2020年03月
2020年03月31日
下北沢Ｘ物語（3974）―会報第１６５号：北沢川文化遺産保存の会―
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「北沢川文化遺産保存の会」会報 第１６５号
２０２０年４月１日発行（毎月1回発行）
北沢川文化遺産保存の会 会長 長井 邦雄（信濃屋）
事務局:珈琲店「邪宗門」（水木定休）
155-0033世田谷区代田1-31-1 03-3410-7858
会報編集・発行人 きむらけん
東京荏原都市物語資料館:http://blog.livedoor.jp/rail777/
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１、道吉剛氏の死を悼む
きむらけん
〇 当会会員の道吉剛氏が逝去されたとの報を道吉デザイン研究室から戴いた。「去る2019年9月10日、弊社代表の道吉剛が86歳にて永眠いたしました」とのこと。体調を崩しておられることは知っていて心配はしていた。会として氏には大変お世話になった。文学碑としては、横光利一文学顕彰碑、三好達治文学顕彰碑、紀要では、第二号、三号、四号、五号のデザインを手がけてくださった。第一級のデザイナーである。当会への労力提供は、ほとんどがボランティアとして奉仕された。が、どんな仕事でも力を抜かれるということはなかった。一流のプロというのはこういう人を言うのだと知った。氏はかつての東京オリンピックのデザイナーとして関わっておられる。今回のオリンピックを心待ちにしておられたが残念である。心よりご冥福をお祈りしたい。
道吉剛氏が私たちの会に関わるようになったのは２０１３年からである。道吉さんは
代沢に住んでおられた。横光利一旧居の近くだ。つい最近知ったことがある。横光利一は、当地に越してきたときの家の周りの様子を「睡蓮」に「周囲に欅や杉の森があり近くに人家のない」と記している。いわゆる武蔵野であった。欅や杉の森が家の側にあったという。が、これは昭和三年当時のことだ。今はすっかり緑は失われている。が、作家が当然視野に入れていたであろう欅の古木が道吉氏のすぐそばに今も残っている。道吉氏は日々この欅を見ていたと知った。
紀要第３号は「代田小路寓居文学論」であるが、ここに欅が描かれている。比べてみると家のそばにある樹木とよく似ている。これをモデルにしたものではないか。
〇道吉剛氏で思い出深いのは、やはり文学碑建立だった。横光利一文学顕彰碑、三好達治文学顕彰碑、小さなものだが彼デザイナーの心がこもっている。
道吉剛氏がこだわったのは、碑に刻む文言の書体、配列、言い回しだ。文言は私が書いた。これを碑面にどう生かすか、細心の注意を払われた。
一つ言えば、行の末尾の処理である。熟語は割ってはならない。例えば「詩人」という言葉、行末で「詩」が来て、次行に「人」を送る。これは一切受け入れられなかった。それで「てにをは」を工夫して字数を減らしたり増やしたりした。
道吉剛氏との関わりで印象深く覚えていることは、FAXのやりとりである。字句修正や文言の校正で何十回とやりとりをした。今となっては懐かしい思い出だ。
道吉剛氏は、NHKの「チコちゃんにしかられる」に出演された。これを視聴して初めて知った。現在世界共通マークとなっている青と赤のトイレマーク。
「ドレスは当時最先端のマリー・クワントのミニスカートを参考にした。このトイレマークが後に世界中に広まったのには驚いた」と道吉さん。
トイレマークの色分けをしたのは、まさに彼であったのだ。
慎んで道吉剛氏のご冥福をお祈り申し上げます。
２、『右文 覚え書き』に寄せて（上）
エッセイスト 葦田 華
「小豆島は、子犬がうつむいてご飯を食べているような形の島です。」
この文を読んだ時、私は胸がいっぱいになって、涙があふれそうになった。
女流作家、壺井栄の文章である。彼女の慈愛に満ちた心は、故郷の小豆島を語る時、こんな愛らしい子犬の姿に託されて語られるのかと、私は心底壺井栄の優しい心に慰撫されたのだった。
壺井栄の代表作といえば、あの有名な「二十四の瞳」である。そして映画化されると日本中に「二十四の瞳」を知らぬ人は無かったと思う。がしかし、長い年月が過ぎ去っての後、その名作も現代っ子には通用しないのかもしれないが…。
壺井栄の傑作は、まだ隠れたところにもあると私は思っている。「右文（みぎふみ）覚え書き」がそれである。私は１８歳の夏にこの作品を初めて読み、ああ、なんて温かい気持ちになる作品かしら、と感嘆した。ところがその文庫本を読みかけのまま友人宅に置き忘れ、ハガキを出したのだが文庫本は返って来なかった。
以後６０年近く、この全文に出会うことは無かったが、「右文覚え書」の続きを読みたいという気持ちは心の底に潜んでいた。最近になって、友人の手を介して、思いがけず全文を読了することが出来た。
「右文（ミギフミ）」とは、昭和１９年に生まれ、翌２０年に孤児となったわずか１歳の、壺井栄の遠縁の赤ちゃんの名前である。壺井夫妻はその右文を引き取り、“ミギー”の愛称で彼に惜しみなく愛情をかけて育ててゆく。
右文を引き取ったのは、彼の両親の葬式の日のことだった。
右文の父親は満州で亡くなり、母親は終戦直後に蔓延したチフスで亡くなり、右文は孤児となった。死のせまった病床で、右文の母はくりかえし壺井栄の名前を呼び、右文を頼むといったという。
右文を預かっておんぶして帰宅するや、彼女は右文を小児科に連れて行く。右文くらいの子供の母親である女医さんは、はらはら涙をこぼし「かわいそうにね、戦争
の犠牲者……もう四五日も遅かったら、助かるかどうかわからなかったですよ。」
つまむと年寄りのように皮膚の持ち上がる、細い腕にプツリと注射を打った。
「完全な栄養失調ですよ。これがむくむところまでゆけば、もう駄目、やせているのがまだ見込みのあるところです。なんでもいい、うんと食べさせて、いやになるほど食べさせてごらんなさい。飽食療法です。飽きたらだんだん少食になりますからね。そしたら太り出しますよ。」
女医さんは、この特殊な患者に向かって、ふかしたさつまいもをもってきて与えた。右文は急いで手を出し、かくすように横をむいてそれを食べ出した。なんとかなしい姿だろう。こうして三か月の間、毎日私は医者通いをした、と壺井栄は書いている。
壺井夫妻には実子が無く、やはり孤児であった女の子を２０年前に引き取って育て上げた。右文の姉になる正子は２０歳。夕方になると正子は彼をおんぶして、ヤミ値で牛乳２合を都合してもらっていた。しかし、彼の小じわに包まれた青黒い顔から、わき上がる生命のいぶきは感じとれなかったのである。しかし彼は助かった。最悪の窮地を脱した右文は育っていった。
「ミギー。」とよぶと、「ハー。」と、すんだ声で返事ができるようになったのは、うちへきてまもない時だったが、近所歩きができるまでには、丸二年かかった。そして、痩せっぽちの食いしん坊は一向に太ることがなかった、と壺井栄は書いている。それでも五歳の誕生日を迎えるまでに育った。
◇注 本エッセイは、出来るだけ原作に倣ってのかな遣いを採用しました。
３、都市物語を旅する会
私たちは、毎月、歩く会を実施している。個々の土地を実際に歩き、その土地の文化を発見して楽しみながらぶらぶら歩く。会員外も参加は自由だ。 基本原則は、第三土曜日午後としている。１３時に始めて約３時間、終わり時間の目安を１６時頃としている。前日の天気予報で雨の場合は中止する。中止連絡は行う。
第１６０回 ４月１８日（土） 午後１時 東急東横線多摩川駅
案内人 木村康伸 六郷用水物語を歩く
＊六郷用水は江戸時代初期、小泉次大夫によって武蔵国荏原郡六郷領（現在の大田区南部）に縦横に張り巡らされた灌漑用水である。
六郷用水の水は多摩川から取水していたが、取水口は和泉（現在の狛江市）にあり、野川や入間川の水を取り込みながら世田谷領内を貫通し六郷領に至っていた。世田谷区喜多見にある次太夫堀公園の水路は六郷用水の一部であり世田谷とも縁の深い用水路である。 なお、六郷用水は近代になり灌漑用水としての役割を終えたが、その一部は北沢川緑道のようにせせらぎが復元され、往時を偲ぶことができるようになっている。今回はこの復元水路に沿って歩くことになるが、散策にはもってこいの場所である。
また、用水周辺にはさまざまな史跡がある。縄文時代の貝塚に始まり、古墳時代の古墳から横穴墓、古代よりの由緒をもつ古寺、中世の荘園に古道、水上交通の痕跡、近世の水路、新田開発、そして近代の都市開発の跡まで、実に多岐にわたっている。それらの史跡を辿れば、まさに荏原の歴史の縮図を見ることができる。
コース：多摩川駅→復元水路→女堀→鵜の木松山公園→下丸子南北引分→頓兵衛地蔵→新田神社→武蔵新田駅
第１６１回 ５月１６日(土) 午後１時 京王線仙川駅改札口前
案内人：和田文雄 「国分寺崖線（仙川・つつじヶ丘）を歩く」
地形散歩好きにはお馴染みの「国分寺崖線（がいせん）」は、古代の多摩川の流れが武蔵野台地を削って作った崖の連なりで、立川市から国分寺市、小金井市、三鷹市、調布市、世田谷区を経て大田区まで延長約30km続いている。その一部となる京王線仙川駅、つつじヶ丘駅近辺を散策する。
