2022年02月
2022年02月28日
下北沢Ｘ物語（4436）―会報第188号：北沢川文化遺産保存の会―
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「北沢川文化遺産保存の会」会報 第１８８号
２０２２年３月１日発行（毎月1回発行）
北沢川文化遺産保存の会 会長 長井 邦雄（信濃屋）
事務局:珈琲店「邪宗門」（水木定休）
155-0033世田谷区代田1-31-1 03-3410-7858
会報編集・発行人 きむらけん
東京荏原都市物語資料館:http://blog.livedoor.jp/rail777/
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１、「三軒茶屋文士芸術町」について（新地図掲載文：試案） 当会主幹 きむらけん
三軒茶屋は分去れの町だ、大山詣でに行く人と富士詣での人が別れていく場だ、地名の由来は三軒の休み茶屋があったことから名がついた。三軒茶屋の町批評が興味深い、「大武蔵野から近代に直結した町」と評する人がいる。もともとは大田舎だった、
のんびりした田舎に突如軍列が響いた。太子堂森家文書には「三軒茶屋尾張様御官軍御宿陣一件」という文書がある、江戸に攻め入る官軍、尾張藩が当地に布陣していたことを示すものだ。慶應四年三月のことだ。近代の夜明けはまず軍靴が響いた、そして明治四十年三月六日、分去れに妙な箱が入ってきた。男どもはみな箱の下を覗いた、馬の脚は見えず丸い車輪を認めた、電車であった。玉川電気鉄道の開通によって三茶は近代を迎えた。これをしおに近隣には兵舎が建った。たちまちに三茶は軍都となった。
大正十二年九月一日、突然大地が激しく揺れた。関東大震災である。町の被害はさほど大きくなかった。が、しばらくして玉電に乗って被災民が数多く東からやってきた。下町で焼け出された人々だ。これによって三軒茶屋や太子堂には大勢の人々がやってきた。林芙美子が『放浪記』に記している。「――泥沼に浮いた船のように、何と淋しい私達の長屋だろう。兵営の屍室と墓地と病院と、安カフエーに囲まれたこの太子堂の暗い家もあきあきしてしまった」芙美子が太子堂に住んだのは大正十四年、この一文は震災後の一帯の様子を見事に描いている。兵営は陸軍東京第二衛戍病院だ。墓地は円泉寺だ、この一帯に多くの家がひしめいていることを暗示している。安カフェとあることから一帯に長屋とかアパートなどが多くあった。言えば避難民によって形成された町である。
この長屋には壺井栄・繁夫妻が住んでいた。芙美子の夫は詩人の野村吉哉、近くには平林たい子も住み、小文士村が形成されていた。
「三軒茶屋文士町」は太子堂と三宿とを含めている。震災によって多くの人が集まってきた。下町から逃げてきた人が多い。よって一帯には下町的な雰囲気が醸成された。ところがまた新たな事態に遭遇する。戦災である。これによって街の大半は灰燼に帰する。災害と戦争に翻弄された街だ、これらのことから定着しにくい街だったといえる。当地に住んだ文学者は放浪者だったと言える。典型的なのは太子堂の大空詩人永井叔だ。昭和２年に太子堂にやってきてここを拠点として絶えず放浪しては自身の詩を広めた。林芙美も放浪者だ、文化人の多くは流離いの途中に当地にやってきた。
三宿に住んだのは葛西善蔵だ、「私小説の神様」と言われる。昭和３年当地で亡くなる。彼の死をきっかけに文学とは何か大きな論争が起こった。葛西は烏山川沿岸地域に住んだ。
葛西善蔵が住んだところのすぐ北に戦後芹沢光治良が住んだ。『巴里に死す』、『人間の条件』などを当地で書いている。こちらは丘上だ。
三宿には平福百穂がいた。大正七年当地に画伯は画塾「白田舎」を開いた。塾生がくると同時に近隣には画家が集まってきた、当地には芸術村があったことが分かってきた。
その他としては太子堂昭和女子大構内には創始者であり、詩人である人見東明が住んでいた。また太子堂には前衛詩人北園克衛が住んだ。当地でのどんな交流があったのか興味深い。詩人では太子堂との境に住む三好達治は、しばしば三軒茶屋に散歩に訪れていた。『東京雑記』にはこの街の様子が詳しく描かれている。
山田風太郎は三軒茶屋には二十年近く住んだ、隣町の若林に住む海野十三と交渉があったようだ。居住者として見つかっているのは武田泰淳、三田誠広、草間彌生（詩人）などだ。風来坊が集まってくる「三軒茶屋文士町」ここに文化人や文学者のどのような交流があったのか、これが分かることで「三軒茶屋文士町」の意義づけができる。情報を乞う。
『三軒茶屋文士芸術町（太子堂・三宿）文化地図』を作ろうと構想している。社会的に有意義な試みである。当該地域では隠れた歴史上の営みがあった。これらを記録することで街の歴史が見えてくる。忘れ去られた文化の営みを地図上に表示して後の世に伝えたい。
２、 恋愛とはなんぞや エッセイスト 葦田 華
私が高校に合格したお祝いに、二つぶの真珠の指輪をプレゼントしてくれた優しい叔母は、母の妹でスミコという名前であった。この叔母が70歳代後半の頃、私と電話で話していた時に、「華ちゃん、叔母ちゃんねえ、今までね、まあまあの人生を送って来たと思うんだけれどね、ひとつだけ残念でならないことがあるのよ。」と言った。
「実はね、叔母ちゃんは恋愛をしたことが無かったの。もう叔母ちゃんの人生も終わりに近づいてきていてね、恋愛が出来なかったことが悔やまれてならないのよ。」と言った。
「あんな優しい笹熊のおじさんと結婚したのに！？」と、私は驚いて言った。「笹熊とはお見合でね、特別に好きだった訳じゃなかったけれど、若い男の人はみんな戦地に行ってしまって居なかったでしょう？それで華ちゃんのお祖母ちゃんが、家柄のつり合いがいいし、堅い仕事の務め人だからこの人にしなさい！って薦めたのよ。笹熊のおじさんね、実は結核だったのよ。ほぼ治ってはいたけれど兵役に就ける身体じゃなかったのね。
だからお見合をした時には、おじさんは銀行員だったのよ。」と言った。
「でも叔母ちゃん、おじさんと結婚したから終戦のドサクサに巻き込まれてさ、北京で取り残されたりしなくて、それはとってもラッキーだったと思うわよ。」
「まあ！華ちゃん！あなたはそう思うの？」
「そう！昭和19年なんて、辛うじて日本人が北京に居られた最後だったでしょう？」
「言われてみると、危ないところだったのね！」 と叔母は言った。
昭和18年当時、スミコ叔母は大きな鉄鋼メーカーの経理で働いていた。その会社が、北京支所で働く女性職員を募集したので、スミコ叔母は、どうしても北京の支所に行きたくて、私の祖母である母親に訴えたのだという。祖母は大反対したらしいのだが、叔母は諦めずに直訴していたらしい。とうとう根負けした祖母が、イサヲ兄さんが許すなら行っても良い、と言ったのだそうだ。
当時イサヲ伯父は近衛兵で将校だったから東京におり、伯父はスミコ叔母を銀座に連れて行って、大層な中華料理店でこう言ったのだそうだ。「今から出てくる料理を最後まで食べ切れたら、その時は許可しよう。少しでも残したら不可だぞ。」
スミコ叔母は非常に食の細い人で、いつもスッキリと痩せていたらしい。だが、スミコ叔母は全てを食べ切ったのだそうだ！
高校生の時、私は叔母に尋ねた。
「叔母ちゃん、戦争中なのに、どうやって北京に行ったの？」
