2024年06月
2024年06月30日
下北沢Ｘ物語（4973）ー北沢川文化遺産保存の会会報第２１６号ー
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「北沢川文化遺産保存の会」会報 第２１６号
２０２４年７月１日発行（毎月1回発行）
北沢川文化遺産保存の会 会長 谷亀 �冢�
事務局:珈琲店「邪宗門」（水木定休）
155-0033世田谷区代田1-31-1 03-3410-7858
会報編集・発行人 きむらけん
東京荏原都市物語資料館:http://blog.livedoor.jp/rail777/
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１、福田誠夫先生の思い出 赤坂暢穂
私は福田誠夫先生に世田谷区立北沢小学校で1955年春まで6年間担任をしてもらいました。先生のお父様は詩人の福田正夫です。ご自宅は、拙宅から西南約300mの長屋にあり、6年の頃、お母様と先生、先生の弟（中学校教員で別居）、妹（大学生）の4人家族でした。先生は背が高くがっちりした体格でした。先生の授業は、管理教育が導入されず先生の自由に授業をされていました。算数の宿題が多く、2年から英語の単語と発音、俳句づくり、ユニークな音楽を導入、絵画、体育（雪中のラグビー、夏、先生は越中褌、男子は六尺褌姿で水泳）、校庭の空き地で野菜作り、秋、天気の良い日に我々の組だけ小田急線梅ヶ丘駅側の根津山（現・羽根木公園）まで絵描きに徒歩で出かけ、絵描きはそこそこ、どんぐり拾いや雑木林、ススキの中でかくれんぼ等をしました。ユニークな音楽では、高学年は音楽室で音楽専門教員に習うことが主でしたが我々の組のみ、青空詩人と言われていた太子堂在住の永井叔さんを時々、学級に招き、校舎西側二階非常階段踊り場の上から下まで児童が座り、永井さんは地面に立ち、顔面髭だらけ、青空詩人と書いた空色の襷をつけ、木琴を首から下げ、マンドリンにハーモニカで演奏、児童は家から持参した裏が白紙の用紙に先生が歌詞を印刷、それを見ながら歌いました。民衆詩人と言われる外部の方を、今の時代の公立小学校で招く事は考えられません。体育では夏、水泳に力を注ぎ皆泳げるようにする目標だったのでしょう、プールのスタート台から担任とそれ以外の先生が児童の手足を持ちプールに投げ込む、泳がないと上から首を抑え沈め、苦しくもがいている内にだんだん泳げるようになりました。運動会で予行練習の際、私はスクエアダンスで嫌いな女の子とペアを組まされ拒否すると、先生が私の尻を足蹴にし、「教室に入ってろ！」と叱られ、練習後、学級会で、先生は皆の前で「悪かった、お前のみが悪かったのでなく他にもいたが代表してやった」と弁解されました。6年間、幸い素晴らしい先生と出会い、思い出深い小学校生活を送ることができました。ありがとうございました。
２、福田正夫という詩 松山 信洋
福田正夫の「民衆詩派」が登場した意味とは何であったか。この時期、北原白秋、高村光太郎、山村暮鳥、萩原朔太郎、室生犀星らが登場し、明治時代以来の近代詩は大きな成熟の時を迎えつつあった。またこうした芸術的立場に立つ詩人たちだけではなく、第一次世界大戦を契機として起こった大正デモクラシーの思想を背景として、詩の分野においても労働者・農民の労働や生活を表現しようとする潮流は時代の要請にこたえるものであった。福田たち一群の詩人たちは難解な詩語、文語を駆使した高踏的な詩ではなく、平易な日常語による徹底した口語自由詩によって人々の現実の喜び、苦しみを歌おうとしたのである。その意味で「民衆詩派」は詩の普及、大衆化という面では大きな成果を上げたと言える。彼らが中心になって１９１７年当代の代表的詩人たちを糾合した詩話会が結成されると、彼らは詩壇の中枢を占める勢いを示した。しかし昭和に入り、彼らの詩が徐々にマンネリ化し、弛緩し、散文化していく過程で、芸術派からの、さらにはプロレタリア詩の勃興という左右からの批判にさらされて「民衆詩派」の運動は力を失っていった。微温的なヒューマニズムに立脚した彼らの限界だったのだろう。以後、「民衆詩派」の詩人たちは戦争に向かう時代の流れに翻弄され無批判に、あるいは積極的に身を投じていくことになった。
１９３７年ラジオ国民歌謡としてつくられ、翌年、渡辺はま子の歌唱で日本コロンビアからレコード化され大ヒットした歌謡曲がある。
「愛国の花」作詞福田正夫 作曲古関裕而
一、真白き富士の 気高さを／心の強い 盾として／御国（みくに）につくす 女等（おみなら）は／輝く御代（みよ）の 山ざくら／地に咲き匂う 国の花
二、老いたる若き もろともに／国難しのぐ 冬の梅／か弱い力 よくあわせ／銃後にはげむ 凛々しさは／ゆかしく匂う 国の花
三、勇士のあとを 雄々しくも／家をば子をば 守りゆく／やさしい母や また妻は／まごころ燃ゆる 紅椿／うれしく匂う 国の花
四、御稜威（みいつ）のしるし 菊の花／ゆたかに香る 日の本の／女（おみな）といえど 生命（いのち）がけ／こぞりて咲いて 美しく／光りて匂う 国の花
戦場に向かう夫、息子たちを気づかいながら、けなげに銃後を守る女たちを山桜、冬の梅、紅椿にたとえ、四番で日本の国花である菊によってまとめたあげた歌詞は情感こもった曲と相まって雄々しくも美しい。先入観を持たず歌に素直に耳を傾ければ、その時代の人々の心情が自然に伝わってくる。しかし振り返れば、「民衆詩派」として出発した福田正夫の詩業もここに至ったのかと考えてみるとひとしお感慨深いものがある。同時に作曲が福田と同じく世田谷に縁のあった古関裕而であることも興味深い。古関も福島から上京し、人々の暮らしの中から曲をくみ上げ、戦前には軍歌に大きな足跡を残した作曲家だった。結局、福田も古関もその時々、時代の要請に誠実に向き合い、時代の波に翻弄されながらも、ひたすら庶民として生きてきた、と言えるのだろう。
・世田谷への転居から終焉まで
大正１２年（１９２３）関東大地震を契機に東京市外世田谷下北沢８０９番地に居を定める。
昭和４年（１９２９）先行誌『主観』を改題して同人誌『焔』を発行。
昭和１２年（１９３７）世田谷区大原町１１５４番地に転居。日本詩人会成立、幹事に選ばれる。「愛国の花」作詞、作曲は古関祐而、翌年、渡辺はま子の歌によってコロンビアよりレコードが発売され大好評を得た。
昭和１７年（１９４１）日本文学報国会創立、参加、大政翼賛会にも入会する。
昭和１９年（１９４４）長男誠夫、学童集団疎開を引率して長野県松本に行く
昭和２０年（１９４５）山の手空襲で罹災、家を焼失し壕舎で暮らし始める。９月、世田谷区北沢３丁目９２５番地の空き家に入居。
昭和２７年（１９５２）６月２６日脳出血により死去、享年５９歳。小田原市早川久翁寺に埋葬。「福田家の墓」と自ら記した墓碑の下に眠る。