主な寄り道ポイントは、武者小路実篤が70歳のときに水の湧く地を求め、転居した旧邸宅跡地の「実篤公園」、社殿が古墳上に建っていると言われる「糟嶺神社・明照院」、崖線上に食い込む谷戸を活かして作られた「入間公園」などである。5月の新緑の季節に相応しい緑豊かな場所を皆様とのんびりと巡りたい。
コース:京王線仙川駅 → 実篤公園 → 弁天山跡 → 糟嶺神社・明照院 → 入間川あげ堀跡 → 入間公園 → （バス） → 仙川駅または成城学園前駅 約5〜6kmを歩く。
◎申し込み方法、参加希望、費用について 参加費は各回とも５５０円（資料代保険代） 参加申し込みについて（必ず四日前まで連絡してください。資料部数と関連します） きむらけんへ、メールはk-tetudo@m09.itscom.net 電話は03-3718-6498
米澤邦頼へは ０９０−３５０１−７２７８
４、新型コロナウィルスと当会行事
感染者の増加が続いている。これらの影響を受け、当会でも恒例の安吾文学碑前での地図配り、また４月１１日に代田駅前で予定していた地図配りも中止した。行事自粛については長期化する模様だ。このことに関連して
まず町歩きだ、３月は実施した。４月５月については、予定を掲載した。４月に入っても外出自粛要請は続くようだ。歩くのであれば気持ちよく歩きたいものだ。それで安全な時期になるまで順次繰り延べしていこうと考えている。参加を希望される方はとりあえず申し込んでください。その人には個別に実施のありやなしやを連絡することにしたい。
つぎに５月に控えている第１３回「戦争経験を伝承する会」である。５月２４日（日）にカトリック世田谷教会で行うことにしていた。テーマは「ヒロシマ」である。朗読と音楽会を計画していた。関根神父さんや音楽家の若桑比織さん、内山真由美さんが協力して下さることになっていた。が、世田谷区への広報掲載の申し込みはこの４月だ。実施となると打ち合わせや練習をしなくてはならない。現状を考えると開催は困難だ。関係者にはこれらのことを伝えた。戦後７５年、記念すべき年だとは思うがやむを得ない。
〇追記（2020/04/12）
この月初めに「緊急事態宣言」が出た。不要不急の外出を控えるようにと。町歩きについては安全に歩けるようになるまで順次繰り延べをしていとしていたが、当面、4月5月は実施をしないことにした。
■ 編集後記
▲この会報は、キャロットタワー三階の市民活動支援コーナーで印刷をしている。ここが４月６日まで工事を行っている関係から紙印刷郵送は通常よりも遅れます。
▲会員は、会費をよろしくお願いします。常時邪宗門で受け付けている。銀行振り込みも可能だ。芝信用金庫代沢支店「北沢川文化遺産保存の会」代表、作道明。店番号２２。口座番号９９８５５０６です。振り込み人の名前を忘れないように。
▲当、メール会報は会友にも配信していますが、迷惑な場合連絡を。配信先から削除します。◎当会への連絡、問い合わせ、また会報のメール無料配信は編集、発行者のきむらけんへk-tetudo@m09.itscom.net「北沢川文化遺産保存の会」は年会費1200円、入会金なし。会員へは会報を郵送している。事務局の世田谷「邪宗門」で常時入会を受け付けている。
2020年03月29日
下北沢X物語（3973)―コロナ禍における言葉の重要性―
（一）新型コロナウイルス感染症の広がりは先行きが見えない、いまだかつて体験したことのない事態である。そんな中で思うの言葉の重要性が増していることだ。言葉によって伝えられる情報が生活に直結するからだ。まず、新事態は言葉によって発見される。感染症の症状として嗅覚、味覚の障害があると。この報道によって感染を知った人も出てきている。つぎに記録だ、感染由来の不明な症例が多く出ている。この場合は個人記録がものを言う。誰と会い、どんな会に参加したか、日々の記録が必要になって来ている。最後は、言葉の信頼だ、為政者から今後のことが伝えられる、とくには首相による指示だ。発せられる言葉は人格と絡んでくる。昨日の演説に「一人一人の国民の皆さんの御理解と御協力が欠かせません」とあったが、発信者への常日頃の信頼と信用がなければ意は通じない。
私たちが使っている言葉は日常生活を円滑に送るために作られてきた。意味として定着した言葉が辞書に収められている。ところがまだ分かっていない事柄が多く存在する。今回の新型コロナウイルスのこともよく分かってはいない。
プロ野球選手がこれに感染をした。その症状が「みそ汁の味がしない」「味を感じない気がする」とのことだった。調べたところ新型コロナに感染していた。報道ではつぎのように球団は対処したという。
今回、発熱やせき、けん怠感などの症状がないにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染が確認されたため谷本球団本部長は念のため球団内で注意喚起をしたほか、ほかの球団とも情報を共有したということです。
新型コロナウィルスの症状として言われていたのは、喉の痛みや発熱、咳、筋肉痛、体のだるさ、加えて３７、５℃程度の発熱だ。さらには今回のことで味覚や嗅覚にも異常があることが分かった。この報道によって感染が分かったという人も出ている。
新型コロナウイルスが蔓延してきて誰もが不安に陥っている。やはり大切なのは的確な情報だ、症例を分かりやすく整理して伝える。味覚・嗅覚の欠落も症状の一つとして分かったことは朗報だ。
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2020年03月28日
下北沢X物語（3972)―未曾有の経験は記録として後世へ―
（一）イタリアでの外出禁止令での指示は強烈だ、知事の一人は「誰かが卒業パーティを計画していると聞いたそんなことをしたら火炎放射器を持った治安警察を送る！」と。パンデミック、これが世界中を駆け巡っている。日本でも感染者が急増し、首都圏一円での「移動自粛」が出された。とたんにパニックが起こった２６日夜、人々はスーパーに殺到した。「ものがなくなってしまうのではないか？」と。翌２７日もスーパーは大混雑、肉、米、カップ麺がたちまちに無くなった。今、すべてが異常である、コロナウィルスよりも人間の暴走の方が怖い。先回の記事には思いがけず多くの人からコメント（Facebook）を戴いた、歴史証言でもある。ぜひご意見を……
文明は何をしてきたのか？人工物をどんどん造ってきた。詩人、ウィリアム・ワーズワースは「汽船、高架橋、鉄道」という詩で表している。その一節にはこうある。
美が、なんじらの無骨な外観をなに一つ
認めなくとも自然は人間の技術の嫡子を
抱擁している
汽船、高架橋、鉄道は、文明が生み出したものである。これが初めて出現した当時は無骨であった。美しいとは認められない。しかし、人間の知恵と工夫によって生み出した技術によってできたこれらを自然は今は抱擁しているのだ。
ウィリアム・ワーズワースは、１８５０年に死去したイギリスの代表的なロマン派詩人である。以来、１７０年、今、大自然は人間が造り出した大建造物を優しく包みこんでいるのか。
いつも思うことがある。終戦末期、日本本土各地から特攻機が飛びたった、そして日本最南端の知覧や鹿屋に飛んだ、沖縄へ攻め込んできた米軍に特攻攻撃を掛けるためである。彼等は弓なりの日本列島を南下していった。眼下に見えたのは祖国日本である。緑が連なる列島だ、彼等はこの大自然に接して涙した、この美しい自然を敵のアメリカに渡してはならぬ。特攻に行くというのは命令である、が、彼等はこのたたなずく青垣が続く大自然にほだされた。これを守ることが使命だと。
しかし、今、この航空路を飛行機でたどると蝕まれ、かつ破壊された弓なり列島が見られる。無惨にも自然は破壊されている。思うに、今、この時代に彼等が命を受けたなら行かないのではないか、守るべき日本は今はもうない。
言えば、自然が人間の技術の嫡子を優しく包み込んだというのは、人間そのものの妄想であった。
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2020年03月26日
下北沢X物語（3971)―２０２０春異変：文明の曲がり角―
（一）異変１、花の季節がやってきた。が、まずこれがおかしい。花のつきかたがまだらである。下段は咲きそろっているのに上の枝の先端は蕾すらない。暖冬が影響している。サクラたちは寒さに耐えてきて、春を迎える。そこでセィノーで一斉に咲く、春爛漫となるが、今春は皆バラバラだ。花を咲かせる指揮者が不在だ。異変２、コロナ禍だ。昨日東京の感染者が最も多い４１名となったことから「感染爆発の重大局面だ」に入ったとして外出自粛要請を出した。とくには感染経路をたどれない罹災者が多く出ている、これはそんじょそこらに感染者が多く潜んでいることを証明している。これからの進展具合では首都封鎖もあり得ると。が、街での人々の様子を見ていると楽観的だ、西欧では街に人がいない、が、東京では普段通りに人が歩いている。ところが今日はスパーでは肉が棚から消えていた。
これまで絶えて経験してこなかったことが起こっている。電車に乗ると窓が開けてある。換気のためである。これも大きな変化だ。車内を暖房で暖めて快適な空間にする。が、これだとウィルスが蔓延する怖れがある。それで窓を開け放つようになった。我々がこれまでやってきたことが通用しなくなってきた。
