2015年08月
2015年08月31日
下北沢Ｘ物語（2865）〜８、３０デモは衆愚的か？〜
（一） その時代時代には特有の空気が流れている。これが変わってくることもある。臭いに敏感でないと異変は分からない。ふと気づくとただならぬ空気が今漂い始めている。個々人が持っていた自由が侵されつつある。人々の願いや祈りを無視して政権は、戦争ができる国にしようとしている。その強引さへの焦り、いらだち、それがかつてないほどの高まりとして感じられた。昨日、国会前に集まった人たちからは熱い思いを感じた。政権側の幹事長はデモをポピュリズム（大衆迎合）と評している。国民の熱気あふれる意志表示は愚かなのか？デモのエネルギーの背景には何かがある。
「戦争反対、なんて言葉そのものが怖いですね。田舎ではこれをいうなんてことはありえませんでした。でもね、それを言ったのですよ。場が凍り付いたように思ったのですけどね、しばらくたって拍手が起こったの…」
新潟からきたおばちゃんが言っていた。
「地元でもデモはあったんですけどね、やっぱりこっちで訴えた方がいいでしょう。数勘定の中に入って伝えられるでしょう」
こういう人は少なからずいた。
「戦争反対なんてなかったですよ。でもね、おかしいって！」
これは山梨から駆けつけた人だ。
「あれ、戦争経験なんてないですよね？」と私。
「そりゃそうだよ。でもね、ほら、傷痍軍人て覚えていますよ。街頭で白衣着て募金していた人…」
片腕がない人、片足がない人がアコーデオンを弾いていた。何とも傷ましい姿だった。戦争になれば、死傷者はふんだんに出る。
「なんかね、国会の答弁を聞いていても、ほとんど歯止めがないじゃない…」
一人は鋭いことを言っていた。
「そんりつききじだいってどっかの村がつぶれるのかと思っていたら国が潰れるといいうのね…」
「わっはは、村立危機、村が潰れるんだ。座布団一枚」
「だけどね、おかしいわよ。分かってみるとだんだん変になってきているでしょう。この世の中が…」
空気感の変化だ。それを感じとった人が来ていた。
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2015年08月30日
下北沢Ｘ物語（2864）〜会報第110号「北沢川文化遺産保存の会」〜
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「北沢川文化遺産保存の会」会報 第１１０号
２０１５年９月１日発行（毎月1回発行）
準公式ブログ: http://blog.livedoor.jp/rail777/
会長 長井 邦雄（信濃屋）
事務局:世田谷「邪宗門」（木曜定休） 155-0033世田谷区代田1-31-1 03-3410-7858
会報編集・発行人 きむらけん
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１、下北沢の思い出 今井 明（北沢川文化遺産保存の会会員）
私は代沢で生まれ育って七十五年になる。旧住所は北沢であった。代沢という地名は、昔はなかった。昭和三十九年の住居表示の変更によって、町名が北沢と代沢になった。
終戦後すぐのころの下北沢の思い出は下の兄と行った北口闇市である。後にここに森茉莉が通い外国製のチヨコレエトを買いに行ったそうだが、兄と私の目的は外国製のチューインガムであった。闇市は今思うと混沌として地面にシートを敷きその上に品物を並べたりした露店が多く、中にはリンゴ箱の空の木箱に座り客が来ると、箱の中の端に手を突っ込みタバコを取り出して売っていた復員兵らしきおじさんもいた。当時はお金よりもタバコの方が貴重品だった。
ほかの露店でブリキ製の小さなジープの玩具でウラが色のついた米軍の放出品の空き缶をプレスして造った物で値段はいくらぐらいしたかは覚えていないが、欲しくてたまらなかった。お金がなくて買えなかったが、後日上の兄が厚紙で造ってくれた思い出がある。
また別の日に父と一緒に行った時には南口の駅前の露店で、漫画家の田川水泡の「のらくろ」の古本を買ってもらったが、後で学校のクラスにいき、見せたら「貸して」という者が多く、人から人に渡るうちに最後には所在不明となってしまった。
入学して学校にも慣れてくると親が兄たちの後について行くよりもクラスの仲間と行動し遊ぶようになった。そのクラスの三分の一は南口商店街から通学して来ていたので、遊び場所は必然的に駅近辺であった。
今の下北沢南口改札口あたりにバラック建ての平屋のビンゴゲーム小屋があり、教室ぐらいの広さの室で大きなテーブルを大人がグルリと囲みそれぞれゲームを行っていた。当時は何をやっているのか分からなかったが、興味津々で窓からのぞいていたものである。
「下北沢Ｘ惜別物語」に世田谷代田２号踏切で子どもが釘をレールに置いて電車に轢かせる。悪戯をする話が出てくるが私たちも一回だけこれをした経験がある。場所は旧下北沢２号踏切と３号踏切の間の築堤である。作家の一色次郎が戦争末期空襲の様子を見ていたところと同じだ。
まず悪童三人組みで自分たちの通う代沢小の倉庫から釘を一握り持ち出し、何をしようかと考えた末レールに轢かせることにした。１０センチほどの釘をレールに並行に置いて土手の中ほどまで下り電車の通過を待つ。これが通り過ぎると平べったくなった針を取り上げ、仲間と形の良さを比べ合った。針が磁気を帯びることは知らなかったが、これにはスリルがあった。今なら大問題になる危険な悪戯だったと思う。が、子供はどんな時でも楽しみや遊びを見つける天才である。
現在下北沢駅は新しくなり小田急線は地下化した。あの北口の市場は無くなりつつある。今後下北沢の街はどのように変化するであろうか？
〇注：会報への投稿を募っていたが今井明さんから応答があった。街の昔の様子などは記録になる。他の皆さんもぜひ投稿をお願いしたい。
２、紀要第４号「戦後７０年戦争記録集」発行
７０回目の終戦記念日をこの間迎えた。我らの会の「北沢川文化遺産保存の会」の紀要第４号は、８月１５日を発行日としている。戦争の体験者がどんどん居なくなりつつある。今のうちに経験者から話を聞いて書き留めておこうということで発行した。
・序 八回に亘る戦争経験を開いてきて学んだこと
・鉛筆部隊と特攻隊−郷福寺学寮歌が切り開いた戦争近代−
・誠第三十一飛行隊のゆくえ〜宮崎神宮からの手紙〜
・ 駒沢高射砲陣地についての証言 （元中隊長内藤悌三氏）
・特攻隊（武揚隊）の愛唱歌蘇る〜「淺間温泉望郷の歌」〜
・三好達治文学顕彰碑建立の祝辞
・編輯後記
前号で予定していたものに一つ付け加えたのは、「誠第三十一飛行隊のゆくえ〜宮崎神宮からの手紙〜」である。宮崎神宮が発行している機関誌「養生」が送られてきた。これも終戦７０年の特集である。「戦争の記録」−宮崎神宮に参拝した特攻隊員−というタイトルで宮崎神宮権宮司黒岩照彦氏が文章を書いておられる。私は、昨年春、宮崎神宮に参拝した。このときに武揚隊隊長山本薫中尉のことを氏に尋ねたのである。調べたところその記録はあった。それらのことから宮崎から発った特攻隊員が多くいたことが分かった。それを社史に記録したいということで書かれたものだ。これも鉛筆部隊機縁だといえる。 もう一つ、駒沢高射砲陣地については、富山県高岡市の図書館に、駒沢から移転した高射砲隊の記録の所在の照会をしていた。幾つかの資料があるとのことでその複写を送っていただいた。これを二次資料として付け加えた。
今月９月１３日１４時から塩尻市郷原郷福寺で「戦後７０年記念講演会」が開かれる。タイトルは「鉛筆部隊と特攻隊−郷福寺学寮歌がめくった近代戦争史の一ページ−」である。この寺は代沢国民学校の鉛筆部隊が疎開学寮として使っていた。ここで歌われていた寮歌は知らないかという一つのブログコメントがあったことからこれを探し始めた。近代戦争史を紐解こうとも思っていなかったが、結果的に知られざる歴史を世に問う結果となった。そのことを講演では話す予定だ。
紀要は、そのレジメとして作ったものである。全体は、二段組みで３４ページの大部となった。いわゆる信州特攻のダイジェスト版でもある。これに間に合わせるために作っていてこれは入校した。９月１３日には事務局の邪宗門でも手に入れられるはずだ。
これの発行資金については、先年「三好達治文学顕彰碑」を建立したところ三好家からお礼をいただいた。これの社会還元ということですべてを紀要発行に充てる。この紀要は今後も発行を続けるつもりである。今回は区の助成もなしに自前で行っている。我らのこの紀要発行は文化の記録活動である。これからも続けていきたい。が、発行するには費用がかかる。これも需要と供給とがフィットすれば続けられる。欲しい方には差し上げる、できればその際、支援をワンコインでお願いしたい。紀要５号の資金調達のために、一冊当たり、５００円の寄金をお願いしたい。
３、戦中秘話として８月１３日「鉛筆部隊」がテレビで紹介された
戦後７０年、新聞、テレビ、ラジオ、このテーマ一色だ。そのほとんどが大人たちの戦争だ。今回、「子どもたちの太平洋戦争」という視点で「鉛筆部隊」が番組で取り上げられた。その中では、フェイント的な意外性があった。ツィッターで評判となった。
チャンネルは８、フジテレビだ。ゴールデンタイムの娯楽番組として３０分ほど放映された。再現シーンがあって新宿駅での別れの場面、これは真岡鉄道でロケを行ったという。浅間温泉千代の湯での武剋隊と代沢国民学校の疎開学童とのふれあいがメインである。
当初、この話があったとき、面白おかしく取り上げられるのはどうなのかという危惧を持っていた。この番組のデレクターと会ったとき、「いわゆる戦争ものというのはＮＨＫなどでドキュメンタリーとして放送されるじゃないですか。この戦争一色の中でこれを観ないという人もいると思うのですよ。とくに若い人はそうですね。だからそういう人に向けた放送にしよう思って企画したのです」と。以下、テレビ局の番組案内から。
▽鉛筆部隊と航空戦士…未来を託した短い手紙第二次世界大戦秘話
きっかけは、2009年山梨県で開催されていた骨董市だった。商品を物色していた矢花さんは、今から70年前に出されたはがきを見つけた。しかもその消印の下には「鉛筆部隊」の文字が…。気になった矢花さんがインターネットで「鉛筆部隊」を検索すると、東京で下北沢かいわいの歴史文化を研究する作家、きむらけんさんのブログにたどり着いた。実はきむらさんも最近「鉛筆部隊」の存在を知り調査をしているという。果たして「鉛筆部隊」とは一体なんなのか…？
鉛筆部隊とは、世田谷区の代沢小学校から長野県の浅間温泉に学童疎開した児童のこと。終戦の前年、榎本明美さんは兄とともに世田谷の小学校から長野県松本市にある温泉宿へ集団疎開した。疎開児童は住んでいた地区ごとに旅館に宿泊するのだが、中には人数調整のため別の地区のグループから来る子供たちもいた。そんな孤独な児童の中にいたのが、高島幸子さんだった。そんなある日、柳内先生は子供たちにあることを伝える。「今、兵隊さんや東京に残った君たちの両親も必死に闘っている。だから君たちも、つらいことや寂しいことではなく両親を安心させる手紙を書くことで闘いなさい」と。これが「鉛筆部隊」が誕生した瞬間だった。