・福田正夫に関して、「民衆詩派」としての活動とは別に、彼が多くの詩人たちに慕われ、若い詩人たちを育てたことも忘れ難い。彼はどんなに苦しいときでも滋味ゆたかな童顔をほころばせながら、決して「参った」を言わない人だった、という。太っ腹の、ものに動じない様子を装いながら、しかもやさしい心遣いを失わない人だった、という。井上靖は詩を志していた若いころ「私は文学に心惹かれた最初の頃、詩人福田正夫氏に面識を得、その家に出入りすることができたことは、自分にとって幸運であった」と述べている。福田を中心にして月に一回『焔』の同人の会が福田家で開かれた。何人もの若い詩人たちが集い、福田がいつも寿司を握ってふるまった。福田は全く無防備、無警戒で、誰に対してもざっくばらんで、人を疑うことを知らない「徹底した善意の詩人」だった。井上は、自分は「今でも詩を書いているが、これは全く『焔』の同人になったためである」と感謝を込めて回想している（「詩人福田正夫」）。
３，鎮魂の夏を歩く（下馬周辺）
近衛野砲兵連隊跡 野砲兵第一連隊跡 野戦重砲兵連隊跡
第１９７回 ７月２０日（土）雨天の場合27日
世田谷区教育委員会後援・区立下馬図書館協力 北沢川文化遺産保存の会主催
案内者 きむらけん 田園都市線三軒茶屋駅改札前 １３：３０
概要：三軒茶屋は軍都であった。昭和女子大構内（近衛野砲兵連隊跡）→現存兵舎（韓国会館：野砲兵第一連隊跡）・馬魂碑（同連隊）→こどもの広場公園（野戦重砲兵連隊跡）「下馬兵舎時代の思い出の地図」参照→三野砲兵見学の後下馬図書館パネル展見学
見学後自由解散
＊パネル展開催
開催中：世田谷区立下馬図書館 学童疎開・特攻から80年 世田谷から平和を考える
参加費 ５００円 募集人員 ２０名程度
参加連絡先 会の連絡幹事 きむらけん
電話03-3718-6498 メールk-tetudo@m09.itscom.net
○７月１日 せたがや広報に掲載
４、講演会 「鉛筆部隊と特攻隊」 主催 世田谷区立下馬図書館
８月１２日（月・祝）午後２時から４時 会場 太子堂区民センター
定員：６０名（先着順・予約制） 申し込み：下馬図書館の窓口か電話
０３-３４１８-６５３１ 受付開始は７月１日から
講師 きむらけん（作家・北沢川文化遺産保存の会主幹）
北沢文化遺産保存の会主幹として地域の歴史を掘り起こす中で、疎開学童と特攻隊員の交流の逸話に出会い、２０年近くにわたり調査を続けその全体像を明らかにした。
＊この８月１２日は、意味のある日である、この日に代沢国民学校の疎開学童は夜の九時からの壮行会に出席し、十時に学校を出て下北沢駅に向かった、隊列を先導する町会町や先生は提灯を手に持ち学童を案内した。沿道には町民が多く集まり、長野県松本市外浅間温泉に向かう学童を見送った。
見送りは学校までとされていたが、親はもう二度と会えないかもしれないと駅までついていった。駅から新宿行きの電車が出発するとき。「太郎！」、「幸子！」など火の出るような熱い思いで口々に子の名前を叫んだ。
５、パネル展の開催
「世田谷から平和を考える」として「学童疎開・特攻から８０年」として「パネル展」を実施する。世田谷の疎開学童は浅間温泉で偶然に、特攻隊員と出会う。」主催は、下馬図書館：協力世田谷平和資料館 期間は、７月１２日（金）〜９月１１日（火）
1944年夏に学童疎開は始まった。今年は疎開から８０年経過した。当時４年生は９０歳を迎えれる。疎開経験者の高齢化で伝承が困難になってきている。このところ代沢小で「鉛筆部隊と特攻隊」の伝承を三年ほど続けている。伝承していくべき話だ。今回の内容は、「鉛筆部隊と特攻隊」を軸として、疎開学童と特攻隊との関わりをパネル数十枚にまとめ掲示を行っている。・代沢小学校鉛筆部隊と武剋隊・駒繋国民学校の児童と武剋隊・東大原国民学校の児童と武揚隊長谷川信少尉・武揚隊愛唱歌との出会い・山崎国民学校の児童と小林三次郎隊員などがまとめられている。これまで数冊の本にまとめてきたことのエッセンスがパネルに群にまとめられている。（場所 下馬図書館）、ぜひごらんあれ。
■ 編集後記
▲毎月の町歩きだが、８月はない。構想としては９月「世田谷代田を歩く（奥谷民雄）10月「代田・梅丘の映画撮影ロケ地を歩く」（岩野亮介）１１月「いかだ道を歩く」（木村康伸）１２月「生田春秋園を歩く」（原俊彦）別宮通孝さんの墓参をかねて。終わった後に一献を傾ける予定（忘年会も兼ねる）１月 森茉莉を歩く（幾田充代）を考えている。
▲エッセイを募集しています。ちょっとした情報、町の思い出など、ぜひ書いてください。
▲会報は会員と会友にメール配信しています。後者で迷惑な場合連絡を。配信先から削除します。会費は銀行振り込みもできます。芝信用金庫代沢支店「北沢川文化遺産保存の会」代表、作道明。店番号０２２。口座番号９９８５５０６
▲「北沢川文化遺産保存の会」は年会費1200円、入会金なし。古切手をご寄付ください。会報発送用に使います。
▲町歩き情報に特化したメール回覧板を作り、2023年11月1日から発行している。配信希望はきむらへ。k-tetudo@m09.itscom.net 担当者のきむらがパソコンを買い換えたため、住所情報が見失われてしまって配信が止まってしまった。メルアドは回復できたのでまた八月から再開したい。
◎当会への連絡、問い合わせ、感想などは、編集、発行者の きむらけんへ。
2024年06月28日
下北沢Ｘ物語（4972）―代沢で深窓の令嬢と出くわす―
（一）つい先だって邪宗門で出会った人の話は面白かった。井上大典さん、彼は子どもの頃代官山に住んでいた。母親に連れられて渋谷まで行く。ところが買いたいものはない。
「それで十円の切符を買って下北沢へ行くのですよ。駅前市場があったでしょう、野菜とか肉なんか安く買えました。外国もののチョコとかクッキーを売っているんです。昭和３１，３２年頃だと記憶しています」森茉莉が淡島のアパートからこの食品市場に通っていた。毎日一個百円のチョコを買っていたという。映画『大当たり三色娘』は駅前市場で撮られている。昭和３２年封切りだ、大典さんが母親と行ったころの市場の様子がリアルに映されている。わざわざ代官山から来たと。下北沢と代官山の思いがけないつながりだ。
「代官山八幡通に住んでいました」と井上大典さん。
「私も若い頃に代官山に住んでいました。陸橋の猿楽橋からの眺めが好きでした。渋谷の東横方面が見えるのですね、下には操車場があってDD13というジーゼル機関車が行ったり来たりしていました。米軍払い下げのDD13はずんぐりむっくりしていてあれをよく眺めていまた。南側に東横線の鉄橋がありましたね。右手が崖になっていて、その塀に『神長電線』という文字が書き込んでありました。すぐそばに東横線の鉄橋がありましたね。あれがすっかり取り払われたとき風景が変わってびっくりしました」