「門司から朝鮮に渡ってね、汽車で朝鮮半島から満州に入ってね、来る日も来る日も平原でね、1週間以上も汽車に揺られてやっと北京に着いたのよ。北京駅はすごい雑踏だったけれど、叔母ちゃんね、仰天してしまったの。あのね、駅前に人間がゴロゴロ転がっていてね、その人達はみんな凍死していたのよ。」
「叔母ちゃんは危ない目には合わなかったの？」
「会社から自動車が迎えに来ていてね、そりゃあ、見たことも無い凄い中国の邸宅に着いたのよ。日本にはあんな大きな邸宅は無いわね。会社が接収した大富豪の邸宅でね、女子職員の 宿舎だったのよ。寝室にはね、壁をくり抜いた大きなベッドがあってね、赤い刺繍糸で唐子(からこ…中国のわらべ)が遊んでいる図柄が刺繍されている、透ける絹のカーテンが掛かっていたわ。布団は全部絹の美しいものでね、部屋中に甘い匂いがしたの。何の匂いかと思って探したらね、簞笥が白檀の木で出来ていてね、日本人には強すぎる匂いだったから、普通の簞笥に取り替えてもらったのよ。部屋中にオンドルの暖気が廻っていて温かったわ。床はね、信じられなかったけれど、滑らかな石でね、寄せ木細工みたいに素敵な模様だったのね。その上にはふかふかの上等なダンツー(羊毛の厚い敷物)が敷いてあってね、窓の桟なんか芸術品みたいに凝った細工だったわ。休みの日にはペイハイ(北海)公園に行ってね、紫禁城の周りのお堀よ、それがぜーんぶ凍っていてすごかったの。仲良しの女子職員達とスケートに行ってね、ほら、この写真のこの辺りから滑り出したのよ。
またある時には大宴会があってね、ご馳走をいっぱい食べてから、迎えのマーチョ(馬車)に乗ってね、真っ赤な、こーんなに大きな夕陽を見たの。楽しかったわ！夢のようだったわ。
ところがお母さんから手紙が来てね、華ちゃんのお祖母ちゃんからよ、縁談があるからすぐに帰国しなさい！って言って来たのよ。悔しかったわよ。ずいぶん泣いたわね。でもね、帰ることにしたの。お母さんが可哀相になったのね。イサヲ兄さんは出征したし、華ちゃんのお母さんになった秀子姉さんは、嫁ぎ先でいざこざばかり。だからね、お母さんの薦める人と結婚したのよ。」と言った。
「叔母ちゃん！恋愛なんてつまらないものよ。華の両親は大恋愛をして、駆け落ちまでして、でも20年後には離婚しちゃったじゃない！4人も子どもがいたのによ！叔母ちゃんはね、誰も経験できないマーチョにも乗れたし、北海公園でスケートも出来たじゃないの ！恋愛なんて幻想の産物だと、私はつくづく思うの。私ね、恋愛って〈風と共に去りぬ〉みたいなものだと思うの。華のお父さんもお母さんも、気の毒な人生だったと思うのよ。叔母ちゃんは恋愛を経験できなかったからって、幸せな結婚を完結したじゃないの。笹熊のおじさんは、亡くなるまで一生、叔母ちゃんを大切にしていたと私は思っているのよ。」
すると叔母は「無いものねだりだったかしら。」と言った。
80歳代になってから、豪華なマンションに一人暮らしだったスミコ叔母は認知症になり、一人息子のいとこが決断して、行き届いた老人ホームに入所させた。何度かお見舞いに行ったが、行く度に少しずつ華の顔を忘れていった。そして垣根に白薔薇の咲く美しい初夏に、短くもあり長くもあった93年の人生を終え、静かに天国に帰って行った。（了）
３、プチ町歩きの案内
◎コロナ感染を避けての「プチ町歩き」を実施している。プチ町歩きの要諦、
１、短時間にする。２、ポイントを絞る。３、人数を絞る。（四名集まったら成立する）
第１７２回 ３月１９日（土）駒沢のダイダラボッチ伝承地を歩く
案内者 きむらけん 田園都市線駒沢大学駅改札前 １時集合
駒沢：林愛作旧邸→駒沢公園散策→衾町公園（ダイダラボッチ跡� 泡�交通公園（千年杉伝説→鶴ヶ窪公園（ダイダラボッチ跡�◆泡�下馬六丁目（ダイダラボッチ跡��）→明薬遺跡跡→三軒茶屋駅 ＊ダイダラボッチ伝説をのんびりと散歩しながら訪ねる。
第１７３回 ４月１６日（土）空川の谷の文化を歩く
案内者 梶山公子さん 井の頭線駒場東大前駅 １時集合
空川を駒場野公園から目黒川近く(大橋)まで歩きます。流域にはかつて8代将軍吉宗のお鷹場があり、明治初めには農業近代化の先駆けとなったケルネル田圃や水車が置かれ、また明治末から昭和にかけては多くの軍事施設が設けられるなど、たいへん歴史豊かな場所でした。その生成を見ると、古東京湾の海底から現われた淀橋台に流れを発し、やがて目黒方面に侵入してきた古多摩川の支流となり、さらにその流れの跡にできた目黒川の支流になるという、とてもユニークな歴史を持っています。このような空川を皆さんと一緒に歩きたいと思います。
◎申し込み方法、参加希望、費用について 参加費は５００円
感染予防のため小人数とする。希望者はメールで、きむらけんに申し込むこと、メールができない場合は米澤邦頼に電話のこと。
きむらけんへ、メールはk-tetudo@m09.itscom.net 電話は03-3718-6498
米澤邦頼へは ０９０−３５０１−７２７８
■ 編集後記
▲坂口安吾文学碑。門柱の左手がだいぶ傾いてきた。手当をしなければと思っている。
▲会報は会員と会友にメール配信しています。後者で迷惑な場合連絡を。配信先から削除します。年末になりましたので、会員は会費をよろしくお願いします。邪宗門でも受け付けています。銀行振り込みもできます。芝信用金庫代沢支店「北沢川文化遺産保存の会」代表、作道明。店番号２２。口座番号９９８５５０６
▲「北沢川文化遺産保存の会」は年会費1200円、入会金なし。◎当会への連絡、問い合わせ、感想などは、編集、発行者のきむらけんへ
2022年02月27日
下北沢Ｘ物語（4435）―三軒茶屋文士芸術町の可能性―
（一）烏山川と北沢川の沿岸文化の比較を試みている。前者の左岸が世田谷城続きの丘である。こちら側に文化人は住んでいた。が、右岸の調べは欠落していた。ところが最近分かってきた。どうやらこちら側に芸術村が存在していたようだ。右岸丘上に大正八年九月に平福百穂画伯が三宿九十一番地に画塾を建てた、「白田舎」（はくでん）である。当時の地図を見ると一帯には何もない、まさにそこは白田、痩せた畑だ、ここに画塾を建てて
画田とし一流を育てる。この場所を選んだことも大事だ。表通りには玉川電車が走っている。渋谷は近い、かつまたそこはまだ武蔵野だった。文学は風景景色を顧慮しない、が、画家は違う。その場所を歩いてみたが北のり面で影がくっきり見える場だった、ここに芸術村ができていたようだ。近頃の流行言葉は「フェーズが変わる」だ、我らの地図づくりも新しい展開を迎えたようにも思う。
経堂近辺には画家が多く住んでいたと聞いた。この画家たちの集まりもあった。「白と黒の会」である、世田谷美術館でかつて「白と黒の会展−ある交流の記録」を行っている。世田谷美術館のホームページには紹介がある。
世田谷の経堂かいわいは、昭和初期から新進の画家、彫刻家、美術評論家が数多く集まって、生き生きとした創作活動を展開した土地です。戦後間もなく、彼等は小田急沿線にアトリエを持つ仲間を巻き込んで、一つのユニークな親睦会を作りました。白と黒の会です。
小田急線が開通したのは昭和二年だ、武蔵野を貫通する線は画家たちにとって魅力的だった。緑が多い、オゾンも豊か、新宿にも近い、足をのばせば多摩川にもすぐ行ける。
「白と黒の会」は、画家だけではなかった。
「世田谷区に花開いた絵画、彫刻、工芸から演劇、映画、文学、社会思想にまで及ぶ幅広い活動を紹介し」とある。言えば小田急が切り開いた芸術村である。
玉川電車が切り開いた芸術村というのは全く聞いたことがなかった。ただやはりこの電車に開通によって沿線は変わった。
