寺引率教員で、寮歌作詞者の柳内達雄さんの子息、そしてまた、作曲者の浜館菊雄さんのご子息などに当たっていた。ところが、６４年も経過していて資料や記憶はすっかり薄れていて彼女の調べは行き詰まっていた。
「全部が分かったんですか！‥‥ああ、それはよかったですね。わたしも柳内先生のところとか、浜館先生のところとか伺ったんですよ。でもね、家を建て直すときにすっかり整理したとかということでもうないということを言われたんですよ。それで、いいお返事ができないものですからお電話を差し上げなかったんですよ。それでもね、断片的な記憶を紙に書き写して、なんとか全部がわからないかと努力していたんですよ‥‥それは良かったですね。それもまた、郷福寺にいた身内の方だったんですか。郷福寺はね、由緒あるお寺で、明治天皇が泊まられた部屋っていうのがあって、わたしたちは絶対に入ってはいけないと言われていたんですよ。」
歌詞が分かったことを松本明美さんに電話で伝えた。歌詞を電話口で読むと、「ああ、そうそう、そうでした、ああ、懐かしい」と言って聴いていた。彼女もまた６４年前の広丘の空へ心を翔けさせているようだった。
2009年01月25日
下北沢Ｘ物語（1255）〜６４年目に日の目をみた疎開児童愛唱歌〜
言葉は時代を映す鏡である。現今という時代の速度をも反映している。
文明は高速化を求めてやまない。速く、速くというせわしない要請は言葉に及んでいる。が、思考し、思念し、そして書き表すという言葉は瞬間、瞬間で過ぎていく時間にはおいつけない。それで言葉も当座しのぎになってしまう。ゆえに言葉は虚飾性が濃厚になっている。現今の言葉は日々、情の希薄なものに化している。
インターネットにおける言葉も自己点検というチェックのみしかない危ういものである。浮かんだ思念は掲示板やブログにたちまちに書き込まれて発信される。「死ね」、「バカ」、「クサイ」などの感情を直接吐露した言葉が転がり出て、それが言葉のナイフとなって人を傷つけるということは深刻な現実問題となっている。ネット言葉は当面を凌ぐだけのもので、価値ある言葉ではない、言葉のごみクズだという批評も一面正しい見方ではある。
が、もう一方では、ネットによる言葉の発信は、驚くほどの価値を生んでいることも間違いのないことだ。自身のブログ発信においても多くの逸話が生まれた。悲しい話、嬉しい話、面白い話、それは数限りなくあった。このネット発信を通して、また一つの逸話が発掘された。一人の人の過去への熱い熱い思いが、とうとう解決し、解明した。自身でも心打ち震えたことだ。６４年目に証された真実だと言ってもよい。
発端は一昨年に始まる。このブログに一つのコメントがあった。その記事は、戦時中の話にまつわるものである。世田谷区代沢小の疎開児童生徒のことである。
コメントされたのは旭正章さんである。彼は代沢小の児童生徒が疎開していた長野県広丘村の郷福寺にいた。それは彼自身五六歳のときであったという。そのときに疎開児童がよく歌っていた寮歌があったという。うろおぼえの歌詞が浮かんでくるが、その全部はわからないものなのかというものだった。
2009年01月23日
下北沢Ｘ物語（1254）〜久が原半島先端岬紀行２〜
時間という方舟に乗ってわれわれはさすらいを続けている。
近代文明は速度を追い求めてやまない。方舟の速度は一層に速くなっていくばかりだ。一年、一年は高速度で過ぎていく。人間は自分たちが創り出した、せわしない時間に追い立てられている。そして、ゆとりもないゆえにゴミと同様、生きてきた時間、生きてきた歴史などはつぎつぎに捨て去っている。痕跡などは目もくれず、なりふり構わずうち捨てて時間に乗り遅れまいともがいている。
ドンガラ様のある馬頭観世音教会はそこだけ周りの時間から切り離されていた。全くの別時間、古代時間が流れているようだった。近代人間時間ではなく、古代馬時間である。
「今はね、隣の警察署はこんな高いビルになっているんですけどね、昔は平屋だったですよ。ここからそこの死体安置所が見えたんですね。そこに死体が安置されているときなんか風もないのにお堂の扉がぎぃぃと音を立てて開いたり、突然におりんがちぃりりんと鳴ったりしていましたね。」
話し好きの住職がそんな逸話を話してくれた。
そういえば思い出した。Ｂ２９が久が原に墜ちたとき何人かが助かった。落下傘で降下してきた米兵はかつて憲兵所のあったこの池上警察署のところに連れてこられたと聞いていた。
「ああ、この周りは削られてうちだけ残ったんですよ。そうそこの二国、第二国道は切り通しでしたよ。ああ、国道に切り通しがあって、それで三方を丘に囲まれた麦畑ですか。そこのはす向かいの丘ですね。」
かねがね抱いていた「白痴」の舞台の疑問点である。それを彼はあっさりと片付けてくれた。自身も地形探査でその箇所ではないかと思っていた場所ではある。彼の言葉で地形と文学という問題、課題が閃いた。土地の文化が濃厚に生きている文学ではないかと思ったほどだ。
2009年01月22日
下北沢Ｘ物語（1253）〜久が原半島先端岬紀行〜
武蔵野の谷に逸話を求めての探訪は果てのない旅である。谷の一枚一枚の皺に歴史の痕跡が隠されている。ときに思いがけない光景に出会って心ときめくことがある。つい昨日のことだ、時を載せた方舟に出会ってしまった。