「鉄橋近くのアパートに住んでいたことがあって、電車をよく眺めていました。鉄橋の手前は急カーブになっていて東横線の車両がレールをきしませながらカーブしてきます。鉄橋にさしかかるとガタドンデン、ガタドンデンと音をさせて通っていました。鉄橋の渡りはじめの右側に『東横食品』のネオンサインがあって、青や赤のネオンサインがついていて、電車が過ぎるとジィジリと鳴っていました」
「あの鉄橋は覚えています」
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2024年06月27日
下北沢Ｘ物語（4971）―下馬図書館から代沢小へ―
（一）学童疎開・特攻から80年 「世田谷から平和を考える」パンフが刷り上がった。この企画内容は『鉛筆部隊と特攻隊』が基軸である。それで「鉛筆部隊の母校」である代沢小学校に届けた。後学期に六年生は「鉛筆部隊」を毎年学習している。３０部を持って行ったが國廣副校長からは「百数名いる六年生全員に配布したい」との要望。やはり鉛筆部隊の母校は歴史に熱い、昨年の「鉛筆部隊」の授業では特攻兵の手紙を紹介する。「この手紙が着く頃にはもうこの世にはいません」との手紙、「あとは皆さんにお任せします」と。去年、授業の感想文には「後の世の中は任せてください」と、三人もの学童が感想に書いていた。前に『広島にチンチン電車の鐘が鳴る』を代沢小で公演した。文化遺産のきむらさんと『広島』は同じなんですか？と保護者。今はこれに加えて「鉛筆部隊」もだ。
図書館から学校へはもちろん歩きだ。まずは自宅から下馬図書館へ。
「疎開学童資料の保存について図書館に相談があった場合は対応してもらえるのですか」
「他館はわかりませんが私のところの下馬図書館は相談には乗ろうと思います」
館員の大竹輝明さん、野砲兵第一連隊跡に建った図書館は意識が高い。彼は私が新聞投稿したことは知っている。記事は館員間で回し読みをしたと。
下馬図書館でのパネル展は7月12日から9月11日まで開かれる。旧東大原小の太田幸子さんの日記の展示を予定していたが連絡がつかないとのこと。それで私が借りている元山崎国民学校の小市泰子さんのを展示することになった。
係員の大竹輝明さん対応がすばやい。「特攻隊と＜松本＞褶曲山脈」に私が書き記した小市さんの日記を、本文から拾ってパネルの一枚として仕立てあげた。戦後になって変わり身のはやかったＫ先生の事績も記してある。
戦後始まった学校での最初の授業で、米軍払い下げのシャツを着た先生が出てきて「Start Dash」と黒板に書いたという。軍国主義に凝り固まりだった先生だ。学童たちはその変わり身の早さに驚きあきれたと。
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2024年06月25日
下北沢Ｘ物語（4970）―新聞投稿の反響―
（一）6月12日、朝日新聞「声」欄に投稿をした。「学童疎開80年 資料を守ろう」平和のバトン として記事が掲載された。学童疎開から80年が経過した。当時４年生だった人は90歳になっている。聞き書きも困難になって来ている。加えてもう一つは資料の散逸だ、多くの元学童が日記や手紙を残している。が、当事者の高齢化によりこれらが捨てられたり、焼却されたりしている。これは戦時資料としても重要である。いわゆる公的資料は米軍から責任追及される恐れがあるということで焼却処分された。それで多くの資料が失われた。これを補完したのが学童が残した記録だ。これらは大事な歴史資料である。できることなら地元博物館や郷土資料館などに相談してほしいと訴えたものである。
この投稿を読んだ、疎開協に関わっていた長谷川直樹さん、あの新聞投稿の反応が気になりますと。知人などから「読みました」との報をいくつかいただいた。が、実際の反応はどうだったのか知りようがない。
ところが昨日だった。朝日新聞の声の欄の担当記者から連絡があった。読者があの記事を見てご自分が所持している記録を社に直接送ってこられたとのこと。
記事を読んでの直接の反応である。全国紙に掲載されたことからこれを多くの人が読んだ。想像できることは、疎開学童だった人が所持している手紙や日記が戦時資料となることを知った。
こういう例があったことから類推できる。おそらく全国の郷土資料館や博物館などに問い合わせがいったように思われる。疎開学童資料の保存に多少とも記事が役立ったのではないかと考える。
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2024年06月24日
下北沢Ｘ物語（4969）―朗読の日『広島にチンチンの鐘が鳴る』―
（一）『広島』は愛着の深い作品だ、だいぶ前にテレビ映画化の話があった。渋谷のプロダクションで話し合いが持たれた。舞台セットは中国に造り、電車をそこで動かして撮ると。その壮大な構想に驚いた覚えがある。当方からの注文が一つあった。広電は被爆三日後にもう電車を動かした。作品では女性運転士が、一番電車を動かしている。が、史実では男性であった。自身にはここに心残りがあった、それで男性に変えて欲しいと提案した。嘘で史実が造り上げられることへの抵抗があったからだ。この申し出は退けられ、作品化は見送られた。物語にする場合はやはり女性でなくてはならなかったのだろう。映画化は実現しなかった。ただ思ったことは、映画と作品は別だということだ。真実一路の鐘を鳴らすこともなかったのでは、と、今は思いもする。
「朗読の日」ということで22日23日の二日間に亘って銀座博品劇場で朗読公演が行われた。驚いたことに会場は満席だった。両日にわたって午前、午後、４回の公演が組まれていた。いずれの回もいっぱいだという。会場を埋めているのはやはり高齢の方が多い。
今回の公演は第２０回記念大会だという。朗読というジャンルが老年を支えているのだと思った。演劇となると身体の所作が加わってくるので抵抗があるのかもしれない。が、朗読は読み上げること、誰にでもできる。言葉を声に出して読み上げることは健康にもよいということで人気があるようだ。しかし、観客を見わたしてみると女性が主である。
当日、立派なパンフが配られた。ここには朗読教室の案内が載っている。使われているキャッチ「いっしょに言葉の旅にでかけましょう」ともある。作品を読むことで別世界に入っていける、それがストレス解消になるらしい。
『奇跡の朗読教室』という著作の宣伝もある。「人生を変えた２１の謎」と副題がついている。朗読することによって人間は変わっていくらしい。
舞台に上がった朗読講演者が紹介されるが地方からの出席者もいる。朗読は全国的な広がりがあるようだ。
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2024年06月22日