私たちは、遮二無二速度を求めてきた。もっともっとと速度を求めてきた。東海道新幹線の新型車両「N700S」が最高時速360キロメートルに達したこともニュースになった。
昨日、新幹線の通る陸橋を渡った。そのときに上りと下りの新幹線が通っていくのがみられた。しゅわしゅわしゅわという音がしてこれが駆け抜けていく。あっという間にその姿は見えなくなる。
日々歩いている自分には、
「なんであんなに急ぐ必要があるのだろう？」
と、思う。
私は小さい頃から鉄道が好きだった。電車に乗ったら窓辺にかじりつき、流れゆく風景を見てきた。山や谷、川、そして海、どれだけ美しい風景を見てきたことか。自身風景の財産を持っている。それで今の電車には落胆する、あの美しい風景が今はほとんどなくなってしまった。風景の貯金があるから今はあまり鉄道旅もしなくなった。
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2020年03月25日
下北沢Ｘ物語（3970）―三田用水の歴史と意義―
（一）十年前三田用水跡に居住する古老は、水路について問うと相好を崩した「ここの水は恵比寿まで行ってビール瓶を洗っていたんだ！」超古老級になると「三田の火薬製造所まで行って水車を回し日清日露で使う火薬を作っていたんだ！」と。が、もう今では用水を語る人はいなくなった。三田用水の歴史もどんどん消えていくばかりだ。が、この用水の歴史的価値は大きい。農業用水から工業用水に変わってゆく過程は日本の近代史と直結する。歴史事実の重みだけではない。海軍の火薬製造は後発組だ、農業用水から動力用をぶんどっての操業である。が、海軍に対して東京府、そして三田用水組合は筋道を立てて異を申し立てている。昨今、官僚のほとんどが官邸に対して「忖度」し見苦しいほどにへこへこしている。が、当時、府も組合も海軍にきちんといちゃもんをつけている。歴史はないがしろにできない。
国家に対して、軍に対してきちんと渡り合う。明治の精神は学ぶべきだ。
海軍は、火薬製造の増産を迫られた。それで明治１１年１２月に日産３００�圓冒�やすことにしてドイツから新型の機器を輸入し、その設置工事を始めた。動力は三田用水の水を使って水車を動かしていた。が、従来の水量では不十分なので水を増やすように東京府に要請した。これに対しての府の回答だ。
�〇暗塚竸紊領�末は、平常時においても水量が少ない。火薬製造所だけに水量を増加すれば、村々から苦情が出る。
��玉川上水の本流の水は、東京府の市街地に飲料水として給水し、水量が乏しい。さらにこれを減らして火薬製造所の水量を減らすことはできない。
�５賈詆椶蓮�村々と示談の上で田用水を火薬製造の水車に使用した。このように今ある分水は、もともと水車のためのものではない。水量の増加を望むなら、組合村と相談する必要がある。
武蔵野台地南部の水利用の歴史 小坂克信 玉川上水と分水の会 ２００６年刊
東京府の回答は理路整然としている。官僚たちはきっちりと論理構成を組み立てて遠慮することなく意見を述べている。これを受けて海軍はきちんと組合村と協議をし解決策を出している。
ここから想起されるのは現行の政府の横暴さだ。とくに沖縄基地問題だ、民主主義を踏みにじっている。地元の人がとても不都合に思っているのに全くそれを顧慮しない。そうして工事をどんどん進めている。明治の海軍ですら地元の意見をしっかり聞いて対応している。こういう歴史を我々はきっちりと学ぶべきだ。三田用水の歴史は、単なる一水路の問題ではない。
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2020年03月23日
下北沢Ｘ物語（3969）―渋谷が日々攻め寄せる―
（一）「東京が日々攻め寄せる」千歳村粕谷に住んだ徳富健次郎が「みみづのたはこと」で述べた。三田用水跡を探訪して代官山近辺を歩いた。視界に渋谷の高層ビル群が嫌でも目に入ってくる。「渋谷が日々攻め寄せる」と感じた。一つのビルの屋上に蟻のような人影が見える。「渋谷最高峰 地上230mの屋上展望台『SHIBUYA SKY』」だ。「私行きました、入場料１８００円でしたが、素晴らしかった」と歩き参加者の一人。「えっ、景色見るだけで？」、驚きだ。渋谷的商業主義だ。それが代官山に攻めて来る。林立するビル群を見ているとひたひたと迫ってくるように感じる。代官山は景観や町並みには独特のものがある。渋谷とは異なる。押し寄せる巨大資本に呑み込まれることなく代官山は代官山独自の文化を保ってほしい。
青春時代の思い出に代官山と渋谷とを結ぶ鉄橋があった。この側のアパートに住んでいた。窓からは「東横食品」のネオンよく見えた。ネオン管が切れていていつもジィジィと音を立てていた。ネオンを掠めるように高架上を５０００系、アオガエルが通っていく。ちょうどそこに山手線を越えていく鉄橋があった。ガタドンデンガタドンデンと音を立ててこれを渡っていく。目に焼き付いている青春風景だ。
今回、三田用水の鉢山分水をたどる途中で鉄橋跡に差し掛かった、ところが一切合切の風景が消えていた。思い出ごと全部が消え果てていた。
「あの鉄橋をどうして撤去したのですか？」
東急電鉄の課長に直接質問したことがある。
当初計画では鉄橋を残し、そこを遊歩道として渋谷と代官山を行き来する、そんな計画があると聞いていた。が、費用の点で折り合わなかったと聞いた。JRの山手線を越えていくだけでも相当な金が掛かるとのことだった。
渋谷から代官山までの跡地は、渋谷側は渋谷ブリッジという建物が出来ている。山手線のところで代官山とは分断されている。
渋谷の再開発が急速に進み、これが景観として目に見えてきた。林立するビル群がにょきにょきと姿を現している。渋谷資本主義だ。これに呑み込まれないでよかった、鉄橋撤去は却って幸運だったのではないかと思った。
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2020年03月22日
下北沢Ｘ物語（3968）―幻想的三田用水探訪行―
（一）人生とは何か？よく分からない。が、長く生きていると気づくことがある。私たちはパラレルな世界を生きているのではと。つまり意識せざる道やラインが一方にあって、気づかないうちにそれに沿って生きていると。多分誰かにそれの存在を知らされなければパラレル世界を意識することもなかった。昨日、三田用水跡をキュレーターきむらたかしさんの案内によって歩いた。今回で１０回目で、タイトルは「三田用水ツアー第2期最終回」であった。最後は「お疲れ様」と言って拍手を送った。自身ではおしまいという意識はなかった。が、区切りをつけられたことで改めて、この三田用水が青年から壮年にかけて、つかず離れずパラレルに流れていたと気づいて、感慨深かった。
高校時代は代官山、大学時代は神泉町、大人になってからは北沢五丁目は自転車の通勤路だった。ここに貫流していたのが三田用水だということを知ったのは歳を取ってからである。自分の意識とは無関係にもう一つ別の流れがあってことを知って感銘を受けた。
昨日、不思議な幻影を見たように思った。歩きの終盤では三田用水の「鉢山分水」をたどった。渋谷川へと流れていく水路跡をたどった。鶯谷町を歩いているときに路地を抜けた。そのときに坂道に出くわした。何の変哲もないコンクリートの路地坂である。が、このとき不思議な感懐を覚えた。幻視である。遙か昔にここに来てこの坂を通ったことがある、そんな思いが湧いてきた。
そこを離れ道を歩いて行くと先に鉄道線が見えた。山手線である。そして右に曲がると陸橋があった。「猿楽橋」である。過去の記憶が蘇ってきた、件の坂は自分が青春時代に常々通っていた坂であると分かった。もうかれこれ６０年前のことである。
坂を登ると八幡通りにぶつかる。ここに三階建ての電子工学専門学校があった。夜煌々校舎に電気が点っていて多くの勤労学生が学んでいた。通りを渡って路地を真っ直ぐいくと自分が住んでいたアパートがあった……代官山町２５番地である。
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2020年03月20日
下北沢Ｘ物語（3967）―コロナ禍と文明―
（一）「文明は感染症のゆりかご」と言われる、今回はこのゆりかごで育まれたウィルスが文明に襲い掛かって来ている。かつて経験したことのない災難を全地球上で起こしている。文明の根幹は機械である、明治時代これに遭遇した人々は驚嘆した、「火龍」、火を噴く龍だといって逃げた。が、これが便利なものと知って活用するようになった。人と人との交流が点から線となって行き来が広域的となった。飛行機や新幹線は大型化し一気に大量の人数を運ぶ。が、ゆりかごで育ったウィルスが爆発的に人に遷移した。ここで取られた処置が、遮断であり、閉鎖である。高速化、巨大化していたインフラは一気に機能を失った。国際航空便の遮断、高速新幹線の減便、全く経験したことのない状況に陥った。文明の危機である。
古代と近代との衝突には深い興味を持っている。新しい文明の機械と人々が出会ってどんな変化が生まれたかである。
今、私は日々歩いている。昨日は天気が良かった。桜も咲き始めた。町はコロナウイルスに怯えて人々はほとんどがマスクをつけて歩いている。が、好天の日、屋外で感染の怖れはない。のびのびと歩いた。咲き出した春の花々を見ては思ったり、考えたり、やはり歩きは最高だと思う。
