2019年08月
2019年08月31日
下北沢Ｘ物語（3833）―会報第１５８号：北沢川文化遺産保存の会―
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「北沢川文化遺産保存の会」会報 第１５８号
２０１９年９月１日発行（毎月1回発行）
北沢川文化遺産保存の会 会長 長井 邦雄（信濃屋）
事務局:世田谷「邪宗門」（水木定休）
155-0033世田谷区代田1-31-1 03-3410-7858
会報編集・発行人 きむらけん
東京荏原都市物語資料館:http://blog.livedoor.jp/rail777/
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１、大庭さち子先生の思い出 （1963年12月〜1964年6月） 上
エッセイスト 葦田 華
木枯らしの吹く寒い夜、私は学生援護会の紹介状を持って、大庭さち子先生の門扉の
ベルを押した。扉を開けてくれたのは、縞模様の前垂れを着けた、年配の女性だった。
彼女の案内で玄関に通されると、障子の向こうに大きな炬燵があり、正面に眼鏡を掛
けた温顔の、ふくよかな女性が大庭さち子先生だった。
ご挨拶を申し上げると、 「寒かったでしょ。さあ、お炬燵におあたりなさい」と声量のある、暖かい関西弁のアクセントで招き入れて下さった。
私は大学の三年生で二十歳だった。
高校一年生の妹と二人で下宿させて頂きたい旨を告げると、先生が、「どうして高校生の妹さんと一緒に？」と聞かれた。
父が酒乱のくだりにきた時、先生は優しい瞳で 「ようわかりました。そんなら妹さんを連れてすぐにでも越しておいでなさい。ここなら下北沢のおばあさんの家にも近いことやし。私にも同じ経験がありましてね、貴女のお話を聞いてすぐに判りましたよ。私が書斎にしようと作った部屋が空いていますよって、妹さんとお住みなさいや] と快諾して下さったのである。
ほッとして左側を見ると、な、な、な、なんと！手足の長い芝犬が、お炬燵に半分入って寝そべっており、驚いたのなんの！！ 犬という動物は、外の犬小屋に寝るのが当たり前の時代だったからである。しかもこのワンちゃんは、先生のワンちゃんではなく、先刻門扉を開けて、先生に取り次ぎをして下さった、住み込みのお手伝いさんの犬で、先生はその年配の女性を ”おばちゃん”と呼んでいた。
私は、お手伝いさんの犬を畳の部屋に上げ、お炬燵にまで入れさせるのを許可している、
大庭先生の寛大さに触れ、大いに感激したものである。
先生が貸して下さるというお部屋は、母家から離れた端っこの二階であった。マホガニィのドアを開けるとすぐに階段があり、登りつめると、ベッドが一台据え付けてあった。ベッドの横には作り付けの大きな机、その右側の壁にも作り付けの大きな本棚、それに沿って大理石の小さめのマントルピースがあり、トランクルームもついていた。南向きに作り付けの三面鏡、その後ろのガラス戸をスライドさせると、小さめな台所、台所のガラス戸を開けると、小さめのテラスであった。
窓は西と北、南はテラスだから、風通しが良く、夏にはありがたい！と思った。階段下にトイレと洗面台があり、「ここのトイレはね、毎日おばちゃんが掃除してくれはって
いるのでね、月に１回、気持ちとしてチップを上げてください」ということであった。
先生の、使用人に対する優しいお心遣いを感じ、大庭先生という方は、なんと細やかな
気配りをなさる方かしらと、いたく感心したものであった。
先生の弱者に対する愛情は、私の妹に対しても顕著であった。
妹は、日中は商社のお茶汲みをして働き、夜は公立高校の定時制で勉強し、帰宅時間は
いつも１０時過ぎであった。
先生は妹にだけ、先生ご一家が使われているお風呂に 「お入りなさい」 と勧めて下さり、また洗濯機も 「自由に使いなさい」 と許可して下さったのである。ゆえに姉である私は銭湯に行き、洗濯も手洗いだった。しかしこれは、先生が 『えこ贔屓』 をしたのではなく、わずか１５歳の 妹が、勤労学生として頑張っているのを不憫に思ってくださったのだと、私は深く感謝したのだった。
さていよいよ、私共二人は大庭さち子先生宅の、栄えある下宿人になったのである。
２、我らが地図の効用
先だって、見知らぬ人からコンタクトがあった。神奈川件藤沢市在住の時本さんからである。送られてきたメールはこうはじまる。
私の知人の女性が若い頃、山梨県から事情があって妹と上京した際に、大庭幸子さんのお宅に下宿でお世話になり、懐かしいので、いつか其処を訪ねてみたいとのことです。
女流作家大庭さち子は世田谷代田二ノ六九八に居住している。文士町文化地図では主には作家旧居をみつけてこれをマークしている。これが役だったようだ。手紙は続く。
その為、私が何回か世田谷区の中央図書館に足を運んで、1986年版の詳細地図で、本人のうる覚えの代田や北沢付近の地図を眺めていました。
先日、図書館で親切な係の方から、「北沢川文化遺産保存の会」のことをお聞きしました。その際に、いろいろ調べて戴きながら、2017年3月31日発行の地図や「下北沢文士町文化地図(改定七版)」の地図と付き合わせて、大庭幸子さんがお住まいになっていた場所がほぼ分かってびっくりするやら、嬉しいやら、とても喜んでおります。
地図の改訂作業は地味である。しかし、意義ある、意味あることとして行っている。このことが評価されることはとても嬉しい。
少しずつ当時の確かな情報を、知人から教えてもらったら、本人は大喜びで「想い出の記」なるものを書き始めているようです。
苦学生のある期間生活を共にして、下宿の女学生からみた大庭幸子さんの記録が出来ましたら、御資料のなかに加えさせていただければ、とても喜ぶのではと、勝手に思っておりますが、可能でしょうか？
女流作家宅に下宿して日々の生活を観察していたらしい。世田谷代田五丁目に住んでいた女流の行状は当方も把握していない。その「思い出の記」は読んでみたいものだ。それで次のように返事を出した。
「『思い出の記』を書いておられるとのこと。当方、毎月会報を出しています。今度は１５８号、会員に印刷して配布し、ネットにも載せています。ここに掲載は可能です」と書いた、その返事だ。
改めてパソコンでブログを少しずつ拝見させていただきましたが、膨大な資料と丁寧な記録に圧倒され、これは大変な研究組織だと舌をまいてしまいました。でも、何らかの形で研究者の方々へのお役に立てればと思いました。
以上のような経緯から今回、葦田 華さんの文章を掲載したことだ。次号が楽しみだ。
３、下北沢文士町文化地図第八版の発行に向けて
旧版七版の在庫がなくなってしまった。それで今年度は、第八版を発行する。この事業を行うに当たって世田谷区の「地域の絆推進事業」には申請を出した、これは認められて満額の２５万円が降りている。
今回の事業は、２０２０年春に開場する世田谷代田駅前広場の開場を記念して発行することにした。「世田谷代田駅前広場開場記念」という文言を記入する。
駅前広場にはダイダラボッチの足跡がモザイクで描かれる。開場に際しては盛大なイベントが企画されている。これらの企画は、世田谷代田駅前広場開場記念準備会が発足している。これに伴って、会では子どもにも分かる「ダイダラボッチ読本」を作って学校などに配布する予定である。これについての企画、内容などは当会に任されている。来年春までには完成させたい。
４、都市物語を旅する会
私たちは、毎月、歩く会を実施している。個々の土地を実際に歩き、その土地の文化を発見して楽しみながらぶらぶら歩く。会員外も参加は自由だ。 基本原則は、第三土曜日午後としている。１３時に始めて約３時間、終わり時間の目安を１６時頃としている。
第１５３回 ９月２８日（土）１３時 京王線初台駅
（２１日雨天のため一週間延期しました）
「春の小川 河骨川・宇田川を歩く」 案内人 梶山公子さん
コース：京王線初台駅・南出口地上集合（13：00）→玉川上水の川跡→河骨川水源� 塀藺罍叡�目・山手通り脇）→河骨川水源��(代々木４丁目・旧「山の内邸」の池)→水源�，鉢△領�れの合流点（「切通坂」近く）→住宅街の水路跡（「ほそ」と溜池）→小田急沿線の水路跡（管渠）→「春の小川」の歌碑→はるのおがわコミュニティパーク（ワシントンハイツからの流れ）→八幡橋（『江戸名所図会』の景色）→新富橋（宇田川との合流点� �宇田川遊歩道の始点）→軍人橋（宇田川との合流点�◆�排水堀）→岸壁の跡→側流と沼の跡(旧佐賀育英舎)→深町橋（宇田川遊歩道の終点）→松濤橋（三田用水・神山口水路）→大向橋（伊勢万水車）→センター街→旧宮益橋（渋谷川との合流点）・解散