下北沢Ｘ物語（4968）―講演会『鉛筆部隊と特攻隊』―
（一）「講演の日は、８月12日ですが？」この日にちを言われたとたんに情景が浮かんできた。校庭に集まった学童、それと親、提灯の灯りが人々の影を映し出す。夜の九時近くになって慌ただしくなった。整列が掛かって疎開旅館ごとに並んだ、じつはこれが運命の分かれ道だった。居住地区ごとに宿は決められた。千代の湯は下田代田地区の学童が集まった、が、北沢一丁目の田中幸子さん立川裕子さんはおたおたしているうちに千代の湯に入れられてしまった。九時から壮行式が行われ、終わって隊列は出発だ、提灯に導かれて約５００名の学童は下北沢駅に向かった。南口の古書店大地堂店主「おや」と表に出る、「集団疎開の学童の列がこの町を通りてゆけり夜の十時頃」と歌人渡辺順三は詠んだ。
代沢国民学校の疎開出発は1944年8月12日だった。この日にぶつけての講演会開催だ。ちょうど８０年前となる。企画は「世田谷から平和を考える−疎開開始・特攻から８０年−」である。とはいっても当事者はこれに１０歳を加える、当時四年生だった人は９０歳である。
長年取材してきた。つぎつぎに関係者は物故された。田中幸子さん、立川裕子さん、鳴瀬速夫さん、今井明さんなど、もう消息も分からなくなって人もいる。
そもそもの発端は何か ２００７年12月14日に当方のブログに寄せられたコメントからだ。
昭和２０年ごろだと思います。長野県東筑摩郡広丘村に学童集団疎開し、疎開先のお寺（郷福寺）で一月ほど生活した記録があると思うのですが、そのときの引率されていた先生が作詞作曲された広丘での唱歌があるのですが、全曲をご存知の方いらっしゃいましたら、教えてください。
多いかれこれ十七年ほど経つ。まず疎開と出てくるが。これについての歴史認識がまず十分ではなかった。
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2024年06月21日
下北沢Ｘ物語（4967）―明大前和田堀廟所掃苔行 ３―
（一）今回の掃苔行には珍しく若者が加わった。早大生の彼は地理学専修で我らのまちあるきに興味を持って参加したという。「築地本願寺和田堀廟所」は地理学的にも面白い。
かつては江戸幕府の塩硝蔵、いわゆる火薬庫である。脇を通る道は甲州街道だ、軍事的には五街道では最重要だった、ポイントは尾根筋道である。この街道は、将軍家の江戸城からの「避難路」として整備された。尾根筋道をたどっていけば甲州に落ち延びられる。火薬庫をここに置いたのもそのことと深い関係にある。地形的には神田川右岸の崖線が巧く利用されている。尾根筋の玉川上水の土手が火薬が暴発した場合には被害を食い止める防塁ともなったのではないか。
「ここは東京西郊ですね、地理学的にも面白いと思うのですよ。徳冨蘆花は青山から千歳村粕谷に移り住んで『みみずのたわこと』という随想を書いています。私がとくに興味深く思うのは、しばしば『東京が攻めてくる』と書いているのですね。
東京が大分攻め寄せて来た。東京を西に距る唯三里、東京に依って生活する村だ。二百万の人の海にさす潮ひく汐の余波が村に響いて来るのは自然である。
千歳村粕谷の田舎に住んでいると東京という怪物がひたと押し寄せてきて、いろんな影響を及ぼしているのですよ。ここらへん世田谷など全般について言えることです。」
火薬庫から和田堀廟所に変わった。東京の偉い死人さんたちが攻めてきた。根本は関東大震災がきっかけとなって築地本願寺の墓所も移転してきた。たぶん築地だと地盤がゆるいのでほとんどの墓石は倒壊したのではないか。移転するに当たっては、地盤の固い当地はうってつけの場所だったと思われる。
東京の死人が攻めてくる。「和田堀廟所」には東京の有名文化人が枕を並べて眠っている。
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2024年06月19日
下北沢Ｘ物語（4966）―明大前和田堀廟所掃苔行 ２―
（一）お墓と都市論、面白い観点だ、墓じまいという言葉がある。田舎にある墓地の処分が中心だ、散骨であったり、合同墓への埋葬だったり、骨壺の移転だったり、田舎のお墓を東京圏に移す例も多い、東京の墓は過密だ。その中でも「築地本願寺和田堀廟所」は格の高い墓所だ。某S首相の墓もある。が、政治世界は汚い。嘘ばかり話題にもしたくない。埋葬されている人々で知らなかった人もいる。作曲家の海沼實だ。墓石の脇に代表曲が刻まれていた「里の秋」、「みかんの花咲く丘」だ。タイトルだけで胸がツゥンとしてくる。我らが文士町居住者川田正子を育てた人物だ。案内者の原さん、ここの墓所の代表格は樋口一葉と九条武子ですと。なんといってもピカ一は樋口一葉だ。しかし土地との関わりは薄い、が、やむを得ないことだ関東大震災で本願寺は焼けた。それで墓所を再興してお墓はここに移ってきた。関東大震災は文化の西郊移転をもたらした。
原敏彦さん、資料に「和田堀廟所に眠る文化人」を列挙している。我ら文士町関係では二人いる。服部克久と中村汀女だ。
服部克久さんには会ったことがある。我ら文士町地図を北沢川緑道で配布している。そのときにとおり掛かられた。それでみなで記念写真を撮ったことが思い出される。
我らが地域風景資産として推薦した「代田の丘の６１号」鉄塔のすぐ下に住んでおられた。これは萩原朔太郎ゆかりの鉄塔だ、克久氏、鉄塔にはそれなりの思いがあったのではなかろうか。聞いておけばよかった。
お墓は服部家のはあるが、服部克久家では新しく墓を作ったようだ。大理石で作ったピアノが墓前に設えてあった。命日は6月11だった。この直後だったことから墓前には多くの花束が飾ってあった。
我らの「下北沢文士町文化地図」の最新版には旧居跡が載っている。服部家からは掲載してよいとの返答を得て載せてある。
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2024年06月18日
下北沢Ｘ物語（4965）―明大前和田堀廟所掃苔行―
（一）明大前駅は鬼門だ、電車を乗り換え時にいつも不思議な経験、思っていた方向とは逆から箱が進入してくる！謎だ。その明大前に集まり、築地本願寺和田堀廟所を巡った。案内者は屈指の墓歩きの達人だ。「お父さんのお墓いつも迷うのよね」と吉本ばななの逸話を原さん話してくれた。ところが、彼はどこのお墓に行っても迷うことはない。つぎつぎに墓を廻っては「この墓は……」と。「なるほどこの人がここに！」と思っているとすぐにまた別の文化人墓、気持ちを整理する暇がない。脳裡にはたちまちに人情報が収蔵されていく。次が内田吐夢。脇に「命−コマ」とある。そして笠置シズ子には「寂静院釈尼流唱」と「流れる歌か、なるほどな」と。たちまち頭の収蔵庫が一杯になる。まさに墓場は死せる者が埋まった劇場だ。