明治近代が到来することで旅は、歩行から汽車旅に移った。文学の有り様も変わった。流離い文学の最高峰は「奥の細道」である。この中でもっとも気に入っているのは遊行柳での一句である。
田一枚植て立去る柳かな
歩き時間の至宝のように私には思われる。句からは時間が滴って落ちてくる。
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2020年03月19日
下北沢Ｘ物語（3966）―道吉剛氏の逝去を悼む―
（一）われらの活動は十五年、多くの人と出会いそして別れた。下北沢を中心とする人々だ。地域と個性は無関係だ。しかし、出会ってきた人の多くは技とか考えとかには独特のものを持っている。とある著名な建築家は同僚の多くいる西武線は嫌だと言って下北沢野屋敷に居を定めた。共通点を求めれば一刻者だということである。雑多な人が多く集う場に敢えて飛び込んできた。やはり芸術文化は人と同じでは価値を持たない。坩堝、吹溜りで修行をする、亡くなった道吉剛氏もその一人ではなかったか。横光利一旧居近くに住み、デザイン感覚を研ぎ澄ませた。作家は阿佐ヶ谷文士村を飛び出し、当地でひたむきに新感覚を磨いた。場には人を惹きつけるものがあったからではないか。
われらは偶然にも二人のデザイナーに恵まれた。しかし、たまたまの巡り会いではなかったように思う。地域特性が彼等の芸術感覚を刺激したということはある。
まず、第一番目の東盛太郎氏だ、彼は、「北沢川文学の小路物語」に熱く燃えた。理由は明白だ、これで取り上げたのは第一級の文学者だった。代沢居住の彼は土地との関わりで産み出された文学に深い共鳴と共感とを持った。目黒区立図書館に所蔵されている冊子は詳細が紹介されている。
加藤楸邨（代沢の大欅と俳人物語）
森茉莉（大富豪の娘は大貧乏）
宇野千代（北沢川のモガとモボ）
三好達治（代田に住んだ言葉の音楽家）
田中英光（オリンピック選手の文学）
石川淳（無頼派が停泊する下北沢）
坂口安吾（荏原の里は語ることあり）
横光利一（北沢の丘一番乗りの小説家）
田村泰次郎（「肉体の門」と「色ざんげ」の至近距離）
齋田小夜子（出城跡の代田の女流歌人）
斎藤茂吉（代田の歌聖は地下足袋姿）
萩原朔太郎（下北沢に今も浮遊する「猫町」伝説）
萩原葉子（詩人の家は蕁草の家）
中村貞女（鉄兜を鍋に使った家庭婦人）
ポイントは地域と文学との結びつきである。しかも取り上げた文学者は第一級である。彼自身が居住する地域に秘められた逸話があったことに対しての感銘があった。それを形にしたいという思いがあった。
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2020年03月17日
下北沢Ｘ物語（3965）―デザイナー道吉剛氏の逝去を悼む―
（一）道吉剛氏が逝去されたとの報を道吉デザイン研究室から戴いた。「去る2019年9月10日、弊社代表の道吉剛が86歳にて永眠いたしました」とのこと。体調を崩しておられることは知っていて心配はしていた。会として氏には大変お世話になった。文学碑としては、横光利一文学顕彰碑、三好達治文学顕彰碑、紀要では、第二号、三号、四号、五号のデザインを手がけてくださった。第一級のデザイナーである。当会への労力提供は、ほとんどがボランティアとして奉仕された。が、どんな仕事でも力を抜かれるということはなかった。一流のプロというのはこういう人を言うのだと知った。氏はかつての東京オリンピックのデザイナーとして関わっておられる。今回のオリンピックを心待ちにしておられたが残念である。心よりご冥福をお祈りしたい。
北沢川文化遺産保存の会は、活動を開始して十六年目に入った。会としては地域に認知されている。これまでの活動をふり返ってみると社会に知られるようになったのはデザイナーの発信力によるものであった。会の歴史はお二人のデザイナーとの出会いに始まる。
２００４年に、当会は発足する。創設者の一人に東盛太郎というデザイナーがいた。我々のデビュー作は、「北沢川文学の小路物語」である。
北沢川沿岸に住まいした文学者の事跡を社会に発信しようということで彼と冊子を作った。プロとは何か、徹底して人に訴えるために気を抜かずに作品を創り上げる人だ。
当方には、文章を書くだけであった。冊子の表装やレイアウトなどはすべて彼が担当した。その仕事は緻密だった。できあがったとき冊子を見て出来の素晴らしさに感嘆したことを今でも覚えている。
発信性は高かった。できあがると大手新聞二紙が東京版トップで取り上げた。朝日新聞と毎日新聞である。
「新聞に載ったとたんに大勢が店にやってきたんです。あまりにも大勢だったので大久保良三さんが交通整理に当たったほどですよ」
当会の事務局がある邪宗門、そのマスターが言う。今では語り草だ。
が、人生流転、「彼は中国の昆明から帰国した翌朝の〇六年八月二十八日、突如蜘蛛膜下出血で倒れ、十八日後の九月十四日、帰らぬ人となった。」
谷根千・下北を結ぶ機密通底音 [季刊・映画芸術429号より]
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2020年03月16日
下北沢Ｘ物語（3964）―新型コロナ流行とことば―
（一）全く経験したことのない事態に陥っている。「戦争中と同じだ、助かる人から助ける」、新型コロナウイルスが蔓延しているイタリアで言われている言葉だ。病気を治して戦線に早く復帰させる、今であれば経済戦争に戻すということか。病気に罹った年寄りは死んでもらうより他はないということになる。コロナウイルスの蔓延は姥捨山を現世に招来させつつある。が、今、世界からどんなニュースが流れて来ようとも、聞き流すだけだ。昨年、強烈な風台風が襲った、「八十年この方生きてきてこんなことはなかった。未曾有としか言い様がない」ととある古老。新型コロナウイルスの蔓延についても「未曾有なこと」と口をそろえる。これまで一度もなかった現象が立て続けに起こっている。未曾有という言葉の意味が軽くなった。超未曾有とでもいうのか？
昨日、三軒茶屋を通って代田まで歩いた。歩行者天国を歩く人もあまり楽しそうではない。多くがマスクをしている。通り掛かったドラックストアではマスクがないことと、入荷予定もないことを表すビラが掲げられている。異常事態である。それなのに皆マスクをしている。どこで手に入れているのだろう？
「全く手に入らないから今使っているのはもう一ヶ月ぐらい使っていますよ」
テレビではマイクを向けられた人が答えていた。
マスク姿は一種の体裁でもある。ものが汚れていようがいまいが口を覆っていればよい。
コロナ効果というのがある。マスクがないのでワンちゃんをあしらったものを作ってもらった。これがコミュニケーションツールとなっている。
「手作りですか」
若い女性に聞かれた。みなマスクがなくて困っている。何とかして自作しなくてはいけない。そういう切実さがあるらしい。
マスクを作るのならかわいいマスクにしろ、一つの教訓か。
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2020年03月14日
下北沢Ｘ物語（3963）―年中無休「東京荏原都市物語資料館」２―
（一）「歴史とは小さな事実の積み重ねだ」、昨今、トレンドブログというのが流行っている、最新の話題を記事にしてブログに載せる、アクセス数をアップさせ広告収入を稼ぐものだ。当館はその現今の流れとは無縁だ。名づけるならば「アンファッショナブルブログ」、「時代遅れブログ」である。しかし記録は大事である。人間が何をしてどう生きてきたか？これは小さな記録の集積から証される。今日は３９６３回目だ、ここにひたすら自身が見聞したことを書いてきた。ここから何が分かるか？仮説だが「荏原学」が充分に成り立つのではないか？首都東京から一拍、距離を置いたところ、すなわちこの場こそは田園と都市の境、江戸東京から一歩退いて眺められる場、客観歴史を観察できる場である。
�．譽侫．譽鵐攻ζ吋如璽拭璽戞璽垢箸いΔ發里�ある。各地図書館が一般から問い合わせのあった質問に対して回答する、これを一般に公開しているものだ。つぎは石川県立図書館が回答したものだ。
まず、質問だ。
１．尾山篤二郎の次の短歌の出典を知りたい。
『富士の影いまは空より掻き消され眼交曇る朴の木若葉』
回答
１．出典は、『歌集 雲を描く』（書物展望社 1939）です。
（当館は所蔵していませんが、『尾山篤二郎全歌集』収録の「歌集 雲を描く」p363に載っていました。）
回答プロセス
Googleでこの短歌全文を検索したところ、「Web東京荏原都市物語資料館」というHPの「2010年09月28日」の記事に、当該の短歌と出典が載っていた。（ http://blog.livedoor.jp/rail777/archives/51697321.html 最終アクセス2013/11/21）
尾山篤二郎「歌集 雲を描く」（書物展望社 昭和十四年刊）には「昭和十二年作」として「朴」とあり、「四月下旬朴の芽開く」と詞書きがあり、二十首の連作を載せている。その最後の三首がつぎである。
冨士の影いまは空より掻き消され眼交曇る朴の木若葉
朴の木の彼方に萌ゆる柿若葉季節は山の影をかくせり
遙かに相模の山が見えたるはすでに二十日もまへの夕暮れ