常々自転車で走り回っていたがこの頃は徒歩行が主である。地面に沿ってゆっくり歩いていくだけに地表の皺の一つ一つがよく見える。自身の興味はかねてから地形にあった。歩くことで一層にそれがよく見えるようになった。昨日もどうしても気になることがあって探索に出かけた。久が原台地の先端部である。行きは電車で、帰りは徒歩行である。台地のまん中を突っ切る道を北上して帰った。
この台地の縁辺には旧石器からの古墳が至るところにある。台地の上も遺蹟である。「今から２０００年前の弥生時代では、水田経営がはじまり、久が原台地上に大集落がつくられ、現在久ヶ原遺蹟として有名です」（大田区教育委員会発行「久が原」）このことは歩いてみてなるほどと分かった。この台地上は不思議に思えるほどフラットである。
これまでの地形観察行の記憶が自身に貯えられている。久が原台地は呑川右岸台地である。一方の左岸は、例えば大岡山の擂鉢山があったり、千束の狢窪があったり、馬込の九十九谷があったりと、こちらは起伏が激しい。大集落を作るには難しい。反対に久が原台地でのそこでは集落を作るには容易だと思った。古代人が居住場所に選んだ理由が歩いて観察することによって納得できた。
これまで久が原台地の先端部は度々訪れていた。最初は、坂口安吾の小説「白痴」の舞台探索、つぎにＢ２９の墜落地点探索、そして最近ではダイダラボッチ探索である。このダイダラボッチ探索に至って、この先端部にとても不思議なところがあることを知った。実際に、ここを訪れることでかねがね抱いていた疑問が氷解しもした。
2009年01月20日
下北沢Ｘ物語（1252）〜荏原のダイダラボッチ伝説２〜
武蔵野のダイダラボッチ伝説には固有性がある。丘陵の間の皺にできた湿地を指す場合が多い。一帯は乏水、水に乏しい土地だった。水源であるハケは生活上欠かせないものである。多くの場合は窪地である。その形状が足跡に似ていたことから巨人が想起されてきた。
荏原も内陸区と臨海区では伝説に差がある。内陸区の場合は凹み系の窪地である。後者になると凸系のものが出てくる。それは貝塚と繋がるものだ。大田区の場合にはそれがある。海と関連してくるダイダラボッチ伝説である。
昨年のことだった。墜落したＢ２９の痕跡を求めて久が原を訪れたことがある。そのときに久が原小学校に行った。Ｂ２９の残骸があるという噂を聞いていたからだ。が、応対に現れた校長先生は、それはないと否定した。が、思いがけず旧石器の出土品が校内に多くあると聞いた。実際に校内に陳列ケースがあってそれらが数多く並べられていた。
久が原は、土の中にある文化財（埋蔵文化財）の宝庫で、区内最古の遺跡をはじめとして、貝塚・住居跡・横穴などが数多く発見されており、考古学上重要な地域として全国的に知られています。
そのときにいただいたパンフレット「久が原」にこう書いてあった。このこととダイダラボッチが繋がってくる話である。それは大田区に伝承されているものだ。
2009年01月19日
下北沢Ｘ物語（1251）〜荏原のダイダラボッチ伝説〜
人間は絶えざる妄想を抱いて生きる動物である。ゆえに思考が間違っていないのかたゆみない点検が求められる。他と己との比較である。それは境を越えてなされるべきだと思った。
自身がダイダラボッチを想定する場合、めぐろ内陸的発想で捉えていたことを知った。「武蔵の巨人民譚」（谷川磐雄）にある記事、「荏原郡衾村字大岡山小字擂鉢山といふ所と、千束村狢窪といふ所に窪地があつて、そこは昔ダイダラボッチが足をふんばつた所でその時その杖をついた跡が今の洗足池となつた」を読んだとき、疑問に思うこともなく、巨人は南を向いていたと思った。地理的には両足のすぐ前が洗足池になるからである。そのことから擂鉢山が右足で、狢窪が左足と思っていた。ところが、絵本「ダイダラボッチ」では違っていた。
ふんばった右足のところがへこんでむじな窪になっちまった（北千束二丁目付近）
ぐんと足をふんばってがまんしたふんばった左足のほうの地面がもりあがってすりばち山になっちまった（大岡山付近）
北千束二丁目の狢窪に右足を置き、大岡山擂鉢山に左足を置くと体は北向きになるはずだ。小便は洗足池とは反対の清水窪小学校あたりに落ちるのではないかと思う。なぜ地理と合っていないのか不思議に思っていた。ところが、その理由はだんだんにはっきりしてきた。
巨人民譚は口承の説話である。人から人へと語り伝えられた話である。ゆえに細部が、話し手によって、また、伝わった場所によっても違っている。洗足池ダイダラボッチ伝承については、「武蔵の巨人民譚」が紹介している。また大田区史・資料編にもある。が、この内容も少しずつ違う。新たに三つめのが資料にあった。「馬込のダイダラボッチ」というものだ。
2009年01月17日
下北沢Ｘ物語（1250）〜めぐろのダイダラボッチ伝説９〜
目黒区は内陸区、大田区は臨海区である。閉ざされた地域、解放された地域、そういう差はあるのではなかろうか。海軍が海に臨んだ大田区に海軍村を形成していたら、対外戦略もだいぶ異なったものになっていたかもしれない。