明大前に集まり、和田堀廟所へ向かうが、その途中に文化人旧居がある。窪島誠一郎である。彼はここにあった靴磨き屋さんに預けられて成長していく。水上勉の私生児である。
水上勉は、修業時代に下北沢で仕事をしていた。北沢八幡神社近くに文潮社があった。戦後ここの社員として働いている。東京は方々が焼けた。その中で下北沢は焼けなかった。人間いつの時代にも逢瀬は必須だ。それを当て込んで下北沢には連れ込み宿ができた。
壁が薄いから男女の営みをすると隣に筒抜けになる。そういう宿に作家を泊まらせ原稿を書かせた。正宗白鳥や宇野浩二や田中英光などである。このとき水上勉は、口述筆記をして糊口を稼いでいた。下積み修業時代を下北沢でも送っていた。
この頃彼には白木屋のダンスホールに勤めていたM女がいた。その彼女が長女を置いて家を出てしまった。男ができたからである。水上勉は明大前近くの印刷所に彼女がいるというので長女を伴って会いに行った。（自伝的小説『秋夜』）
鉄道交点には秘められた物語が数多く埋まっている。明大前と下北沢は類似性がある。
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2024年06月16日
下北沢Ｘ物語（4964）―三軒茶屋の山本七平 了―
（一）気づくと下北沢「猫町」、「鉛筆部隊」、これに加えて「三茶野砲兵営跡」の語り部になろうとしている。来月にはまた「鎮魂の夏」として三野砲兵跡を巡るまちあるきを行う。山本七平は近衞野砲兵連隊の野戦観測将校であった。著書『私の中の日本軍』で一つの逸話を紹介している。戦争末期、当近衞野砲兵連隊は「動員用一時宿舎」と化していた。「同僚の見習士官たちも一人二人と姿を消していった」という。それぞれが戦地に赴任して行き、その行方は分かりようもなかった。同僚は立ち去るときに小物を入れたふろしきを居残った者に預けた。それを取りに来た肉親に手渡すことも仕事だった。彼はその悲しい顛末を紹介している。「息子の残した包みを受け取って寂しくこの兵営を立ち去った女性がいたのですよ」という話を私はきっと紹介するだろう。
昭和女子大の近衞野砲兵跡には何度も訪れた。
「休んだままで聞け。あそこのヒマラヤ杉（連隊本部前の営庭に、一本の大きなヒマラヤ杉がある。これは北白川宮成久王殿下と、ご結婚遊ばされた、明治天皇の皇女、周宮房子（かねのみやふさこ）内親王殿下、お手植えのものである）にむかって、あれが、第二中隊の起点。……」
「近衛陸軍砲兵二等兵」（門屋 古寿 1978年）
このヒマラヤ杉はつい数年前まで女子大構内に聳え立っていた。が、老木で菌に冒されついには伐採されてしまった。記憶の手掛かりがどんどん失われていく。
先の、息子の残した包み、それを取りに来た母親に応対した逸話である。
F見習士官は山本七平に私物の入った小さなふろしきを預けて連隊から立ち去った。親族がこれを取りに来た。
私はフロシキ包みを持って個室を出た。気が重かった。そして、どうか面会人が父親であっても母親でないようにと願った。
『私の中の日本軍』（下） 文春学藝ライブラリー 2022年
が、来訪者は母親だった。
思い切ってカーテンを手でのけ、中に入り、そこに不動の姿勢で立つ。絶対に椅子にかけてはならない。つとめて冷たい顔をし、軍隊式にまず敬礼をする。相手は驚いてこちらを見る。（同著）
F見習士官の母親と出会ったときの様子だ。その場面に機微が見てとれる。優れた筆さばきである。椅子に腰掛けたら応対せねばならない。が、Fの消息は分からない。母親は「自分の子がすでにここにいないーことによったらこの世にすらいないなどということは、この瞬間ですら全く念頭浮かんでいない」と彼女の表情を描く。
こういう母親が何人も来た。彼女らは面会を終え、一旦衛門を出て立ち止まる。そして営内を振り返った。
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2024年06月15日
下北沢Ｘ物語（4963）―三軒茶屋の山本七平 3―
(一）山本七平、図書館で著作を探すと、書庫蔵書が多いことに気づく、人も歳を取るが蔵書もまた古びていく。しかし彼の批評家として眼は確かだ。人間批評として、「『車時代』『新幹線時代』の人なので、二本足しかない集団の動き方の本当の実感が全然つかめず」（『私の中の日本軍』）とあった。鋭い、そう速度の緩急は大事だ。彼の著書には『日本はなぜ破れるか』がある。敗因が21箇条提示されている。19番目は「日本は人命を粗末にしたこと」だ。とある。人を人と思わない、人権意識が今も低い。今、上級国民などという語がある。支配層だ、主には政治家だ、彼らの特権階級意識はみじんも消えていない。普通国民が粗末にされることなぞ彼らにはどうでもいいことなのである。
戦争痕跡については興味を持ち、B29墜落現場などは何カ所か巡った。日本軍人が操縦室を見て珈琲か紅茶かを選べる給湯器があったという。日本人だったらお茶か白湯でも上等だった。もっと驚いたのはB29搭乗員の救急バックに釣り針が用意されていたことだ。爆撃機は海上に不時着することがある、無人島に漂着したら魚を釣って飢えを凌げということだろう。
B29は砲撃を受けたり、事故に遭ったりして日本国内で墜落している。機には落下傘が備えつけてあって、これで助かった者もいる。
戦後になっての米軍の追跡調査は徹底している。場所を特定し、埋葬のことまで調べ上げ、遺骨は本国へ移送もしている。
東南アジアでは多くが戦死している。遺骨収集はしているが熱心ではない。沖縄の辺野古の埋め立てに戦争犠牲者の埋まっている土まで使おうとしていることが報じられている。
敗因の21箇条の10番目に「反省力なきこと」とある。失敗の原因を突き止めて、これからのことに生かす。今でもこういう文化は欠如している。
特攻については、台湾の第８航空師団が反省項目を挙げている。この一つに、空中集合というものがあった。記録ものを読んでいると、どこそこ上空で空中集合を行ったと。いかにもかっこいい、が、レーダーなどがない時代、空中集合は相当に難しかったようだ。
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2024年06月13日
下北沢Ｘ物語（4962）―三軒茶屋の山本七平 2―
(一）山本七平は、『昭和東京ものがたり』で「土地の人」と「移住者」の思考の差異を述べている。前者は土地にしがみつくしかない、後者は風来坊で自由であったと。この話で思い出したのが雪が谷の地主だ。「私らは土着の者だから離れられません。しかし『移住者』は違います。土地を売り払ってどっかに行ってしまうんです。どこに行ったかは分かりません」そんな話を聞いた直後、湘南海岸へ行った。日中真っ昼間、沖合にはゴマをまぶしたほどの人がいた。驚くほどの数だ。「そうか定年退職を機に家を高値で売り払い、湘南に移り住んで、気楽にサーファーとして暮らす！」 地主の直井さんは彼らはどこに行ったか分からないと言っていた。この光景を見て私は、雪谷人士はみなサーファーになったのではないかと思ったことだ。