〇尾山篤二郎は北沢４丁目２７番地に住んでいた。この短歌は住まいで詠まれたものだ。朴ノ木は、家主の安野さんの家に生えていたものだということが調べから分かっている。
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2020年03月13日
下北沢Ｘ物語（3962）―年中無休「東京荏原都市物語資料館」―
（一）この間、日本テレビから電話があった。写真版権についての連絡だった。当、ブログ「東京荏原都市物語資料館」では写真をネットに掲出している。その一枚を使わせてほしいという要望だ、かつて下北沢にあった「八幡湯」、それを撮った写真である。不思議である、全く同じ要望がついこの間もあった。局は違っていた。八幡湯、テレビ局の女性は古着屋になったと言っていた。調べると「NEW YORK JOE EXCHANGE」と言う名の洋服のリサイクルショップである。ニューヨークは洒落のようだ、「入浴」だ。……この都市物語資料館は、２４時間稼動していて、社会に対して資料館の役割を果たしている。
東京荏原都市物語資料館、地域一帯の過去事跡をブログに載せている。問い合わせはよくある。ついこの間もあった。
Web東京荏原都市物語資料館 御中
突然に失礼いたします。
Webサイトを拝見してご連絡いたしました。
立命館大学国際平和ミュージアムの田鍬と申します。
2011年の記事で、海軍予備学生十四期会の方を招聘して、戦争体験をお聞きになる会を開催なさったと拝見いたしました。
実は、その中のお一人、佐竹一郎様と連絡がとりたく、情報を探していたところです。
佐竹様と親しくしていた林尹夫という人物について、調べております。
（林尹夫：学徒出陣関係の書籍では時々取り上げられるので、ご存じかもしれませんが遺稿集『わがいのち月明に燃ゆ』（筑摩書房）の著者です。）
多くの出陣学徒はご高齢でらっしゃるので現在のご様子はわかりませんが、佐竹様のご連絡先をご存じでしょうか。
突然このように連絡もうしあげて大変不躾なお願いとは重々承知の上で、関係者が少なくなる中でわずかな望みを託しております。
もし差し支えなければ、佐竹様、あるいはご家族の方に当館が連絡を希望している旨、お取次ぎ願えないでしょうか。
誠に勝手なお願いではありますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
このメールを戴いて思い出した。「戦争経験を聴く会、語る会」は２０１１年５月に開催をした。
「学徒動員された海軍の同期会が下北沢で行われている」
前年の２０１０年に今井兼介さんからこの情報を得た。それで下北沢の中華料理屋の新雪園で開かれる会に参加させていただいた。多くはもう間もなく９０歳を迎えるはずだ。非常に印象深かったのは皆が元気だ、活力を持っていたことだ。このときに私は
「毎年戦争のことを聴く会を行っています、皆さんにはぜひお話をしていただきたい」
こうお願いしたところ聞き入れられ、翌年２０１１年に下北沢タウンホールでこれを開催した。
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2020年03月11日
下北沢Ｘ物語（3961）―子どもたちよ、言葉と友だちになろう２―
（一）みなさん、詩人って知っていますよね、詩人というのは言葉を友として旅をする人のことを言います。種田山頭火は、旅の途中でこんな句を作りました。「すべってころんで山がひっそり」と。ね、おもしろいでしょう。転んだとき、「山がひっそりしていたんだよ」と。一人なのに話しかけています。自分の中にいる自分にです。君たちだって、誰もいない家に帰ったとき、「ただ今」といいません？それは自分の中に住んでいる誰かに言っているのですね。人は自分の中に友だちを持っていると考えるのはおもしろいですね。正体不明その子と仲良くすると寂しさがまぎれていいかも……相手は誰か？それは言葉なのかもしれません。
言葉とは何か、一つ言えることは、言葉は記号、形だということですね、言葉は形である、その形を用いて日々暮らしていますね。言葉はいつの間にか自分の中に住み込んでいるのです。これは経験なんですね、親に教えられたり、学校で教わったりして、これを自分の中に貯め込んできたものです。
これから君たちは、与えられた未来を生きていきます。その中でとても大事なのは言葉なのです。君たちの将来でどんなことが想像されるでしょうか。
・人前に出て説明をしたり、話したりすること。
・文章を書いて自分の思いや考えを伝えること
これはこれから生きて行く上ではとても大切になってきます。言葉がうまくつかえるようになることはとても大事です。
でも、何でもそうですが、やっぱり必要なのは訓練ですね。させられる訓練は辛いものですが、自分からのぞんでやる訓練は辛くはありません。おもしろがってやることは大事ですね。
〇書くことの大事さ。
漢字の練習
言葉は形だということを言いました。まずこれに慣れることが大事です。
漢字の書き取り練習をしますね、手で紙に何度も書きますね。書いて覚えますね。これはとっても大事です。
言葉は記号であり、形だといいました。まずこれを覚えるために書きます。するとその形は指先から神経を通して脳に脳に伝わります。大事なことはここで変換がなされていることです。つまり、神経の管を通して信号が脳に伝わっていることです。この訓練をすると神経の通りがどんどんよくなってきます。言葉を書いて覚えることはとても大事です。
（二）
言葉は、自分の様子を知る道具です。
みなさん、アスリートの人たちが日記しっかりつけているのを知っていますか。
毎日毎日練習をしてその反省を日記に書くのです。
先生に言われたこと、自分自身が感じた反省点などを箇条書きにするのです。
「軸足がゆがんでいる」、「腕のふりがスムースじゃない」とか具体的に書くのです。
書いたものは日々たまってきますね、それを見て自分の欠点や長所を知るのです。
日記をつけることがとても彼等には有効なのです。
君たちもこれは使えます。
毎日、しっかり日記をつけるのです。今までは、朝、何時におきて何を食べたとか書いていましたね。
書くのであったら一日に起こった大事なことを書くのです。ポイントを決めて書くのです。だらだら書くのではなく三つとか、五つとか決めて書くのです。
私は、「鉛筆部隊」の物語を書きました。彼等は、疎開させられた先で、ひたすら書かされました。主には日記です。十数冊も書いた人もいます。
それを比べてみると、やはりしっかり書いた人は、文章がとてもうまくなっています。
小学校五六年生の書いたものですが、すばらしくよく書けています。繰り返し繰り返し練習することで書き方が格段にうまくなります。
一つ大事なことを言います。指導の先生が、書くときは丁寧に書けといいました。
ここは大事ですね、言葉は人に見られるものです。伝わることが大事です。
わたしは、作文の審査をしたことがあります。段落のないものは最初からみません。乱雑に書いたものは読みません。
（三）
新型コロナウイルスが流行ったことで皆さんは家にいることになりました。
どのように時間を過ごすかは大事な問題です。
できることなら自分を高めるために時間を使ってほしいです。
人間、ほおっておくとだらしなく過ごしてしまいます。そうしないためには自分の時間割を作るのです。
言葉に慣れ親しむために……
・好きな本を読む。
・言葉遊びノートを作って、自由きままに言葉を書く。
・日記をつける ポイントを絞って書く
・気が向いたら自分なりの物語を書く。
（四）
家にいるばかりだと気がめいってしまいます。
遠くには行けません、それで勧めたいのはご近所調べです。
手近なところでは今住んでいるところが昔はどうであったか。
お父さんやお母さんに聞くのです。
「そこの川にはフナがいて、蛍が飛んでいましたよ」
そんな昔のことに興味を持って聞き出すのです。
できたらノートに書いてください。それが記録なのですね。
もっと興味が持てれば、近所に流れている川の橋の名前、これなども何かのいわれがあります。
神社の境内、お地蔵さん、お稲荷さん、など寛文何年とか書いてある場合
その年号を調べる。
調べるとおもしろいことが分かります。例えば、古墳です。案外近いところにあるのです。縄文時代だった一万年前ということになります。未来だけでなく過去を想像しましょう。
ともあれ、言葉を書いて言葉に慣れ親しんでください。
言葉は友だち、寂しいときは話し掛ける、いいかもしれません。
（深沢の公園で遊ぶ子供たち）
2020年03月10日
下北沢Ｘ物語（3960）―子どもたちよ、言葉と友だちになろう―
（一）みなさん元気ですか？学校が急にお休みになってしまいましたね、勉強をしようとしても図書館は閉まってしまい、遊び場も閉められてしまいました、友だちと遊ぶのいけない、きっと気持ちもふさいでいることでしょう……生まれて初めて出会った災難ですね、しかし、これも経験です。大事なことはいつも物事をプラスに考えることです。嫌だ、嫌だと思っていると気分が暗くなってしまいます。そうしないために自分で工夫することです。楽しがれば楽しくなります。気持ちも明るくなります。そこで私は、皆さんに提案します、言葉をおもしろがり、言葉と友だちになろうということを……