４．都市物語を旅する会
私たちは、毎月、歩く会を実施しています。個々の土地を実際に歩き、その土地の文化を発見して楽しみながらぶらぶら歩いています。参加は自由です。 基本原則は、第三土曜日午後としています。第二週には、会員の希望によって特番を設けることがあります。
・第１０９回 ９月１９日（土）午後１時 蘆花公園駅改札前集合
・徳富蘆花が歩いた道を歩く 滝坂道（三軒茶屋まで） 案内人 別宮通孝さん
世田谷文学館入館（２００円）→蘆花恒春園→三軒茶屋
・第１１０回 １０月１７日（土）午後１時 四谷三丁目駅改札前集合
・鏡花、藤村、百�里鯤發� 案内人 松山信洋さん
松山さんは案内人初デビューである。期待したい。
・第１１１回 １１月２１日（土）午後１時 大井町線九品仏駅改札前集合
・奥沢城・深沢城・世田谷城を歩く。案内人 木村康伸さん
古道、旧道に沿って世田谷の城三つを巡る
・第１１２回 １２月１９日（土）午後１時 東北沢駅改札前集合
萩原朔太郎地形研究 案内人 きむらけん
朔太郎は東北沢、下北沢、代田に住んだ。東北沢はどこなのか分からない。が、一つの手掛かりはこのときに「山の湯」と思われる銭湯に朔太郎と葉子とが行っている。森厳寺川左岸から下北沢新屋敷の路地。そして最後の転居先の世田谷代田へたどることによって。街並みと詩人の関係を想像しながら探訪していく新しい視点での街歩きだ。
◎申し込み方法、参加希望、費用について 参加費は各回とも５００円
参加申し込みについて（必ず三日前まで連絡してください。資料部数と関連します）
電話の場合、 米澤邦頼 ０９０−３５０１−７２７８
メールの場合 きむらけん aoisigunal@hotmail.com FAX3718-6498
■ 編集後記
▲「第９回戦争経験を語る会・聴く会」準備会、２０１６年５月のこの会は、『戦争と音楽』−戦火を潜り抜けた児童楽団−を予定している。音楽的な趣向を凝らしたいということでまずは集まりを持ちたい。９月８日（火）１３時３０分。場所、世田谷邪宗門、どなたでも参加できます。が、平日の午後なので参加しにくいと思いますが。
▲先般８月１日、北沢川文化遺産保存の会第一回研究大会は無事に終わった。「計画として悪くはないと思う」という評価だ。研究会と懇親会の会場が別というのは難である。５２００円を捻出できれば北沢タウンホールが借りられる。これは私が預かっている寄金を出せば問題なく解決される。来年、８月の第一土曜日は昼、研究会、夜、納涼会としたい。会場は北沢タウンホールである。研究大会の発表のテーマを皆さんご計画ください。
▲今号は、会員今井明さんの寄稿を載せた。先般、第一回研究大会の発表者にはお願いしていないが、原稿用紙千字程度に要旨をまとめて頂けたら、順次これを掲載したい。
▲１０月１７日（土）２時から代田図書館主催「代田のダイダラボッチ」講演会予定。
▲「紀要」４号は、遠隔地の人で郵送を希望される場合には応じたい。切手６００円分を当方に送って戴ければ全国へ郵送する。希望される場合には、当方にメールで連絡を。
◎当会への連絡、お問い合わせは、編集、発行者のきむらけんへ aoisigunal@hotmail.com
会報のメール配信もしている。「北沢川文化遺産保存の会」は年会費１２００円、入会金なし。会員へは会報を郵送している。事務局の世田谷「邪宗門」で入会を受け付けている。
（写真は紀要第４号である。表紙デザインは道吉剛氏、色は当方でつけたもので実際とは異なる。二校が終わったところで来週に印刷される。）
2015年08月29日
下北沢Ｘ物語（2863）〜代田の丘の鉄塔６１号と円乗院遺跡�掘�
（一）世田谷代田と北沢との間を、鎌倉通りが走っている。「いざ鎌倉へというときに北方の武士集団がここを通って駆けつけていたんだよ」と。もっともらしい伝説を鵜呑みにして語ってきた。しかし、怪しい伝説だ。根拠は古地図にこれがないことだ。気になって『世田谷の古道』（世田谷区教育委員会発行、昭和５０年刊）で確認してみた。「鎌倉道が本当に中世からの道であるかは疑わしい」とする。やはりだ、我々仲間内では、昭和初期の宅地開発業者の宣伝にうまく乗せられたのだよと噂をしていた。私たちは昨年、北沢川鎌倉橋のたもとに「三好達治文学顕彰碑」を建てた。実はこの橋こそはくせ者だった。この鎌倉橋は大正時代にはない。この「鎌倉橋の名の由来は不明である。が、現在の橋は昭和５年に設けられ、それ以前の橋の存在は判明しない」（『世田谷の古道』）とする。この橋を通る道を鎌倉通りと名付けられているが、この橋が根拠になっている。この橋を渡った丘上に「鶴ヶ丘村文化住宅地」が造成された。すなわち、円乗院遺跡が埋蔵されている地点だ、この遺跡地一帯は、「耕地整理により大変化を来している」（論考『円乗院遺跡』）。小田原急行鉄道の開通により居住地として適地になったことにより雑木林や畑が宅地に造成された。碁盤目様に道路が作られた。このときに川に橋が架けられた。明らかにデベロッパーの戦略だ。鶴ヶ丘も鎌倉橋もセットでの命名だろう。古都鎌倉風な地ということで売り出せば売れる。
大正六年十二月発行の地図で確認すると鎌倉橋は存在しない。が、これより東にある古道には二子橋は架かっている。
鎌倉橋は昭和なってできたものだ。代田二丁目の宅地造成の一環としてここに新しくコンクリートの橋が架けられた。名称として何がいいか。
「この上は鶴ヶ丘、鎌倉別荘が連想されるとすればここは鎌倉橋、下に川が流れて風情がある。住宅地として申し分ないではないですか」
デベロッパーは衣服の下にでべそを隠してもみ手して言った。
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2015年08月27日
下北沢Ｘ物語（2862）〜代田の丘の鉄塔６１号と円乗院遺跡�供�
（一）ここ十数年文化探訪を続けている。土地の過去を人に問うてきた。皆がどこぞの館に行けば資料はあると。が、無いことが多い。私たち日本人は、「記録を大事にしようとしない」、だから「記録に学ぼうとしない」、伝説まがいの記録に安住している。戦後７０年、声としては戦争の道を辿るなという。が、この戦争もきちんと記録をし、検証しようとしない。偏って記録し、それを子どもに教えようとしている。平和主義の根幹は、検証である。事実に基づいて武器ではなく、言葉で相手国と交渉する。武器で黙らせるのは簡単だ。が、戦争になれば、何人も、何万人も、何百万人もがコロコロ死ぬ。あれほどの辛酸を嘗めてきたではないか。戦争にならないための方策を考えるべきだ。今、政府は数に頼んで集団的自衛権を通そうとしている。これはまた再び戦争へと向かう道ではないのか？戦争時代のことが伝わらなくなっている。昨日、こういうことがあった。来月、『鉛筆部隊』の発端となった塩尻郷福寺で講演会とコンサートが開催される。歌手の柳澤章子さんから電話があった。
「送っていただいた歌詞が完成していないところが二番にあります…」
「ああ、『わたしやいきます〇〇へ』でしょう。あそこは伏せ字なのです。具体的には沖縄へなんですが、それは軍事機密だから歌うときはマルマルへと歌ったのです…」
「そうだったのですか！」
彼女は『浅間温泉望郷の歌』を歌ってくれる。一夜にして消える運命にあった歌が蘇り、地元で７０年ぶりに歌われる。彼女は慎重を期して問うてきたものだ。
さて本題だ。荏原を縦断している駒沢線、見えない電気を送っているゆえに、我々は気づかないでいる。が、この動力源こそは一帯を近代化し、人々の生活を支えてきた。重要なインフラだ。ところが、この歴史はよく分からない。元々は山梨の桂川で起こした電力を六郷変電所まで送る谷村線が始まりである。その開始はいつか？
鹿留発電所および送電設備の完成を受けて、１９１３（大正２）年６月から桂川電力は最大の供給先である日本電灯への送電を開始した。
『関東の電気事業と東京電力』 電気事業の創始から東京電力50年への軌跡
東京電力、２００２年刊
現在の駒沢線の鉄塔、この築造年については各鉄塔に記されている。「代田の丘の６１号鉄塔」は「昭和元年」とある。この前後に建てられたものだ。分かることは、既に敷設された送電線があってこれが今の鉄塔に建て替えられたのである。
大正六年十二月発行の「大日本帝国陸地測量部」の地図を見るとまず現在とほぼ同じルートに送電線が見られる。が、この東側には並行するもう一本の送電線が見られる。よく見ると鉄塔の記号が違う。短スパンの高圧鉄塔だったらしい。分かってきたことはこの二つを整理統合して現在の鉄塔が築造されたようだ。
先に示した論考『円乗院遺跡』である。これを読んでいて、非常に興味深い記述にぶつかった。送電線改築に関するものだと考えてよい。
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2015年08月26日
下北沢Ｘ物語（2861）〜代田の丘の鉄塔６１号と円乗院遺跡〜
（一） 「代田の丘の６１号鉄塔」は、我らが推薦して世田谷区地域風景資産に選定されたものだ。「日本一背の高い文学碑」だと密かに自慢している。この塔こそは、萩原葉子が自伝『蕁麻の家』で不安の象徴として「あの高い鉄塔」と描いたものにほかならない。また父朔太郎は、この聳え立つ銀色の鉄塔を意識して、尖った三角屋根の家を自ら設計して建てた｡これらことから萩原朔太郎とその娘葉子の居住を証拠だてるものだとして推挙し、認められたものだ。文学由来のシンボル的な鉄塔である。萩原朔太郎は詩編『氷島』を鉄塔下編んだ。冒頭「自序」の末尾には「昭和九年二月」と記される。二階書斎でジィジリリと高圧線が鳴る音を聴きながら記した。その一節にはこうある。
著者は「永遠の漂泊者」であり、何所に宿るべき家郷も持たない。著者の心の上には、常に極地の侘しい曇天があり、魂を切り裂く氷島の風が鳴り叫んで居る。
詩人はさすらい続けた後ここに終の棲家を建てた。それでも彼の心はさ迷っている。彼の心の上には曇天が広がり、氷島からの凍りつくような風が、ふひょうふるふると聞こえて来る。高圧線が奏でる音楽だ。鉄塔６１号はヒルトップにあって強い季節風に曝される。十二本の高圧鉄塔線は泣き､わめき、唸る。
さらに彼はいう、「著者は東京に住んで居ながら、故郷上州の平野の空を、いつも心の上に感じ、烈しく詩情を敍べるのである」と。実はこの高圧線鉄塔は上手に辿れば間違いなく利根上流、故郷へと行き着く。昭和十年頃、往時は皆水力だ。世田谷区内を貫く幹線はかつては「群馬線」とも称されていた。鉄塔は故郷に繋がっている。そんな意識もあって当地を選んだのではないか、と思う。
青空に聳え立つ銀色の鉄塔は近代への憧憬でもある。これに加えて重層的な歴史を持つ土地への直感的な認識があったのではないかと思ってきた。彼が居住していたとろは遺跡だった。
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2015年08月24日