今回の渋谷川ツアーは、京王線初台駅から出発し、唱歌「春の小川」を生んだ河骨川の水源地帯を歩き、その後は宇田川遊歩道（宇田川暗渠）を通って渋谷川との合流点（渋谷駅前・宮益橋跡）に到着します（行程は約４キロ）。かつて河骨川上流が流れていた土地は、昭和の初めまでカワウソが現れ、川にはコウホネが咲いていた田園地帯で、こうした景色の一部は戦後まで残りました。これに対し河骨川下流から渋谷駅にかけての宇田川流域は、明治末から陸軍練兵場の開設、小田急線敷設、幹線道路の建設等によって開発が進み、戦後もワシントンハイツの建設、東京オリンピックと代々木公園の整備、渋谷駅周辺の町づくりなどで大きく変わりました。豊かな自然に育まれた河骨川と、それとは対照的に歴史の荒波の中で姿を変えてきた宇田川の川跡を渋谷駅まで歩きながら、当時の川の流れと町の変化、そして人々の生活を考えます。
第１５４回 １０月１９日（土）１３時 中央線 荻窪駅東改札前
阿佐ヶ谷文士村を歩く 案内人 松山信洋さん
コース：荻窪駅集合ー井伏鱒二旧居ー弁天池ー上林暁旧居ー横光利一旧居ー外村繁旧居ー青柳瑞穂邸ーX氏邸ー地下鉄南阿佐谷駅
■ 編集後記
▲募集１、会報に載せる原稿の募集。原稿用紙三四枚。内容自由。
▲募集２、歩く会の２０２０年の各月の街歩き、案内してもよいという場合は当方か別宮通孝さんへ。また、ここへ行ってほしいという要望も。一つ出ているのは六郷用水だ。
▲会員の訃報：井手一枝先生、多聞小、代田小教諭。2018年12月。代田小での授業中「箱根号がくると児童は窓辺に走っていきました。私は放っておきましたよ」生前の逸話。享年９２歳、「妻一枝は平成３０年１２月２６日昇天致しました。本当に永年に渡り、お世話になりました。ありがとうございました。私の家には、北沢川の土手より、小指程のもみじをもらってきました。それが今では六十年をすぎ、秋には、真っ赤なもみじで家を飾ってくれてます。妻は、北沢川の川端で少女時代まで生きました。ありがたいことです」
これはご主人からのお手紙。
▲記録：8月31日(土) 9:30-10:25 テレビ信州 チャンネル４ 「鉛筆部隊 〜“あした”を描いた子供たち〜」が放映された。足かけ三年の取材。
▲北沢川文化遺産保存の会の忘年会のお知らせ。例年どおりこれを実施する。ちょうどこの年末が当会が発足して１５周年となる。それで弁当名は「北沢川文化遺産発足１５周年記念弁当」とする。場所は、北沢タウンホール二階集会室。期日は１２月７日、５時４０分から、最初は意見交換及び総会：開始は６時から。一品持参は行いたい。オークションも実施する。要らないものを寄付してほしい。会費は３０００円である。イベントとしてはロスコンパニェロスの演奏を予定している。年末最後をみなさんとともに楽しみましょう。これは誰でも参加できるものである。ぜひみなさんおいでください。
▲会員は、会費をよろしくお願いします。邪宗門で受け付けています。銀行振り込みもできます。芝信用金庫代沢支店「北沢川文化遺産保存の会」代表、作道明。店番号２２。口座番号９９８５５０６です。振り込み人の名前を忘れないように。
▲当、メール会報は会友に配信していますが、迷惑な場合連絡を。配信先から削除します。◎当会への連絡、問い合わせ、また会報のメール無料配信は編集、発行者のきむらけんへk-tetudo@m09.itscom.net「北沢川文化遺産保存の会」は年会費1200円、入会金なし。会員へは会報を郵送している。事務局の世田谷「邪宗門」で常時入会を受け付けている。
（写真：代田二丁目小谷家の最上稲荷の古写真。もう今はない）
◎会報１５８号は、メールでも配信していますが、不具合があってメルアドなどのチェックをしました。それでいつも届けている人には送ったはずですが、どうも具合がおかしいようです。いつもメールが届いているのに届いていないという人は当方にメールをください。
2019年08月29日
下北沢Ｘ物語（3832）―文士町の詩人系譜：萩原朔太郎一
（一）つい最近、「建築家の学生が発表をするのですが、ブログでは吉増剛造が『下北沢には至るところに次元の穴』が空いているとの発言を載せていますが、出典を教えてください」と会員の山本裕さんから電話があった。次元の穴は面白い、これは朔太郎信奉の一つである。「代田一丁目六三五番地」という住所は詩人仲間では多くが知っていた。「萩原朔太郎自家版」、個人雑誌『生理』の奥付にこれが載っていたからだ。四季派の詩人たちに取って憧れの地だった。「家の側に銀色の高い鉄塔が聳え建っている、これが目印だ」などを噂を聞き、心をときめかせもした。我等が世田谷区地域風景資産として推挙した「代田の丘の６１号」鉄塔である。
下北沢近辺の詩人の雄に福田正夫がいた。萩原朔太郎とは古くからの知り合いだ。こちらは、同人誌『焔』の主宰者、同誌は「ほぼ十五年続いた間に、百人近い同人の出入りがあった」という。福田正夫が親分肌で家に人を集めるのが好きだった。貧乏してでも家で同人たちをもてなした。世話好きだ。
私を含む何人かの女性が、福田正夫の指導でわずか十頁ほどの同人雑誌「断層」を創刊したのが昭和十三年十一月。私は銀行で働きながら、物書くことに余年のない文学少女のハシクレだった。
石垣りん 「福田正夫−心を打った男たちより」
追想『福田正夫』−詩と生活 昭和５５年
福田正夫は女流詩人を指導し、育ててもいた。
〇掲載した二枚の写真の解説
・まずこれは代田の丘の６１号鉄塔に住んでいた故小谷隆さんから得たものだ。番地は「代田一丁目六三五番地」だ、この一帯は１９４５年５月の空襲で焼けている。
上写真、右手前の空き地は遊園地があったところ。左手の柵は焼け残ったものと思われる。現在この小径はふさがっているが朔太郎在住時はこの道が使えていたと思われる。朔太郎旧居は、小径の先の左手の家だ。時代ははっきりしない。昭和３，４０年ぐらいか。この旧居はもう別の人の所有となっていたと思われる。
下写真、上写真と同時期に撮られたものだ。上の写真の右手崖側を撮ったものだ。有料駐車場として造成中である。停まっている車の車種から年代は推定できるのではないか。続きを読む
2019年08月28日
下北沢Ｘ物語（3831）―文士町の詩人系譜：福田正夫一
（一）前から気になっていることがある。萩原朔太郎は昭和六年に下北沢に越してきた。彼が翌、昭和七年一月二十五日に「世田谷区下北澤一〇〇八」番地から馬込の室生犀星宛てに手紙を出している。「この頃全く誰にも逢わない。 福田も福士も近所に住んで居るが、正月以来一度もまだ逢わない」と。福田は福田正夫で、福士は、福士幸次郎である。福田正夫は隣町の大原に住んでいた、一方福士は分からずにいた、が、伊藤祷一さんが、太子堂に住んでいたと記録していた。 大正六年六月に出された「新潮」には、「新進詩人四家」として福士幸次郎、萩原朔太郎、福田正夫、白鳥省吾が取り上げられている。白鳥省吾の住まいは分からない、が、残り三人は世田谷に住んでいた。
人々が郊外の世田谷に一斉に越してくる。大正１２年の関東大震災による影響が大きい、鉄道線の開通も大きい、ここに挙げた三人である。福田正夫は小田原で震災に遭い「無一物」となり「東京市外世田谷区下北沢８０９番地」に一家を挙げて上京してきた。今で言う北沢五丁目だ、鉄道線路では京王線である。震災に遭った者は地盤に敏感になった、北五は淀橋台にあり、地盤は固い、これも影響したろう。
「京王電気軌道が1913年、笹塚駅 - 調布駅を開通させた。」大正２年のことだ、震災時にはとおに開通している、福田正夫宅の最寄り駅は笹塚だ、震災で逃げてきた人が一帯に急激に越してきた。今もいわゆる木密地域であるが、震災の名残だ。
私の生まれた笹塚は原っぱもあり牧場もあり、遠い街の音や朝晩の売り声のあるのどかな土地だった。父と母は小田原で関東大震災で全てを無くし大正十三年に此処に新しい生活を求めて移住してきた。
福田正夫の子息、達夫さんが記したものだ。（『戦争中の中学３年生』私立日本中学校勤労報告隊の記録 １９９９年）このときの彼の京王線の電車の描写がすばらしい。
私が子供だったその頃、京王電車は一輛で走っていた。それも運転台が吹き抜けの市電形の車輛であり、ステーションは低く乗る時も降りる時も一段タラップを踏まなくてはならなかった。市電と違うのはあちらが緑と黄色の色分けをしていたのに対して、京王線が焦げ茶色をしていたことだ。ギシギシと音をたてて揺れる木製の電車が走っているのを見ているだけで一生懸命さが感じられ親しみのある形だった。クレヨンで描く画にもなり易かった懐かしい思い出の電車だった。
京王線はもともとは路面電車だった、そのときの様子がよく描かれている。
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2019年08月26日
下北沢Ｘ物語（3830）―文士町：詩歌人密度本邦第一一