私は、去年、小学生に授業をしました。東京世田谷区代沢小学校の五六年生にです。このときに一番最初に言ったことばがあります。それはつぎの言葉です。
おもしろがればおもしろくなる。
みなさんは「めくる」という言葉を知っていますね、「本をめくる」といいますね。つぎのページを見るときに指でページをはがしますね。時間というのもページと考えてもよいように思えます。今の時間は過ぎて、次の時間になります。皆さんは時間をめくりながら毎日を暮らしています。これは大人も子どもも同じです。
次のページは、明日であり、未来なのです。とてもおもしろい本を読んでいるときには次がどうなっているのかどきどきしますよね。楽しい日々を送っていると明日はどうなのだろうと期待しますね。
しかし、皆さんは、今はおもしろくありません、家にいてばっかり、友だちにも会えない、気分がふさぎこみますね、なかなか難しいことですが、やっぱり、自分をおもしろくするのは自分です。
人間どんなときも希望を持つことは大事です。
皆さんはユダヤ人の強制収容所の話を聞いたことがありますね。明日がないのです、いずれはガス室に送られて死ぬ。そんな絶望的な中でも何人かの人は寄り集まってユーモアのある話を出し合いました。それが生きる希望となってついには助かったと。
（二）
自分でおもしろがろうとする心は大切です。そのためには興味を持つことです。
みなさんは今は何をするにも不自由ですね、でも、そうであっても自由になるものがあります。それは言葉です。これは身近なものですね、あまりに身近過ぎて関心を持っていないということがあるかもしれません。
私は、授業ではこんな話もしました。
「みなさん、リンゴという言葉があるでしょう。でもリンゴという言葉はリンゴではありませんね。私が、『リンゴ、リンゴ、リンゴ』と三回言うと、私の口からリンゴが次々に転がり出てきたら、超おもしろいでしょう、が、そんなことはありませんね……ここのところは大事ですね、言葉というのはそのものを代用する記号なのです」
「言葉が記号であるということは大事なことですね、皆さんは、この記号としての言葉をたくさん頭の中に貯め込んでいるのです。これを必要に応じて取り出して話したり、書いたりします……」
「よくあの人は頭がいいといいますね、具体的にいうと頭がいいというのは言葉の貯金を多く持っているということなのです。言葉をたくさん持っていれば当然のことながら言い方がうまくなってきます……いいですか、言葉をたくさん持てば持つほど頭はよくなってくるのです……」
それで私は、皆さんに提案しているのです。言葉と友だちになろうということを。
（三）
言葉は、おもしろいものです、たのしいものです。
今、「言葉は」といいました。「は」というのは助詞です。こういう小さな言葉も大事ですね。
何でもいいから、言葉に「は」をつけてごらんなさい。いくらでもできるでしょう。
・お父さんは、お母さんは、ケーキは……、
ね、ふしぎふしぎ、「は」をつけただけでは落ち着かなくなるでしょう。なんかつけちゃいますね。「お父さんはタバコを吸っています」とか。
ベランダでよく吸っていますね……
「は」という助詞は、答えを求めるものなのです。だからおもしろいのですよ。
「菜の花は」とすると「黄色い」→「菜の花は黄色い」となります。
もっと考えましょう。言葉というものは人にものごとを伝えるものなのです。
「菜の花は黄色い」では、ふつうですね、ここなのですよ。
「は」をつけたあとに工夫をするのです、言葉は自由なのです。
もう勝手につけちゃおう。
「菜の花は、咲いています」
「菜の花はどこまでも咲いています」
あれ？景色が広がってきたぞ。
「菜の花は日の光をうけて黄色く燃えています」
こうなるともう詩ですね。
（四）
助詞は、「は」だけではありません。他にも多くあります。「が」、「の」、「を」、「に」、「へ」「と」など
いいですか、言葉遊びをするのです、思いついた言葉に、助詞をつけるのです。女子をつけるとかわいくなりますが、助詞をつけると言葉は踊り出すのです。ここがおもしろいのです。言葉に助詞をどんどんつけていくと、不思議なことに詩ができちゃうのです。
もう一個ヒミツ、ちょっと気取って書く、言葉をお化粧をするのです。
菜の花が ふるふる咲いて 桜がちろちろとつけました 赤いつぼみを
ね、おもしろいでしょう、君たち時間があるのだから、「ことばあそび」ノートをつくるとよいですね。そこにどんどん言葉を書いて、言葉を踊らせよう。
書くということはとても大事です。明日は、その話をしましょう。
（写真は、子どもの姿がすっかり消えた運動場、宮前小学校、昨日）
2020年03月08日
下北沢Ｘ物語（3959）―怒濤狂乱鏡花世界とコロナ騒動―
（一）得体の知れない物が忽然と現れて人々は恐怖した。それは「恐るべき大蛇が蜿々として山野を圧」する、大蛇に例えられる。これがのたうち回って襲って来る。その侵入物は何か、汽車である。明治時代の鉄道建設を巡る鏡花「風流線」は奇想天外である。彼はこの突然の闖入者を通して時代相を暴き出している。即座に連想したのは現今のコロナ騒動だ。恐怖が妄想を産む。「トイレットペーパーがないぞ！」、「町中にこれを遷そうとしている者がいる！」、今人々は不安に駆られている。あるいは？自然の神様の仕返しか？地球環境の破壊が進行しているのに大人は考えることもなく、金がなんぼ儲かるかという話ばかり、「恥ずかしくないのか！」とグレタちゃんが叱責した。それでも大人は知らんぷり、遂に自然の神様起き上がった。グレタちゃんがぐれないようにコロナを遣わして人に仕返しをしようとし始めたのではないか？鏡花かぶれ的な妄想だ。
人々が文明に遭遇してどのような反応を見せたかは興味深い問題だ。万延元年の遣米派遣団は、向こうに着いて汽車に遭遇し度肝を抜かれる。動き出したとたん床下から雷鳴が響いてきた。刀を持った武士たちは腰を抜かした。
また、日本で明治五年に汽車が動き出したとき、人はこれを見て「火龍だ」と叫んで逃げ回った。
コロナもコロコロと隣の国で音を立てていたけど、今日俄にコロコロと日本に転がってきて今は大騒ぎとなっている。手近な問題ではマスクがどこにもない。昨日は武蔵小山、一昨日は大岡山、その前は学芸大学など歩いたが、店には張り紙。「ありません、見通しもたちません」と。
すると昨日だか、某県県議の一人が大量のマスクをヤフーネットオークションで売り出したと。もともと持っていたものだから悪くはありませんと本人の弁。
何か、人が狂ってきたように思う。「コロナを人に遷してやるぞ」と言って感染者が食堂に現れたとの話も流れてきた、やはり人も狂い出したかと。
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2020年03月07日
下北沢Ｘ物語（3958）―封印された「鉛筆部隊」―
（一）昨年、初夏、知覧特攻平和会館で「子供たちの戦争」という企画展が開かれた。テーマは二分類されていて、その一つが「鉛筆部隊と特攻隊」である。この鉛筆部隊の学童と疎開先の旅館「千代の湯」で共に生活を送ったのが特攻隊員時枝宏軍曹だ。彼は昭和二十年四月三日、陸軍新田原飛行場を飛び発って米軍艦船に特攻攻撃し亡くなった。学童たちから深く慕われていた。引率の先生の指導で学童たちはご遺族にお悔やみの手紙を出した。このときの手紙が今回は初公開された。鉛筆部隊の隊長も「時枝様と楽しくくらした浅間での一ヶ月をふりかえってもったいない思ひで一ぱいになりました」と手紙に記した。しかし、戦後、鉛筆部隊引率当時のことは人に語ることはなかった。当事者はこの話を封印してしまったようだ。
世田谷のボロ市では教科書が売られている。いわゆる黒塗り教科書も容易に手に入る。これは墨書だけではない、切り取り、のり付けまでして徹底して不要部分を削っている。手元にある「初等科国語一」を見ると、開けたページに一行のみ黒塗り、透かしてみると
「決勝を知らせる銃の音がしました。」とある。「銃」が検閲に引っ掛かって塗りつぶされていた。
最終ページは一ページ目が黒塗りにされ、後はハサミで切り取られている。標題を透かして見る。するとこうあった。
二十四 つりばりの行くへ
いわゆる「海幸山幸神話」だ、「記紀」に記された日本神話である。天孫族と隼人族との闘争を神話化したものだ。天皇を絶対化するためのもので教科書では重要な箇所に当たる。疎開における教育は教科書を用いていた。学童もこれを暗唱させられもした。生活そのものが皇民化教育に組み込まれていた。疎開時間割の一例だ。
午前六時 ラッパの合図で起床、洗面
六時四十五分 五百メートル離れている運動場で朝礼（宮城遙拝、東京の父母、先生への挨拶、体操）
代沢国民学校にはラッパ隊がいた。六旅館の真ん中に位置する玉ノ湯のところで高学年を中心とした隊員が高らかにラッパを鳴らした。これも軍隊式である。
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2020年03月05日
下北沢Ｘ物語（3957）―鉛筆部隊と疎開部隊２―