下北沢Ｘ物語（2862）〜駒沢高射砲隊のゆくえいづこ�供繊�
（一） 「負けた戦争の痕跡は残さない」、戦跡を歩いてきての実感だ。「首都防衛隊」の高射砲陣地は数多くあった。米軍が撮った航空写真には砲門跡がくっきりと写っている。ところがその跡を訪ねてもほとんど痕跡は残っていない。駒沢高射砲陣地は隈無く歩いた。見つけたのは台座の一つだ。これを今も家の土台にしている家が一軒ある。ところがそれは調べているものには見当が付くが普通では分からない。往時駒沢高射砲隊は、懸命に努力した。川崎馬絹の大隊本部から、敵機来襲の知らせが多重式電話で入る。臨戦態勢だ。まず、一番は、まずは計算だ。観測機器で高度、方角、速度を計算し、ただちに機の未来位置を算出する。
「もう頭が破裂するほどだった」
ところが幾ら計算して未来位置を割り出したとしてもＢ２９にはほとんど命中しない。が、頻繁に襲ってくる艦載機は効果があった。
「ボート・シコルスキーに当たって結構墜ちたですよ」
駒沢高射砲陣地の隊長は証言した。低空で艦載機は飛んでくるから水平撃ちに近い。
「三軒茶屋に砲弾の破片が飛んでいったとは聞いたが、それがどうなったかは聞いていない。」
いわゆる流れ弾である。これが一帯に相当落ちて、被害を与えているがその証言はほとんどない。山田風太郎の記述に、忽然と電車の窓ガラスを破って高射砲の破片が飛んできて血まみれになった人の話が確か書いてあった。
東京大空襲のあった３月１０日は、駒沢は大車輪で１５０名が働きに働いた。砲身が熱くなってペンキが溶けた。
戦争中の兵士たちの必死になっての戦い。その努力した跡には何もない。
高射砲陣地跡で唯一碑を建てているのは、三鷹大沢にある「首都防衛高射砲陣地跡」である。これには「富山県伏木港防衛のため 昭和二十年四月末」に転進したとある。この記述があったことで、駒沢隊の伏木移動もこれと同じだったと知った。記録の破片が証言と結び付いて、裏日本の伏木港がいかに重要だったかを知った。
ところがこの石碑建立は個人の思いから建てられたものだ。ここでは艦載機の来襲によって四名が戦死している。「終戦後の５７年。三鷹市長を５期務めた故・鈴木平三郎さん（８４年没）が、周辺一帯を買い取り、自身が設立した社会福祉法人『楽山会』に寄付し、陣地跡を保存することに決めた。」（2010年2月18日 読売新聞）と。戦跡は篤志家によって遺されているのが実情だ。
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2015年08月23日
下北沢Ｘ物語（2861）〜駒沢高射砲隊のゆくえいづこ？〜
（一）支流にこそ真実は潜む。世田谷の支流で行き会った疎開学童や軍人、彼らがさりげなく語る話の中に、近代戦争史の真実がひっそりと眠っていた。 ネットを通しての偶然的な繋がりから、近代戦争史の逸話に行き会った。松本飛行場に飛来してきた特攻隊の話であり、駒沢高射砲陣地の隊長の話だ。この両者のつながりはあまり考えていなかった。ところが、終戦末期の状況を知るにつれ無関係ではないと分かってきた。この二箇所は終戦末期の空と海との防衛拠点だった。それは陸軍松本飛行場であり、伏見港であった。
今、駒沢高射砲陣地の記録を紀要にまとめている。傍証があればこれは正確になる。高射砲隊の転進先の高岡市図書館に資料の存否を照会していた。昨日、館から資料が届いた。これにより『新湊市史』（近現代。平成四年三月二十五日発行 新湊市史編さん委員会）が手に入り、不明だったことが解明できた。
終戦末期、首都の空を守る高射砲隊は東京を離脱し、伏見港防衛の任務に就いた。なぜか。駒沢高射砲隊の隊長からの聞き書きでは分かっていた。が、資料にきちんとあるとこの証言は説得力を持つ。『市史』はこう記す。
昭和二十年に入ると太平洋側の港湾のほとんど米海空軍により封鎖され、船舶の航行が不可能となり日本海側有数の軍需工業地域を控える伏木港が、食糧補給港、海軍艦艇の補修港として重要視され、伏木港防衛のための布陣が急がれた。
昭和２０年五月、駒沢高射砲隊はこの日本海の重要拠点伏木に転進した。消息としてはもう一つ調布隊も行ったことが分かっている。
調布飛行場の東、国分寺崖線には「首都防衛高射砲陣地跡」の碑がある。これには「東部第一九〇三調布隊」と刻まれている。そして解説には、「戦況の推移により日本海側に残された唯一の食糧補給港である富山県伏木港防衛のため 昭和二十年四月末」転進したとある。
高射砲隊は、技術者集団である。内藤悌三さんの証言によると一隊は百五十人ほどになるという。駒沢隊、調布隊、全部合わせると三百名ほどになる。これら混成部隊が伏木の防衛任務についていたのか？
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2015年08月21日
下北沢Ｘ物語（2860）〜鉛筆部隊：子どもたちの太平洋戦争�検�
（一） 先の大戦は国民に苛酷な犠牲を強いた。大戦末期、戦争指導者は「一億総玉砕」、「一億総特攻」と国民に檄を飛ばし、無理心中まで図ろうとした。権力は暴走する、権力は時に嘘をつく、覚えておかなくてはならぬことだ。そうさせないように点検すること、緊張を持って見張ること、これこそが民主主義だ。戦時の「大本営発表」は、今では「内容を全く信用できない虚飾的な公式発表」の代名詞となっている。戦争指導中枢には、国民だまくらかし本部があってここでは言葉の手練れが「いっひっひ」と言って嘘を画策していた。今国民の過半数が安保法制に疑問を持っている。にも関わらず、時の権力はこれを遮二無二押し通そうとしている。
思うに、国民だまくらかし本部は今もあって言葉の手練れが、戦略を練って我々を欺こうとしているのではないか？「先に戦後７０年談話」なるものが出されたがこの文脈は巧妙である。例えばつぎだ。
日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。あの戦争には何ら関りのない、私たちの子や子孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。
もはや戦争を知らない国民がほとんどになった。ゆえに何時までも国民は謝罪を続けることはないという。文脈上は、侵略戦争を起こしたことに対する悔悟の念は何時までも持ち続ける必要はないと読み取れる。
謝罪とは自らの非を認め、相手に許しを請う行為である。この場合の相手は外国だ。外国の犠牲者に対して謝り続けることはないという。被害を受けた者はあの苦しみは忘れることはできない。
が、苛酷な犠牲を強いられたのは外国人だけではない。日本国民もまた同様である。大戦末期はもうほとんど無理心中に近い。戦争の歴史の事実を知れば知るほど、なぜもっと早く戦争を終わらせなかったか。悔しいと思うことは度々だ。戦争によって国民がどれほどに辛酸を嘗めたかそのことは忘れられない。この人々への謝罪もあっていい。が、こうなった場合、主語が変わる。
「あの戦争の指導部は国民に苛酷な戦争を強いました。これによって多大な犠牲者を出しました。その点は痛恨の極みであります」
死なずによかった爺ちゃん、婆ちゃん、このことは幾ら時が経っても忘れてはならないことである。外国への謝罪というふうに言って自国国家の戦争責任は避けている。巧妙である。レトリックが最大限に駆使されている。
上記引用文の続きは、逆接的に続く。「しかし、それでもなお、私たち日本人は世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません」と続く。忘却を許した上で、このように攻めてくる。文脈の使い方が巧妙である。それこそレトリックだ。
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2015年08月20日
下北沢Ｘ物語（2859）〜鉛筆部隊：子どもたちの太平洋戦争�掘�
（一）松本浅間では、若々しい彼らの面影が疎開学童たちの記憶に刻まれた。廣森隊長の常なる笑顔、山本隊長の怖い顔なども、今なお年老いた後、彼、彼女らの記憶に刻まれている。が、歳月は人を待たず、その覚えは年々老い衰えて、記憶から失せようとしている。せめてもの思いとして、これをここに記録するものである。自著、信州特攻三巻目『忘れられた特攻隊』の最末尾はこう書いた。人々の記憶が危うい、そんな中で辛うじて繋ぎ留め得た安堵感を述べたものだ。が、そうは言っても記録できたのはほんの一部にしか過ぎない。時の経過が一切合切を闇に葬りつつある。
戦争を巡る私の巡礼の旅はささやかだ。これは長野の一寺院に始まり、最後は神武さまといわれる宮崎神宮へたどり着いた。参宮して当方が確かめたところ、先の武揚隊隊長山本薫中尉の墨痕鮮やかな署名が見つかった。この夏に送られてきた神宮発行雑誌「養生」では「戦争の記録」−宮崎神宮に参拝した特攻隊員−を載せ、この末尾をこう結んでいる。
ここに一人の人間の生き様を「戦争の記録」として書き留めておくと共に、終戦七十年にあたり、祖国に殉じた英霊に対し、感謝の誠を捧げたい。
武揚隊山本薫隊長を始め、多くの出撃機がこの「神武様」に戦勝祈願に訪れていることを認知していなかった。宮崎神宮権宮司黒岩照彦氏はこの戦後七十年をしおに「戦争の記録」としてこれを神宮史に遺しておくと。
一方、最初の機縁を作った寺、塩尻郷原「郷福寺」は「中興四百年」を刻む行事として、９月１３日に「戦後七十年記念講演会」を開く。その演題が『鉛筆部隊と特攻隊−郷福寺学寮歌がめぐった戦争史の一ページ−である。めくろうとしてめくったわけではないのだが、記録から消えた戦争を掘り起こす結果となった。
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2015年08月18日
下北沢Ｘ物語（2858）〜鉛筆部隊：子どもたちの太平洋戦争�供�
（一） 物語が眠っている場がある。都心中央のパブリックなところよりも、ここから離れたプライベートな場、ビル陰よりも草葉の陰に潜む。作戦、戦略などは密かにここで練られる。とくに広域的な田園都市世田谷には戦争に関わるエピソードがふんだんに転がっている。その一つ一つを結んでいくと近代戦争史がまとめられる。このことはほとんど知られていない新装なった「世田谷平和資料館」には、短刀が展示されている。寄贈者は斎藤秀雄さんだ。人間水雷艇『震洋』搭乗して特攻に行くはずだった元海軍一等飛行兵曹である。短刀は自決用だ。さやには連合艦隊司令長官豊田副武の署名がある。何でもないことだが私は駒沢線鉄塔３９号を思い出す。このそばの世田谷下馬に長官の私宅はあった。この上手、鉄塔４２号の側には二二六事件首謀者安藤輝三の旧居がある。ここにも語られざるエピソードがある。
三好達治は代田旧居を場末と称する。詩人の位置取りは公人も同じだ。私人として住まいする。詩興もころころころころ物語もころころ転がっている、若林の迫水久恒邸は終戦の詔勅が練られたとか、深沢の長尾邸では近衛文麿が青酸カリをもらったとか、北沢の杉山元元帥邸では奧さんが短刀で自決したとか。フィールドワークで知った話だ。