（一） 「下北沢には作家や詩人志望の青年達が、そちこちのアパートや下宿に出入りして、無聊の日をおくっている」（『台上の月』）と作家の中山義秀が述べている。下北沢には文学志望の青年たちが大勢いた。時代は昭和十一年の頃だ、四年前の昭和八年には井の頭線が開通して鉄道が交差する便利な町となった。沢沿いにアパートや下宿が建ち、若い学生や労働者が集まった。世界恐慌の後、不景気は続いていた。そんな中彼らは作家や詩人に憧れた。文学が生きていた時代である、彼らは夜中になると北沢や代田でいたずらを働いた、表札泥棒だ、横光利一、萩原朔太郎は頻繁に盗まれた。当地に文学志望の青年がなぜ集まったか、両巨頭が当地に住んでいたことも影響を与えていた。
萩原朔太郎「氷島」は昭和九年に発刊された、彼は詩の「自序」でこう述べた。
すべての詩篇は『朗吟』であり、朗吟の情感で歌はれて居る。讀者は聲に出して讀むべきであり、決して默讀すべきではない。
若者たちは詩人の意を汲んで朗吟に及んだ、声に出して読んだ。詩が、言葉が生きていた時代である、詩に魅力を持っていた。
ああ汝 漂泊者！
過去より來りて未來を過ぎ
久遠の郷愁を追ひ行くもの。
当地に集まった文学志望の青年もまた漂泊者だった。先の時代が読めない中で自分の行く末を案じてもいた。彼らは熱く議論したろう。「俺は朔太郎だ」、「いや俺はプロレタリアだ」と。
プロレタリア歌人の渡辺順三が下北沢南口で古書店大地堂を開いたのは昭和十三年だ。彼は豪徳寺に住んでいた。プロレタリア文学系の者たちは次々にここに移り住んできた。
このような昭和十（一九五三）年頃には、ナップ時代の落合のように、特高警察のリストにのっているような人物が、世田谷の豪徳寺、経堂附近に集まっていたのである。それであるとき世田谷署の久保田という思想係りの特高が来て、「あんまり仲間を世田谷に集めるなよ。手数がかかって仕様がないよ」とこぼして行ったことがある。
の親玉だったと言える。
（『烈風の中を』渡辺順三 東邦出版社 昭和３８年）
渡辺順三が豪徳寺に越してきたことが機縁になって仲間が集まってきた。ここの場合は、文士村である。編集者仲間の符牒で「豪徳寺参り」という言葉があった、それは豪徳寺近辺に住むプロレタリア作家に原稿をもらいにいくことを指した。
やがて渡辺順三は下北沢に越してくる。「わが友の渡辺順三の大地堂知るも知らぬも皆来り買え」と仲間が宣伝文を作ってくれたっそうだが、自然に今度はここに仲間が集まってくるようにもなった。若者もこの古書店を冷やかしにきた。
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2019年08月25日
下北沢Ｘ物語（3829）―なぜに詩歌人は文士町に集まるのか―
（一）下北沢文士町文化地図の改訂８版を今年中に発行する、改版する度に冒頭に地図の意義について述べている。今回もこれまでを概観しながらまとめているが総括が難しくなったと感じている。文士達が数多く集まっていたということで括りとして「文士町」と述べている。会が発足して１５年、現象の本質は見えてはきた、ところが細部が分かれば分かるほど、文士町における人々の参集は深く、多岐に亘っていると知った。この全貌はまだよく分かっていない。この間も出会った人から浪漫派の詩人田中克己が南口の通りにあった喫茶、ペンギンに入り浸りであったと聞いた。この通りの古書店大地堂にはプロレタリア歌人の渡辺順三いてこの系統の人が集まってきたという。
この大地堂が開店するときに歌人の八代東村が宣伝文を書いてくれたと渡辺順三は書いている。（『烈風の中を』 東邦出版社 昭和３８年）
わが友の渡辺順三の大地堂知るも知らぬも皆来り買え
友人知人はプロレタリア系列である。そういう人々が集ってきていた。が、これは戦前のことで、先の浪漫派の田中克己は戦後のことである。が、当文士町の党派性の一旦を記している。
この大地堂であるが、昭和２１年、「１０月、大地堂を知人に譲って現住所に移る」と渡辺順三年譜にはある、彼は一番街の方に引っ越した。そしてその経営を受け継いだのが「詩人仁木二郎君」であったとい。歌人経営の古本屋は詩人経営になる。文士町らしい変貌ぶりだ。
我々は発足以来下北沢の文士たちの旧居を調べてきた。これには先達がいた。伊藤文学さんの親父さん、伊藤祷一さんだ。
「親父の衣鉢を継いでくれたのはきむらさんだね」
文学さんの言である。その文学さんからは「北沢に住んだ文芸人」という生原稿を戴いている。我等もこれに拠るところが大きい。彼はこう述べている。
大衆雑誌などに，毎号小説を発表している女流作家の藤田澄子さんは，一二二八の新橋荘におられたが，いつか経堂に移ってしまった。藤田さんによらず，功なり名をとげた人たちが，みな他の町へ移ってゆかれるのはまことに寂しい。
我々は、これまでの地図に多くの文化人の居住痕跡を記してきた。それらの人は「功なり名をとげた人」に他ならない。それらの人が住むのは一時のことで時が来ると「みな他の町へ移ってゆかれ」たのは事実である。
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2019年08月23日
下北沢Ｘ物語（3828）―TvDocument：鉛筆部隊と特攻隊の恋―
（一）８月１７日、浅間温泉目の湯で田中幸子さんお別れ会を行った、この日で長期撮影は終了した。デレクターの河野梨奈さんは最後に挨拶をした、「足かけ三年に及ぶ取材でした」と、この間にも多くのドラマがあった。ベテランカメラマンの藤塚隆さんの急逝があってクルーは悲しみに暮れた、遺恨試合のような意気込みで番組は作られた。すでにBPO「放送倫理・番組向上機構」では、テレビ局が薦める「青少年へのおすすめ番組」として挙げている。8月31日(土) 9:30-10:25 テレビ信州 チャンネル４ 「鉛筆部隊〜“あした”を描いた子供たち〜」だ。
「鉛筆部隊と特攻隊」が発刊されて七年が経つ。この間多くの変化があった。
テレビドキュメンタリーが取り上げたトピックはやはり「鉛筆部隊と特攻隊」の伝承である。一つは、地元出版社によって童話化されたこと「僕のお嫁さんになってね―特攻隊と鉛筆部隊の子供たち」（高田充也）、もう一つは、我々の手による劇化「歌物語 鉛筆部隊と特攻隊」である。
信州を舞台としたものだけに地元局はこれを伝えたいという熱い思いがあった。東京へは何度も取材に来ている。カトリック世田谷教会での劇の練習、そして本番、また田中さんの自宅への撮影など、相当な回数になる。
一昨年だったか、田中幸子さんが金沢の出戸軍曹の遺族に会いに行った、このときも同行して取材している。今年６月には鹿児島知覧特攻平和会館で企画展「鉛筆部隊と特攻隊」の展示があった。この見学に私も行ったがそのときにも同行取材している。
前にNHKのデレクターと話をしたときに知覧特攻平和会館はガードが固いということを聞いていた。が、テレビ信州クルーは難無く許可を得て館内を自由に撮影していた。
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2019年08月22日
下北沢Ｘ物語（3827）―皇民化教育と鉛筆部隊―
（一）「柳内先生は私自身よく知っておりました。綴り方教室で有名な『赤とんぼの会』の同人だったからです。腑に落ちないのは先生は『鉛筆部隊』のことは一切語られませんでした。それはなぜだろうか？」と今回、浅間温泉で開かれた田中幸子さんのお別れ会に参加された高田充也さんが言われた。彼は多くの童話を書いている、その一冊が「僕のお嫁さんになってね―特攻隊と鉛筆部隊の子供たち」だ。地元松本在住の彼は、私の本を読んで鉛筆部隊を知って童話化された。高田さんの話を聞いて分かった、柳内達雄先生は、戦後、自らが率いた鉛筆部隊のことは一切封印してしまったようだ。どうしてだろうか？
鉛筆部隊は、戦時中においてセンセーショナルに報道された。それは、昭和二十年五月六日に発売された「週刊少國民」である、これに「神鷲と鉛筆部隊」というタイトルをつけられて記事が載った。中心テーマは、浅間温泉千代の湯にやってきた特攻兵と、ここに疎開していた代沢国民学校の鉛筆部隊との熱い交流である。
「神鷲」、有名なのはレイテ沖海戦で神風特別攻撃隊が出撃し、その戦果が「神鷲の忠烈 萬世に燦たり」と新聞に報じられた。軍歌、「嗚呼神風特別攻撃隊」の三番に「ああ神鷲の肉弾行」と出てくる。敵艦に自らの命を賭けて体当たりをして死ぬ、その者は神になる、「神鷲」は特攻隊を讃える語である。
先の「神鷲と鉛筆部隊」の記事は、こう締めくくっている。
「兵隊さんは散つても体当たりの精神はなくならない。」さうだ。その精神は時代を背負う、少国民の血に流れ続けて、米英の息の根を断ち切らずにはおかれないのです。千代の湯の学童たちは朝に晩に、勇士の思ひ出を語り合ひつつ、神鷲につづく決意を固めてゐるのです。
特攻精神への感嘆とその精神を称揚するものだ。学童たちもまた彼らに続いていってほしいと訴えている、言えば一つのプロパガンダである。
続きを読む
2019年08月20日
下北沢Ｘ物語（3826）―哀惜やら絶賛やら：田中幸子さんお別れ会―