海軍軍人の居住区が目黒区に形成されたのは交通の便からだとされる。目蒲線や東横線で海軍大学、海軍省へ、さらには横浜経由で海軍横須賀鎮守府にも行けるという便利さからであった。確かにその利便性はあったろう。が、海軍は海の怖さを一番よく知っていた。艦砲射撃による攻撃である。臨海部は危ないというので山へ避けようとした鉄道線はいくらでもある。東西を貫通する鉄道は当初は中山道沿いに通すはずだった。艦砲射撃が恐いからだった。
海軍軍人が内陸区の目黒を居住地に選んだのは艦砲射撃への恐怖心理が背景にあったのではないだろうか。交通の便ということで言えば、西にも東にも行ける大森辺りに海軍村ができてもよさそうに思えるが、できたのは文士村だった。
例えば洗足池などは海軍軍人が集ったとしてもおかしくない。勝海舟が眠っているからである。洗足池近辺に海軍軍人が村を作っていれば彼らのものさしももっと正確なものになったように思われる。勝海舟の基本的戦略は「彼を以って彼を制す。」であったとされる。妄想を排除する思想である。
臨海区大田区のダイダラボッチ伝説には海のにおいがする。「武蔵野の巨人民譚」に採録されている話は片足を擂鉢山に、もう片方は狢窪に置いて踏ん張った巨人の話だ。このときに杖をついた、それが洗足池になり、また、片手で土をすくったところが品川の海となり、土をおいたところが富士の山となったという。
洗足池と品川の海、そして、富士山、サイズのアンバランスさが笑いを誘うものである。この話を同源とするものが大田区史・資料編の民族「第５章 芸能と口承文芸」に載っている。
2009年01月16日
下北沢Ｘ物語（1249）〜めぐろのダイダラボッチ伝説８〜
めぐろのダイダラボッチを調べようとしたら海軍村に行き会ってしまった。衾町公園の側にダイダラボッチがあったのではないかと行った。すると、目黒は海軍軍人が多く住んでいたという話になってしまった。事実目黒区の柿の木坂、緑が丘、八雲など、至る所に海軍軍人が住んでいて、区内各所に海軍村が形成されていた。
ダイダラボッチと日本海軍、何か繋がりはあるのだろうか。具体的な繋がりはないが想像志向という点では繋がってくるように思う。内陸的な発想を超えたところのイマジネーションである。ダイダラボッチ伝説はスケールが大きい。巨人が富士の山を背負うというほどのビックさだ。狭隘な国土を超えた存在で、それは国内的な発想では終結し得ないものである。事実この名称は外来語、北方民族の言葉である。
海軍の場合も海の彼方にいる敵を想像することは大事だった。海の彼方には自軍をはるかに凌ぐ敵がいる。敵愾心を想像的に刺激する、そのことによって巨艦主義は生まれたのかもしれない。地域的なことで言えば戦艦、大和や武蔵は、目黒区にあった海軍技術研究所の水槽で模型実験が行われている。
「ここからだと富士の嶺がよく見えるだろう。この柿の木坂に海軍が集まったのは○○中将の引きもあるんだがな、富士を焦点化してここいらの軍人を束ねる。あの大きな山を見て志を高める。やっぱりな、あの大きな富士の嶺があったからこそ軍艦の大和や武蔵は想像されたんだよ」
柿の木坂の海軍村で軍の技術将校が言う。彼は三田用水の水を使った水槽で艦艇の波力抵抗試験を行っていた。もちろんこれは自身の想像である。
2009年01月15日
案内板移動工事を行った「安吾文学碑」
代沢小に建立された坂口安吾文学碑は由来を記した案内版の位置が問題になっていた。１月１３日（火）に案内版移動工事を行った。その結果、全体のバランスはよくなった。
「東邦薬品株式会社」の協賛を得て行ったものである。
文学碑に用いてある門柱は蒲田安方町にあったものを所有者新潟日報社の了解を得て当地に移転したものである。門柱右手には山茶花が植えてある。これは旧宅でも植えられていたということからここでもそれを再現した。すっかり根づいたようである。
左手の夏みかんは前々からあるものだ。工事当日、この夏みかんがもがれた。夏みかんジャムを作るためのものだと聞いた。作ったものは子供たちの給食などで出されるという。「安吾ジャム」を食べて子どもたちは大きくなる。
文学碑建立場所のコンクリートの擁壁が殺風景である。蔦で覆いたいということで当日作業が終わったあとに蔦をはわせてみた。いずれ蔦の緑に覆われることだろう。
2009年01月14日
下北沢Ｘ物語（1248）〜めぐろのダイダラボッチ伝説７〜
ダイダラボッチは単純な問題ではない。我々のルーツに遡っていく話である。巨人の足跡というのは伝説としては面白いが、この巨人譚は柳田国男が言っているように「必ずしも見かけほど呑気な問題ではない（「ダイダラ坊の足跡」）」と言える。民族の根源という問題に繋がるからである。
荏原には多くのダイダラボッチ伝説が残されている。お話しとして聞いておく分にはとくに問題はない。が、これを通して民族の成り立ちを考えようとする場合には慎重であるべきだろう。「形状の少しく足跡似た窪地をさして、深い意味もなくダイダラボッチと名づけたやうな場合も、或時代には相応に多かったと見なければ、説明のつかない流布があることは事実」（「ダイダラ坊の足跡」）」であると民族学者も述べている。