今回、たまたま「鉛筆部隊」が日の目をみた。これも都市縁辺の伝えの手法だ。戦争時における武器所持者と非所持者とをかっきり分けて対照化したことだ。学童は武器を持てないから鉛筆で戦わせる。区分化、区別化をして子どもを刺激し、意識を持たせる。
東京世田谷を縦断する鉄塔駒沢線は、都鄙境界を走る高圧線である。一つ一つの鉄塔の近辺に物語が眠っている。鉄塔６１号の下には詩人萩原朔太郎が住んでいた。我らが世田谷区地域風景資産として推薦した「代田の丘の６１号鉄塔」である。彼は、鉄塔下の「世田谷区代田一丁目六三五」（旧番地）で個人雑誌『生理』を発行する。じつはこの雑誌の発行人は百田宗治である。
これも知られないことだ、彼こそは鉛筆部隊の元祖である。戦争中、昭和１７年に「鉛筆部隊 :少国民の愛国詩と愛国綴り方」を出している。鉛筆部隊隊長の柳内達雄は、これの影響を大きく受けている。さらに言えば、鉄塔近辺は代沢小の学区域であった。この鉄塔の近くに住んでいた人から手紙をもらったことがある。
「白いレースのワンピース着た子が玄関に立っているの、淺間温泉に疎開に旅立つその日でした」
その方は、書評に載った『鉛筆部隊と特攻隊』を手に入れて読んだという。
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2015年08月17日
下北沢Ｘ物語（2857）〜鉛筆部隊：子どもたちの太平洋戦争〜
（一）戦後７０年、このところどこもかしこもこの話題ばかりだ。新聞、テレビ、ラジオ、戦争一色だ。そのほとんどが大人たちの戦争だ。いささか食傷気味である中、今回、「子どもたちの太平洋戦争」という視点で「鉛筆部隊」がテレビ番組で取り上げられた。結果としては、異色、フェイント的な伝えだったといえる。 ここ十数年、戦争を追っている。戦跡を訪れたり、体験者から話を聞いたり、資料調べをしたしてきた。これで得たことは、我らは「負けた戦争は記録しようとしないということだ」、これが国家ぐるみだったことは覚えておくべきだ。終戦の日の前日、十四日に「国や自治体の機密文書の廃棄」を閣議決定した。国軍及び政府は、戦争に関する一切の資料を焼却して証拠の隠滅をはかった。この指令を受けて、全国各地で一斉に資料に火が放たれた。往時を知ろうと調べるがこの焼却に行き当たって真実は掴めない。
ところが意外な一面があった。「鉛筆部隊」の存在だ。彼らを初めとする疎開学童児童が日記や手紙などを書いて書いて書きまくっていた。紛れもない記録である。これらの断片をより合わせていくと、焼却されていた戦争の真実がおぼろげに浮かび上がってきた。
先だって、１３日「子どもたちの太平洋戦争」という視点で「鉛筆部隊」のことがテレビ番組で取り上げられた。ゴールデンタイムの娯楽番組である。
当初、この話があったとき、面白おかしく取り上げられるのはどうなのかという危惧を持っていた。打ち合わせでこの番組のデレクターとは会ったり、連絡したりして話あった。
「いわゆる戦争ものというのはＮＨＫなどでドキュメンタリーとして放送されるじゃないですか。この戦争一色の中でこれを観ないという人もいると思うのですよ。とくに若い人はそうですね。だからそういう人に向けた放送にしよう思って企画したのです」
考えてもいない視点であった。私自身、戦争の伝承は伝えだと思っている。どう伝えるのかは工夫のしどころだ。が、『鉛筆部隊と特攻隊』、ややもすれば特攻が美化されて伝えられる可能性がある。
「特攻は美化してほしくない」
これは伝えて了承されたことから、この取材に協力しようと思った。
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2015年08月15日
下北沢Ｘ物語（2856）〜蛸は食っても戦争するな！〜
２０１５年の終戦記念日に きむらけん さそり座にぼうわりと浮かぶ四等星
大戦犠牲者の嗟嘆で光る戦争星
げっぽりぐっぽり死人の霊の塊
おっと
ぼごごんと流星が衝突
悲しみの結晶が砕け散る
破片一粒
陳淑桂 三児母 三十一歳
徐州郊外農村集落忽然日本軍乱入
「火を放て！」隊長ががなる
屋根からはぼぁるると紅蓮の炎
爺や婆や女に子どもが飛び出す
「突け、殺せ、容赦するな！」
妊婦淑桂の胸から血が噴き出る
「マー」と叫んだ子どもの頭がふっとぶ
煙充満、血海が生臭い、そして静寂
間をおいて鶏鳴一声
砕片一粒、二等兵田中五郎衛門
ガ島をぼぁあるるとさ迷い
水もなく食もなく体は干からび
最期の一言、「おえ！」で絶命
たちまちにウジが湧いて
水島愛子を愛した二十六歳も
ゆがみ崩れて
骨はずんずくジャングルに朽ちゆく
砕片一粒、伍長の佐藤征男
アッツの守備隊は救援を一切断たれ
「機密書類全部焼却、これにて無線機破壊処分す」
隊長はこう打電した後、「突撃！」
「うぉ！」と喚声「げぼげぼ」と機銃
おこうこが好きだった三十二歳の伍長
ぴしりと頭に銃弾貫通
泥に血を噴いて目玉ぎょろりん
天をねめつけて絶命
破片一粒、黒髪豊かな谷野サキ
サイパンパンパン米軍上陸
とんとん追われて岬の突端
そこは断崖絶壁
陸軍軍人
「生きて虜囚の辱めを受けるな！」
もうゆく道は一つのみ
「大日本帝国万歳！」
そう叫んで女たちは高所から
つぎつぎにバンザイして飛び込んだ
「ゆき場のないゆき場」に行かされ
濃紺の海に身を投げた
岩にぶち当たった十七歳
恋の味も知らない乳房も血まみれ
破片一粒 岩野明中尉 二十四歳
「レイテ島桟橋に突っこめ」と上官中佐が命令
「コンクリートでは犬死に！」
二十四歳は泣いて懇願した
「せめて輸送船を！」
「つべこべいうな
特攻の目的は戦果にはない死ぬ事にある！」
憤懣まんまん中尉は零戦に乗り込み
エンジンふかして空へ
青空の下に目標捕捉
中尉は桟橋上空から作法通り
「目ヲ開ケタママ」急降下
彼が唯一破ったのは最期の叫び
「お母さん！」
その瞬間操縦席はばぎゅんと爆発
破片一粒 新川初子ひめゆり学徒隊十八歳
洞窟で懸命に患者の蛆虫を取っていた隊に
六月十八日に突然の解散命令
「敵中突破、捕虜にはなるな！」と教員の命令
着の身着のまま艦砲弾炸裂する中
ついに珊瑚の棘に阻まれて
岩陰を死に場所と決めた
ある娘はくしけずり、もう一人は制服に着替え
「用意！」、安全栓を抜いたとたん
一斉に八人が弾にがっぽりとのしかかる、
「誰もが粉みじんに体を砕きたい、
ハワイで慰安婦にはなりたくない」
砕けて清純をと
あの苦しみは今も夢に現れる
ああ、戦争、ああ､沖縄よ
破片百粒 焼け焦げた塊の物語
市街の中心 相生橋近くに
たった一機の飛行機が平然と悠然と
途方もない悪意のエネルギーを投擲した
ピシュリ ドグワンのその刹那
幾万もの人々の希求がうち砕かれた
近辺の元安川 本川の土手筋一帯
建物疎開に動員された学徒は数知れず
無念累々 内蔵赤赤 肉塊黒黒 瓦礫延々
遠く見晴るかす安芸小富士まで
茫漠と広がるのは宇宙人類の屠殺場
各々の死装束は焼焦げの一枚の皮膚
天を恨むか 敵を恨むか
真黒い男根が空を指さす
あんぐり開けた口には叫びの跡
せまり来る火炎に覚悟を決めて
「君が代」の「よ」まで歌った男の子
ゴム紐一本の下着をまとった隣の娘は
「さざれ石の」の「さ」まで生きていた
いずれも目玉をこぉろんと飛び出させ
むくもくと天高く上がる煙をねめつける
ああ、なぜになぜに？
あの戦争を早く止めなかったのか
全国中の都市がＢ２９によって
ぶるぶるごうごうと焼きに焼かれても
「一億総玉砕！」
「一億総特攻！」
銃剣をがちゃつかせ将校連ほざきにほざいた
そしてしまいには
「竹槍で立ち向かって、敵が襲ってきたら
金玉を蹴り上げろ！」
奴らの股ぐらこそ狙うべきだった
ああ、戦争、戦争、みな狂ってくる
吹かない神風神頼み
我ら島国みんな染められる
否応なく屠所に向かって死に果てた
あの三百万人の大戦戦死者は
今もなおうめきわめいている
「武器を取って放てば憎しみに花が咲く…」
「行と実とが伴わない権勢者は信じてはならぬ…」
「いっちいいのはがまん重ねて言葉という武器で戦うことだ…」
そんな声の向こうからかすかに聞こえてくる
「蛸は食っても戦争するな」
さそり座にぼうわりと浮かぶ四等星
犠牲者の嗟嘆で光る戦争星
げっぽりぐっぽり死人の声
今も八月十五日になると
彼らのうめきが
ごるるびん
ぶるるげん
これに耳を澄ませていると
今度ははっきりと聞き取れる
「蛸は食っても戦争するな！」
〇中国戦線は山本武さん、沖縄戦線は 新川初子さんの手記を参考にする。また広島原爆は自作詩の一部を引用するする。
〇写真は武剋隊先陣、大平定雄伍長。昭和２０年３月２７日特攻戦死。彼が鉛筆部隊の立川裕子さんに揮毫して贈ったもの。我々へのメッセージでもある。国民として正しく伸びていく、成長していく、心に健全さをやどして世の中を渡っていってほしいと。これは世田谷平和資料館蔵のものである。
〇下、三軒茶屋にて、終戦記念日のデモ、今朝１０時、お散歩デモに参加、世田谷公園まで
2015年08月14日
下北沢Ｘ物語（2855）〜世田谷疎開学童資料の分析と考察〜
（一）「浅間温泉には世田谷区から多くの学校が疎開していきました。ここでの指導の一環としては書くことが奨励されました。学童たちは日記を、手紙をひたすら書きました。私自身取材の過程でこれら多くの記録類に出会いました。もちろんこれは疎開記録としての意味があります。ところがこれは近代戦争史の秘められた資料だと思うようになりました。学童が疎開していた浅間温泉には昭和二〇年二月から四月にかけて数多くの特攻兵が滞在していました。当地が、沖縄特攻の重要な後方基地だったことはほとんど知られていません。旅館の庭で写した特攻兵の写真にも多く出会いましたがこの一人一人が誰なのかはほとんど判らないのです。ところが疎開学童資料にはこれらの断片が至る所に載っているのです。例えば、一人の疎開学童の日記の記述、昭和二〇年『三月二十八日（土）午後吉原さんが飛行機で富貴の湯の上を飛んだ。ちゅうかへりもした。』と。「ささやかな記述ですが一つの部隊の行動が見えてきます。吉原さんは、吉原薫軍曹で武揚隊の隊員の一人です。特攻突撃訓練をしていたのですね、多分子どもたちに『宙返りしてみて』と頼まれていたのでしょう。それで疎開学童が大勢いる旅館の上空で技をみせた。重要なのは日付です。彼らは沖縄特攻へ出撃していきます。当地を発って四月三日には新田原にいます。だからこのデモンストレーションも子どもたちへのサービスだったように思えるのです。この後、彼らはこの旅館で壮行会を開き、『浅間温泉望郷の歌』をうたい飛び立っていきました。」
「疎開学童の中には飛行機好きの子もいました。東京第一師範初等科四学年の大槻統さんも浅間温泉に疎開していました。彼は絵日記をつけています。三月の末あたりは毎日浅間温泉上空に戦闘機がやってきています。彼はこれを絵日記に書いています。単機できたとか、編隊を組んできたとか。超低空で旋回していくというのはこれは完全お別れ飛行ですね。そういうふうに記録されているから飛行機飛来の実態がこれによってよく判ります。」