（一）「ふしぎねぇ」というのが田中幸子さんの口癖だった、言えばミラクル、「鉛筆部隊と特攻隊」という歴史の陰にかくれていた逸話は超偶然によって日の目を見た。今回、溝口忠昭さんから戴いた手紙資料にこんな記述があった。「私、昨年末、鳴瀬さんから紹介されたきむらけん様と不思議なご縁、奇遇がありまして」と書かれている。この出会いは２００８年暮れのことだ、その翌年、矢花克己さんによって０９年１月に立川裕子さんの鉛筆部隊の手紙が見つかる、これを端緒として近代戦争史の秘められた逸話が一気に解明されていく。その過程に起こったことはまさに「不思議」以外の何ものでもない。
今回溝口忠昭さんが仙台から来られたが、言えば「鉛筆部隊諸事象記録家」と言ってもよい方だ、「鉛筆部隊」関係の資料を集め、記録されておられる。彼は今野家を訪問し、ここにあった資料をPDF化しておられる。その中に知覧特攻平和会館初代館長の故板津忠正さんが田中幸子さんに宛てた手紙が数通ある。
共に物故されたが二人は特攻を通して深い親交があった。板津さんが田中さんに送った手紙を読むと交流の深さが分かる。私も田中さんを通して特攻関係の情報を板津さんから戴いている。
これらの手紙を見ているとその一通に興味深い記述があった。
特攻を題材とした映画「ホタル」を撮ったのが降旗康男監督だ。板津さんは名古屋で監督と会って話をした。
監督の出身が長野県浅間温泉地内、私（監督）が十歳のときに千代の湯で兵隊さんに会ったと云われ、それは私（板津）と同期生の特攻隊員であった事を話すと監督は吃驚して、知覧に行くまで特攻の映画を監督するなど考えた事も無かったものが、最終的に強烈にやる気になったのはこんな結びつきがあったのだろうかと述懐されておられた。
千代の湯には六人の特攻兵がいたがそのうちの時枝宏軍曹は板津さんと同じく、米子航養14期生だった。監督の家は代沢国民学校が分宿していた旅館の一つ井筒の湯の隣にあった。ここで代沢校の女子学童を見かけて、「東京から来た女の子はだれも白いふっくらした頬をしていた。私にはまるで外国人に見えて仕方なかった。」（『松本平タウン情報』第六号「私の半生」降旗康男 一九九九年）と述べていた。これは代沢校の女子だとは知っていたが、監督と話した特攻兵が千代の湯の六人だというのは初めて知った。
「我々は国の礎になるんだよ。その礎の上で君たちがしっかり生きてくれればいいんだ。頼んだよ」と言った。澄んだ目がいつまでも私を見つめていた。
特攻隊は２０歳から２２歳の人たちがほとんどで、若い命を生身のまま敵陣へ注いでいった。
私たちと話をした翌日、「井筒の湯」の庭の上すれすれに低空飛行していく特攻隊の姿を私は見た。
白いマフラーをなびかせて手を振るのがよく見えた。「井筒の湯」の窓からは芸者さんや仲居さんたちも手を振っていた。
私たちは手を振りながら、若い兵士の言葉を何度も何度も思い出していた。
『松本平タウン情報』第六号「私の半生」降旗康男 一九九九年続きを読む
2019年08月19日
下北沢Ｘ物語（3825）―浅間温泉：田中幸子さんお別れ会―
（一）鉛筆部隊同窓会を毎夏、浅間温泉で開いている。中心人物であった田中幸子さんが４月５日に亡くなられた、享年８５歳、今度の集まりをお別れ会として１７日に浅間温泉目の湯で開催した。徳島、仙台、静岡、山梨、東京、また長野各地から彼女を慕う人が集まって彼女を偲んだ。我等は彼女の死を通して人生を学んだ、恋心は歳を取らないということを知った。人間、死ぬまで誰かを思慕して生きる、それが生きる活力となる、彼女からはエネルギーをもらった。自身は「彼女がいなかったら四冊もの長編ノンフィクションを書かなかったろう」と述べた。「特攻兵を恋し続け、想いつづけて、死す」、改稿新版として出される「鉛筆部隊と特攻隊」には扉に、この献辞を載せたいと弔辞では約束した。
例年のとおり、特急あずさで松本に向かった、鉛筆部隊とあずさ、切っても切れない関係となった。浅間温泉を最初に取材に訪れたときもこれに乗った。田中幸子さんが案内してくれた。次が武揚隊の遺墨が見つかったときだ、このとき初めて目の湯旅館に泊まった。武剋隊将校が滞在していた温泉だ、本が発刊された２０１２年の終戦記念日８月１５日、市立松本博物館で「鉛筆部隊と特攻隊」の講演を行った。このときに関係者が目の湯に集まってきた。これが鉛筆部隊同窓会の始まりである。今夏で８回目となった。
毎回顔ぶれが少しずつ違ってくる、鉛筆部隊物語は終わらない、そのときそのときに新しい出会いがあって、新参の人が現れる。今回も二人参加された。一人は、仙台から来られた溝口忠昭さんだ、溝口姓は長野県に多い、彼もやはり長野県出身者だ、仙台在住だが本によって近いところに今野達郎軍曹の生家があると知って何度も訪ねられた。今野軍曹は田中さんに告白した兵だ、溝口さん田中さんから今野家に送られてきた手紙を手に入れた。これらには彼女のプライベートなことが書かれている。彼女を考える上で重要だと思い今回は改稿新版にこの手紙を引用した。
溝口さんは「特攻隊と鉛筆部隊の子どもたち」（資料集）をまとめている。簡単に言えば「鉛筆部隊関係事象」の記録者だ、これもまた得がたい人だ。
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2019年08月17日
下北沢Ｘ物語（3824）―弔辞：田中幸子さんに感謝をこめて―
今日８月１７日は、浅間温泉の目の湯で鉛筆部隊田中幸子さんのお別れ会を開催する。天内みどりさんが弔辞を書いてくださったのでその全文をここに掲載する。天内みどりさんは旧姓木村みどりさん。矢花克己さんが山梨県護国神社の骨董市で立川裕子さん所有の手紙の束をみつけた。この中に立川裕子さんがみどりさんに書いた手紙が入っていた。代沢国民学校の学童だった木村みどりさんは縁故疎開して福井に行っていた。そこから更に父親のいる満州に渡った。この苦難の帰国譚は「芙蓉の花」にまとめられている。結局みどりさんへの手紙は届かずに束に残っていた。これを『鉛筆部隊と特攻隊』に載せた。みどりさんは自分宛の手紙を本の記述に見てびっくりした。
この経緯については、2014年09月15日 デイリー東北に新聞記事として載った。
タイトルは「６８年の時を越え、友の手紙が手元に」だ。左の青い箇所をクリックするとリンク先の記事に行き着く。
この天内さんの弔辞は、鹿子木真理子さん（ご主人が故鹿子木幹夫さん、元鉛筆部隊隊員）が今日代読をする。
田中さちこさんに お別れのことば
田中さちこさんに感謝をこめて
毎日のように電話を掛け合って過ぎ去った日々の思い出話を語り合っていたのにあなたは私に耐えられない淋しさを残し遠いところに行ってしまわれました。
「私膵臓ガンのステージ四ですって、一切のガン治療をお断りして今帰ったところなの」返す言葉のあろうはずはありません。「お電話ありがとうね」と言ったのは本心でした。大切な心をくださったと思いました。
「宅配のお弁当も頼んできたし、尊厳死協会への登録も済ませたし、後は横になって思い出に浸っていればいいだけ」
田中さんがご自分で選んだ命の終着です。
「そうたのし思い出に不足はないものね、お風邪を引かないように
これだけを言うのが精一杯でした。
ガン治療拒みてひとり遠く住む友を励ます言葉を持たず
四月四日お昼頃「田中です」という電話の声に私はすべてを察することができました。 私は病状については一切触れず矢花さんが見つけてくださった立川裕子さんの手紙が私とあなたとを結びつけてくれたのよね、それは奇跡のような話よねと物語めく話をたのしそうに話しました。
矢花さんが鉛筆部隊からきむらけんさんに行き着いたこと、鉛筆部隊を偶然のことから私が読んできむらけんさんお電話を入れて、そのことから二人の絆が結ばれたこと、何回も二人で話しあったこの一連の話を最後の電話で明るく楽しげに語り合いました。
そんな御縁で生まれた矢花さんときむらけんさんと三人で知覧に行ったこと矢花さんと松本に行ったこときむらけんさんと八戸にいらしたこと、これらたのしかったことを再度告げつつ、とても幸せだったと話されました。
そして最後はやはり松本での特攻兵との出会いでした。十二歳では受け取れなかった今野さんの心をロマンチックに受け入れていられる田中さんをうれしいと言うよりありがたく思っておききしました。
「本当は私は太平洋に散骨してほしいの」
という最後の言葉に十二歳から八十五歳まで温めてきた田中さんの純粋さに胸を打たれました。
「八戸で写したあなたのお写真を海に流してあげるから」この言葉を明るく伝えて
「あまりしゃべりすぎてお疲れになったでしょう。少し休みましょうね」と言って電話を切りました。
お見舞いに伺わなくてごめんなさい。わたしはあなたの人生から多くのことを学ばせていただきました。
矢花さんときむら先生への感謝のお気持ちたしかにお伝えしました。
私の電話を最後にお亡くなりになったことを翌日の電話で知らされました。田中さん最期のお電話をありがとうございました。
矢花さんときむらけんさんと三人で八戸へ行きたかったと言われたあなたのお心をしっかり胸に留めておきます。