「武蔵野の巨人民譚」（谷川磐雄）では荏原一帯の巨人民譚を紹介している。谷畑はその一例だった。もう一つ、目黒区と大田区にまたがる巨人民譚を紹介している。
又これは自分がある農夫から聞いたのであるが荏原郡衾村字大岡山小字擂鉢山といふ所と、千束村狢窪といふ所に窪地があつて、そこは昔しダイダラボッチが足を踏ん張つた所でその時その杖をついた跡が今の洗足池となつたその際ダイダラボッチが片手で一方の土をとり一方に置くとその土をとつた跡は品川の海となり土を置いた所は富士山となつたといひ傳へてゐる、私はその足跡地に何度も行つて石器や土器を採集した。
これまでの巨人民譚は窪地としての足跡の話であった。ところがこの場合は、ダイダラ坊の具体的動きを伴っている。それゆえに興味深いものだ。この論考は、大正八年十二月に発行されたものである。大正初めぐらいの話と思われる。著者の谷川氏もその近くに居住していたのだろう。窪地に行っては石器や土器を採集したとある。この指摘は具体的である。窪地があって、そしてその近くには古跡があるということである。
2009年01月13日
下北沢Ｘ物語（1247）〜めぐろのダイダラボッチ伝説６〜
富士の嶺は巨人ダイダラボッチを想像する指標ではなかったかとも思う。
このところ冬型の気圧配置が続き、北からの季節風が大気の汚れを払ってくれて、真っ白に雪をかぶった富士がよく見える。たおやかな形のよい逆三角の山を眺めていると様々なイマジネーションが湧いてくる。
それからそれへと続く武蔵丘陵の遙か彼方に一際屹立した山が見える。太古の人びとは神々しさを感じたことことであろう。茫漠とした時間の中でものの大きさや高さを考えるときにこれが一つの物差しになっていたのではないだろうか。柳田国男が奥羽地方や西部日本に行くに従って巨人民譚の足跡が小さくなっていくと述べているが、これは富士という指標が見えなくなるからではないのかと思いもした。
谷畑のダイダラボッチは現在もそこが大きな窪地になっていることから自身が想像的に推理したものである。この谷畑に残された窪地のダイダラボッチは足跡としてはかなり深い。これを足跡とするには他の何か大きなものを想定しないと考えつかないように思われる。この窪地の縁に立てばかつてであればどこからでも富士は見えたはずだ。富士と対比される巨像を思い描くと足跡という想像も成り立つように思える。
この窪地に発した水路を辿っていったところ神にぶつかった。谷畑の弁財天である。水の神様だ。窪地にある神様はみな弁財天だ。代田のも、野沢のも、下馬のもそうだった。
路地道の奥に弁財天はあった。弁天池も設えてある。縁起についてはつぎのように記されていた。
2009年01月11日
下北沢Ｘ物語（1246）〜めぐろのダイダラボッチ伝説５〜
文化とは土に馴染んだ、土の臭いのするものである。ダイダラボッチは土に刻まれた足跡の物語である。ふんぷんとにおうものである。が、荏原のダイダラボッチの足跡もほとんどが埋め尽くされ、その微かな臭いさえも失われつつある。
ダイダラボッチ跡は「荏原郡碑衾村大字衾より此処を経て世田谷村大字代田に飛んで其間隔半里以上ある」（「武蔵野会遠足記」）と言う。当初、この衾のダイダラボッチは現在の衾町公園のそばにあったかつての「原の清水」ではないかと思っていた。が、つぎの地点の「此処」、野沢だと距離は一キロぐらいで、近すぎる。衾の「谷畑」だと二キロぐらいで「其間隔半里」にほぼ当てはまる。
巨人の足跡が谷畑にあると知って「ああ、もしかしたら、あそこかもしれない」と見当をつけた箇所がある。
わたしが住んでいるのは目黒区八雲二丁目で最寄り駅は都立大学駅である。が、自由が丘駅もそう遠くはない。折々自由が丘で降りて家に帰ることがある。その帰り道は二通りある。自由通りを辿るのと裏道を通るものとである。前者は交通量が多く、騒音もうるさい。それで急いでいないときは裏道を通る。
不思議なことに自由通りを通って帰るときには坂は一つである。が、裏道を通って帰るときには二回坂にぶつかる。ダイダラボッチ的地形を考えたときに思い当たったのはこの箇所である。旧西矢畑、現自由が丘２丁目となる。
谷畑のダイダラボッチを求めて東矢畑、中矢畑、西矢畑と称された所は自分で隈無く歩いてみた。が、窪地は西矢畑にあるものしか見つからない。この箇所も何度も歩いてみた。不思議な地形である。これを言い表すのは難しい。敢えて言うと横に寝かせた楕円形の卵を半分に切り取った形をしている。イメージ的に言うと北に南東に横たわる台地が続いている。この尾根筋には大岡山に至る古道がある。南には西方から伸びた舌状台地があって、この南のり面に熊野神社がある。この裏手に窪んだ箇所がある。
2009年01月10日
下北沢Ｘ物語（1245）〜めぐろのダイダラボッチ伝説４〜
ダイダラボッチ伝説は各地に流布している。地表上に残されているその痕跡はさまざまだ。大別すると凹凸の二つに分けられる。巨人の足跡であり、巨人がこしらえた山である。前者はイマジネーションの補いが必要な不在的なものである。後者は実際的で実在的なものである。それは貝塚であったり、あるいは富士の山だったりする。大小様々である。が、人間の想像力は実在よりも痕跡の方に働く。凸よりも凹みへの浪漫の方がはるかに大きい。