山本七平は、二十歳で近衛野砲兵連隊に入営した。
営門の前で見送りの人たちと分かれ、東部十二部隊という大きな白木の板の下がっている門を、列つくって入った。左手が弾薬庫、右手が衛兵所、その裏手が厩、列が進むと広い営庭をはさんで左手が二階建ての木造兵舎、右手にそれと向き合って砲廠が見える。一同は、兵舎の列の中央にある菊の紋章づきの建物の前に整列させられた。
一下級将校の見た帝国陸軍 文春文庫 1987年
入営は誰もが緊張した。昨日は、野砲兵跡の昭和女子大へ、女子の列について門を入っていく。もちろんもう兵営は残っていない。ついこの間まで往時を偲ばせるヒマラヤ杉があったが。これも老木になり、ついには菌に冒されて弱ってしまい伐採された。
山本七平、整列が終わると連隊副官から説明を受けた。が、彼はすぐに疑問に思ったことがあった。
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2024年06月12日
下北沢Ｘ物語（4961）―三軒茶屋の山本七平―
(一）三軒茶屋は交差路だ、当地の昔では三好達治の『薄暮新緑』を思い起こす「店頭の書籍は必ずしも通俗書に多くの席を譲っている訳ではなくて，科学書、哲学書、美術書、文学書等」。今日の出版界の現状と見比べると当地の売れ筋は高級だと書いている。三軒茶屋は三叉路だ、人々が集まってくる。近隣から来る人は知性的な人であったようだ。このまちはよく通る、銭湯は廃れたが案外にここは残っている。太子堂辺りには下町的雰囲気がある。が、三軒茶屋は三叉路が特徴である。道路交差は文化の交差路でもある。評論家山本七平は三軒茶屋のど真ん中でクリスチャンの両親の間に生まれている、当地で揉まれて生きたことが彼の精神に何らかの影響を与えているのではないか。長じて彼はすぐ近くの近衞野砲兵連隊に入隊している。そのときの様子を客体的に描いている。
彼は批評家として有名である。日本人論について多く言及している。
例えばその一例として『日本人はなぜ敗れるのか』がある。これなどはとても分かりやすい。その具体的な点を21箇条挙げて論じている。この中の一つとして「精神力が弱かった」と指摘している。
以前、北沢タウンホールで海軍飛行予備学生数名に参加してもらって話を聞いたことがある。皆学徒動員組だ。
やはりこの日本人の精神力について話をしてくれた。東大からの学徒動員組だった。
「父から教わった影響もありますね、アメリカは物量では圧倒的に日本を凌いでいる。が、私らには彼らにないものがある。精神力である。これがあればどんな苦境に陥っても勝てると思っていました」
高学歴の青年までそのように思っていたのか、聞いたときには驚いた。
「やればできる」という精神論は今も生きている。一般的な注意喚起で終わればいいが、精神論として信じて居るところがある。これを傍若無人に振りかざすとパワハラだ。
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2024年06月10日
下北沢Ｘ物語（4960）―語り継ぐことは歴史と向き合うことだ―
（一）今日は新聞休刊日だ、何気なく昨日の記事を見ていたら吉田ルイ子の名があった。記事では彼女の『ハーレムの熱い日々』に触れたことがきっかけで進路を決めたと筆者。この吉田ルイさんに会った覚えがある。自ブログを検索すると2006年6月だった。記事は「豪徳寺高射砲陣地探査行」だ、偶然出会った人に近くにあった陣地のことを聞いた。隣の人が詳しいというので行くと、「おばさんじゃないぞ、超有名なフォトジャーナリストだ！」と隣人。改めて伺うと今家が改築中だからできあがったら来てくださいと。その彼女5月30日に老衰のため東京都内の介護施設で死去したと。89歳だったという。出会ったのはもう18年も前だ、当時高射砲陣地に凝っていて一帯を駆け巡っていた。「ハーレムの熱い日々」のことは聞きそびれてしまった。
昨日、ついこの間の都庁記者会見の応答を観た。TBSの日下部キャスターが都知事に朝鮮人犠牲者記念式典に関わる質問をしていた。従来，都は毎年朝鮮人犠牲者の式典に追悼文を送っていた。小池都政になってから方針を変更し、もうずっと送っていない。彼の質問ははぐらかされた。すると「虐殺についてはどうですか」と切り込んだ、すると「様々な見方があろうかと思います」とまた逃げた。
もう十数年戦争伝承を続けている。やはり語り継いで行くことほど大事なことはない。過去において起こった事実、これを確認しながら未来へ向かっていく。人として務めなくてはなならぬ大事なことだ。しかし、ところが我々は現実に起こったことにも目をつぶろうとしている。
終戦末期、数多くの特攻機が陸軍松本飛行場に飛来してきている。もうこの頃では航空戦が主力になっていた。それで軍部は各地に飛行場建設を行う。地元民や学生などを強制的に動員し飛行場を作らせた。松本一中に通っていた熊井啓も動員された。突貫工事が行われ1994年10月頃に飛行場は完成した。
しかし、同じ飛行場作業の中でも、まったく家に帰ることができない若者たちがいた。それは日本に強制的に連れてこられた朝鮮人たちであった。彼らはほぼ五○〇名。飛行場建設の最初から敗戦まで、もっとも過酷な労働をさせられた。宿舎はバラックの貧弱なもので、冬は北アルプスから吹きおろしてくる寒風にさらされていた。だが、まったく火の気もなく、食料も非常に少なく力尽きて倒れる人が続出するというありさまだった。
『私の信州物語』岩波現代文庫 ２０１０年
いわゆる徴用工である、朝鮮人虐殺にせよ、そういうことは無かったという風に歴史から抹消しようとしているのがこの頃の動きだ。歴史をみつめることなく、我が民族は正しかったとの右傾的な意義づけが強まっている。このところこの国家は傾きつつある。国
力が衰えた分を国家の歴史を意義づけ誇りを取りもどそうとしている。
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2024年06月09日
下北沢Ｘ物語（4959）―荏原都市散歩文化論―
（一）日々歩かない日はない、昨日等々力の畑の脇を通った。土地造成をしているが大欅二本は残していた。これで直感した。高級老人ホームが建つののだなとなと。欅の大木は余生を送る者には眼福を与えるはずだ。建築費高騰の折、一帯の土地需要は高い。感じることは都市膨張だ、ここ数年の変化としては路地の奥に高層ビルが見えるようになったことだ。東京の都市開発が顕著になった。独歩は「僕の武蔵野の範囲の中には東京がある。しかしこれはむろん省かなくてはならぬ」という。「官衙が巍峨がとして聳え」ているからだ。今さらに都心部の再開発が推進されている。神宮外苑や日比谷公園や築地跡地である。土地問題には必ず利権が働く、自民党をぶっ壊すと言っていた小池百合子、今は自民党とべったりで途方もない利権に小池都政も絡んでいる。