天国で立川裕子さんとたのしく話をされている田中さんが浮かんできます。浅間であなたのお別れ会が催されることを伺っています。
田中さん あなたは幸せだったと思ふことでこの孤独感に耐えてまいります。どうぞ安らかにお眠りください。
令和元年六月三十日 感謝をこめて 天内みどり
（写真上は、田中さん、矢花さん、私とで知覧に行ったときのもの。下は、八戸から天内さんがこられたときのもの。左から矢花さん、わたし、天内さん、田中さん、松本さん）
＊浅間温泉目の湯で１６時から一時間程度、お別れ会を行う。献辞二本、参会者は遺影に花を捧げる、その後、田中さんを巡って参会者で話をし彼女を偲ぶ。
2019年08月16日
下北沢Ｘ物語（3823）―改稿新版「鉛筆部隊と特攻隊」―
（一）「鉛筆部隊と特攻隊」、初版発行時には大きな反響があった。七年経過した今、静かに鉛筆部隊現象が起こっていたと感ずる。各種新聞書評での評価、テレビ番組での紹介（奇跡体験アンビリバボー）、ラジオでの紹介（ラジオ深夜便）、ドキュメンタリー番組の制作（テレビ信州）、童話化（「僕のお嫁さんになって」高田充也）、碑の建立（長野県護国神社特攻勇士の像）・（疎開学童寮歌碑）、知覧特攻平和会館での企画展の開催（鉛筆部隊と特攻隊）市立松本博物館での一連の遺品展示（戦争と平和展）などがある。反響の大きさを示したものである。改稿新版が求められたのもこれら反響の大きさからである。
改稿新版では、記事の取捨選択を心掛けた。まず、あってもなくてもいいようなものは削ることにした。説明がくどい場合は文言を削ったり、わかりやすい表現に変えたりした。一番は最新の知見を挿入したことだ。
改稿新版には前書きと後書きを加えた。前書きの標題は、「鉛筆による近代戦争史の発掘」とした。
手元に『伝えたい私たちの戦争経験』−平和への祈りをこめて−（発行松本市平成２０年）がある。戦争中に松本陸軍飛行場の庶務課に勤めていた人の証言が載っている。「仕事は、飛行機を直す整備兵がどこの格納庫に何人いるか、という日報を書くこと」だったと。各部署では飛行場に関する記録が日々取られていた。
各部署では日報に記録が取られていた。何月何日の何時何分に戦闘機や爆撃機が着陸したこと。機種や機数もまた、離陸関係のこれも記録されていた。が、これらの日報は八月十四日に焼却命令が出てことごとく焼却された。
鉛筆部隊の調べから松本浅間温泉に多数の特攻兵が宿泊していたことを知った。全国各地から飛来してきていた。国内ばかりではなく満州からも来ていた。玉ノ湯、湯本館、梅の湯、富貴の湯、目の湯、東山温泉、小柳の湯、椿の湯など彼らが宿泊していたことは疎開学童の証言から分かっている。
昭和二十年二月から沖縄特攻に向けて多くの特攻機が飛来してきた。当然のことながらこれらの記録も飛行場では取られていた。しかし、GHQからの追及を恐れすべて燃やしてしまった。これによって事実は失われた。
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2019年08月14日
下北沢Ｘ物語（3822）―戦争の夏、鉛筆部隊の夏―
（一）この八月、私は鉛筆部隊に染まっている、まずは８月に入ってエフエム世田谷の番組で「区長の談話室」が放送された。タイトルは「歴史を学んで平和を考える」で、世田谷区長保坂展人氏との対談を行った。放送が終わって世田谷区のホームページで全文が公開されている。話題の中心はやはり鉛筆部隊だった、この１７日には四月に逝去した鉛筆部隊の田中幸子さんのお別れ会を浅間温泉で開催する。また、ずっと密着取材を受けていたのが鉛筆部隊だ、これが完成し、８月３１日に「特攻兵が託した未来 鉛筆部隊が継承74年」という題で地元で放映される。私自身は、今「改稿新版 鉛筆部隊と特攻隊」の発刊に向けて、校正に全力を傾注し取りかかっている、まさにこの夏は鉛筆部隊漬けである。
著作の初版が発刊されたのは２０１２年７月だ、もう七年が経つ。
発刊当初、多くの新聞書評で取り上げられた。その一つだ。
◆「インターネットが見知らぬ人々をつなぎ、一つの戦争秘話が明らかになった。1945年、長野県の浅間温泉に滞在していた特攻隊員たちと、「鉛筆部隊」と呼ばれた疎開学童たちとの交流。その発掘のプロセスを書いたのが本書だ」（「あとがきのあと」『日経新聞』読書欄 2012.8.19付）
ネットによる情報交換は大きい、ランダムに「見知らぬ人々」が繋がった。ひっそりと隠れていた情報がネットによって結び合わさった。例えばお母さんの箪笥の中や土蔵の棚などに眠っていたものがネットによって日の目をみることになった。
インターネット検索によって眠っていた戦争近代史が日の目を見たと言える。
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2019年08月13日
下北沢Ｘ物語（3821）―文士町文化地図感動物語―
（一）我等が作っている地図がある、「下北沢文士町文化地図」だ、これの初版発行は２００６年１２月２５日だ。この時の名は、「下北沢鉄道X交点文化地図」だ、以来改訂に改訂を重ねてきて今では第七版となっている。改版作業は地味なものである。この十数年文化人の居住跡などを一つ一つ調べ上げてきた。この地図は地域ではとても重宝されている。先だっても直接電話があった。自分が持っている貴重な一枚を尊敬している牧師さんに差し上げた、あんまり地図がよくできているので驚かれたという。「一枚ありませんか？」という問い合わせだ、「現在第８版発行に向けて準備しています」、「ああ、ぜひほしいです、こんな地図はどこにもありませんもの」と。「はい、この七版地図は、世田谷区のホームページで公開されていますとりあえずこれを見て」と。今日は地図にまつわる感銘深い話を一つ。
先だって、見知らぬ人からコンタクトがあった。神奈川件藤沢市在住のIさんからである。送られてきたメールはこうはじまる。
私の知人の女性が若い頃、山梨県から事情があって妹と上京した際に、大庭幸子さんのお宅に下宿でお世話になり、懐かしいので、いつか其処を訪ねてみたいとのことです。
女流作家大庭さち子は世田谷代田二ノ六九八に居住している。文士町文化地図では主には作家旧居をみつけてこれをマークしている。これが役だったようだ。手紙は続く。
その為、私が何回か世田谷区の中央図書館に足を運んで、1986年版の詳細地図で、本人のうる覚えの代田や北沢付近の地図を眺めていました。
先日、図書館で親切な係の方から、「北沢川文化遺産保存の会」のことをお聞きしました。
その際に、いろいろ調べて戴きながら、2017年3月31日発行の地図や「下北沢文士町文化地図(改定七版)」の地図と付き合わせて、大庭幸子さんがお住まいになっていた場所がほぼ分かってびっくりするやら、嬉しいやら、とても喜んでおります。
地図の改訂作業は地味である。しかし、意義ある、意味あることとして行っている。このことが評価されることはとても嬉しい。
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2019年08月11日
下北沢Ｘ物語（3820）―夏の定番へ：広島にチンチン電車の鐘が鳴る―
（一）戦争経験、被爆経験の継承が困難になっている。若い役者などでは戦争物は嫌だという人もいると蒔村さんが言っていた。長年彼女は「広島にチンチン電車の鐘が鳴る」を演じてきた、彼女は原爆で多くが犠牲となった広島二中（現観音高）出身で被爆経験を伝えることを使命としてきた人だ、今回久しぶりに会って思ったのは彼女が語り部になっていたことである。今回は五人による群読だ、彼女以外は若手だ、「普通の会話では伝えられませんがセリフだと、その場面の様子だとか、雰囲気だとかを言葉で伝えられます」、彼女は劇を通して若者に戦争を伝承していた。原爆はどう転んでも悲惨だ、が、絶望的な中、壊滅的な被害を受けた中で３日後に電車が動いたというのは希望である。これを何とか作品化したい、その熱望があって作品となった。
作品の発刊が１９９９年だ、もうかれこれ２０年も経つ、広島電鉄家政女学校の人には何人も会った。やはり多くの方が物故された。
その一人、新谷ヨシ子さんに２００７年に会った。
「八月九日の日でした。わたし達は井口の実践女学校に避難していましたが千田町の電鉄本社の後片付けをするというのでトラックに乗せられました。その荷台から見たことはあまりにも惨たらしくて今まで人には話せませんでした」
「吹きさらしの荷台からはなんでもよく見えました。ずっとどこまでも焼け野原が続いていました。臭かったですね。煙とそしてものが腐った臭い。ひどかったです。あっちこっちで死体を焼いていました。人を焼いているにおいがどこまで行ってもしていました。広島は川が多いでしょう。幾つも橋を渡っていくんですよ。そのとき川面が全部見えるんですよ。何でも見えてしまうんですね。みんな死体がぷかぷか浮いているんです。川が全部埋まっているんですよ。馬もいましたし、牛もいました。人間様は胴体が真っ白なんですよ。何百、何千といたと思います。」