宮本百合子は、玉川電車のが開通して切り開かれた新町住宅地に住んだ。彼女の日記
一九二四年（大正十三年）一月九日の日記。この日来訪者があった。
「けさは、玉川にゆき、夜は銀座にゆく」との一節がある、玉川電車の恩恵である。
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2022年02月25日
下北沢Ｘ物語（4434）―核で脅すおぞましい戦争指導者―
（一）ロシアの戦争指導者は、怖ろしいことを言い放った。「ロシアは世界で最も強力な核保有国」だといい、「我が国を攻撃すれば、壊滅し、悲惨な結果になることに疑いない」と。ロシアはウクライナの主権を武力で侵している、反撃があれば核で応戦する可能性を言及している。ロシアは国連の常任理事国だ、他国と協調して平和を率先して保つことが求められている。が、彼の国はそれを放棄し、核兵器を使うことも辞さないと世界を恫喝している。核兵器の使用がいかに残酷な結果を生むか、広島と長崎での原爆被害の惨状が端的に証明している。たった一発で何十万もの人が死に、都市は廃墟と化す、そして生き残ったものも死ぬまで放射能被害に苦しむ。悪魔の兵器だ、これに手を染めるものは人間ではない。プーチンは軍事侵攻の理由をウクライナでのジェノサイドの阻止、非ナチス化を図るという。ウクライナが残虐な行為を行っているとロシアは一方的に言い分を流している。その上で核使用も辞さないという。絶対に許されることではない。
（二）
我らは、六年前の夏、戦後七十年周年記念戦争関係記録集（北沢川文化遺産保存の会 紀要第四号）を発行した。
冒頭の「序」では、「戦争経験を聴いて学んだこと」を載せている。
数多くの人から戦争経験を聞いてきた。これによって知ったことをまとめている。
誰もが言っていたことは、「何があっても戦争をするな！」だ。なぜか？
一つ、戦争は、始まったら終わらない、殺し合いがいつまでも いつまでも続く。
二つ、人がどんどん死んでも、飢えても何とも思わなくなる。
三つ、戦争になると、「もう戦争を止めようよ」、この簡単な一言が いえなくなる。
四つ、いざ戦争となると人間が人間でなくなる。
命は毛ほどに軽くなり、軍隊では虫けら同然に扱われ、果ては人 間が武器の代わりに使われるようになる。
五つ、心ない大人が出て来て、学童や子どもを裏切る。
一旦銃火を交えると燃え上がるのは憎しみである。これを押さえこむことは困難である。その間に次々に人は死んで行く。兵士は撃たれ、そして今度は市民が、無力な女子どもが次々に斃れていく。
戦争になると法は全く役立たなくなる。殺戮、強奪、強姦などこれは止められるものではない。
人間が人間であるのは「知」を持っているからだ。平和時はこれが通用する。ところが戦争になるとこれは生きない。
（三）
つい先日、昭和女子大を訪れた。校庭にはトルストイ像があった。（写真）
ロシアを代表する文学者トルストイはこういうことばを残している。
すべての暴力は、戦うことなく相手を屈服させることは出来ようが、相手を従順にさせることは出来ない。
ロシア軍はウクライナに侵攻している。圧倒的な軍事力を背景に彼の地の制圧をしようとしている。銃剣、そして核使用もほのめかして隣国を屈服させようとしている。が、ウクライナ人の心までは占領できない。
考えるにウクライナのできごとは人ごととして済まされない。日本国内でもプロパガンダまがいのニュースが流れている。その背後には「目には目を、歯には歯を」という武力での反撃をよしとする考えがある、これが擡頭してきている。
今、日本には国民総生産の二パーセントを国防費にせよとの意見がある。
これをすればロシアの軍事費を上回ることになる。知らぬうちに我が国もまた再び戦争への道を歩いて行くようになる。「何があっても戦争はするな！」、この体験は死守すべきだ。
2022年02月24日
下北沢Ｘ物語（4433）―北沢川・烏山川文化探訪番外編―
（一）文化探訪を始めたきっかけは新たな地図づくりを発想したからだ、「三軒茶屋文士町（太子堂・三宿）文化地図」である。我らは「下北沢文士町文化地図」を作りを通して文化発掘を続けてきた。文化は土地固有の匂いであり風合いである。その地域には土地に根ざした固有性がある。三軒茶屋と下北沢、荏原地域では最も際立つ地点である。この二地域の文化は間違いなく鉄道が大きく影響している。三軒茶屋は明治末、下北沢は昭和初期に鉄道が開通している。この差は大きい、早くから近代に揉まれたのは三軒茶屋だ。文化的に開けたのも玉川電気鉄道沿線である。が、人間の欠点がある、後時間優位の中で生きていることである。言えば市電線の玉電をけなし、郊外線の小田急を誉めることだ。
玉電がもたらした近代というのは大きい。例えばこんなエピソードがある。宮本百合子は新町住宅地に住んでいた。そこに網野菊がやってきた。お腹が空いたので桜新町に買い物に行く、マカロニを買ったところ主人がパスタのゆで方を教えてくれたという。新町住宅地は玉電が開通したことで開けたところである。この逸話を知ったとき驚いた。玉電文化圏での出来事だ。
玉電沿線は、おしゃれな町だった。例えば、駒沢電停すぐそばに「仙緑園」という高級住宅地が売り出された。売りは、「文化的田園理想住宅地」である。大正期、震災前に売り出された土地である。
渋谷驛ヨリ分譲地迄 電車十五分ニンシテ到ル
渋谷驛ヨリ分譲地方面行 電車毎五分發車
三宿、三軒茶屋は駒沢よりもっと手前である。都心に住む給与生活者には憧れだった。今新たに知ったことだ。三宿から三軒茶屋にかけてはなんと文化人多く住んでいたのである。このことは全く欠落していた。
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2022年02月22日
下北沢Ｘ物語（4432）―北沢川・烏山川文化探訪行 ２―
（一）世田谷通りを右折して太子堂と若林の境界道を行くと踏切にぶつかる、世田谷線の西太子堂踏切だ、文化を知るには恰好のものがある。「線路をよく見てください。普段見かけるものとは違います。軌間の幅が広いでしょう。いわゆるJRでは１０６７ミリが標準なのです、ここは１３７２ミリあります。幅が広いでしょう。名称ですが馬車軌道といいます。馬が糞を垂らして走れる幅ですね。鉄道が開業したころは馬車が乗客の乗った箱を引っ張っていました。いわゆる東京市内線ですね、これと繋がっていたから幅を合わせてあります。路面電車ですね。ここ三軒茶屋と高井戸間は専用軌道だから残ったのです。三軒茶屋から先は大山道を走っていました」
今回町歩きをするに当たっては鉄道がキーワードと言いました。まさにその鉄道がこれですね。これは高井戸線と言っていました。開通したのは大正十四年です。この年号はポイントですね、とくには大正十二年です。この年に起こった大災害が震災です。電車の本線は渋谷と玉川とを走っていました。玉川電気鉄道です。開通は明治四十年です。だから震災時は走っていました。
大震災によって下町は壊滅的な被害を受けますね。川沿いに広がっていた町ですね、地盤がゆるゆるで建物が倒壊しこれが燃えました。大火が起こり避難民が大勢出ました。この人々が地盤が強固な西へ転居してくるのです。電車は開通していましたから人々は玉電に乗ってやってきました。