（一）代沢国民学校では疎開先の宿舎で学童を「鉛筆部隊」や「疎開部隊」と名づけていた。引率する側の意気込みがこれに表れている。プライドでもある。エリート教師の指導法でもあった。背景には鉄道交点を基軸とした町の変化があった。昭和８年に下北沢で鉄道がクロスした。都心に近くて便利ということから中産階級が集まってきた。１０年後にこれらの子弟が疎開する、これを受け持った寮母は親の職業を知って驚嘆する、高位軍人、大学教員、会社役員などだった。保護者のステータスが教員の質を決定した。代沢校には都内から引き抜かれた教員が赴任してきた。引率教諭は一家言持った者たちだ。それゆえに我流を貫いた。受け持った学童に特別の名を付与した。それが「鉛筆部隊」、「疎開部隊」だ、さらには「楽器部隊」もあったよう、こちらは和平的だったが……。
「シンブン・ユモトヤ・疎開部隊」の第二号は、昭和１９年の９月に発行された。興味深い記事が載っている。
九月二日 ６年 川原明
四日から田町校へ通学することになった。午后下駄箱の整理をした。赤坂先生に頭を刈って頂き、寮母先生にそっていただいた。向かふでは中村先生が山本君の頭を刈ってゐた。 夕食後、井筒の湯で音楽をし、後で舞踏を見せてもらって帰ってきた。それから皆で舞踏のまねなどをした。
夏休みが明けて、地元の学校松本市内の田町校へ通うようになった。片道３キロ、徒歩で通った。
この作文の記述で分かる。湯本屋の引率教員は二名いた。赤坂先生であり、中村先生である。
分宿した六館のうち井筒の湯が一番大きかった。それで疎開学寮の本部をここにおいていた。大広間は広く何かあるときにはここに集まった。
注目すべきは音楽と舞踏である。代沢国民学校では一人の音楽担当の発案で学校から楽器を持ち込んでいた。井筒の湯に楽器好きの児童が集まり、の大広間で練習をしていた。これを浅間楽団とも称していた。よって「音楽」というのは団員による演奏である。
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2020年03月04日
下北沢Ｘ物語（3956）―鉛筆部隊と疎開部隊―
（一）「疎開」は忘れられゆく言葉だ、が、この語が新型コロナ騒ぎの中で急に語られるようになった。これへの対策で小中高が突然に休校となった、共働きをしている親の中には子を田舎の両親に預けるという人もいる。「疎開も一週間持てばいいが」と長野から迎えにきた老夫婦。ホームシックを心配していた。疎開で最もやっかいなのがお家へ帰りたい病である、疎開での最大の問題はこれだった。つい最近知ったことがある。「鉛筆部隊」に対して「疎開部隊」と呼称された一群がいたことが分かった。やはり世田谷代沢小・代沢国民学校の事例である。
物事は一つだけだと証明しにくい。が、二つあると比較することでその現象の本質を掴むことができる。つまりは、「鉛筆部隊」と「疎開部隊」の比較考察である。
昭和１９年８月１２夜、世田谷代沢国民学校の学童は、下北沢駅から旅立った。翌日松本市外浅間温泉にたどり着く。ここでは六つの旅館に分宿をした。井筒の湯、湯本屋、玉ノ湯、桐の湯、千代の湯、蔦の湯だ。このうち千代の湯旅館に宿泊した（５７名）が鉛筆部隊と名づけられた。もう一つ、湯本屋（９７名）に滞在することになった学童達は、引率の先生から「疎開部隊」と名づけられていた。
シンブン・ユモトヤ・疎開部隊
われらのシンブン疎開部隊が誕生しました。大きい山々のふところに育まれて、コドモたちもぐんぐん伸びてまいりました。第一号はわれらの生活情報号といたしました。
たうもろこし うるゝをまたで そかいしぬ ・父兄通信
戦争と子どもたち 世田谷区の疎開学童 世田谷区 平成四年十二月
記録では湯本屋で発行された「シンブン・ユモトヤ・疎開部隊」を紹介している。引率担当の先生が、湯本屋に居住する学童を「疎開部隊」と名づけた。新聞を発行し東京の親へ伝えたものである。
この新聞、学童の書いた作文を載せている。第一号には引率担当の先生が発行の趣旨について述べている。疎開させた学童がどうなったか？親としては心配でならない。これへの配慮から引率担当は新聞の発行を思い立ったようだ。
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2020年03月02日
下北沢Ｘ物語（3955）―近代文明とウィルス拡散―
（一）人が文明と出会ってどんな反応を示したのか、深い興味を持っている、この記録を文学作品から抽出し「日本鉄道文学史」を編んでいる。泉鏡花は「何とも可恐い、二條の鐵の線は、ずるずると這ひ込んで〜中略〜舌なめづり」（「風流線」）と述べる。忽然と現れた文明への恐怖を語ったものだ。今俄に降って湧いたウイルス騒ぎを連想させる。これの襲来は人を恐怖に陥れている。が、根本的に違うことがある。機械は目に見える、が、ウイルスは目に見えない。どこで誰から感染するのか分からない。それで過敏な反応が一層に人を不安に陥れている。店からはトイレットペーパーやお米までが消えつつある。菌の拡散は文明がもたらしたものだ。今我々は見えない敵に遭遇し、いまだかつてない混乱に陥っている。
今日近代は新しい文明に出会ったことによって築かれた。これは鉄道である。開業以来これに携わった人々は身命を賭して闘ってきた。鉄道は「機械のアンサンブル」だ、汽車だけでは成り立たない、線路と合わさってその機能が発揮される。機関車と線路とが一体化したものが実は機械なのである。
知られていないことだが鉄路の保守には大変な労力を費やしてきた。わずか数ミリでも軌道に狂いがあれば機械は正常に動かない。それで保線に当たった人々は線路を守るために辛酸を舐めてきた。
「おい、そこんところの軌道の幅が二ミリ狂っているぞ！」
古参の親方が目で見て注意する。すると秋福式軌道計測器を作業員が持ち出す。
「親方、ぴったんこです。やはり狂ってました」
古参は一目見て線路の不具合を指摘できた。が、一人前になるには十年、徒弟制度の中で技は磨かれた。その彼等がいたらばこそ社会は保たれてきた。
しかし、今、新文明がもたらす弊害は目には見えない。３、１１の大震災によって福島第一原発が過酷事故を起こした。放射能がこれによって飛散した。やっかいなことにこれもその濃度は目に見えない。
居住地のすぐ近くに東京都立アイソトープ総合研究所があった。原発事故によって起こった放射能をここで測定していた。恐ろしく高い濃度の放射能を検出したとの報道が流れて、「ええっ！」と思ったことがある。
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2020年03月01日
下北沢Ｘ物語（3954）―会報第１６４号：北沢川文化遺産保存の会―
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「北沢川文化遺産保存の会」会報 第１６４号
２０２０年３月１日発行（毎月1回発行）
北沢川文化遺産保存の会 会長 長井 邦雄（信濃屋）
事務局:珈琲店「邪宗門」（水木定休）
155-0033世田谷区代田1-31-1 03-3410-7858
会報編集・発行人 きむらけん
東京荏原都市物語資料館:http://blog.livedoor.jp/rail777/
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１、駒沢ダイダラボッチ探訪会 きむらけん
先だって、「駒沢ダイダラボッチ探訪会」を開催した。今回はいつもの町歩きとは違っていた。参加した人と実際に現場を歩いて皆さんに検証してもらうということを行った。言ってみれば自分が立てた仮説に基づき、真偽を確かめてもらうというものだ。
柳田国男の「ダイダラ坊の足跡」は、「巨人来往の衝」という見出しで始まる。「私は巨人がこの東京の空を行ったり来たりしていたのを知ってもうとんでもなく驚いたものだった」というようなことを言っている。そしてこう始まる。
東京市は我日本の巨人伝説の一箇の中心地ということができる。われわれの前住者は、大昔かつてこの都の青空を、南北東西に一またぎにまたいで、歩み去った巨人のあることを想像していたのである。しこうして何(なん)人(びと)が記憶していたかは知らぬが、その巨人の名はダイダラ坊であった。
柳田国男は、世田谷代田にあったダイダラボッチ、巨人の足跡を探し当てた後に、南の駒沢地域に、二箇所、ダイダラボッチ跡を訪ねた。確かめられたことは
１、東京・荏原地域には数カ所のダイダラボッチがあったこと。
２、探訪したダイダラボッチは足の向きが違っていたこと。
このことから彼は、東京の空にはかつて縦横に巨人が空を行ったり来たりしていたことを知った。そのことを「巨人来往の衝」という言葉で言い表したものだ。
やはり実踏に勝るものはない、まず世田谷代田の足跡を調べた後に、野沢のダイダラボッチを調べた。すると足の向きが違っていた、このことからダイダラボッチは単数ではなく複数いたとの認識に至った。
「ダイダラボッチ」に関する論考は数多く出ている。その中でも柳田国男の「ダイダラ坊の足跡」は傑出している。この論考は、言わば「全国ダイダラボッチ事典」だと言える。世田谷代田のダイダラボッチを皮切りにして全国の伝説をここに網羅しているからだ。「代田橋を架けたのはダイダラボッチだ」ということを各地のダイダラボッチを訪ねる過程で何人かから聞いたことがある。代田のダイダラボッチは地元の代田だけでなく全国的にも知られている。柳田国男が代田のダイダラボッチを劈頭に持ってきたことによるものだ。