「それで今度は市内に入っていくと道路沿いに髑髏がならべられているのですよ。縁石のところにずっと並べられているんですよ。あの、鼻が一つ目が二つ、穴があいとるんですよ。胴体の骨はもう焼かれているから分からないんです。道路の両脇にそれが並べられていて、そこを通っていくんです。どこまでも続いていくんですよ。」
髑髏が左右に並んだ道がどこまで行っても続いている。その光景を彼女は六十三年間誰にも語らず心の中に持ち続けていた。彼女は広島の山間部で田を耕して暮らしていた。折々にその光景が夢に現れてくるらしい。身体だけでなく精神も被爆した。
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2019年08月10日
下北沢Ｘ物語（3819）―公演：広島にチンチン電車の鐘が鳴る―
（一）昨日９日、青山で原爆忌公演、「広島にチンチン電車の鐘が鳴る」があった。開幕時の工夫がある。舞台上の椅子に原作が椅子に飾られスポットライトを浴びている。まるでページをめくられるのを待つようだ。十数年変わらない演出だ。この本の装幀については逸話がある。当初、被爆した電車をスケッチしたものにしたいと、著名な挿絵画家の名が示された。が、私は断った。そして同意したのは６５０系電車の一台をスケッチした表紙だ。終生忘れがたい本となった。読売新聞の書評では「ヒロシマの悲劇をテーマにした児童文学はいくらもあるが、大人にこそ読んでほしいと思わせる作品はそう多くない。戦争が嫌いで電車が好きな人に、本書は忘れえぬ一冊となるだろう」と評された。発刊は１９９９年１２月、間もなくで２０年となる。
２０００年を迎える怖さがあった。そうならない前に広島原爆の惨劇を書いておきたかった。関連書籍、地図など部屋は足の踏み場もないほどだった。惨状を写した写真が散乱していた。そういうものに取り囲まれて寝ていた。
開けても暮れても眺めていたのは地図である。とくには電車路線図だ。広島市内の最も重要な交通機関だ。広島に原爆が投下された当時、人々は電車の路線図を基軸にして広島を捉えていた。
「宇品とか、己斐とか紙屋町とか電停名がたびたび出てきたでしょう。一つ一つの名が懐かしいのですよ」
昨日、鹿子木真理子さん、伊藤真理子さんも来ていた。彼女はずっと広島暮らしだった人だ。言われるとおりこの電停名にはこだわった。
物語の中での主役は広島電鉄家政女学校の女生徒だ、年端のいかない若い娘が車掌、運転手を務めていた。彼女らの世界は路線図が基軸であった。
「うちの恋は恋でも袋小路じゃ」
こんな冗談も己斐、そして袋町という電停名とを引っかけていた。ところがこれも時代時代で名が変わっている。それで何度も図書館に通ってはやっと「広島電鉄市内線参考路線図」を作った。これを本の裏表紙に載せたことだ。
広電家政女学校の藤井照子さんとは広電本社で出会った。そのときに印象深かったことは、電車の型式をつねに数字番号で言われたことだ。〇〇系電車だと。話を聞いて分かったことは、電車型式によって運転の仕方が違う、そのために一つ一つを区別して覚えていなくてはならなかった。
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2019年08月08日
下北沢Ｘ物語（3818）―謎？：代田の鉄塔下の兵士たち―
（一）戦時記録はあやふやだ。敗戦が決定したとたん公文書焼却の命令が出された。とくに軍事関係の書類は徹底して燃やされた。どの部隊がどう移動したか分からない。例えばこういう例がある。昭和２０年５月に山の手空襲があった。「通称タンチ山に新設された高射砲陣地が猛烈な射撃を開始した。駒沢のこの高射砲は、本来は海軍の高射砲で、陸軍のそれに比して口径が大きく有効射程が九千メートルもあるという噂だった」（注）と記録している人がいた。しかしこの陣地は一切の装備を日本海側に運んだ、４月には伏木港防衛に就いている。５月駒沢陣地はもぬけの殻、砲を撃っていたのはタンチ山の狸に違いない、駒沢高射砲陣地の指揮を執っていた故内藤悌三氏はB２９にはほとんど当たらなかったと、「海軍の高射砲」はまるっきりのデマである。
不明だった一枚の写真がひょっこり出てきた。世田谷代田二丁目の小谷孝さんにもらったものだ。この兵隊たちは何隊なのか、写真は何時撮られたのかは分からない。
この一枚については情報は何もない、これを手がかりとして歴史を推理してみる。
1、小谷孝さん所有のものであるから家の敷地内か、あるいは近くで撮られたものだと考えてよい。
2、上空に高圧線が通っている、線が１１本まで数えられるのでこれは駒沢線に違いない。（駒沢線は１２本）
3、線が斜めに走っている、右手の方が低く、左手が高い。とするならここから鉄塔の号数が特定できる。左上にあるのは６１号鉄塔で右下にあるのは６０号鉄塔である。
4、３の分析からすると６１号鉄塔と６０号鉄塔の間にある崖、崖線の途中で撮ったものである。傾斜を利用していることがわかる。かなりの斜度である。
この傾斜は今も残っている、やはり小谷家あたりの崖で撮ったものだろう。
5、ここは昭和２０年５月２４日の空襲で焼かれている。このそばにあった萩原朔太郎邸は焼失している。一帯には家があったが皆やけた、更地になった崖で撮ったと推定される。
とすると、撮影年月が分かってくる。昭和２０年５月以降か？続きを読む
2019年08月07日
下北沢Ｘ物語（3817）―世田谷代田鉄塔下の兵士たち―
（一）また巡ってきた戦争の夏、昨日６日は広島原爆忌、９日は長崎原爆忌、１５日は終戦記念日、日にちを並べてみると敗戦までの経過が分かる。二発の原爆投下が終戦への契機を作ったことだ。本土決戦を唱えていた軍部も原爆の威力を知って即座に白旗を上げた。戦争末期においてはほとんど勝ち目がなかった、が、メンツによる強がりで最後の最後まで戦うと宣言した挙げ句の降参だ。軍人の誇りのために何十万という国民が犠牲になった。国家は体裁を重んじて人民を顧みない。「竹やりがなかったら敵の金玉を蹴り上げるんだ」という漫画チックな戦意高揚をも叫んでいた。先だって、エフエム世田谷で流された区長との対談で戦争について感想を求められたとき、こう答えた。「いざ戦争となると人間が人間でなくなる。命は毛ほどに軽くなり、軍隊では虫けら同然に扱われ、果ては人間が武器の代わりに使われるようにもなる」と。
ブログにどんな記事を書くか？常に考える。この間の研究大会の記録の稿起こしもある、これは気合いを入れて作業せねばならぬ、「ちょっとこれはやめて」と思って資料箱を開けた。と、「FUJIFILM」という袋が目についた、「何が入っているのか？」と思って開けた。「ありゃあ！」と思った、だいぶ前から捜していたものだ。
大体が自身は整理がよくない。資料の入った段ボールが部屋の隅に三四箱転がっている。資料大海だ、ここに沈んだらもう絶望的だ、「あれはどこにいった？」と捜すが、まず見つからない、捜そうと思わないで捜しているとこれがひょろっと出てくる。今回もそうだ。
物は何か？写真である、だいぶ前に手に入れたものだ。袋には９月１１日と書いてあるが何年かはわからない。が、推測するに２００７年頃ではないかと思う。世田谷区のホームページをチェックして調べてみる。
代田の丘の61号鉄塔
第2回地域風景資産選定（平成19年度）
東京電力の鉄塔のひとつである代田の丘の61号鉄塔のすぐ下には、昭和8年頃、詩人の萩原朔太郎が家を建てて住んでいたということである。その娘葉子の小説にも鉄塔が描写されるなど、文学にゆかりのある貴重な資産となっている。
この鉄塔を世田谷区の地域風景資産にするために動いて時期に間違いない。この塔の地主が小谷孝さんである。小谷実可子さんのお父さんだ。この孝さんのところには何度も行って話をしたことがある。
「うちに写真がある」
「えっ、それは見たいです」
持ってこられた写真を見た。目を引いたのは数十人の兵隊が駒沢線の下で撮っている一枚だ。小谷さんはこのときに説明をしてくれた。ところがそれは覚えていない。
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2019年08月05日
下北沢Ｘ物語（3816）―代沢小１４０周年と下北沢の文化２―
（一）下北沢鉄道交点の界隈を歩きまわっては話を拾い集めた。代沢小にまつわる逸話は数知れない。戦時中のことだ。ある日、着物姿の女性が教室につかつかと入ってきた。そして開口一番「明日から官邸に参ります」と言ったという。夫の東條英機が首班指名を受けて北沢を去ることになった。かつ子夫人は子どもが通っている代沢小にお別れを言いにきた。勝ち誇った顔が思われた、一方、北沢四丁目では「そこにあった長屋でひっそりと息を引き取られたのですよ」と聞いた。かつ子夫人の最期である。一帯には近代史の陰翳がひっそりと眠っている。