この一帯は、街道沿いは家が建っていました。が、裏手は畑ですね。ここが一気に宅地となったのです。三軒茶屋、太子堂、三宿ですね。貸間や長屋などが急速に建てられていったのです。その名残が今でも残っています。一帯を見渡すといわゆる木密地域ですよね。
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2022年02月21日
下北沢Ｘ物語（4431）―北沢川・烏山川文化探訪行 １―
（一）三軒茶屋、太子堂、三宿をめぐり最後は代沢に着いた。雨の中、参加者の一人は、「土地の空気感がまるで違いますね」と。町の空気を潜り抜けてきての感想だ。この一言に文化の差異が端的に表れている。文化とは土地のにおいや風合いをいう。北沢川流域では文学が生まれ、烏山川流域ではそれが死んだ。両河川を挟んでの文化勃興と終焉は日本文学史の核心でもある。それは昭和3年(1928)だ。7月に「私小説の神様」は三宿で没した。大正文学の終焉とも言える。11月には北沢（代沢）に横光利一は阿佐ヶ谷から転居してきた。新感覚派の旗手でこちらは「小説の神様」と言われた。昭和文学が当地で勃興したと言える。三宿は密集地、庶民の町だ。北沢は中産階級の町、高級住宅地である。文学もまた生まれそして死ぬ、両者の距離約千メートルだ、そういう場は日本にそう多くはないだろう。
１９日の町歩きは、「烏山川・北沢川・比較文化探訪行」である。
キーワードは、鉄道、震災、戦災だと言った。これにもう一つ加えると地形がある。分かりやすく言うと、三軒茶屋と下北沢の文化比較である。両町を繋いでいるのは、まさに二つの町の名を取ってつけられた「茶沢通り」である。両町の中間地点に代沢十字路がある。言えば文化の交差路だ。縦線ラインが茶沢通りであり、横線ラインが淡島通りである。こちらは古くからの道、滝坂道沿いである。
代沢十字路には、スーパーサミットがある、店はそれを意識したわけではないが、丘の頂点、サミットにある。東西に横たわる尾根道だ。これが我らが言うところの世田谷城半島である。先端部には多聞砦があった。舌状台地の突端だ。
「多聞砦でのろしを上げるのですよ、すると丘続きの城の見張りは、その信号を読み取って『殿、多聞からのろしの知らせ、敵兵が来た』などと言っていたのですよ」
同行した別宮通孝さんの話から思いついた。
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2022年02月19日
下北沢Ｘ物語（4430）―平福百穂旧居判明！―
（一）１８年間私達は何をしてきたか？ひたすらに文化人の旧居を調べてきた。確認できた箇所は地図に落とし網羅してきた。それで何が分かったのか、居住地区における文化の営みが把握できるようになった、作家、芸術家、音楽家など多岐に亘る人々が住んでいた。地域全体が文化都市であることが認識できたことは大きい。ある人に「もうこれでよい、後やっていると同人誌級になるからな」と。確かに調査していると蒐集癖が頭をもたげてくる。単なる文化人集めにならないようにする。今、現在新たなチャレンジをしている。隣町の文化地図を作ろうとの算段だ、三軒茶屋、太子堂、三宿である。流浪人が集まったように思う。三宿では葛西善蔵はよく知られている。彼の口述筆記人嘉村磯多も住んでいたようだ。平福百穂（ひゃくすい）は日本画家であり、歌人である。当地で画塾「自由舎」を開いたという。また草間彌生下宿地、武田泰淳仕事場、三田誠広旧居などを田島哲夫さんは見つけた。
「ふるさと世田谷を語る」（三宿編）に「三宿に住んだ有名な人たち」がある。
嘉村磯多が葛西善蔵の口述筆記人で三宿の葛西宅にしばしば訪れていた。
嘉村磯多は山口県生まれで後上京して文学を志しながらもなかなか認められてもらえず苦労した人でした。大正十五年のころ同人誌の記者となって葛西善蔵とも知り合い、この地に住み作家として世に出ますが、三十六歳で亡くなってしまいました。（同著）
文学を志しながら上京しという青年は何万といた、その志破れて帰郷した者もいた。これもそれも人生である。
一度成功すれば地方では有名人となる。嘉村磯多は、山口県山口市仁保上郷２３９７が生家で、「帰郷庵」として残されていて小さな文学館となっている。山口県のホームページに彼の評価が短文で記されている。
嘉村礒多は壮年にして故郷を捨てはしたが、その文学は常に故郷に根ざすものであった。過去への悔恨はどこまでも彼につきまとい、罪業の意識を逃れることはできなかった。それは、切なる望郷の思いと相俟って読者を自ずとその文学の深みへ誘う。
処女作「業苦」以来、己の内面世界を凝視し描き続けた嘉村文学において私小説は極まったと評されている。
三宿での生活場所はどこなのか、「帰郷庵」に連絡して三宿住所を聞いてみるのも一つの方法だ。
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2022年02月18日
下北沢Ｘ物語（4429）―世田谷城半島多門寺砦岬―
（一）世田谷城続きの台地、聞き慣れない言い方だ、世田谷吉良氏没落後、家来は帰農して土地に住み着いた、城続きの土地は密かな誉れであった。その世田谷城続きの土地は今も明瞭な形を残している。たとえてみればウナギだ、これが淀橋台地の下ににょろりと横たわっている。これを我々は世田谷城半島と呼んでいる。先端部は見晴らしがよい、ここには多聞砦があったという。この世田谷城半島はほとんど注目を浴びることはない。が、我々は十数年町歩きをしてきた。これによる学習によってこの半島状の形状をした土地が、文化境界を形作っていることに気づいた。この半島は水によって囲まれている。それが北沢川であり、烏山川である。岬を挟む形で流れている。両川には沿岸文化がある。舌状台地をぐるりと巡れば文化の違いが分かる。ということでこの土曜日に「烏山川・北沢川・比較文化探訪行」を行う、昨日その下調べに行ってみた。
世田谷城半島は、常日頃、茶沢通りを中心にして横断している。ゆえに岬先端部辺りは心許ない、それで「世田谷城半島多門寺砦岬」方面を探訪した。
半島先端は岬状の台地があるのだと思って行くと、予想に反してフラットだった。合流点には、石柱の道しるべと子どもの像がある。（写真）首をかしげて考えこんでいる。
こちらも考えた、大正六年十二月発行「大日本帝国陸地測量部」作成の地図を見る、この地点には何もない。岬先端にも合流点にも、が、よく見ると水田マークがある。川と川とが合流する地点は水が豊かであった。それで湿地帯となっていた。
合流点の先へ行くと「池尻」だ、かつてここには大きな池があった、端が池尻だ、手前には三宿がある。『世田谷の地名』では、「三宿は水（み）宿で水溜まり、即ち池であると解することができる」と。いわゆる縄文海進のときはこの辺りまで海が来ていた。
この南手には東山貝塚があって、埋蔵物に鯨の骨があった。
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2022年02月16日
下北沢Ｘ物語（4428）―津々浦々文化論・文学論 下―
（一）表題は、いつもの「ネットに与太を飛ばす」というやり口だ、今日検索するとこれはやはり頁トップに来ていた。ネットでの手応えは造語としては意味があるということだ。確かめてみるとこの語の使用例が全貌を掴めないほどに数多くあった。ここから何が言えるか、日本人が大好きな言葉であることだ。だから頻出する、ということは、言い換えれば手垢のついた言葉、つまりは陳腐表現であることだ。これを使って説明すると、聞いた方、読んだ方は安心するようだ。どうもこの言葉、権威を高めるために多用されている節がある。津々浦々まであまねく行き渡っているから確かだという書き手の価値づけが潜んでいる。この同調圧力に弱い我々はつい安心してしまう。この語の使われ方の奥底には我々の文化観が潜んでいる。それは安易さであり、権威付けへの弱さである。