ダイダラボッチは谷畑にあったという。現在の自由が丘だ。ここは東横線と大井町線がクロスしている鉄道交点だ。この自由が丘にダイダラボッチがあったとすれば楽しい。オシャレな町に泥臭いダイダラボッチの痕跡があったとすれば物語になる。
想像は飛躍する。自身のイマジネーションである。鉄道交点の近くにはダイダラボッチがある。東京湾からやってきたダイダラボッチは旗の台鉄道交点近くの千束狢窪に足跡を印し、つぎには自由が丘のそばに歩を進めた。そして、今度は野沢に飛んだ。ここには鉄道交点はない。が、近くの三軒茶屋には鉄道分岐点Ｙがあった。渋谷方向からやってきた玉電はここで下高井戸と二子玉川方向へ分かれた。鉄道Ｙ点そばからつぎには代田にダイダラボッチは行った。下北沢鉄道交点のすぐ近くである。ダイダラボッチと鉄道交点というのは新しい物語の切り口になりそうである。近代の民譚だ。
「武蔵の巨人民譚」という論考を最初に読んで、「碑衾村谷畑」いう記述をみつけたときは驚いた。自身の居住地のすぐそばだったからだ。「どこなんだろう？」と思って、旧字名が載っている地図を取り出した。すると、この谷畑も細かく分かれており、西谷畑、中谷畑、東谷畑があった。
旧字名は今はすっかりなくなってしまった。これは土地を映す鏡であった。「谷畑」もそうである。この地名のつく一帯は九品仏川の南向きの左岸である。段丘である。それが谷と表されている。水田にはならない。畑として耕作されていたものだろう。土地の由来が容易に、そう想像されたことだ。
2009年01月08日
下北沢Ｘ物語（1244）〜めぐろのダイダラボッチ伝説３〜
ダイダラボッチはイマジネーションの産物である。地表上にある足跡形の大きな凹みから巨人を想像し、それをダイダラボッチと名づけた。異国語の名がついているのは遙か大昔、一帯に居住していた北方民族がつけたからだ。この語はオロッコ語だと言われている。
めぐろのダイダラボッチの候補地の一つとして衾町公園の近辺にあった「原の清水」を挙げた。窪地があったこと。側に縄文中期の遺跡があったこと。水源として大切にされ神が祀られていたことからそう推定した。この神は文化二年の「目黒六ヶ村絵図」では大六天と記されていて、一帯の用水の源流部となっていた。ダイダラボッチの要件を十全に満たしている。衾村のダイダラボッチ候補である。
このダイダラボッチに関して興味深い論述を見つけた。雑誌「武蔵野」第二巻、弟三号に載ったものである。「武蔵の巨人民譚」（谷川磐雄）と題されている。ここにつぎのような興味深い記述があった。
會員鈴木堅二��氏に承はるとそれは今代田の薬師様のある窪地だそうである。又駒澤村上馬引澤、同じく野澤、碑衾村谷畑等にもあるよし鈴木氏から承はつた、これ等は何れも窪地の足形をなしてゐるところで太古のダイダラボッチの歩いた足跡であると傳へてゐる。
荏原郡各所にダイダラボッチ伝説があることをこの論考では述べている。柳田国男は「ダイダラ坊の足跡」の中で、「あの頃発行せられた武蔵野会の雑誌には、さらにこの隣村の駒沢村の中に、今二つのダイダラ坊の足跡があることを書いてあつた。」と記している。これは大正八年十二月に発行されたこの論考を指しているものと思われる。彼はこの論述に基づき代田のダイダラボッチを訪ね、そして、駒澤村の二つのダイダラボッチを訪ねている。つまり、野澤と上馬引澤のものである。が、彼は実際はこのときに下馬引澤（現：下馬）のダイダラボッチを訪れている。恐らく関係者に聞き合わせて谷川論考が述べているのは下馬のことだと知って、そちらを調べたのだろうと思われる。
2009年01月07日
下北沢Ｘ物語（1243）〜代沢小疎開寮歌の続報〜
時が経つ、物語がもんどりうって転がっていく。それを追い掛けて手づかみしようとするがどんどんと逃げてしまうばかりである。やっと捕まえたのがこの話である。
代沢小児童は長野県に疎開していた。最初は浅間温泉、つぎは広丘村の各寺院である。代沢小の引率教員が寮長となって子どもたちの世話を焼いた。親元を無理矢理引き離されての不自由な生活から多くが心を閉ざしていた。唯一、音楽が彼らの心を解放した。
真正寺の寮長だった代沢小の音楽担当の浜館菊雄氏は子どもたちの心を解きほぐそうと音楽を取り入れた指導をしていた。
演奏が終わった時、子どもたちの顔はみんな明るく、先刻のじめじめした空気が吹き飛んでしまうのである。これが音楽療法というものである。たしかに合奏は人と人を結びつけるきずなとなって、この子どもたちの魂をはぐくんでくれるに違いなかった。
学童集団疎開−世田谷代沢小の記録−浜館菊雄 太平出版社
東京へ帰りたい、ひもじくてしかたがない、寒くてつらい、友だちにいじめられる、そんな精神的な負荷を誰もが負っていて子どもらの表情は暗い。が、歌い出すとそれらの苦しみが一時忘れ去られるのだろう。歌い終わったとき、子供らは明るくなる。ふだんはそんなことさえしないのに互いの目を見て笑いあっている。
そんなことから、「わたくしは、子どものたちの気分を新たにするために、学寮の歌を作った。そして、真正寺寮歌」ができた。この情報は子どもを通して他の学寮にも伝わったはずだ。郷福寺もその一つであろう。この寺の引率は柳内達雄氏だった。ことばに巧みなこの先生がいて郷福寺寮歌はたちまちにできた。夕食が終わると本堂に集まってみな寮歌を歌った。