「加藤楸邨さんの句に、『転校の子に泣かれる雪の中』というのがあるのです。これは代沢小に通っていた息子さんのことを詠んだものです、代沢の勉強が進んでいて追いつけないので泣いていたというのです。息子さんが二人居られて共に代沢に通っておられたのです。一人が加藤穂高さんでこの人も鉛筆部隊だったのですよ」
聞かれるままに話した。代沢小にまつわる逸話は数知れない。
「代沢小を卒業して下北沢でコックをやっている子がいるんだけど、お爺さんが文学方面では超有名人、だけど彼はそれを知られたくないと言っていたな」
その生活は赤貧洗うが如しだった。この話は伊藤文学さんから聞いた話、この彼も代沢小出身だ。
亡くなった東條由布子さんも代沢小出身だろう、彼女は富士中に進学した。生前彼女に代沢の東條英機邸を案内してもらった。
「富士中通っているとき少し廻り道をしてかつての家の前を通りました。いずれは邸を取り返そうと思いながらね……」
この東條由布子さんは高校を出て、第一生命日比谷本社に就職した。家は代田一丁目、このあたりは工場が多くあった、二階は男子独身寮だった。彼女は家を出て駅へと向かう。すると二階の工員たちが、ピィピィと口笛を吹いたという。
「あれはとても嫌でしたね」
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2019年08月04日
下北沢Ｘ物語（3815）―代沢小１４０周年と下北沢の文化―
（一）代沢小が創立百四十周年を迎えるという。これを聞いて恐ろしく思った、創立百二十六周年のときに感想を書いた、偶然これをネット検索で見つけた人がいてコンタクトを取ってきた。「遙かな歴史への旅に導いた」のはこの問い掛け、物語『鉛筆部隊と特攻隊』の幕開けである。今日の昼、エフエム世田谷で「区長の談話室」が放送されたがこの話が中心だった。創立百二十六年から瞬く間に時が経って今度は創立百四十年を迎えるという。周年記念誌を発行するに当たって協力を求められた。８月２日、学校を訪れ、編集担当のお二人の先生に問われるままに語った。言葉は自分を映し出す鏡だ、気づいて見ると代沢小の歴史に関わって自分が文化活動をしてきていた。
「これまでにない記念誌を作ろうと思います」
最初に西山享洋先生が言われた。読んで楽しいものを企図されているようだ。それで「代沢小学校と地域との関わりや、歴史をコラムとして記載したい」とのこと。具体的にはこうだ。
テーマ） □えんぴつ部隊
□みどり楽団と安部圭子さん
□坂口安吾の碑
□代沢のまちと文豪
□せせらぎの成り立ち
□代沢の歌
この項目を目にして驚いた。ほとんどが自分達が行ってきた文化活動に関わる事項であった。これらは個別個別に関わってきた、こうやってトピックが並べられると、いかにこの学校と深く関わって活動をしてきたかが分かる。
依頼があったときに、「代沢の歴史、文化に精通させれていらっしゃる、きむら先生からご指導を賜りたいと考えました」とあった。面はゆい気がした。が、気づいてみると当地一帯の「歴史、文化」をやみくもに調べてきていた。
「お二人の先生は非常に熱心でした、聞き漏らさないようにとメモをしっかりと取っておられました。何か講義をしているような思いを持ちましたよ」
帰り際副校長先生が出てこられたときに私はこう答えた。
学校の先生は、移動で順次入れ替わっていく。土地の文化に慣れ親しむ間もなく転勤していかれる。
「いや、そういうことは知りませんでしたね」
話を聞いていた先生が言われた。
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2019年08月02日
下北沢Ｘ物語（3814）―会報第１５７号：北沢川文化遺産保存の会―
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「北沢川文化遺産保存の会」会報 第１５７号
２０１９年８月１日発行（毎月1回発行）
北沢川文化遺産保存の会 会長 長井 邦雄（信濃屋）
事務局:世田谷「邪宗門」（水木定休）
155-0033世田谷区代田1-31-1 03-3410-7858
会報編集・発行人 きむらけん
東京荏原都市物語資料館:http://blog.livedoor.jp/rail777/
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１、あれから７４年、戦争の夏再び
八月に入ったとたん戦争に関わる記念日が連続する、６日広島、９日長崎、両市での原爆忌に続いて１５日は終戦記念日だ。戦争から７４年、多くの戦争体験者は高齢化し、戦争を覚えている人は激減する一方だ、体験者の彼らは「何があっても戦争はするな」と我等に伝言を伝えた。あの戦争で言い知れぬ苦労を背負ったからである。国民のすべてが戦争は懲り懲りだと思った。ところが「喉元過ぎれば暑さ忘れる」、戦争での悲惨な経験は時が過ぎて、あの苦しみや痛みが忘れられつつある。それで現国家は軍事設備を増強し、事あらば即時に対応しようという方に傾きつつある。他国が攻めてくるというのは為政者の常套句だ、脅威を煽ることで軍備を増大させる。人間は装備を持つと使いたくなる。ささいなことから戦争は始まる。やはりどうあっても戦争への道はたどってはならぬ。
・当会関連の戦争イベント 放送劇など
�．┘侫┘狎づ鎮�区長の談話室
１、 放送日時 令和元年８月４日（日）（再放送：８月１１日（日）
いずれも１１時３０分から１２時（３０分番組）
２、テーマ 歴史を学んで平和を考えよう
３、ゲスト 作家 きむらけん氏
４、保坂区長とゲストが、平和について語り合う
○「鉛筆部隊と特攻隊」これをめぐる話を保坂区長と対談した
エフエム世田谷はネットでも聴くことができる。
�◆惺�島にチンチン電車の鐘が鳴る』
作：きむらけん 構成・演出：蒔村三枝子
時 2019年8月9日(金) 14時開演 ＊開場は開演の30分前です。
○会場 南青山マンダラ
○ 出演 救仁郷 将志 水沼佐和子 吉田直弥 薄井啓作 蒔村三枝子 .
○チケット 3800円(1ドリンク付) . .
チケットの予約お問い合わせ ０９０−４００４−１４９３ ラ・ベジブル
�１�筆部隊田中幸子さんお別れ会
○日時 ８月１７日 午後１６時から ○場所 浅間温泉目の湯旅館
４時から始める。弔辞 きむらけん 天内みどりなど
この後に遺影に花を捧げ、田中幸子さんについて語り合う
お別れ会の後６時から会食
＊参加について、お別れ会だけでも構いません。会食の参加、宿泊希望は
きむらけんへ k-tetudo@m09.itscom.net ０３−３７１８−６４９８
�ぅ疋�ュメンタリー番組 「鉛筆部隊と特攻隊」
足かけ三年亘って取材を続けてきたものだが、この８月末に放映されるとのこと。
日時不明 テレビ信州
＊注 「鉛筆部隊と特攻隊」は新版が発行されることが決定した。
２、第５回「北沢川文化遺産保存の会」研究大会（感想）
７月２７日 梅丘パークホールで開催した。テーマは「世田谷代田の歴史文化を語る」である。当日、保坂展人区長も駆けつけてくださって、挨拶をされた。我等の会の活動については熟知されている、長年の活動に対しては敬意を持っておられた。
研究会の参加者に感想を書いていただいた。
午前、午後の丸一日純粋に文化漬けだった、それでも数名の方は飽くことなく熱心に耳を傾けられていた。その一人、高橋哲也さんの参加動機は郷愁である。
学生時代（１９７７〜８１）に代田宮前橋に住んでいました。最近環七開通前の地形図を見る機会があり、当時の商店街の大きさ、長さに驚きました。
新しくなる世田谷代田（駅）の再生を見たい。＊告知はFacebookで見ました。
実は当方、Facebookで広告を打った。支払ったのは１０００円ぐらいだ。世田谷区内で行われる催しもの告知をメルマガに出していたが、ほとんど効果がないので出稿しなくなった。Facebookの方が効果あるようだ。
地元住民の本橋美智子さん、前の方で熱心に聞いておられた。
代田に住み７０年、興味深く昔昔の話を聞かせていただきました。おもしろかったです。
代田の歴史は面白い、世田谷文学館友の会の幾田充代さんはすっかりダイダラボッチファンになったという。つぎのような方もおられた。
長年この地域で活動させて戴いていますが、ダイダラボッチの話を直接きむらけんさんからはじめて伺うことができました。
巨人に思いをはせ、古代人の考え方を想像し、それらの何らかが生活している地域の歴史と結びつけて考える。自らの地域により大きな関心を持ち、より深い愛着を感じる貴重なきっかけとなると思いました。
私が生まれた野沢のにも鶴ヶ久保公園があり、足跡の一つだと知りました。近いうちに見に行こうと思います。ありがとうございます。
衆議院議員 越智隆雄
ダイダラボッチを通じて代田の歴史を知ることができました。