昨日、コメントがあった。寺島俊之さんだ。
近世までの一般人は、武蔵や越後のように居住する藩を国だと認識していたようです。今でも国とは出身地を意味する場合もあります。一般人が日本全体を考えるようになったのは、明治以降の義務教育と徴兵制になってからです。私も「津々浦々」という言葉は明治以降だと考えますが、瀬戸内海地域から発祥した日本語のように感じます。
言葉は情景を喚起するものだ。この語の生まれ来たったところが瀬戸内海だというのはおもしろくて、素晴らしい。が、この語は、明治になって生まれた語である。
原動力となったのは鉄道である。日本の地勢特性は地域地域が山で遮られていることだ、それゆえにその地域地域で固有の文化が生まれ、それが温存されてきた。
近代における衝撃は鉄道だ、当初は火龍とも言われて恐れられた。が、これがもたらす変化は驚くほどに大きかった。交流を妨げていた山々に隧道が穿たれることによって大きな変化が生まれた。それまでは津と津、浦と浦とは分け隔てられていた。が、トンネルが開通することで津と浦同士が結ばれるようになった。ここで初めて津々浦々は生まれる。隧道を潜り抜けていくことで人々は自分たちの回りが津だらけ、浦だらけだと知った。
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2022年02月15日
下北沢Ｘ物語（4427）―津々浦々文化論・文学論 上―
（一）散歩途中にふと思いついたのが表題だ、「津」は港、「浦」は、海岸である、「津々浦々にゆき渡る」というように広く全国に情報などが伝わることを言う。この言葉はおもしろい、日本列島の地勢形状の特徴を立体的に捉えているからだ、俯瞰的観点が潜む言葉だ、疑問に思うのは明治以前の人々の誰もが、地形を立体的に捉えていたか？例えば、北前船の船頭が「入り江入り江があってよ、津には遊女がいたからな」というのなら分かる。が、一般の人には分からない。野村胡堂の『銭形平次捕物控』には「御存じの通り、日本の津々浦々で大騒ぎをしている子さらいの仕業」とある、江戸人にどれほどに津々浦々が浸透していたかは疑問に思う。私が述べたいのはこの四文字熟語は近代になって産み出された語ではないかということだ。
全国、「津々浦々」あまねく知れ渡る、英語では、「all over the country」とか「from coast to coast」というようだ。物語を語る場合、その逸話が全国中に知れ渡っているというのは一つの見せ所である。それほどに有名なのですよと言われれば、「そうなのか」と興味を引き立てられる。
先に紹介した岡本胡堂には、『大江戸黄金郷』という作品がある。小説冒頭は、武士である山浦丈太郎は不思議な手紙をもらう。どうも挑戦状のようだ、末尾に「若し逃げ隠れするに於いては、この旨日本六十余州の津々浦々に伝え、百代の後までも、其方を卑怯者の見本として、物笑いの種にするであろう」とある。
日本には、地域地域が「六十余州」あるというのはよい、が、その国々が「津々浦々」によって構成されているのは江戸人にとっては初耳ではないか。お伊勢参りに行ったものはいるが諸国は、津津と浦々からなっているまでは知らないのではないか。
この津々浦々は便利な言葉だ、これも江戸期を舞台とした捕物帖だ、林不帰の『釘抜藤吉捕物覚書』の「のの字の刀痕」の一節だ。
そのころ八丁堀の釘抜藤吉といえば、広い江戸にも二人と肩を並べる者のない凄腕の目明しであった。さる旗本の次男坊と生れた彼は、お定きまり通り放蕩に身を持ち崩したあげくの果てが七世までの勘当となり、しばらく土地を離れて雲水の托鉢僧としゃれて日本全国津々浦々を放浪していた
日本中を放浪していたではなく、「津々浦々」がつく。どうもこの「津々浦々」は常套句であったようだ。江戸も明治も構わずに「津々浦々」とつければ何とか文章表現としては形になる。
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2022年02月13日
下北沢Ｘ物語（4426）―豆腐と古墳と海 ２―
（一）津々浦々文化論、というのもおもしろい。情報の伝わり方を言う場合に使われる。用例としては「日本全国津々浦々までも行わたって居る筈の文明の恩沢も」（国木田独歩）がある。国家の施策や情報が隅々まで伝わる様をいう、津は港、浦は海岸、ここに列島の形が見えてくる。凸凹した半島状の陸地が日本だ、音波の伝わり方が想起される。半島末端まで行き着いて音はまた戻って別のところに反響していく。首都で発信された情報が日本では田舎の隅々まで伝わる。この伝播の仕方というのは太古の昔からあったのだろうか。野毛大塚古墳は、帆立貝型古墳だ。実は、この形の古墳は、世界遺産となっている「百舌鳥・古市古墳群」の中にある。ここは古代日本の政治文化の中心地だった。この影響を強く受けているところからヤマト王権との深い結びつきがあったとされている。言えば、忖度築造とも言える、権力闘争の一端が、古墳によって見られる。
我々は、古墳という言葉を使う、古代の墳墓のことを言う。が、これは現今を生きている者の言葉だ、人間の時間は、後時間有利だ、今時間は考えない。
野毛大塚の墓は、できた当時素晴らしかった。崖の下の多摩川の河原から眺めると、丘の頂上にこれが光って見えた。多摩川の玉石を運んで円墳表面にびっしりとこれを敷き詰めた。「玉は磨け」と言われ、葦の枯れ枝で作ったたわしで磨いた。すると太陽光が当たると全体が光って見えた。神々しいほどであった。当時は、多摩川左岸の名物風景だった。人々はこれが見えてくると、「ありがたや、ありがたや」と言って手を合わせた。 しかし、時が経って王墓は忘れられた。昭和では、あの小山の空き地はもったいないから杉でも植えようとなって、杉林となった。
埋葬者はだれか分からない。が、当地一帯を支配する首長だった。 続きを読む
2022年02月12日
下北沢Ｘ物語（4425）―豆腐と古墳と海 １―
（一）歴史は不確かである、が、古墳は確かだ、眼前にその形が見られるからだ。今回は古墳を巡っての因縁ストーリーだ。豆腐は好きだ、スーパーのよりも豆腐屋さんのが美味しい。ところがこれは消滅しつつある。それで豆腐を求めて遠いところまで歩いていく、この頃では崖線の向こうの野毛の桑原豆腐店へ行く、ここへ行くときに野毛大塚古墳の側を通る、つい最近通り掛かったときボランティアによる説明会にぶつかった。「形状は帆立貝型古墳です、築造は約千六百年前です」との説明。ここの歴史由来を聞くのは初めてだ。自身、近隣一帯を歩いている。各所に縄文時代の遺跡があることを知っている。縄文一万年という古さに比べると千六百年前というのは歴史としては浅いと思った。百歳まで生きた老人十六人を並べれば繋がる、「なんだそんなに短いのか！」
「この古墳が発見されたのは明治三十年なんですね、付近の学生が頂上部を掘ったところ埋蔵物が出てきたんですよ」
女性のボランティアの説明だ。「出たぞ！」、目を丸くしている男が目に浮かぶ。