2009年01月06日
［三田用水］情報交換所�供岨暗塚竸紊鮟笋詁さ帖У�録：情報など〜
［三田用水］情報交換所��
〜三田用水を巡る討議：記録：情報など〜
「三田用水」を巡る討議：記録：情報などが数が多くなったので�兇鮴瀉屬靴泙靴拭�
設置理由などは�気鮖仮箸靴討�ださい。
「三田用水」関係について情報、資料、見聞などささいなことでも構いません。ご自由に意見交換なさってください。 コピー用記号 ［ ］【 】
過去ログ記事 ［三田用水］情報交換所�機岨暗塚竸紊鮟笋詁さ帖У�録：情報など〜
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2009年01月05日
下北沢Ｘ物語（1242）〜めぐろのダイダラボッチ伝説２〜
ダイダラボッチという言葉には秘密が仕掛けられている。奇妙なこの響きである。ここには音楽的なリズムがある。そこには名称を創出した者たちの願いが籠もっているように思われる。独特の響きを持たせることによって未来へ伝えたいという思いである。
「幻想朗読劇 ダイダラボッチ」の台本を書き終えた。これを書いている途中に気づいたことがある。ダイダラボッチは音楽であるということだ。台詞にこの語を二回繋げて書くと、もう自然にこの音は転がっていく。「ダイダラボッチ、ダイダラボッチ‥‥」というふうにだ。太古の人びとは言葉に心地よい響きを忍ばせることでその語が後の世に伝わるようにした、そう直感したことだ。
初稿原稿を見た東演パラータの高橋さんから、「台詞は転がるようにぽんぽん出てくるといいんですよね」と言われた。なるほどそうである。観客が聞いていて小気味よいと思ってこそ舞台に惹き付けられる。その工夫としてダイダラボッチという音を利用し、活用した。出来上がってみるとダイダラボッチというリズムを入れ込んだ台詞が随所に転がっている。ダイダラボッチの力である。
面白いものである。黙読するための文章の場合は読み手に届いた場合の響きまではこだわらない。が、朗読するためのものは相手に届く響きを考える。もともとおかしな響きを持っているだけに台詞は自然ところころ湧いてくる。「へんてこ、てこてこ、ダイダラボッチ」というふうに。
「ダイダラボッチ」という音のへんてこさにこの語の秘密がある。「兎に角にこんなをかしな名称と足跡とがなかつたならば、如何に誠実に古人の信じていた物語でも、そう永くは我々のあひだに、留まつてゐなかつた筈である」（「ダイダラ坊の足跡」）と柳田国男も述べている。
2009年01月04日
下北沢Ｘ物語（1241）〜めぐろのダイダラボッチ伝説１〜
ダイダラボッチ伝説は土地の文化を測るものさしである。和語にはないこの異音は遙か昔、有史以前まで遡っていく手がかりだ。この文化測定言語はいつ頃のものなのか大きなナゾである。が、百年単位のものではない。千年を遙かに超えるものである。ダイダラボッチを辿っていくと大和朝廷を飛び越えた歴史にまでさかのぼっていく。
世田谷代田のダイダラボッチ伝説はつとに知られているところだ。が、めぐろのダイダラボッチ伝説はすっかり埋もれてしまっている。これを記憶、記録として書き記しておきたい。
大正八年六月一日に武蔵野会が催す遠足が行われている。このときのことは雑誌「武蔵野」（第二巻 第二号）に「駒澤行」として書きとどめられている。この遠足では野沢稲荷神社脇のダイダラボッチを訪れている。現在の清水窪公園である。そのときの記述としてこうある。
由来ダイダラボッチの話は巨人伝説として取扱はれてゐるか此の足跡は荏原郡碑衾村大字衾より此処を経て世田谷村大字代田に飛んで其間半里以上はある。
ここではダイダラボッチの足跡の経路を述べている。まずは碑衾村大字衾に足跡があって、それがつぎの野沢に来て、そして代田へ飛んだという。その歩幅はだいたいが半里、二キロぐらいだという。この記述からだと南から北へと向かっていることになる。東京湾方向から内陸部へとダイダラボッチは大きな足音をたてて歩いていった。
「駒澤行」の記述について柳田国男は当然読んでいるはずだ。彼が世田谷代田のダイダラボッチの実地検分に訪れたのは「武蔵野会」の雑誌の記事に触発されてのことだ。彼はこれによって代田、野沢、下馬の三つの足跡を検証し、それぞれに方向が一定でないことを確認した。そのことから彼は、「ダイダラ坊の足跡」という論考を記し、その冒頭に「巨人来往の衝」という見出しをつけた。そして、こう切り込んでいる。
2009年01月01日
下北沢Ｘ物語（1240）〜「北沢川文化遺産保存の会」会報 第２９号〜
聖三一教会
「北沢川文化遺産保存の会」会報 第２９号
会長 長井 邦雄
２００９年１月１日発行
事務局:世田谷「邪宗門」（木曜定休） 155-0033世田谷区代田1-31-1 03-3410-7858
会報編集・発行人 きむらけん
あけましておめでとうございます
どうか今年もよろしくお願いします。
１、「北沢川文学の小路」への提案