「重爆撃機飛龍は、飛行機の中でも最大で子供らにはとくに人気があったようです。三階建ての温泉街の間から、キーンという金属音を立ててにょっと現れる。それがとてもかっこうよかったそうです。で、その飛行機がいつ飛来してきていたのか、大槻さんは日記につけています。彼らはいわゆる雷撃隊です。颯部隊といいました。陸海共同の作戦に従事していました。その飛行機が何度もここに飛来してきています。彼らは九州の赤江飛行場を基地にしていました。ここの出撃記録が残っているので付き合わせると飛行場間の関係性が判るかもしれません…」
一昨日、新聞記者が取材に来た。８月１５日に「世田谷平和資料館」が開館する。その関連で私のところに彼女は来た、それでこんな話をした。
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2015年08月12日
下北沢Ｘ物語（2854）〜戦後７０年、『鉛筆部隊』にスポットが〜
（一）戦後７０年、戦争をテーマとした番組が次々に流される。自身も戦争の記録に関わってきた。この一連の流れにこのところ影響を受けている。テレビ局から、そして新聞社からの取材があった。「戦後七十年とは言うけれども衰えの節目ですよね、あれから七十年経って戦争の実体験を覚えている人がどんどん亡くなっています。危機的ですね。やはり話というのは肉声が一番説得力があります…」
「十年も聴いてこられて変化はありますか？」
「ありますね、前は戦場での経験を聴けました。サイパン玉砕の人からみみずや虫を食ったりして生き延びたという話とか、特攻機に同乗して小月まで行き、特攻へゆく彼を涙ながらに送ったとか…戦場の生々しい経験が聴けました。ところが今はそれが聴けなくなっているのですね…」
体験の質が変わってきている。今の８０歳ぐらいは疎開経験者だ。言ってみれば戦争の間接経験者である。そういう人しかいなくなってしまった。
「どうするのでしょう？」
「こうなったら第二世代、戦争を経験していないものが代わりに伝える。伝えようとする人がいなくなってきていますから…」
デレクターが家に来たのは締めの一言を取りにである。が、自身があらかじめ用意していたものには興味を示さない。そこは手練れだ。彼はわざと自然な質問を振ってくる。やりとりの中に答えを見つけようとしていた。戦争報道における体験の伝えも難しくなっている。､マイクを向けられると、黙っているわけにはいかずしゃべる。そのときにどれだけ本当のことを言っているのか？。
昨日これも戦後７０年ということで「一番電車が走った」という番組をやったようだ。被爆三日後に必死の努力の甲斐があって一番電車が動き始めたという話だ。何人かの人が、私が原作なのかと聞かれたことがある。１９９９年１２月に『広島にチンチン電車の鐘が鳴る』を発刊した。これのことを言っているのである。
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2015年08月11日
下北沢Ｘ物語（2853）〜鉛筆部隊因縁、宮崎神宮からの手紙・了〜
（一）満州新京発足の特攻四隊、うち二隊が陸軍松本飛行場に飛来してきた。武剋隊と武揚隊だ。沖縄に直行組みの前者は沖縄戦緒戦においての活躍があって径路なども明確だ。が、後者は悲運の隊だ。新田原に着いたところで原籍の誠隊本拠地への回航を命ぜられた。私自身、新田原から大陸への径路は細かく調べていない。黒岩氏は、資料に当たってこれを明らかにしている。この武揚隊に新田原から付き添ったのは菱沼俊雄大尉である。彼の手記が残っているが全部は調べなかった。台湾へ行く過程においてのつぎのエピソードは把握していなかった。参拝翌日の四月五日午前九時には、福澤参謀や戦隊長の見送りを受けて山本隊は新田原を離陸し、韓国済州島に向かう。そして七日杭州（現中国浙江省）に前進し、十一日午後四時に杭州の筧橋基地を出発している。ところが山本機は整備不良により引き返し、翌十二日午前六時、再度出発するも敵機の来襲を受けて戦闘機が破壊されてしまった。
第八航空師団の福澤丈夫大佐は、この新田原で沖縄第三次攻撃の指揮を執っていた。一日、三日、六日に当地から沖縄ヘの直行攻撃をさせている。三日には武剋隊の後半組みが出撃している。武揚隊はこれを見送った。このときに武剋隊の時枝宏軍曹は武揚隊の五来末義軍曹に、鉛筆部隊のことづてを頼んだ。
この翌日に、武揚隊は武剋隊と反対方向に進路を取って北上する。まずは済州島に向かった。遠くに飛ぶにつれ機体は消耗する。乗機は九九式襲撃機だ。満州にあった中古を引っ張りだしての出陣だ。故障も多く発生していた。長谷部良平機は各務原でここで足止めを喰らった。
済州島へ飛来してきたときも吉原薫機が不調を起こし、「済州島ニ不時着セルモノノ如シ」である。淺間温泉富貴之湯上空で「宙返り」をしてみせた彼は、この不時着で怪我を負ったのだろうか。特攻には行っていない。同じ新京出撃の扶揺隊の久貫兼資さんは戦後に彼とよく会っていたと聞いていた。久貫兼資さんと吉原さんは古河の航空養成所で一緒だったようだ。
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2015年08月09日
下北沢Ｘ物語（2852）〜鉛筆部隊因縁、宮崎神宮からの手紙�供�
（一）戦後７０年という月日は重い。が、大きな節目だから何とかこれを伝えたい。このところ戦争関係のニュースやドキュメンタリーが怒濤のごとく放送されている。これらを見ていると「本当にそうだったのか？」と疑問に思うことが多い。レポーターがあのときはどうだったのか？マイクを向ける。聞かれた方は、求めに応じて答える。が、「そんな昔のことを覚えているわけもないだろう？」と思うことがよくある。
証言する側も求められるから証言をする。けれども７０年もの隔たりがあるから不確かである。ついこの間、こんなことがあった。電話でのやりとりだ。
「二枚羽の複葉機で特攻にいったということですが、何色だったのですか」
陸軍松本飛行場には特攻要員がいて練習機で訓練をしていた。
「確か黄色だったような覚えがあるが…それで空襲警報が鳴ると滑走路から近くの森に引っ張って行って隠していました。羽が折りたためるようになっていました」
広丘国民学校の四年生だった人だ。
「折りたたみのできる練習機があったのですか？」
不思議に思って調べたところない。複葉は折りたたむようにはできていない。
「戦後のことですけど、ＧＨＱ関係者が二三名立ち会いで近くの田圃で飛行機のタイヤを何百本も焼却しました」
広丘国民学校の上級生はこの仕事を行っている。これは別の人から証言を聞いていた。その彼は、隠れてタイヤのゴムを切って草履にしていたと証言していた。
記憶だけというのはとても危ない。広丘郷原の自宅の二階で戦後、順次この二枚羽の練習機で自爆するために飛んでいったとの証言がある。
「もしかしたら記憶になにの色をつけたのかもしれません」
昭和十年生まれの平林愛教さんも心もとないものがあるようだ。
人間の記憶は不確かである。それを証拠立てるものが一枚でもあれば間違いがない。
浅間温泉に武揚隊は間違いなくいた。取材の過程で彼らの遺墨が出て来たからだ。
〇世田谷発！ボランティア生活発見マガジン２０１５年８月号。特集記事
世田谷の疎開児童と特攻隊の出会い
〜「戦争体験を聴く会、語る会」より〜
星野弥生さんが記事を書いている。世田谷区の公共施設で無料配布している。続きを読む
2015年08月08日
下北沢Ｘ物語（2851）〜鉛筆部隊機縁、宮崎神宮からの手紙〜
（一）果てることのない旅だ。塩尻郷福寺の疎開学童の行方を追っての探訪行、失われた学寮歌が発端となって物語は始まった。機縁因縁、ついこの間、初代天皇神武天皇を祀る宮崎神宮から手紙が送られてきた。神宮が発行している『養正』の初夏号が入っていた。特集記事が組んである、「戦後七十年『戦争の記録』−宮崎神宮に参拝した特攻隊員−」である。戦争の真実を求め、疎開学童が出発した下北沢を起点に、信州長野から九州まで旅をした。行き着いたところがこの宮崎神宮である。驚いたことにこのときの私の訪問がつぶさに記されていた。筆者は宮崎神宮権宮司黒岩照彦氏である。
特集記事の冒頭は、「天皇皇后両陛下のパラオ行幸啓」である。氏は記事でこう述べる。
戦争体験の風化は慰霊の風化にも繋がる。陛下はご出発の前に、「太平洋に浮かぶ美しい島々で、このような悲しい歴史があったことを、私どもは決して忘れてはならない。このたびのパラオ共和国訪問が、両国間に築かれてきた友好協力関係の、さらなる発展に寄与することを念願しています」と、お言葉を述べられた。我々は戦争の惨禍を忘れることなく後世に伝えていく為にもその記憶を丹念に記録する作業を怠ってはならない。
氏はこう導入で述べた上で、つぎの見出しでは「ある作家の来宮」とする。これは私のことであった。
ところで「戦争の記録」という点で、筆者には思い出深い出来事がある。
それは去年、平成二十六年三月二十六年午後の話で、ある初老男性の宮崎神宮参拝に始まる。尋ねたい旨の申し出があり、宮崎神宮のご祭神や由緒の話であろうと思い対応したのであるが、予想外にもその人は特攻隊の話を始めたのであった。
聞けば、「昭和二十年三月三十日と四月四日に宮崎神宮に特攻隊員が参拝しているはずだが、そのような事は戦時下にはよく行われたのか」との問いであった。
昨年、春、『忘れられた特攻隊』の総仕上げにかかっていた。そのために日向宮崎を訪れた。年月を亘る長い取材行だった。下北沢、信濃塩尻・松本、会津若松、九州大刀洗、そしてしめくくりが宮崎新田原だった。
代沢小疎開学童と満州新京から飛来した誠三十二飛行隊・武剋隊との接触、これからきっかけとなって誠三十一飛行隊・武揚隊とのふれあいが分かった。こちらは東大原小である。
いわゆる沖縄総特攻が掛かったとき第八航空師団は指揮下にある誠隊に新田原集結を指令した。松本を離陸した武剋隊前半もやはりここへ飛来している。後半はここから出撃した。兄弟隊である武揚隊も当地へ飛来してきた、この時に宮崎神宮に戦勝祈願に参拝に訪れている、この事実を確かめようと神宮を訪れた。
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2015年08月06日
下北沢Ｘ物語（2852）〜被爆経験を忘れるまい！70回目の原爆忌に〜
核兵器ほど酷いものはない。たった一発で数十万の人間を殺してしまう。我が国はその唯一の被爆国だ。原爆慰霊碑には「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」と刻んだ。が、過ちへの危惧はある。アメリカの核の傘に守られているからだ。平和を本当に求めるのならこれから抜け出なくてはならぬ。が、今議論されている集団的自衛権はアメリカとの軍事的な協力関係をより密に深めるものだ。言い換えれば、この核の傘にどっぷりと浸かることなる。我らはこの悪魔の兵器である核からますます抜け出せなくなる。原爆で死んだ人々にそれで申し訳が立つのか？今日は７０回目の「原爆の日」を迎えた。被爆経験はますます風化していく。今日は広島電鉄家政女学校の生徒の実体験を描いた詩を掲出して被爆の実態を伝えたい。合わせてこの詩に接した中学生たちがどんな感想を持ったのかも記した。