「この遺跡の表面は多摩川の河原から運んで来た玉石がびっしりと敷き詰められていました。遠くから見ても目立つぐらいの美しい風景だったと思いますね」
高さ１１メートルの円墳だ、太陽の光が当たると表面の玉石が輝いて見えたのではないか。玉石を背負った人々が列をなして河原から崖線を登ってくる様も思われた。
『そうか古墳は単なる墓ではなく、人々にとっては風景だったんだ』
目の前にある古墳は、想像を膨らませる。墓に眠っている王はその風景は見えない。見えるのは生者である。
円墳を作ったのは埋葬者の後継者であることが容易に想像がつく。故人を敬ってというよりも自身の権力や権威の誇示をするためであろう。
「新しい領主さんは流石だな。あんな立派な墓をお作りになって」
「そうだともなんせ力のあるお方だからな、逆らえないんだよ」
当時の人々の噂話が聞こえてくる。
形のある墓は、想像を具体的に膨らませる。
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2022年02月10日
下北沢Ｘ物語（4424）―パンデミック的時間論 下―
（一）時間が生起して世界は造られる。が、時間は瞬時のものではない。重層的なものである。その積み重ねこそが歴史であり、文化である。その形は見えないが、凹凸があるに違いない。時間は一様でなく晴れやかな時があればしめやかな時もある、つまりはハレとケである。ところがパンデミックによってハレが消滅し、ケが中心となった。言わば立体性を失った時間はのんべんだらりと過ぎていく。古老たちは口をそろえていう。「老い先短いのに時間が楽しめなくなった、カラオケにも行けない、囲碁もできない、スナックのママの美貌にも出会えない。人生が枯れ始めているのに、これに輪をかけるように人生が干からびてきた。そうだ、一番大きなことはどんなに親しかろうと人の死に目に会えなくなったことだよ……」
人間は生という時間を渡って生きて行く、が、やがては老いて死んで行く。その中で死も大きな儀式である。が、今、葬祭が行われなくなった。
郊外駅のひっそりとした風景があった。提灯を持った男が、斎場の場所を知らせる。そういう光景が全く消えてしまった。
今年になって訃報が三件あった。「〇〇先生が亡くなられた」と。前であれば、通夜と告別式の連絡があった。が、それはない。お花も何も必要ないと言ってくる。
最近は葬儀はほとんどが身内で済ませるようになった。家族葬である。
お通夜は言ってみれば同窓会だ、「お前生きていたか！」といい。「故人は浮気者だった、ほらあそこにいる美女は昔の彼女さ」などと故人にまつわる物語が語られる。葬儀には葬儀の物語があった。そこに参加することで自分の命を知る場でもあった。
コロナで死ぬと、遺体嚢に包まれたまま顔も見ることもできないらしい。
（二）
昨日、それぞれ今の時間についてどう思っているか聞いてみた。いくつかの回答を戴いた。
野沢有さん
コロナになって時間が長く感じるようになりました。変化が少ない事が一番、仕事もZOOMが大半で、話す相手は妻が大半、友人・知人と一杯もなく、好きな海外旅行も行けず、何か空しい時間が過ぎ去っているようです。もう残り少ない人生、焦りと不安が過ぎります。
自由に行動ができない、感染しないように家居しなくてはならない。人と会って飲むこともない、ましてや海外旅行などはほとんど無理である。家居だとどうしても話す相手が決まってくる。緊張や刺激が乏しい、場合によっては生気を失うこともある。
仕事はZoomだ、パンツ一丁でも応答できる。が、画面だけだと人の温みが感じられない。
残り少ない人生、一刻一刻を大事にしたいができない。焦りと不安というのはよく分かる。
ごうだゆうきさん
「なんであんなに急ぐ必要があるんだろう？」
まさにわたしがいつも思っていることです。スピリチュアル的には、ほらほらのんびりしてる暇ないよ、と何かにつけて自分をせかしてくる声というのは、自分の声ではなく、親や先生や友達や著名人が過去にいっていたことを、自分の声だと勘違いしているだけなのだと教わりました。自分の望みに素直になることがエゴだと思い込む人はとてもおおいですが、自分を縛り付けることこそがエゴなのだそうです。それをいつか人にも押し付けるようになるから…。その頭の中の看守に、「おつかれさまでした。ありがとう💐」と引退してもらうことが、幸せな時間をおくることなんだと気付きました。
難しいことを彼女は述べている。通常時間では自分が縛られている。が、コロナになって外出しなくてもよいとなると罪悪感が消えてしまう。生きている者は、働かなくてはならない、勉強しなくてはならない。目に見えない義務感に追われることがある。が、みんな一緒で、家に居ていいとなるとこれほど有り難いものはない。
通常時間というものを改めて認識する機会になったとも言える。
寺島俊之さん
私の感覚では阪神大震災からの数ヶ月と似ています。1995年の神戸でも梅や桜は開花しましたが、そんな思い出はないです。正月セールの看板を残したまま全壊した商店街も多かった。人々の心は震災当日で止まったまま無機的に時間が過ぎていった。新型コロナの日々も、震災を越えたから頑張ろうという気になります。
阪神大震災の経験だ。街は激震に襲われ、建物は崩壊し、火事が起こって焼け、そして多くの人々が亡くなった。途方に暮れた、時間というのは容赦がない。人々の悲しみを他所に、梅や桜が咲いた。が、何の感銘もなかった。
彼は、「無機的な時間が過ぎた」という、いま、コロナ禍にあって、我々は無機的な時間を過ごしている。
災難を語るとやはり絶望的になってくる。しかし、震災経験も経験である。あの悲惨さを乗り越えてきた。そこに彼は希望を見出している。
確か『夜と霧』の中で、アウシュビッツに収容されていた捕虜、もう後はガス室に送られるだけだ、そんなときに数名が集まってきて、自分が考えてきた冗談を発表する。それを聞いてみなは力なく笑う……細い繋がり、それそれが希望となって彼等は生き残った。
（三）
我々は今悲嘆的時間を生きている。が、しかし、この時間は我々に試練を与えてもいる。
生気を失うと身体が反応してしまう。それが鬱ともなってくる。
絶望に立ち向かうとどうしても心は暗く染められる。
コロナ禍は現実として受け止め、ここをどううまく生きるか？
自身、毎日歩くことにしている。遊歩道や公園で保育園児が無心に遊んでいる。こどもらの笑顔を見ていると元気も湧いてくる。
今は自分へ勇気づけが必要だ、人混みは避けて散歩はできる、花に、犬に、美女に、鳥に、富士にも、人に風景に出会うことで命をもらいもする。コロナという嵐がやめばまた新しい地平が見えてくことを期待したい。（写真は、東工大構内の梅）
〇今度は
コロナ時間をどう生きたらいいか、またご意見をください。
2022年02月09日
下北沢Ｘ物語（4423）―パンデミック的時間論 上―
（一）時間の感触を表現することはなかった。が、今は時間の変化を痛切に感じる。「時間がベトベトしている」はない、「時間がつるつるしている」というのは見事当てはまる。パンデミックに陥ってから時間のメリハリが無くなってしまった。前に特急で青森に着いたとき、『自分の身体は青森駅のプラットホームに着いているのに、心はまだ仙台辺りをうろうろしている』と書いたことがある。新聞書評でこれを批評している人がいた。時間に関して同じような感触を持つ。今日は「２月９日」だ、身体は確かにこの日にいるが、心はまだ１月あたりをうろついている。時が先に進むばかりで心は置いていかれる。私達は、ハレとケを生きてきたが、今は、ケの時間ばかり、時間というものの印象がのっぺりとしている。時間というのは情景の変化の連続だ、が、トピック的情景が思い浮かばない。我々はパンデミックの中で不幸な時間を生きているのではないか？