「巨人来往の衝」というのは、東京の空に太古の昔、巨人が跋扈していたことに対する驚きを言う。しかし、これを枕に持ってきた意味は大きい、「巨人来往の衝」は代田だけではない、かつての昔、これがあっちにもこっちも現れていて、これが全国中に存在していた。
柳田民族学の素晴らしい点は、彼の表現に文学的とも言える自己発見が綴られていることだ。例えば、これは結末で語られている彼の言葉だ。
伝説は昔話を信じたいと思ふ人々の、特殊なる注意の産物であった。即ち岩や草原に残る足形の如きものを根拠としなければ、これを我村ばかりの歴史のために、保留することが出来なかった故に、殊にさういふ現象を大事にしたのである。
「柳田国男集」所収「ダイダラ坊の足跡」 現代日本文学大系２０
今回、我々はかつての駒沢村にあったという二箇所のダイダラボッチ跡を探訪した。一つは、「村社と小学校の間にあつた」と述べられている足跡だ、歩くことによって分かったのは村社というのは野沢稲荷神社であり、小学校は旭小学校であった。記述どおり、ダイダラボッチは、「これも道路のすぐ左手に接して」あった。今も残っている鶴ヶ久保公園である。ここには今も湧水池があって、このたもとには「鶴ヶ窪弁財天」が祀られていた。
もう一つは、分かっていなかった。それで今回は、皆と訪れた。一つの大きなヒントは、「鶴ヶ久保公園から東南へ約７６０から８７０メートルほど行ったところ」である。
私自身、その辺りは丹念に歩き回っていて目星をつけていた。そこは下馬六丁目三十三番である。地域の史書にも所番地も記入されていた。今まで遠慮をしてそこの家を尋ねることはなかった。しかし熱意を持った参加者がいてピンポン突撃を敢行したのだった。ここで調査は急展開をすることになった。訪ねた家のご主人、「確かに言われる通り家には清水丸弁財天が祀られていました」とのことだ。当地には湧水が湧き出いてそこに弁財天が祀られていた。それを引き取って保持されていた。が、地所を割譲したときに撤去されたとのことだった。
その場所は、ダイダラボッチ跡だとはなかなかわからない。しかし丹念に調べると池からの排水路が見つけられた、そしてそこは腰を屈めて観察するとしっかりとしたくぼみになっていた。われらはそれら諸条件を勘案して、第三のダイダラボッチは「おそらくここだろう」と推測したことだ、清水窪丸弁財天を見つけて、今回の探査は終わった。
構想だが、１代田、２野沢、３下馬の三つをめぐる町歩きをしたいと思っている。
２、桜祭りでの地図配布
毎年春の桜の季節には、代沢小安吾文学碑前で文化地図を配っている。昨年は、配る地図がなくなってしまった。それで残っていた「焼け残ったまち 下北沢の戦後アルバム」を代わりに配布した。
今回は、改訂８版が出ている。これを配るつもりではある。が、このところの天気は暖冬傾向にあり、桜の開花は早まりそうである。東京の開花予想は３月１５日となっている。とすれば、３月２０日（春分の日）、２１日（土）、２２日（日）ぐらいであろう。２１日は町歩きを入れているので、２０日、２２日ということになるであろうか？
しかし、大きな心配がある。流行している新型コロナウイルスへの感染対策だ、今「政府は26日、感染の拡大防止に向け、今後2週間の大規模イベントの中止や延期を要請」をしている、それで多くのイベントが中止になっている。この中止が功を奏し、蔓延が収まるようになればよいが、それは分からない。この先のことはどうなるかわからない。場合によっては今度の桜まつりでの配布は中止となる可能性もある。
今回の８版地図は、「世田谷代田駅前ダイダラボッチ広場完成記念（２０２０年度予定）」と銘打っている。今春に広場は完成するはずだったが工事は遅れていて、完工は来年春になった。間延びしてしまうということで世田谷代田駅 駅前広場開場記念事業実行委員会は４月11日（土）に世田谷代田駅を中心にイベントを行うことになった。
私たちは、この時に、「下北沢文士町文化地図」第8版を配ることにしている。時間は11時から16時までである。配布場所は決まっていない。
代沢小での地図配布は危ぶまれる。それで日にちもまだ決めていない。このところ町会と一緒の日に行なっている。実施ということになれば連絡をしたい。当会のネット掲示板、あるいはメールなどで知らせるようにしたい。
３、都市物語を旅する会
私たちは、毎月、歩く会を実施している。個々の土地を実際に歩き、その土地の文化を発見して楽しみながらぶらぶら歩く。会員外も参加は自由だ。 基本原則は、第三土曜日午後としている。１３時に始めて約３時間、終わり時間の目安を１６時頃としている。前日の天気予報で雨の場合は中止する。中止連絡は行う。
第１５９回 ３月２１日（土） １３時 東急東横線代官山駅中央口前広場
キュレーター きむらたかし 「三田用水ツアー第2期最終回」
〜旧朝倉家住宅内水路と鉢山分水跡を歩く〜
コース：〔重文〕旧朝倉家住宅*−同庭園内水路**−（同住宅内見学 14：00まで）猿楽塚ー猿楽分水口跡―朝倉水車跡―西郷山水車跡−鉢山分水口跡−（鉢山交番）−鉢山分水路跡−並木橋（伝鉢山分水放流口）―渋谷駅
*入場料：60歳以上は身分証明書提示で無料、その他100円
**庭園内はハイヒール・サンダルは危険につき不可
第１６０回 ４月１８日（土） 午後１時 東急東横線多摩川駅
案内人 木村康伸 六郷用水物語を歩く
＊六郷用水は江戸時代初期、小泉次大夫によって武蔵国荏原郡六郷領（現在の大田区南部）に縦横に張り巡らされた灌漑用水である。第１６０回は、大田区内にある六郷用水の一部をたどり、その歴史に秘められた物語を紐解いていく。
六郷用水の水は多摩川から取水していたが、取水口は和泉（現在の狛江市）にあり、野川や入間川の水を取り込みながら世田谷領内を貫通し六郷領に至っていた。世田谷区喜多見にある次太夫堀公園の水路は六郷用水の一部であり世田谷とも縁の深い用水路である。 なお、六郷用水は近代になり灌漑用水としての役割を終えたが、その一部は北沢川緑道のようにせせらぎが復元され、往時を偲ぶことができるようになっている。今回はこの復元水路に沿って歩くことになるが、散策にはもってこいの場所である。
また、用水周辺にはさまざまな史跡がある。縄文時代の貝塚に始まり、古墳時代の古墳から横穴墓、古代よりの由緒をもつ古寺、中世の荘園に古道、水上交通の痕跡、近世の水路、新田開発、そして近代の都市開発の跡まで、実に多岐にわたっている。それらの史跡を辿れば、まさに荏原の歴史の縮図を見ることができる。
そんな六郷用水の跡を、春のうららかな一日に、是非皆さんと一緒にたどってみたい。
コース：多摩川駅→復元水路→女堀→鵜の木松山公園→下丸子南北引分→頓兵衛地蔵→新田神社→武蔵新田駅
◎申し込み方法、参加希望、費用について 参加費は各回とも５５０円（資料代保険代） 参加申し込みについて（必ず四日前まで連絡してください。資料部数と関連します） きむらけんへ、メールはk-tetudo@m09.itscom.net 電話は03-3718-6498
米澤邦頼へは ０９０−３５０１−７２７８
■ 編集後記
▲都市物語を旅する会について、1月はみぞれが降って中止となった、2月はようやっと開催できた。参加者は六名だった。このところ、参加者が減ってきているように思う。十名を超えた場合には保険を掛けることにしている。必ずしも多く集まる必要はない。しかし、引率する側にすれば張り合いがないということもあろう。会報、ネットブログ掲示、Facebook掲示、「トラまちVoice」出稿などは努力している。できれは案内者それぞれに置かれては関係する会やネットに掲示していただければありがたい。また、会員の要望を汲むというのも大事だ、先だっては、品川の「城南五山」を案内してくれとの要望があった。都市物語を歩くは活動の原点となっている。できれば長く続けたいと思っている。これまではこちら側中心にコースを設定してきた。それで今は別宮通孝さんに頼んでコースを決めている。皆さんの要望があれば改善していきたい。この参加については会員でなくてはならないということはない。また、その人その人に合った歩き方をしてもかまわない。
無理のない範囲で歩き、途中で辞めても構わない。
▲原稿募集：エッセイでも紀行でもちょっとしたことを書いて投稿してほしい。
▲会員は、年度が変わりましたので会費をよろしくお願いします。邪宗門で受け付けています。銀行振り込みもできます。芝信用金庫代沢支店「北沢川文化遺産保存の会」代表、作道明。店番号２２。口座番号９９８５５０６です。振り込み人の名前を忘れないように。
ただ、振り込み手数料が掛かる。それで会員名と住所とを封筒に書いて、中に会費を入れて歩く会のときとか、または邪宗門に立ち寄ったときに払ってくだされば助かります。
▲当、メール会報は会友に配信していますが、迷惑な場合連絡を。配信先から削除します。◎当会への連絡、問い合わせ、また会報のメール無料配信は編集、発行者のきむらけんへk-tetudo@m09.itscom.net「北沢川文化遺産保存の会」は年会費1200円、入会金なし。会員へは会報を郵送している。事務局の世田谷「邪宗門」で常時入会を受け付けている。
〇代田ダイダラボッチ音頭 ←青いところをクリックすると見られる。
YouTubeでアップされている。見応えのあるものだ。ぜひ視聴を。
歌 チンドン好井 ピアノ演奏 若桑比織