広島電鉄家政女学校の記憶
きむらけん
大東亜戦争(だいとうあせんそう)と称(しょう)された戦(いくさ)のまっただ中
電鉄の男は幾たりも出征(しゅっせい)していった
最重要軍事拠点都市の強固な鉄路は
銀(しろがね)に輝いていねばならないのに
磨(みが)き手を欠いた広島の路面線路は
赤錆(あかさび)が滲(にじ)みはじめた
きらめきを与えたのは十四歳(じゅうしさい)の少女たち
ふくらみ始めた乳房(ちぶさ)にあしたを躍(おど)らせ
広島近隣の郡部から瀬戸内の島々から
はるか山向こうの里 島根から
トランク一つ抱えてやってきた
学舎(まなびや)の名は「広島電鉄家政女学校」
比治山(ひじやま)の南麓皆実町(みなみまち)二丁目の
薄紅の校門をあどけない少女が
笑みを浮かべて潜(くぐ)って行った
昭和の十八年 本科一期生は七十二名
朝には寝足りない顔に皺寄せてお勉強
方程式(ほうていしき)を解き 白文(はくぶん)に返り点も打った
昼には揃(そろ)いの白い布きれを頭に巻いた
電鉄のマーク入りの鉢巻(はちまき)は皇国(こうこく)少女の命
りりしくてあることが銃後(じゅうご)の娘の心がけ
頭骨(ずこつ)をきりきりに絞り上げた紺の隊列が
皆実町(みなみまち)から千田町(せんだまち)の車庫まで駆け抜ける
京橋川にかかった夏色の御幸橋(みゆきばし)を渡る頃
乱れた後尾に組長の声
「御幸のみは、お国のおじゃ」
経痛(けいつう)の子は腹部から手を離した
やせ細ったどんじりは歯を食いしばる
「切符をお持ちでない方いらっしゃいませんか」
カチンカチカチ カチンカチカチ
ハサミの音はちょっと誇らしげ
乗客をかき分けかき分けパンチが通る
ときにはブラウスのふくらみに
硬い手が伸びてきて少女は顔を朱(あか)くする
カッチンカチカチ カッチンカチカチ
非国民(ひこくみん)には音高くして戒(いまし)めるのみ
それでも悪戯坊主(いたずらぼうず)には果敢(かかん)に制裁(せいさい)
電車の防護(ぼうご)ネットに中学生徒
やつらには窓からげんこ一発
何から何まで少女車掌は忙(いそが)しい
鳥居通過(とりいつうか)の案内も大事なしごと
「護国神社でございます。ご礼拝(れいはい)ねがいます」
皇国少女は一段と声高くはりあげ そっと一礼
学寮二階の防空(ぼうくう)監視哨(かんししょう)は息つくところ
炒(い)り豆やはったい粉(こ)を分け合いながら
それぞれが思いつくままに乗務報告
「痴漢(ちかん)のおる電車にはもう乗りとうない」
「紙屋町(かみやちょう)のカーブでポールが外れたんよ」
「うち、恋文(こいぶみ)………もろうたんじゃから」
「ほぃで、どうしたん？」
少女達の声が一時(いっとき)に合わさった
「運転士が見咎(みとが)めて破り捨てたんじゃけえ」
「うちらの恋は、こいはこいでも終点じゃ」
にわかにしんみり赤や青のちゃんちゃんこ
見渡すと安芸(あき)の都(みやこ)にこぼれ灯(び)点々
「下着も靴も盗まれるわ、はったい粉ものうなるわ」
月影にかすかに見えるは港に浮かぶ安芸小富士(あきこふじ)
「うち、はよう帰りたい」
その一言に向くはてんでん泪(なみだ)の里
神風(かみかぜ)は昭和の二十(はたち)にも吹かず
女学校には鉢巻が増えゆくばかり
十四(じゅうし)歳から十六歳まで
本科専攻科合わせて総勢(そうぜい)三百余名
方程式(ほうていしき)や漢文に居眠りしたのはもう昔(むかし)
日ごとに警報サイレンつのる中
朝から晩まで切符の売りさばき
パンチばかりかハンドルまでも
コントローラーの扱いもよく分からないまま
古参(こさん)運転士の言う通り見よう見まねの機械操縦(きかいそうじゅう)
それでも己斐(こい)へ 宇品(うじな)へ 江波(えば)へ 駅前へと
四ノッチの低速運転で娘たちが市内を駆け巡る
離合(りごう) それは上り下りの出会いと別れ
白神社(しらかみしゃ)を過ぎて袋町(ふくろまち)の大楠木(おおくすのき)にかかるころ
向こうに見えたのはボギー台車の六五○形(がた)
右足が自然にフットゴングに
対向新型は接近するも運転台に人影もなし
こちらの百形単車(ひゃくがたたんしゃ)の白鉢巻は首を傾けた
そのときに車番(しゃばん)六五四が突然に「ジィリン」と放(はな)つ
向こうのコントローラーの陰におかっぱ頭がちろり
こちらの運転士は慌ててゴングを強く蹴(け)る
大正元年(たいしょうがんねん)生まれの百形(ひゃくがた)のベル高らかに
こんにちわ さようなら
鐘(かね)に託(たく)した挨拶(あいさつ)に若い命が響き合う
「うちも生きとる」と 思う一瞬
ひもじさも 怖さも 憎しみも 疲れも飛んで
警鐘(けいしょう)の余韻(よいん)は革屋町(かわやちょう)から広島駅前まで
敵国の年歴では千九百の四十五年
大日本帝国の年歴は昭和の二十年
いずれも八月六日のこと
不気味に響く空襲警報も明け方には止(や)んで
紅い夾竹桃(きょうちくとう)に朝日が射した
朝のラッシュは鉄路のにぎわい
路面電車は車庫を出払って
駅前へ 江波(えば)へ 宇品(うじな)へ 横川(よこがわ)へ
切符の立売娘は紙屋町(かみやちょう)や広島駅前へ
遅番は皆実町の学寮で朝寝坊
さりげない日常がさりげなく
娘の穏和(おんわ)な顔に時を刻みゆく
そんないつものいつもは
一瞬にして宙空(ちゅうくう)の果てに
日本標準時の八時十五分
ピシュリ 赤青(せきせい)の閃光(せんこう)が全天に光る
ドグワン 爆裂(ばくれつ)の音響が地軸(ちじく)を裂(さ)く
ピシュリは地上の砂を燃やし鉄を溶かし命を焼いた
ドグワンは地表の命と物とをことごとくに粉砕(ふんさい)した
炎熱火球(えんねつかきゅう)がたちまちに人を街をぐわぼりとひと呑(の)み
市街の中心 相生橋(あいおいはし)近くに
たった一機の飛行機が平然(へいぜん)と悠然(ゆうぜん)と
途方(とほう)もない悪意のエネルギーを投擲(とうてき)した
ピシュリ ドグワンのその刹那(せつな)
幾万もの人々の希求(ききゅう)がうち砕(くだ)かれた
近辺の元安川(もとやすがわ) 本川(ほんかわ)の土手筋一帯
建物疎開(たてものそかい)に動員された学徒は数知れず
無念累々(むねんるいるい) 内蔵赤赤(ないぞうあかあか) 肉塊黒黒(にっかいくろぐろ) 瓦礫延々(がれきえんえん)
遠く見晴るかす安芸小富士まで
茫漠(ぼうばく)と広がるのは宇宙人類の屠殺場(とさつじょう)
各々(おのおの)の死装束(しにしょうぞく)は焼焦げの一枚の皮膚
天を恨むか 敵を恨むか
真黒(まくろ)い男根(だんこん)が空を指さす
あんぐり開けた口には叫びの跡(あと)
せまり来る火炎に覚悟を決めて
「君が代(きみがよ)」の「よ」まで歌った男の子
ゴム紐(ひも)一本の下着をまとった隣の娘は
「さざれ石の」の「さ」まで生きていた
いずれも目玉をこぉろんと飛び出させ
むくもくと天高く上がる煙をねめつける
人間ばかりか橋の上には電車も横たわる
ぐしゃりへしゃりと骨組だけの元年(がんねん)電車
吊革(つりかわ)に下がったままの灰炭(はいずみ)は並んだ乗客
車掌カバンをしっかり握った女は黒鉢巻
彼女の小さな口に白い歯が
朝餉(あさげ)に小鰯(こいわし)を噛(か)んだ十四歳
電鉄女学生たちの避難場所は
広島郊外鈴峯(すずがみね)の実践女学校(じっせんじょがっこう)
彼女らが生きてあるのは偶々(たまたま)
木炭バスの出発が少しはやかったなら
電車が福屋(ふくや)百貨店の陰(かげ)でなかったなら
そんなもしももしもの命が肩寄せ合う
安否(あんぴ)確認をと教師が名簿を読み上げる
沈黙の返事にあの子この子が思われる
生き残った生徒は二日目からは救援隊(きゅうえんたい)
とはいえ皆は着の身着のままはだし足
煮(に)えたアスファルトで皮膚(ひふ)は水ぶくれ
「生き地獄(じごく)にはもう行きとうない」
思う想いは同じでも仲間は捨てられぬ
蛆の湧く死体に躓(つまず)きぬるりと骨を踏み
声を口に呑んでは屍の街をさまよい歩く
救護所(きゅうごしょ)でやっとありついたおにぎりに
生きてある臓器(ぞうき)がかぶりつく
糸を引いたそれが命の味わい
捜索(そうさく)の勇気も湧(わ)いて線路みち
横たわる電車やバスを覗(のぞ)いて行くと
黒焼けや赤い石榴(ざくろ)の亡骸(なきがら)つぎつぎに
広電(ひろでん)のバスはにわか仕立ての霊柩車(れいきゅうしゃ)
発車オーライの声だけはほがらかに
避難所に着いた僚友(なかま)がなんとも軽い
艶(つや)やかな黒髪は跡(あと)もなくちんちりに
理科室に運んでかたちだけのご焼香(しょうこう)
やっと生きながらえておるいのちも
にわかに元気になって唄を歌い出す
そんな明くる日には決まって野辺送(のべおくり)
裏山で青い桃(もも)の実盗んで亡骸(なきがら)を焼く
涙は涸(か)れはてて囓(かじ)る果肉(かにく)がほろ苦い
それでも火のともる骸(むくろ)はまだしも
紙屋町の切符売は影(かげ)さえ見つからず
哀(かな)しみは碧(あお)い夏空に染(し)みこむばかり
ピシュリドグワンから三日後(みっかのち)
己斐駅を一台の電車がゆるりと動き出した
復旧へ向けての地道な作業は六日夕刻から
車庫係長はテストハンマー持っての点検を
焼けただれた全電車の台車の刻印確認
そしてたちまちに作られた電車被災地図
ほとんどが全壊半壊それでも人は動いた
残った広電(ひろでん)職員と駆けつけた東京電信隊
焼け跡から電線を一本一本掘り起こし
立てた船の帆柱(ほばしら)にそれを巡(めぐ)らし巡らせ
己斐(こい)と西天満町(にしてんまちょう)とのあいだが単線開通
まずは試運転電車での鉄橋走行試験
橋もろとも崩れ落ちる恐怖を覚えながら
運転士はそろりそろそろと渡っていく
己斐鉄橋を渡り終えると同乗者が拍手する
思わず警鐘をじぃりんと鳴らした
黒くうずくまった女が男が手を挙げる
廃墟の街にかすかな希望の響き
電車は試運転から営業運転へ
一番電車は一枚のガラスもない四百形(がた)
女車掌は家政女学校本科二年生
吐(は)き気(け)と下痢(げり)をこらえて声上げる
「この電車は折り返しの己斐(こい)行きとなります」
人は耳を澄ますが異物(いぶつ)はざわぞわと
つり革や天井にはびっしりと銀バエ
幾万の骸(むくろ)に湧(わ)いたそれは不吉な徴(しるし)
中島町(なかじまちょう)の母や僚友(りょうゆう)にもたかったか
十五歳の少女は思い余って紐(ひも)を引く
チィン チィン チィン チィン
広島にチンチン電車の鐘が鳴る
焼けた皮膚を体中からぶら下げた男
赤(あか)ん坊(ぼ)を逆(さか)さに負(お)ぶった若い母
顔の半分を焼かれた男の子
追憶に沈んだ音が誰(たれ)もの胸に響き渡る
絶望の街に今は人も電車も生きてある
グワッタンガァウゴゥ
グワットンガァウゴゥ
電車は命をつぶやいて走りゆく
行く手には線路がきゅろんと銀(しろがね)に
己斐(こい)の山並へと希望はまっ直ぐ
八月の十五日に終戦を告げる突然の詔(みことのり)