風景と時間は深い関わりを持っている。いつぞやはどこへ行って海を見た、間近で富士を見た、中央線車中からシルクハットを逆さにした街を見た、などということがない。頭脳の中に眠っているトピックを引き出すことによって過去時間が立体的に見えたが、今はどこまでも平板である。
毎日、歩いている、歩かない日はない。東西南北数キロ範囲は行っている。南は池上線御岳山当たりまではよく行く。ここを新幹線が切り通しで抜けている。シュッと音を立てて新幹線が通り抜けていく。瞬く間に消えていく。
「なんであんなに急ぐ必要があるんだろう？」
今は梅の盛りだ、例え車窓に見えたとしても一瞬だ、「あ梅！」と。しかし、今時新幹線の車窓にへばりついて風景を眺めていく人も少ないのではないか。
こおこぉくっく、こおこぉくっくという新幹線特有の音は味気ない。かつて鉄道は音楽性を持っていた、カタトッテ、トトトッテと音を刻み、風景をも刻んでいた。が、速度性が増して、風景が横縞として流れていくだけになった。
パンデミックになって時間が横縞になったのではないか。特徴もなく時間が過ぎていく。
（二）
妙なことを考える。
町角の十字路には立て看板が立てかけてある。
〇月〇日、夕刻〇時ごろ、ここで乗用車と自転車の衝突事故がありました。
目撃された方おられましたら連絡をください。 〇〇警察署
これも一つの物語だ。ここで事故が起こった。が、自転車に車をぶつけた側は逃げてしまった。被害者は救急車で運ばれて入院している。犯人がみつからないので賠償請求もできない。それでひき逃げ犯を捕まえなければならぬ。
ただ、いつも思う、我ら人間は曖昧な時間を生きている。過去時間の何時何分と言われてもほとんど思い出せないのではないか。
「覚えています、あれはちょうどお袋が死んだときだったのですよ。電話があって病院に駆けつけるときにそこを通りました。時刻は五時十五分ぐらいです、時間はぴったりです。ナンバーは下二桁８８ですよ、お袋の年齢と一緒でしたから……」
そういう僥倖でもない限り犯人を見つけることはできないのではないか。
その例の立て看は一切見なくなった。事故時間を思い出す場合にはトピックがなくてはならない。それすらも今はなくなっているのではないか。
（三）
相模湾で漁業をしているお父さんの話をテレビで拾っていた。漁場までついていって撮影していた。そのときは漁獲が多くあった。鯛とかアンコウとかが捕れていた。
「前だったら高く売れたんだけど、コロナで飲み屋さんやっていないでしょう。だから漁獲があっても売れないんですよ。燃料代も高くなっているからますます生活が大変です。子供も養っていかなくてはならないから、儲からなくても漁には出ますよ」
思い出したことがある。アフリカの原住民はハレの場で出た鯛やマグロなどの骨を藁屋根の裏に突き刺す習慣があると。鯛の骨を見ては爺さんの誕生日だった、鹿の骨をみて婆さんの快気祝いだったなどとその時を思い出すらしい。
コロナ禍では祝儀は行われない。今は時間が過去に過去にぬったりと溶けていくばかりである。生きている時間が掴めなくなった。リモート授業や分散登校を強いられている学校では、思い出の場の作りようがない。運動会もない、修学旅行もない。
「アルバムに貼ってあったのはリモート合唱のときの分割画像ですよ」
一生徒が悲しげに言う。（写真は、洗足池、一昨日）
〇皆さん、この頃の時間をどう感じていらっしゃいますか？ 感想を書いてくださるとありがたいです。
2022年02月07日
下北沢Ｘ物語（4422）―汽車道文学論 了―
（一）新造語、「汽車道文学論」をネットにぶち上げた。これは一種の探りであり、リサーチである。この関連語を調べていて一つの句に出会った。「汽車道の左右に畑打つ夫婦哉 」だ。無論、子規によるものだ。つい笑ってしまった。これを詠んで子規は超がつく鉄道愛好家だったと知った。私などもそうだった、汽車に乗ったら車窓から目を離さない、が、これでも飽き足らず反対側の窓もチェックしていく。ああ、やっぱり子規も同じだったのだと思った。右手に鍬で畑を打っている男が見えた、野原では鳥の番をよく見る、子規は直感が働いた、左手を見ると手ぬぐいを被った女が同じように畑を打っている、汽車道を境に夫婦が畑を耕していたと知った。今まで気づいていなかったが正岡子規は無類の汽車ずきだったと知った。
夏目漱石に『京に着ける夕』というエッセイがある。この冒頭の一文は素晴らしい。
汽車は流星の疾きに、二百里の春を貫いて、行くわれを七条のプラットフォームの上に振り落す。余が踵の堅き叩きに薄寒く響いたとき、黒きものは、黒き咽喉から火の粉をぱっと吐いて、暗い国へ轟と去った。
明治四十三年三月二十八日、漱石は午前八時新橋発の最急行に乗った、夕刻七時三十七分に京都に着いた。最急行は快調に走った、「二百里の春を貫く」は、彼が時折読んでいる本から目を離しては窓外に見入っていたことが分かる。瞬く間に京に着いて私を振り落とした、彼に汽車は愛玩物ではない、人を運ぶ物体だ、邪険に人を振り落とす。漱石と鉄道との距離が見えておもしろい。
このエッセイ、到るところに子規が出てくる。漱石は子規とともに京都へ来たことがあった。ここに着いて何を目にしても子規が思われた。
ああ子規は死んでしまった。糸瓜へちまのごとく干枯らびて死んでしまった。
子規への追慕がここでは描かれる。この子規と漱石の鉄道観が全く違う。『草枕』における漱石の汽車批評は鋭い。
人は汽車へ乗ると云う。余は積み込まれると云う。人は汽車で行くと云う。余は運搬されると云う。汽車ほど個性を軽蔑したものはない。
一方の子規は、漱石とは反対で無類の汽車好きだった。
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2022年02月06日
下北沢Ｘ物語（4421）―汽車道文学論 ３―
（一）新たに「ネットで与太を飛ばした」、それは「汽車道文学論」である、連続して二本記事を載せたが共にGoogle検索でトップに来る。このネットへの与太飛ばしから学んだ、新たな文化発掘の手法であったということだ。「汽車道文学論」は一般には意識されていなかった。が、この造語がヒットしたことは実質を持ったテーマとしての可能性を示唆している。事実、子規は『歌よみに与ふる書』の掉尾において汽車やレールをどのようにして歌語として成立させたらよいかを提言している。機械を即物的に詠んでもだめだ、そこに花をそっと添えて詠めと言う。彼の精神の底には独自の考えがある、汽車という近代の機械をどう文学の中に位置づけていくかという問題だ、「汽車道」という造語も彼の実験の一つなのである。これまさに汽車道文学論である。
正岡子規のエッセイに『総武鉄道』がある。その冒頭である。明治２７年１２月９日この鉄道の市川と本所（錦糸町）との間が開通した。子規は取材を兼ねて中村不折とこの月末に新線に乗った、その行状記を新聞『日本』に寄稿した。記事掲載は１２月３０日だった。
まず、冒頭である。
鉄道は風雅の敵ながら、新らしき鉄道に依りて発句枕を探るこそ興あらめと、二人して朝疾く出で立つ。本所の割下水にて即景
染汁の紫こほる小川かな