都市は高齢化している。荏原一帯歩いていて感じるのは介護つきの老人ホームが増えたことだ。マンションが建つかと思いきや、できると老人ホームである。この山手にできる老人ホームは普通の人は入れない。入居料、家賃などは相当に高い、よほど高い年金をもらっているか、財産をたっぷり持っているか、そんな人でないと入れない。
ついさっきだ、深沢の介護つきの老人ホームを通り掛かった。ここには体育大学の女子寮があった。塀の上に鉄条網ががっしりと張り巡らされていて厳重だなと思った。ふと思い至った。男子の体育系の体力があれば難攻不落の女子寮を落とすのは容易だ。体育系男子の精力は鉄条網などものともしなかったのだと。今日そこを通り掛かったときに思った。
高齢化関連産業は斎場だ。ところが、ここにも大きな変化がある。中原街道には斎場が幾つもある。通り掛かると葬儀関係の車だとか関係者で込み合っていた。が、今は閑散としている。コロナ以後、葬式が行われなくなった。そういえば駅で観られた斎場案内の人もほとんど見かけなくなった。
かつては葬式にはよく行っていた。この頃は訃報の連絡がない。時間が経って喪中葉書が来て知人の死を知るようになった。葬式は密葬か、家族葬になった。
そう言えば霊柩車なるものもほとんど見かけなくなった。高級外車を改造しての霊柩車、葬列の先頭に立った。続く黒塗りの車の葬列もみなくなった。霊柩車は親類縁者のデモンストレーションだったのだと思う。時代は変わった今、都会では人はひっそりと死んで行く。
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2024年06月07日
下北沢Ｘ物語（4958）―政治とYouTubeと都知事選―
(一）「野党は批判ばかり」という言葉がネットを駆け抜けている。現政権温存側の印象操作である。自公政権によって進められてきた国政が今や破綻してきている。問題が山積しているのにすべてが先送りされている。社会、世間はうわべだけがきらびやかだ。が、現実は生活に困っている人が多い。昨今の新聞広告海外旅行のオンパレードだ。が、行ける人は多くはない。貧富の差がとても大きくなっていることを感じる。実質賃金は22ヶ月連続で目減りしている。根底には自公政権が牽引してきた利権政治が要因としては大きい。
一昨日多磨墓地に行った。行政区は府中市だ、道にポスターが貼ってあった。「未来に誇れる東京を創る会 演説会」とある、三人の弁士が写っている。しかし、党名がない。不都合なことがあるから書かない、自民は裏金問題で追求されている
この問題を解決するための「政治資金規正法改正案」が衆院を通過した。抜け穴だらけのこの法案は自公維などの賛成多数だった。根底にあるのは利権政治である。金、金、金、企業側から金を得て、その見返りに便益を与える。
維新案の「10年後の領収証公開」が盛り込まれたと。忘却の動物の逆手をとっての案である。ずる賢いという他ない。企業献金を取って、その見返りに権益を与えるというこの構造が日本社会を壊してきた。その献金の温存だ。
先だって、居住区の都議補選があった。二名の欠員に対して五名が立候補していた。投票所に行くと自民女性議員のポスターに小池百合子が応援しますとのラベルが貼ってあった。投票間近になって施したようだ。利権や疑惑にまみれた都知事、敢えて貼ったのはあやかれば票に繋がると思ったからだろう。が、その結果は落選だ。
昨日、街頭には都知事選の選挙ポスター掲示版が建った。
この頃、テレビは点けるが入力切り替えを行わなくなった。地上波は全く見なくなった。たまに切り替えることがある、一方はオンエアされている地上局だ、もう一方はYouTubeである。この両者世界がまるで違う。常々視聴しているのはYouTubeだ。滅多にないがたまにテレビに切り替えることがある。まず色彩が違う。華やかであり賑やかである。綺麗なお洋服においしそうな食べ物がふんだんに出てくる。そして旅番組だ。
まずここに違和感を覚える。現今、我々は多くの問題を抱えている。原発問題、裁判問題、続々と出される政権側に有利な判決、沖縄問題、国防費の増額、アメリカ忖度政治など枚挙に暇がない。世の中全体のトーンは暗い。が、オンエアされているテレビは華やかである。
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2024年06月06日
下北沢Ｘ物語（4957）―小柳の湯隊の正体を推理する（了）―
（一）小市泰子さん、91歳はもう何も隠すことはない、恋の遍歴も彼女はあからさまに語った。特攻兵との恋ばかりではない、ついこの間の電話では浮気の仕方を教わった。「昔は銭湯に行ったもの、洗面器とタオルと石鹸を入れて家を出るの、帰ってきたときは公園の水道でタオルを濡らして絞るのよ」、お風呂に行って来たといってその実浮気をしていたと。用意周到だった、「前髪を水で濡らして垂らすのよ」そこまでも言わなかったが、そんな演出すら想像したことだ。彼女は恋多き女性だった。小柳の湯で出会った若い特攻隊員との出会いは、少女時代の忘れられぬ恋である。その相手は坂本わたるという名だった。
小市泰子さんには日記や手紙を借りた。調べると坂本わたるさんの手紙が二通見つかった。封筒はなく封書の中身だけで日付は分からない。一通の最初はこう書いてあった。
大東亜戦争一周年切手並にスタンプ有がとうございました。お正月も過ぎてゆきましたね。お話に依れば非常に簡素なものだったそうです。しかしあの悪い悪い米英を打ち倒すまではもっともっと苦しい事があっても耐えなければならないと思います。内地も大変寒くなった様ですね。充分体には注意をしてください。
満州ではやがてお正月が来ます（旧正月）寒いハイラルでも子供達はやはり元気なもので、コマ、花火、爆竹等でとても愉快らしく遊んでいます。
冒頭の切手の話から期日が分かる。「大東亜戦争一周年記念切手」だ、これは1942.12.8に発行されたものだ。お正月は翌1943(昭和18)年のことである。小市さんが疎開に出かけたのは翌年のことである、ゆえにこの手紙は彼女の家、世田谷二ノ一四九三に来た手紙である。坂本わたるさんは満州ハイラルに住んでいるようだ。
手紙というものはその文面やら字体でその人物が想像がつく。とても字がきれいである。文面を読むと知性ある人だとわかる。
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2024年06月04日