講堂では女学生が自決 自決と騒ぎ立てる
そう言いはしたものの今はの際(きわ)にある友の
目の前で刃(やいば)を立てることなどできようか
戦(たたか)いの始まりは恐ろしく終わりはふっつり
家に帰る友がいて乗務を続ける者もいる
時は過ぎゆき 九月には大風が襲って
水を水をと求めた人々に時違(ときちがい)の雨
焼け跡はどこもかしこも水びたし
鉄路がまた錆(さ)びてゆくあいだにも
銃前(じゅうぜん)から男たちが幾たりも生還(せいかん)し
銃後(じゅうご)の女学生はひっそりと帰郷する
赤い火傷(やけど)は繃帯(ほうたい)でかくし
白い鉢巻は風呂敷(ふろしき)に包み
山の里 海の里へと散り散りに
月末(つきづえ)には校長がとうとう解散宣言
残った生徒は誰言うともなく集って
愛唱の歌「椰子の実」を車座になって歌い出す
友の分までとあらん限りの声を振り絞る
たちまちに殉死(じゆんし)した三十人の顔がつぎつぎに
僅かな骨に変わり果てた友黒い影だけが石畳に残った友
一人二人と泣き崩れてはまた起きあがって歌を続ける
「いずれの日にか国に帰らん」が最後の節回し
娘の血潮が声となって涙に弾けて終わった
合唱の終わりが学校の最期(さいご)
車座が解けて、交わす挨拶は本当のさようなら
八月の六日に倒壊炎上(とうかいえんじょう)した学校は
創設(そうせつ)二年半で暦(こよみ)からも消え果てた
その名は 「広島電鉄家政女学校(ひろしまでんてつかせいじょがっこう)」 （二〇〇年八月。二〇一〇年八月改訂）
注記１
詩中、車庫係長は、大嶺詮義さん、試運転電車運転は、山崎政雄さん、一番電車車掌は堀本春野さんである。
注記２
「広島電鉄家政女学校の記憶」はつぎのドキュメンタリー番組で字幕として流されたものである。『皇国少女〜Ｔｈｅ Ｅｍｐｅｒｏｒ’ｓ Ｇｉｒｌ〜』 ダスティ・ローズ 常井美幸とによる共同監督
（第２次大戦末期、路面電車の車掌として勤労奉仕に動員された広島の少女たちがいた。それから５６年目の夏、町を走る被爆電車に集まった彼女たちの証言を通して、戦争と原爆を考えるドキュメンタリー）
注記３
以下に記すものは、私が勤めていた東京大学附属中高等学校の二年生が書いたものである。この詩を読ん聞かせ、感想を書いてもらった。資料として残っていたことから今日ここにその一部を掲出するものである。
〇宮崎梨代
とても悲しい話でした。今の平和な日本に住んでいる私にとってとても理解しにくいお話かもしれません。そういう出来事があったことは皆知っています。でもそれを「理解」することはとても難しいです。
これはその時のことが分かりやすく記されていました。たぶん、私がその時の女学生だったら、辛くて辛くてたえられないと思います。それほど、今の世界、地球、日本は平和なんだと思います。「平和でないのかもしれない…」でも、「平和だと思わなくてはならない」のかもしれません。この詩を読んで「何か」を学んだような気がします。「何か」それは軽々しく口に出すことではないと思います。それに、私はこの「何か」がはっきり分かっていません。たぶん、もう少し大人になったら分かるでしょう。その時まで待ってみようと思います。当時の女学生たちは十四、十五、十六才。私は今年十四になります。当時の女学生のことをほんの少しいいから理解したり共感したり考えることができるおうになればいいと思います。そういう「きっかけ」をくれた木村先生に感謝します。
〇向山美紗子
私は今十三才です。この詩の中の少女たちは十四才です。和足は色々なやんでいます。でも……。この少女たちは死を前に、死ととなりあわせです。
そして…私は今…あたり前のように…生きています…以上
これは一応、わたしなりに感じ、一番最初に書こうと思ったことです。今は、これ以上書けません。これが、この詩に対して感じた私の中での最高の感想です。
〇吉田知朗
少し難しかったけど戦争のこわさがよく書かれていた。効果音（ドグワン、ピシュリ）が多く使われていてよかった。四字熟語がとてもうまかった。細かいところまで書いてあってよかった。広島電鉄家政女学校というのがよくわからなかった。気持ちが悪い表現などが多くてこわかった。戦争はもう絶対してはいけないことだと思った。もしも生き残った人がいたとしても生き地獄でとってもかわいそうだと思った。
〇萩原亮
ぼくは、この「広島電鉄家政女学校の記憶」を読んで、ここに出てきた電車の女学校の少女たちの気持ちがわかりました。大東亜戦争の中で男性はみな出征をしていってしまって、代わりにこの少女たちがやるのはとても大変だと思います。朝早く起き、方程式を解いたり、チカンがいる電車の中で仕事をするのはぼくもいやです。でもその中でめげずにいるのはぼくはとても尊敬します。
〇鈴木洋介
前半の平和なシーンがいい。とくに休憩所での会話。「あ、何かこういう話をしてそう」と感じた。後半シーン。前半の平和な生活が、一機の飛行機によってうちくだかれた。その後は想像しがたい。想像していたくない風景。もし飛行機が落とす場所をかえていたら、「悪意」を積み忘れていたら…と思う。あと、積んでいたものが「善意」だったらどうなったとか。
〇道端篤丸
僕はこの詩の一番すごいと思ったところは情景がすごく想像しやすくセリフの所など感情までもが分かりそうなほどすごく自然な感じがしました。ただ文は全体に難しかったけれど表現はおもしろかったです。戦争の場面になると想像しやすい表現にはすごく困ったけれど戦争の被害がよくわかりよかったと考えます。また、この女子生徒は原爆など知らなかった思うからあえてこの「ピシュリ ドグワン」と表現したと思うし、それに昔の子供たちはそうとしか表現しようがなかったと思うからこの表現を選んだんだと思います。それにこの「ピシュリ ドグワン」の方が「原爆」と書くよりも記憶の中の感じとしてよかったです。
〇園田啓介
戦争の話がくわしく書いてあってその時の様子がわかった。その時の様子がとても今の世の中では想像できないもので驚いた。とても悲しい話で戦争というのは嫌だとあらためて感じた。話に出てくる少女がかわいそうに思えた。戦争で使ってはならない「炎熱火球」（原爆）の日本での使用、その後の広島の悲劇、すべてのものが消え去った。そんな現場が二度とないようにと思った。ものすごいつらいはずの電鉄家政女学校の本科二年生の姿がとても印象に残った。「始まりは恐ろしく終わりはふっつり」とする戦争、そんなことをして何を得るのか？そんなことをして何が残るのか？と思った。もし戦争がなければ……と何度も思った。
〇庄司舞
私はこの「電鉄家政女学校の記憶」を読みその背景や様子がよく分かりました｡当時同じ年代だった人の毎日の生活などが細かくわかりました。そして原爆が落とされたとき、よく映像やアニメで見るものよりひどい物（グロテスク）だと感じました。そして、女生徒の電車の出発の時刻、自分のことや仲間のことに関してとてもせつなく複雑に思いました。そして、原爆が落とされて間もなく、仲間の死を確認し、そんな悲しみの中、そして傷の中、救援隊として活動している姿がとても心に残りました。そして電車が復旧したあと、あの恐ろしい体験のあと、チィン、チィン、チィン、チィンという電車の音で広島の人、そして女子学生たちはそれぞれの思いをその音色といっしょに重ね思ったのではないかと思いました。そして、そんなつらく悲しい女生徒たちの生活を忘れてはならないような気がしました。
〇竹澤有貴
全部読んだ第一印象は「怖い」でした。私は原爆のことはよくわからないけれど、まず一番先に思ったことは「すごく怖い」でした。なんか、原爆がどうだったかすごく伝わってきて、こわかったです。原爆がすごく嫌なものだなとも思いました。今に生まれてきてすごくうれしい。平和が一番だということが痛いほど伝わってきました。また私はこの詩を読んで悲しい詩だなあと思いました。女学生が苦労しているというのがわかりました。なんだろうと思ったのは「はったい粉」です。これは何ですか？と聞けるのも平和のしるしですね……でもわかりません。「はったい粉」って何ですか。戦争は嫌です。すごく嫌です。少なくとも日本では絶対に戦争をしないでほしいと思います。こんなに今が平和だから「戦争」というものを忘れてしまいます。でも、忘れてはいけないものだと思い直しました。
〇曽木碧
この詩を読んで原爆のすごさをあらためて思い知った。今の私たちと同じ年齢なのに原爆でぐちゃぐちゃになった自分の街、広島を見ることになってしまったり、大切な友だちを失ってしまったりといことはとてもつらいことだと思う。残こくなことばかりが起きる世の中なんて、生きている価値がないとまで思ってしまった。けれど、このような時代があったからこそ今があるのだと思う。今は戦争が起こることなんてないし、友だちがおおぜいいっぺんんい死んでしまうことはまずない。それに比べ、私は自分が幸せすぎて悪いような気がした。
〇森一浩
原爆の恐ろしさが身にしみてきた。原爆で死んだ人の無念さが伝わってきた。死んだ人もすごくかわいそうだけけど、生き残って、つらい思いをした人がかわいそうだと思った。多くの命がわずか数秒でなくなったなんて、ひどい話だと思った。そして、原爆を落とされて死にそうなのに国を愛して、「君が代」を歌うなんてすごいと思った。
（写真は、爆心地方向を撮ったもの。１９４５年８月７日。撮影岸田貢宣）
2015年08月05日
下北沢Ｘ物語（2851）〜文化遺産の研究大会&納涼会〜
（一）文化とは当地固有の匂いを見つけ、皆で面白がって楽しむことだ。我が会の納涼会はまさにこれである。価値が吹きだまる鉄道交点の北沢タウンホールで八月一日、同好の士が集って、夏の宵を楽しんだ。研究会大会の打ち上げでもある。つい一日前は、ここでの出版記念会に参加した。すると久方振りに一人の会員と会った。
「会報は毎月戴いていますが、何しろ親の介護があるので歩く会に参加したくても行けなくて…」
「私たちの会は、来なければならないことはありません。自分が来られるようになったときに来られればよい、何年か経って、『ああ、また来られましたね』という、そんな会をいつもめざしています…」
我らの会は、強制はしない、そこに自由がある。鉄道交点には、四方向から人が来て、そして去っていく。出たり入ったり、そんな気楽さがあるからこそ我らの会は続いている。 今回は、たまたまである、ギターを持った渡り鳥、四人、ロス・コンパニェロスが参加された。飲んで、食べて、話して、と会が盛り上がっているときに、「一つ歌でも披露しますか」となって、彼らが楽器を取って、歌い出す。このラテンバンドは手練れだ。たちまちに人を音楽世界に誘い込む。
「トリオは三人、私はスペアーなんですよ。しかしね、私たち人の前で演奏することはよくありますが、聴いている人の耳が立っているかどうかはすぐ分かります。演奏した音が耳に吸収されていくから、変な跳ねっ返りがない。皆さん音を空気のように耳に吸っていかれるのですよ。そうするとこちらも気持ちがいいです…」
耳と音との交歓のことをいう。さすが鉄道交点は音楽の街だ。音が立っているのか寝ているのかたちまちに見分け、それをしゃべりに生かす。演奏と語りの手練れだ。