子規は、 『歌よみに与ふる書』でも、「文明の器械は多く不風流なるものにて歌に入りがたく」と述べる、「鉄道は風雅の敵」である。鉄道には味がない、詩情に欠けると。
新しく出来した近代の機械は詩歌に取って敵である。具体的な理由として二つある。
・これまで詩歌は書き手がさるき歩くことで素材を獲得してきた。流離いを通して作品を作ってきた。が、汽車となると歩かずともよい、つくねんと座席に坐って車窓を眺めていればよい。が、詩歌は自らが汗することで得られた、機械によって得られた情景は自らの努力でないだけに説得力がない。
・鉄道は、機械であり、物体である。即物的なものに詩はない。風雅とは正反対のものである。
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2022年02月04日
下北沢Ｘ物語（4420）―汽車道文学論 ２―
（一）「ネットに与太を飛ばす」は、自身の造語だ、が、この語も使い慣れないと分からない、それでも意味が分かってきた、「文化発掘のツール」であることが。昨晩、新たに造語をネットに飛ばした、「汽車道文学論」だ、四時間ほどでこの語がGoogleでトップにきた。社会、世間では使われない語で目新しいから第一位となった、言えば誰も触れていないジャンルである、新しい文化の発掘だ、というよりも感触である。自身造語をしてやみくもに語をぶち撒いているわけではない、何らかの予感があって、これだったら当たりがありそうだと思って語をネットに放っている。言わば「ネットに与太を飛ばす」ことは、物差しをネットに差し入れるということだ。検索トップに来たことは反応があったと言える。つまり、「汽車道」＋「文学論」は、新しいジャンルとしての成立の可能性がある、ということである。自身はこの反応を通して明治期に生まれた汽車文学を掴んだように思った。
「ネットに与太を放つ」という昨日の実験は成功した。もう昨晩の段階で「汽車道文学論」は検索トップに来ていた。おもしろいことにnifty検索が先に拾っていて、Googleは遅れた。機器の設置場所の関係か？前者はネバダ砂漠？一方は北新宿？かとも。
この実験結果から分かることは、巡回ロボットが造語を感知して拾い、順位付けを行っているようだ。中身よりも上っ面の言葉で拾っているように思える。しかしだ、「汽車道文学論」は内容を持ったフレーズだと思う。日本文学では見過ごされている。
正岡子規は野球殿堂入りしている。「野球」という言葉を造語したとも言われるがこれは違う。文学を通してこの語を広めたという功績からである。明治期に起こった新しい現象に息吹を与えたのが彼である。「汽車道」は彼の造語だと考えられる。いえば鉄道風情を文学化したのが正岡子規である。この点も忘れられている。汽車文学の嚆矢であるとも言える。
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2022年02月03日
下北沢Ｘ物語（4419）―汽車道文学論―
（一）検索が世界を制する、Google crawlerは絶えず巡回して必死で情報を集めている。私の発信もチェックされている。当方の「ネットに与太を飛ばす」試みを検索ロボットは敏感に感知している。ならばと今日は新手の与太を飛ばしてみる、「汽車道文学論」だ、明日自身の造語が検索トップに引っ掛ればおもしろい、情報感知器Google crawlerの仕組みは分からない、当然のことながらAIロボットによる単語収集であろう。世界中を巡回して新造語をキャッチしている。興味深いのはAIの文学的感性である。例えば、「種田山頭火 鉄道」で検索すると当方が引っ掛かる。行乞俳人の意識には常に鉄道が意識されている。その微妙な機微が分からないとこの語では拾わない。とは言うものの拾っているから検知器の文学的感度は相当高い。自身の直感からするとこの頃、日本文学にも通じてきている。そこで今回は、新たな造語を提示してGoogle crawlerを試してみる。ネバダ砂漠の地下にいるGoogleの感知器はどのように反応するのか？さてお手並み拝見だ。
言葉にも浮き沈みがある。かつて流行った語も、時が経つと忘れ去られていく、死語となって言葉の沼に沈んでしまう。汽車道もそうである。
検索でこれを引くと、「横浜汽車道」が多く引っ掛かる、かつての廃線跡を遊歩道にして、その呼称を「汽車道」としたものだ、これは観光地名所の汽車道だ。が、私がいう汽車道はこれとは別ものだ。
正岡子規は、1867年10月14日〈慶応3年9月17日〉に生まれ、 1902年〈明治35年〉9月19日）に没している。江戸から明治を生きた文学者である。彼の耳目を奪ったのはなんと言っても汽車である。汽車に驚嘆した。
1889年（明治22)に東海道が全通する、彼はこの年夏に、郷里の松山へ汽車に乗って帰省している。このときの乗車体験記を詠んでいる。
汽車にて東海道過ぎ壮快甚だし 乃ち長篇を賦す
子規は長編詩で描いている。言えば、驚嘆、驚嘆の連続だ、最後は、「五十三亭 一夢の間」と詠んでいる。盟友漱石と違って汽車礼賛派である。
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2022年02月01日
下北沢Ｘ物語（4418）―ネットに与太を飛ばして生きてきた３―
（一）言葉は絶えず生成されている。以前はメデイアがその場であったが、現今の主戦場はネットである。ここは言わば、言葉生成の壮大な実験場である。このことに気づいたのが偶然ネットに放り込んだ言葉、「ネットに与太を飛ばして生きてきた」である。つい数日前放り込んだのにもうGoogle検索でトップと次位で出てくる。「ネットに与太を飛ばして生きてきた」ことで検索世界でおもしろい現象が見られるようになった。ところが仕掛け人本人はこの現象の全貌は把握していない。一体いくつの語を放ってきたのか不明で、何がどのように引っ掛かるのかもわからない。しかし、この「ネットに与太を飛ばす」ことで歴史が発掘された。その典型例が「鉛筆部隊」だ、この語は早くからばらまいてきた。山梨県の護国神社の骨董市でと矢花克己さんが古手紙を見つけ購入した。宛名に「鉛筆部隊」と捺してある、一体これは？と検索に掛けたら餌に引っ掛かった。まるで太公望だ、餌を撒いてのんびりしていたところ大物の鯛が引っ掛かった、ネット物語だ。
昨日だ、ある新聞社から連絡があった。自著、「と号第三十一飛行隊（武揚隊）の軌跡」に対する質問である。ここには「きけ わだつみのこえ」に日記が載っている長谷川信少尉のことを書いている。このことに対する質問である。
新年から因縁続きだ、SNSでは、「特攻隊のことを書いておられるきむらけん、さんですか？」との問、音楽家の寺尾紗穂さんからの連絡だ。やはりこれも武揚隊だ、彼等が浅間温泉で歌ったうたについて知りたいと。
要望としては「浅間温泉望郷の歌」をすべて記憶している秋元佳子さんに会いたいと。ではということでこの間、彼女と中野の秋元さんの家を訪ねた。
「歌っていただけませんか？」と寺尾紗穂さん
「広い飛行場にたそがれせまる……」と、歌の出だしを私が歌う。
「ちがうちがう、そうじゃありません……」
彼女、正調「浅間温泉望郷の歌」を見事に歌いきった、すばらしい。
そういえば昨日の新聞社の連絡ではやはりこの歌についての質問もあった。
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