「北沢川文学の小路」を提唱したのは私たちである。昨年は、その意義を記した看板が行政側によって二箇所、せせらぎ公園と宮前橋近くに建てられた。当初は、環七名宮前橋から淡島通り大石橋まで、近隣に居住していた多くの作家ゆかりの文学碑を建てよと提案していた。これは区議会でも取り上げられ、話題になった。当方は、具体的な原案を出していたが、この提案はいつの間にか沙汰止みになってしまった。
現案内版での説明は取り敢えず設置したというものだ。つまり、名称はあっても形がない状態だと言える。目印もなく、記述だけがあるというもので説得性に欠ける。
先だって、田端文士村を訪れ、地図上で示されたコースを巡った。が、ポイントとなるところには何もなかった。「芥川龍之介旧居跡」という小さな立て札でもあれば訪問者は納得がいく。その点、「北沢川文学の小路」はまだましだと言える。具体物があるからだ。が、この点まだ工夫する余地がある。
「北沢川文学の小路」は、地域発信であると同時に全国発信である。これをどう工夫するかである。発信は形が三つあれば伝わる。幸いなことに現時点では二つができている。「代沢小の坂口安吾文学碑」と「代田の丘の６１号鉄塔」（地域風景資産）である。二つまであるなら三つをめざす。
「北沢川文学の小路」、これはせせらぎ沿いの散歩コースです。ここには三つのポイントがあります。まずは、代田の丘上に聳え立っている「代田の丘の６１号」鉄塔です。言葉の巨匠、萩原朔太郎が鉄塔を意識してこのすぐそばに自身の手による家を建てました。その居住痕跡を象徴するものです。日本一大きい文学記念碑です。つぎは、代沢小の坂口安吾文学碑です。蒲田の安吾旧居にあった門柱を移転して建てたものです。最後は、「森茉莉旧居跡」の標識です。文豪森鴎外の愛娘、森茉莉は淡島に住んでいました。彼女の主要作品の多くはここで執筆されました。その旧居跡が分かるように目印として建てたものです。
上記のように説明できれば、人は頷くであろう。が、森茉莉旧居跡という標識はない。あれば面影を偲ぶものになる。彼女を慕う読者は多い。今なお全国から彼女の面影を求めてやってくるものは少なくない。（「邪宗門」の森茉莉ノート参考）
角材一本あればできることではある。費用はかからない。が、旧居跡であれば持ち主の許可を取らなくてはならない。できることなら公有地である旧居前の「せせらぎ公園」に建てさせてもらいたい。世田谷区全体のイメージアップにも繋がることだ。費用がかかることでもない。ぜひ協力してもらいたいものだ。
人は目標物を訪ねて来るものである。現時点では１，５の目標物がある。鉄塔に由来を記した看板を建てること、そして、森茉莉旧居跡の角材を設置すること、これができれば三点セットができる、説明ができる。これを訪ね歩くルートもできる。「北沢川文学の小路」は地域のだけのものではなく日本の宝である。その点を新年に当たってアピールしておきたい。（きむらけん）
２，戦争経験を聴く会、語る会
昨年、戦争経験を聞く会を催した。戦後６４年、あのときは一層に遠ざかっている。記憶を携えた人びとも少なくなりつつある。それだけに今、わたしたちがこの経験を聴いておくことは大事である。この会で聞いた話は、その要点を記録としてまとめ、ネットに掲出した。この会で話された「東京大空襲」の具体的な経験は今年度２月「下北沢演劇祭」で催される劇、音楽朗読劇「おもいできらきら」にも生かされている。
具体的な日時は決めていないが、昨年は、山手空襲のあった五月にこれを開催した。代沢地区と北沢地区で二回開催した。できれば一回にまとめたい。戦争経験された方にはぜひ話をしていただきたい。失われた疎開寮歌のことも関係者には話して欲しいと伝えてはある。記録されていない情報が少しでも明らかになればいい。
３、「三田用水水路跡」を探訪する会（�供砲砲弔い�
昨年、三田用水水路跡を巡りたいという希望があって急遽、年末に開催した。滅びゆく、忘れ去られつつあるこの用水跡は近代産業史、文化史的に貴重なものである。第一回目は笹塚の取水口から目黒別所坂までフィールドワークを行った。長年、三田用水を調べたり、研究したりしてきた、きむらたかし氏に講師をお願いした。詳細な資料に基づいての丁寧な案内は好評であった。参加者から二回目を希望する声が強く聞かれたことから「三田用水水路跡」を探訪する会（�供砲魍�くことにした。
日時 ２月１４日（土） 午後１時、恵比寿駅東口（ガーデンプレイス側出口）
申し込みは当会の米澤まで、受付締切、一月末日まで。必ず連絡してください。
米澤邦頼 ０９０−３５０１−７２７８
メールアドレスyonezawa-.-v1961@ezweb.ne.jp
参加費用（５００円） これは講師の先生の資料代などに使ってもらいます。
４、安吾文学碑について
坂口安吾文学碑は東邦薬品株式会社の協賛を得て、当会が建て、世田谷区教育委員会に寄贈したものです。これは代沢小学校の敷地内に建っています。一昨年に建てられたものです。ところが由来を記した看板が光線の加減で見にくいという声が寄せられていました。それで工事を施し、設置看板の位置を変えることにしました。なお、この件についても東邦薬品株式会社のご助力を得ました。お礼を申し上げます。
５、歩く会について
都市物語を旅する会