このバンドに「ナタリーNathalie」をリクエストした人がいた。デザインの大御所道吉剛さんである。よほどこの歌に思い出があるのか途中から彼も加わって歌いだした。もちろん原語である。
「窓を開けると線路の向こうに連れ込み旅館があって、夏だと暑いから窓が開いていてみえるのですよ…」
彼はこの下北沢に若い頃住んでいた。ナタリーに似た女の子に惚れたのか。
「まったくこの会は多才な人ばかりですね」と初めて参加された山田さん。やはり渋谷で文化活動を行っている。その彼のいうとおり、まず手品の師匠、邪宗門の作道明さんが華麗な手さばきを披露する。終わると弟子筋の藤井理嗣さんがリングの妙技を演じる。
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2015年08月03日
下北沢Ｘ物語（2850）〜第１回研究大会：北沢川の流域文化〜
（一）機縁が奇妙に偶然に結び付く街である。つぎからつぎへと果てなく繋がっていく。こんなことがあった。以前、九州柳川の北原白秋記念館を訪れた。この時に一枚の写真に惹き付けられた。その写真には朔太郎、白秋、尾山篤二郎が写っていた。下北沢文士町の関係者だけに深い興味を抱いた。国文学者であり歌人でもある尾山篤二郎は、「北澤五ノ六八四」に居住し当地で多くの短歌を詠んでいる。この旧番地がどこに当たるの分からない。そんなときに北沢小の同窓会の人と知り合った。彼らの情報網で尾山篤二郎旧居はたちまちに分かった。歌人はそこに住んでいた。ところが思いがけず別のことも分かった。画家が越して行ってそこに歌人が入ったのだ。その画家こそ高須光治に他ならない。
画家は「下北沢風景」と題した絵を描いている。これもどこを描いたのか分からないでいた。が、その画室が分かってみると簡単だ、「北澤五ノ六八四」から描いた風景だった。
「シモキタらしさのＤＮＡ」の出版記念会が３１日に開かれた。絵画そのものはこのＤＮＡの源流を描いたものだ。即ち、小田原急行鉄道が開業して間もない頃の昭和３，４年の風景がそこには描かれていた。場所は東北沢駅方向である。
昭和６年に萩原朔太郎は東北沢に越してくる。スリーショットで写っていた詩歌人の二人、尾山篤二郎と萩原朔太郎がこの絵と関わってくる。が、北原白秋もこの絵の手前画面には度々祖師谷大蔵が来ていた。「ここに同門の兄弟弟子が三人、同じ屋根の下に同じ釜の飯を食って、とぐろをまくようになった。」という。與田準一、巽聖歌、藪田義雄の白秋門下生だ。下北沢に下宿していた。
こうした下宿生活のある朝、…それも早朝に、思いもかけない事が起こった。「白秋先生がお見えだ」と、知らせるものがあったからだである。驚いて玄関にかけおりると、「三人の弟子達がとぐろを捲いてる家を、師匠がまるきり知らないでは済まされないからな…」などと、のっけから御機嫌の態である。『評伝 北原白秋』 藪田義雄 玉川大学出版部
「シモキタらしさのＤＮＡ」を考えるときにこれらのことは面白い。尾山篤二郎、萩原朔太郎、北原白秋は別々に集っていた。が、風景の場としては一緒だ。それが下北沢風景である。丘上の赤い屋根屋根と緑の木々、そして青い空、切り開かれゆく武蔵野そのものだ。この詩的風景に三人がそれぞれの道を歩いてやってきていた。文士町の源流を解き明かしたのがこの「下北沢風景」である。今回はそのゆかりもあって北沢小学校同窓会の協力を得て第一回の「北沢川文化遺産保存の会」の研究大会を北小で開いた。八月一日、午後一時半からである。
（二）
研究大会を開くときに大切なのは告知だ。世田谷区報への掲載を考えていたが一般市民団体は年間二回までしか出せない。一度目は五月に開いた戦争経験を聴く会、語る会で使っている。北小名義で出してもらったがやはり掲出規定に引っ掛かるということで諦めざるを得なかった。
それでこちらは、紙媒体とネットで当会会報を載せての宣伝を行った。またチラシも作った。世田谷区内向けに出されているトラまちメルマガ「トラまちvoice」に掲出した。北沢小は長谷川慎一さんの尽力で回覧板で町会に回してくださった。
下手すると十数人しか来ないのではないかと思っていた。が、皆さん集まってみるとランチルームの椅子があらかた埋まるほどになった。とても安堵したことだ。とくに回覧板での宣伝が効いたのだろう地域、地元の方々参加されたことはとても嬉しいことだった。この点、北沢小学校同窓会の多大な協力を戴くことになった。おおよそ三十名ほどが集まった。当日の演題はつぎのようであった。
研究発表の題と発表者
〇北沢小学区域の文化的変遷 長谷川 慎一氏 北小同窓会会長
〇池の上の海外植民学校 松原 征男氏 会員
〇三好達治の代田居住の意味 松山 信洋氏 会員
〇世田谷吉良氏の系譜 木村 康伸氏 会員
〇ポスターセッション
・北沢地域の石造仏群 天羽大器氏
・円乗院遺跡、根津山遺跡 今井明氏
・事実や経験をどう伝えていくか 藤井理嗣氏
（三）
最後に感想を言っていただいた。
・海外植民学校のことは全部は分かっていません、悩みながら調べていてその途中を報告いしたわけですけど。ほんの経過のみですね。 松原征男さん
・回覧板が回って来ましてね、来たのですが皆さん、お話になっておられることを聴いて「北沢川は面白いところなんだなあ」と知りました。それとこの当たり、庚申塚とか多くあるでしょう、そういう歩く会に参加してみたい。北小関係の女性
それと発表なさった方が何のだれべえさんなのか言っていただくと好かったかな。
どこで何をされているのか（当方は肩書きを書いていない）
・吉良氏発表は面白かった。（女性）→じゃあ発表者に振りましょう。
・熱心に聞いて頂いてありがとうございます。私はこの会で街歩きの案内をしています。
こういう動かないで発表するというのは初めてで緊張しました。散歩よりもやはりこちらの方が大変だと思いました。
・初めてのことで、自分のしゃべりに配慮をいたしました。こんな会のときどんな感じで話せばいいのだろうと。そういう点では勉強になりました。（藤井理嗣氏）
・北沢小学校が北沢の核だ。こういう活動というのは北沢を残すということでは大事だと思うのですね。北沢小学校もなくならないように…この小学校なくなったら北沢が消えてしまうような感じなんですよ。
・昭和３０年代から住んでいるのですよね。だけどこのところ街がだんだん変わってきているでしょう。山の湯さんがなくなって。それで面白いのですけどね、お風呂やさんに多いのは越前越後の人ですよね…それでお年寄りの方がよくいろんなことを知っているので今のうちに聴いておかなくてはね。
・（きむら）朔太郎は東北沢に住んで銭湯に行ったそのときのことを萩原葉子さん書いているんですよ。私はここの山の湯だと思うのですけどね。
・いやあ、下の石川湯ではないですかねえ
・石川湯だよ。 この話、皆私の話は信用しないらしい。
・渋谷区の銭湯かもしれないよ
・私は代田教会のメンバーです。３，４０年ずっと北沢川を見て来ました。暗渠になる前から知っています。が、今日伺ってみて北沢川沿いに深い歴史と文化とがあるのだと初めて知りました。私が教会のメンバーに伝道しなくてはいけないなと思ったほどです。
・長谷川慎一さん
文化遺産保存の会主催で継続するということであれば、会場は使えるように努力をしたい。
（四）
「北沢川流域の文化について」というコンセプトで行った。会場は北沢小、同窓会長の尽力で開催できた。司会も副会長の及川園子さんにやっていただいた。それと人を集めてくださったことは大きい。北小同窓会の力には大きなものがあった。
今後のことについては会で検討していきたい。
・研究会の全体の印象では決して悪くはない。知的レベルの高いものだったと言える。
来られた方がとても熱心で一生懸命に聞きメモも取っておられた。伝えようとしたことが伝わったのではないかと思う。
・ポスターセッションも気軽なものとして面白い。誰もが参加できる。
これも継続する。
・会場については、研究会と懇親会とが別れていてその点は不便だった。
タウンホールの集会室は、午後の分は、５２００円である。これを捻出すれば夜へとつなげられる。
・研究会の広報
今回は世田谷広報に載せられなかった。教育委員会後援は内容からして断られることはない。きちんとこれを出す。すると世田谷広報には載せられる。
・研究発表を広く誰でもというふうにするのもよいだろう。
・問われたのは誰の何さんという人が発表するのと。
研究方面の経歴を記して紹介。当会の研究発表を行えば、「研究員」の資格を与えるというのも便法か。
・協力団体を増やしていく。やはり、北沢地域の隠れた文化を発掘するには多くの協力が必要である。
〇印象批評的に書いてみた。参加された方、あるいは興味ある方ぜひコメントを。
（下の写真は、上から順に長谷川さん、松原さん、松山さん、木村康伸さん、これらはきむらたかし氏撮影）
2015年08月02日
下北沢Ｘ物語（2849）〜シモキタらしさのＤＮＡ〜
（一）「シモキタらしさのＤＮＡ」という本のタイトルはメッセージである。「ひしゃげた座標軸」と形容される鉄道の街、シモキタの活力の源泉はどこにあるのか？故高橋ユリカさんが生きている我々に問いかけている。昨年、高橋ユリカさんは急逝した。彼女の遺稿でもある「シモキタらしさのＤＮＡ」の出版記念会が北沢タウンホールで３１日に催された。
会に集った人々が思い思いに街を語った。
突然、私にマイクが回ってきてあたふたした。
高橋ユリカさんはきむらの解説する文学は、難しくて分からないと言っていました。しかし、彼女は本の中でちゃんと書いています。萩原朔太郎が下北沢の今井兼次邸のモダンな屋根に影響されて世田谷代田に三角屋根の家を建てたと。本質的な部分では共感してくれていたのだと思います。
今年は戦後七十年です。一つの視点だが、戦争がシモキタの文化のリトマス試験紙となったのではないかと思っています。七十年前シモキタ一帯の学童は強制疎開させられました。この学童たちはシモキタに住む親のＤＮＡを携えていました、育ちと知性です。
おしゃまでこましゃくれて可愛い。この子どもたちが疎開先にカルチャーショックをもたらしました。勉強はできる。楽器は弾ける、作文はうまい。とくに女の子はまるでお人形さんのように可愛かったのです。地元の男の子を惹き付けただけではありません。偶然にやってきた若い特攻兵は惚れ込んだのです。松本飛行場から飛び立った特攻隊、その操縦室内には彼女らが作った人形が全機に飾られていたました。シモキタらしさのＤＮＡの一つの照り映えではないかと思います。
このように滑らかにしゃべったわけではない。が、伝えたかったことは以上のようなことだ。
パーティの席で話掛けてきた人がいた。
「私はね、彼女が好きだったんですよ。惚れていたんですよ。キスの一つでもしたかったのだけどね、それは叶わなかったね」
感に堪えないという感じで彼はしみじみと語った。追悼の言葉としては最高ではないか。
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