鉄道の歴史や代田が竹の子産地であること。また世田谷村役場がヤマダ電機になったこと。根津山が大斎田さんの建替資金の分譲地など非常に興味深い話が聞けました。
このような研究や歴史の伝承ができる会を続けてください。 北島寿信
ダイダラボッチは代田の歴史の起点になるものだ、これ今の代田に繋がっている。代田の今日の変化については午前の講演、柳下隆さんがみっちりと、よどみなく語られた。三土代会の重鎮だが得がたい人である。
この会は始めて参加しました。私は障害者ですけど世田谷の町はバリアフリーでないところもありますので考えてほしい。歴史は勉強になりました。また参加したいと思いました。橋本俊明
地元池尻の人間としては隣の代田の話は面白かった。水利がよくない、雑穀しか採れないというのは世田谷全体の共通の問題で、代田の話で明治以前の世田谷の風景が浮かんでくるようだった。
途中都合できむらけんさんのときむらたかしさんの話が聞けず残念でした。
谷亀さんの話も途中からしか聞けなかったが、駅前広場の話は重要な問題で、都市計画家、建築家を含めての話あいがあればと思う。 上田暁
私達は代田の町の発展、お客様の地元の発展に協力します。
信濃屋食品 長井邦雄
本会の研究会としてはかつてない程の充実したテーマで行われたと思います。
代田の町に根ざした話も充分に聞いた気分です。（匿名）
代田地区の歴史を知ることができて町を見る目が変わりました。歴史というものの大切さを実感し、これからは今と未来だけではなく過去に目を向けてみようと思いました。 高安航世
今日は非常によい会を聞かせていただいてありがとうございました。皆様と幹事様ありがとうございました。
縁があって玉川上水を歩く会に去年までの二年間、出回っていて、今年のはじめに世田谷から渋谷−新宿−四谷大木戸四谷門まで研究させてもらったが仙川北沢川に取水口が１００メートル以内にあったのはびっくり、今思うにその取水口が森厳寺川にもダイダラボッチ川にあったのは驚きでした。今後もこのような会を続けてください。
それと会の活動に若い人や大学生が入るようなことがあったらいいと、それと拠点をつくるといいかもと思いました。 渡辺篤孝
重要な指摘だ、歴史文化の伝承をするには若い人達の参画が必須だ。彼らをどうやって入れていくかだ。一つのアイディアだがダイダラボッチ案内ボランティアを養成したら？
◎課題：我等の研究大会は地元に定着してきた。高度に文化的な催しとなってきた。大きな変化はまちづくりへの提言がなされるようになってきたことだ。ゆえに研究会の継続開催は望まれることだ。しかし、規模が拡大してきている。現状の体制で運営していくには困難さがある。第六回を開催すべきなのだろうか？どんな工夫をしたらよいのか？
３、都市物語を旅する会
私たちは、毎月、歩く会を実施している。個々の土地を実際に歩き、その土地の文化を発見して楽しみながらぶらぶら歩く。会員外も参加は自由だ。 基本原則は、第三土曜日午後としている。１３時に始めて約３時間、終わり時間の目安を１６時頃としている。
第１５３回 ９月２１日（土）１３時 京王線初台駅
「春の小川 河骨川・宇田川を歩く」 案内人 梶山公子さん
コース：京王線初台駅・南出口地上集合（13：00）→玉川上水の川跡→河骨川水源� 塀藺罍叡�目・山手通り脇）→河骨川水源��(代々木４丁目・旧「山の内邸」の池)→水源�，鉢△領�れの合流点（「切通坂」近く）→住宅街の水路跡（「ほそ」と溜池）→小田急沿線の水路跡（管渠）→「春の小川」の歌碑→はるのおがわコミュニティパーク（ワシントンハイツからの流れ）→八幡橋（『江戸名所図会』の景色）→新富橋（宇田川との合流点� �宇田川遊歩道の始点）→軍人橋（宇田川との合流点�◆�排水堀）→岸壁の跡→側流と沼の跡(旧佐賀育英舎)→深町橋（宇田川遊歩道の終点）→松濤橋（三田用水・神山口水路）→大向橋（伊勢万水車）→センター街→旧宮益橋（渋谷川との合流点）・解散
今回の渋谷川ツアーは、京王線初台駅から出発し、唱歌「春の小川」を生んだ河骨川の水源地帯を歩き、その後は宇田川遊歩道（宇田川暗渠）を通って渋谷川との合流点（渋谷駅前・宮益橋跡）に到着します（行程は約４キロ）。かつて河骨川上流が流れていた土地は、昭和の初めまでカワウソが現れ、川にはコウホネが咲いていた田園地帯で、こうした景色の一部は戦後まで残りました。これに対し河骨川下流から渋谷駅にかけての宇田川流域は、明治末から陸軍練兵場の開設、小田急線敷設、幹線道路の建設等によって開発が進み、戦後もワシントンハイツの建設、東京オリンピックと代々木公園の整備、渋谷駅周辺の町づくりなどで大きく変わりました。豊かな自然に育まれた河骨川と、それとは対照的に歴史の荒波の中で姿を変えてきた宇田川の川跡を渋谷駅まで歩きながら、当時の川の流れと町の変化、そして人々の生活を考えます。
第１５４回 １０月１９日（土）１３時 中央線 荻窪駅東改札前
「阿佐ヶ谷文士村を歩く 案内人 松山信洋さん
コース：荻窪駅ー井伏鱒二旧居ー弁天池ー上林暁旧居ー横光利一旧居ー外村繁旧居ー青柳瑞穂邸ーX氏邸ー地下鉄南阿佐谷駅
■ 編集後記
▲代沢小創立１４０周年に向け、記念誌を作成、当会への協力要請があった。テーマ、・鉛筆部隊、ミドリ楽団、坂口安吾の碑、だいざわの町と文豪など
▲会員は、会費をよろしくお願いします。邪宗門で受け付けています。銀行振り込みもできます。芝信用金庫代沢支店「北沢川文化遺産保存の会」代表、作道明。店番号２２。口座番号９９８５５０６です。振り込み人の名前を忘れないように。
▲当、メール会報は会友に配信していますが、迷惑な場合連絡を。配信先から削除します。◎当会への連絡、問い合わせ、また会報のメール無料配信は編集、発行者のきむらけんへk-tetudo@m09.itscom.net「北沢川文化遺産保存の会」は年会費1200円、入会金なし。会員へは会報を郵送している。事務局の世田谷「邪宗門」で常時入会を受け付けている。
（写真は、研究大会での懇親会、納涼会、梅丘パークホール）
2019年08月01日
下北沢Ｘ物語（3813）―講演：代田の歴史文化１―
世田谷代田は広い、「東京府志料」は、土地の形状を「高燥ナリ、南ニ高ク北ハ低シ」（『東京府志料』）と述べている。総じて土地が高く湿気が少ない、言えば農業には不向きであった。それで人々は土地と闘ってきた。苦難を乗り越えてきて今にある、そこには協働が必要であった。当地では三土代会の餅つきが有名だ、大勢が協力して餅を搗く。水田の餅、陸稲の餅これを混ぜて搗く、大勢で一気に搗かないと餅にはならない。この共同体は今も残っている。三土代会である、当会の研究大会では午前一杯この会の重鎮柳下隆さんが代田について熱く語った。淀みなく一時間半を一気に話された、その要旨を紹介する。
◎柳下隆氏の講演要旨
・難しい話は私には分かりません……この話を戴いたのが寒い頃だったのです。その頃から何を話そうかと考えておりました。
今皆さんがお座りになっている場所はどこですかね？急に言われてもわかりませんよね。ここは松原なんですよね。それでここから（東に）何歩か歩いたところが代田なんです。それですぐそこには北沢川、北沢川用水という川が流れていますね。その川の向こうは世田谷村ですね。昔は、今は梅丘といいますけど、もともとは世田谷ですよね。
・あの梅丘という駅ができましたけど、どうして梅丘と名がついたのでしょう？羽根木公園に梅があるので梅丘という名前がついたというのではありません。一般的には、羽根木公園に梅があるから梅丘となったと理解している人が多いですよね。
・羽根木公園の梅は、昭和四十年ですか、東京の百周年記念ということで梅を植えたというのが一番最初ですね。この梅丘駅ができたのは昭和八年です。小田急線は、昭和二年に全線複線で開通しました。そのときの乗り換え駅というのがありますね。まず一番目、小田急線は新宿を出ると豪徳寺に来てここで乗り換えるのが玉川電車です、二番目は川を渡りまして稲田多摩川といいいました。今の登戸ですね、ここで南部鉄道の乗り換え駅です。三番目が新原町田、これは横浜線の乗り換え駅です。四つ目は厚木です。これは相模鉄道への乗り換え駅です。五つ目は新松田、これは東海道です。最後小田原は、旧国鉄ですけど、もともとは熱海銭という鉄道の駅です。
・小田急線というのができた経緯を見ていますと、建設費を安くするのかどうか知りませんけれど新宿から小田原へ真っ直ぐ線路を引きましたね。そうすると山にぶちあたりますので、それで山の裾野を走っていきますね。で、トンネルがあるのは鶴川と玉川学園の間のトンネルが一つと、渋沢と新松田の間のトンネル、これが二つあります。全線でトンネルは三つですね。この三つしかありません。なぜかというと建設費用を浮かすために平地平地を狙って建設をしたのです。山があれば山を削ると、谷があれば削った土地でもってそこを埋めると。
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