「北沢川文化遺産保存の会」は毎月テーマを決めて下北沢周辺の文化探査をしています。毎月、第３土曜日の午後１時に集まっています。集合地点はそのコースごとに多少違っています。基本的には少人数、10名程度ということにしていまます。それぞれがこの歩く会に参加して楽しむというものです。最後は世田谷「邪宗門」にたどり着いてお茶を飲みながら歓談します。参加費は徴収しておりません。歓談の際の飲み物は各自でお支払ください。なお、保険には加入しておりません。事故のないよう各自で責任を持ってください。
この会は参加の義務はまったくありません。ふらりと参加して、歩き、そして、歓談して終わりです。またいつかテーマで面白いなと思った時に参加する、そういう自由な会です。
これまで実施したコースはつぎの通りです。１．代田連絡線の跡を歩く、２．小説猫町を歩く、３．下北沢の大谷藤子を歩く、４．下北沢・淡島の森茉莉を歩く、５．銭湯を歩く、６．下北沢の無頼派を歩く、７。下北沢の教会を歩く、８。坂口安吾が歩いた道を歩く、９．駒沢線鉄塔を歩く 10．下北沢の映画痕跡を歩く、11．茉莉を歩いて茉莉に会う。12．だいだらぼっち川を歩く。13、小説『猫町』 を歩く。14、下北沢の稲荷社・庚申塔・地蔵尊を歩く。15「ダイダラ 坊」の痕跡を求めて歩く。16、代田の詩人師弟を歩く（萩原朔太郎・三好達治）17.林芙美子から坂口安吾を歩く 18.「下北沢店員道場を検証する」19、池の上の古い町並を歩く 20.「下北沢の教会を歩く」21 「下北沢の詩人痕跡を訪ねる」 22「坂口安吾の通勤ルートを歩く」、23「茉莉を歩いて茉莉に会う」、24、「森厳寺川の源流を探索する」、25,「代田の歴史を歩く」 26、小説「猫町」を歩く27、再度東京市巨人伝説を検証する 28、「戦争戦跡を巡る（�機法�29「代田連絡線徹底検証」30,「滝坂道を歩く�機�31、「駒沢線詩歌文学ラインを歩く」32、「下北沢の教会を歩く」
○今後の予定（変更になることがあります）
・第３３回 １月１７日（土）午後１時 代田橋駅北出口集合
巨人伝説「ダイダラボッチの跡」を訪ねる 代田橋跡、ダイダラボッチ跡
東京府巨人伝説の総本山が代田のダイダラボッチです。歩く距離は短いのですが、遙かな古代に繋がる窓口がダイダラボッチ伝説です。
今年、代沢小は創立１３０周年を迎えます。これを記念しての行事ができないかとの話が保護者などからあり、それがきっかけとなって「幻想朗読劇 ダイダラボッチ」〜東京市巨人伝説〜へと発展しました。原作は、きむらけんが担当し、ほぼ完成しました。劇団、東演パラータの協力を得て、今年９月に公演を予定しています。地域と伝説がテーマです。それにからめて今回はこれを実施いたします。
・第３４回 ２月２１日（土）午後１時 池尻大橋駅改札口集合
「戦争戦跡を巡る（�供法� 駒場の輜重兵連隊などの戦跡を巡る
・第３５回 ３月２１日（土）午後１時 下北沢駅北口集合
「茉莉を歩いて茉莉に会う」 「邪宗門」マスター作道明が先導します
定番コースです 下北沢から淡島へ
・第３６回 ４月１８日（土） 午後一時 京王線つつじヶ丘駅集合
「滝坂道を歩く（�供法� 街道の達人 別宮通孝氏にお願いしてあります。
甲州街道滝坂から代田まで（前回、渋谷から代田まで、残り半分を歩く）
・第３７回 ５月１６日（土） 午後一時 下北沢駅北口集合
「小説『猫町』を歩く」
◎申し込み方法、参加希望について（実施一週間前までに）
参加申し込みについては当会の米澤邦頼まで必ず連絡をください。
米澤邦頼 ０９０−３５０１−７２７８
メールアドレスyonezawa-.-v1961@ezweb.ne.jp
■ 編集後記
新しい年になりました。時代は厳しい時代になりました。文明から文化へ、直線的な進歩から曲線的な進歩へと変わっていく予感がします。つまり、後者は文化そのものです。のんびりとかゆっくりとかがキーになると思います。常々、わたしたちは近間に眠っている文化を掘り起こしてきました。これからは目新しい利便だけを追うのではなく、身近にある文化という宝を見つけて互いに喜び合うというのがいっそう面白くなってきそうです。
昨年は、多くの方々と知り合うことができました。人から人へと繋がっていく面白さがありました。知識と知識がぶつかってはじけるところに面白さがあります。山本さんは鉄塔で生じる「かるまん渦」が音楽を生じさせたかもしれないという話をしてくれました。別宮さんは五街道旧道を走破して、並走して走る新幹線がなぜあんなに急いでいくのか疑問に思った話してくれました。なるほどだと思いました。文化とは人と人とのネットワークであることを知ったことです。おもしろがって知恵の畑を耕すことが文化だと思います。今年もまたみんなで面白がりましょう。みんで面白がればもっと面白い！。そう提案します。
当会報への連絡、お問い合わせは、編集、発行者の きむらけん へ
aoisigunal@hotmail.com
○お願い 年度が切れましたので「北沢川文化遺産保存の会」の会費をよろしくお願いします。年会費１０００円です。会員の方にはこの会報を自宅に郵送しています。入会は随時事務局の「邪宗門」で受け付けております。入会金はありません。年会費だけです。