下北沢Ｘ物語（4956）―小柳の湯隊の正体を推理する（中）―
（一）第102振武隊の竹越肇少尉は4月13日、鹿児島万世飛行場から出撃した。が、沖縄近辺洋上で不時着をした。彼は原隊復帰した。「満洲第一五三五三部隊第二三飛行隊 同右所在地 満洲国平台」である。ここの第23教育隊は、武剋隊、武揚隊が編成された教育飛行隊である。小林三次郎さんもここに原隊復帰した。ということは彼もまた平台飛行場で錬成教育を受けて、ここで選ばれて特攻隊員になったのだろう。第二航空軍で編成され第六航空軍に移籍しての出撃だ、類推すると隊員は15名だった。機種はやはり九九式襲撃機だったと考えてよい。名前が分かっているのは小林三次郎、宮崎佐土原からの手紙に、「我々松之間の兵隊」とあった。小柳の湯の部屋だ、そこには、堤君、小林君もいた。三階の部屋は数名ずつ部屋が割り当ててあって、他の部屋にも何名かの隊員がいた。やはり全体では15名だったと考えてよい。
小柳の湯隊の輪郭が見えてきた。先の降魔隊は、第六航空軍傘下に入り、第102振武隊と称した。小柳の湯隊も名称が付されているはずだがそれは不明だ。
先日出会った山崎国民学校の小市泰子さんからは手紙や日記などを借りた。
彼女には以前に出会って往時の話を聞いていた。
一番思い出深かったのは元特攻隊員と出会ったという話だ。
小柳の湯に来た特攻隊員と彼女は親しくなった。その彼は中原淳一ばりの巧いイラストが描ける人だった。そのことからその隊員とは親しくなったらしい。その彼は坂本わたるさんと言った。
戦後になっても文通を続けていた。彼は大坂に住んで居た。東京に来る用事があって、その際にどうしても会いたいとのこと。彼女は渋谷の女学校に通っていた。その彼女の世田谷の実家に彼は訪ねてきた。
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2024年06月03日
下北沢Ｘ物語（4955）―小柳の湯隊の正体を推理する（上）―
（一）終戦末期、陸軍松本飛行場には特攻機が多数飛来してきた。太平洋側は米軍が跋扈していて爆装改修が困難であることから山岳要塞の当地が選ばれた。何隊が来たのか、軍事関係の資料は政府の指示で焼却された。公的資料はない。新聞記述、疎開学童日記、手紙などから武剋隊、武揚隊の滞在が辛うじて分かったものだ。解明三例目は小柳の湯隊だ、多くの証拠を残している。旅館での学童とのふれ合い、別れに来た戦闘機を学童の多くが見送った。隊は満州から来ている。第二航空軍から差し向けられた隊である。松本を発ち、出撃基地のある宮崎県新田原まで行った。ここで搭乗機に事故があった。米軍による爆撃と推察する。機を失った彼らは満州の基地に原隊復帰した。
出撃したはずだと思っていた小柳の湯隊である、ところが思いがけず、1945年初夏に小林三次郎さんから葉書が舞い込んできた。
長野縣松本市外浅間小柳旅館内
山崎校二分隊三班 長谷川直樹殿
満州第八七一軍事郵便所気付
満州第一五三五三部隊佐々木班 小林三次郎
相変わらずみんな御元気ですか。自分も益々元気です。
松本も大分暑くなって来た事でせう。
大野君や大津君も元気で勉強している事でせうね。
米英の奴等などに恐れずしっかりと勉強してみんな一日も早く米英を
叩きつけませう。
では暑さ等に負けずしっかり勉強して下さい。サヨナラ
日付はない、「松本もだいぶ暑くなった」ということからすれば初夏、六月頃である。山崎校は、再疎開先吹き上げの湯にいる、寮母さんが転送してくれたものだ。
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2024年06月01日
下北沢Ｘ物語（4954）ー北沢川文化遺産保存の会会報第２１５号ー
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「北沢川文化遺産保存の会」会報 第２１５号
２０２４年６月１日発行（毎月1回発行）
北沢川文化遺産保存の会 会長 谷亀 �冢�
事務局:珈琲店「邪宗門」（水木定休）
155-0033世田谷区代田1-31-1 03-3410-7858
会報編集・発行人 きむらけん
東京荏原都市物語資料館:http://blog.livedoor.jp/rail777/
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１、下北沢猫町散歩に参加して 佐藤 智恵
下北沢の駅前は、いつものように大勢の人で賑わっています。五月の青空が広がる散歩日和です。散歩の集合場所では、下北沢は詩人・萩原朔太郎が晩年を過ごした町であり、終焉の地こそ作家を知るのに大切な場所であるという、ガイドのきむら先生の言葉
がありました。
雑踏のなか、まずは昭和６年から朔太郎が家族と暮らした屋敷跡へと向かいます。
瀟洒な商業ビルの前で、ここでかつて詩人が暮らしていたと説明を受け、当時の白黒写真を見せていただいても、なかなかピンときません。土曜日の下北沢は若い人たちで賑やか過ぎて文学のひそむ隙間を見つけられないのです。続いて建物の裏手に回ります。するとそこには大きな通りに向かう路地がありました。
表通りから少し移動するだけで町の喧噪がずいぶんと遠いものに感じられます。ここで問題が出されました。朔太郎は裏の通用口からこの路地を通って、毎朝何を買いに行っていたのでしょうか？
参加者は一生懸命に考えます。考えているうちに、私は少しずつ周囲の景色が変わっていくような錯覚に陥ってきました。全員が目の前の景色のなかに昭和６年の下北沢の風景を見ようとしているせいでしょうか。ここがいつもの町ではないような気がしてきたのです。私たち一行だけ、周りと時間がずれていくような感覚です。今はもうなくなってしまった煙草屋さん（これが答えです）や、四辻の赤いポストまでが見えてくるのでした。朔太郎の背中を追いかけて猫町の世界に入り込んでしまった私たちは、万緑のなか、さらに歩を進めます。
朔太郎は借家住まいから代田に家を建て移り住みました。近くには61号鉄塔があります。この鉄塔にまつわるエピソードも衝撃的なものでした。下北沢の町のそこここに一人の詩人から始まった物語が隠れているのです。
私はこれまで、文学というものは一人で楽しむものだと思っていました。けれど今回、町歩きに参加をして考えが変わりました。皆で同じものを見たり聞いたりして、初めて知る知識に心を動かされるという体験には、一人では味わうことのできない大きな喜びがありました。路上のばらの花もいつもより美しく見えました。
たくさんの詩人の秘密を教えてくださった、きむら先生、北沢川文化遺産保存の会の皆さまに感謝の気持ちをお伝えしたいです。猫町を歩き、萩原朔太郎の作品が前よりも好きになりました。
朔太郎だけでなく、上京して自分の終の棲家をこの世田谷に決めた人は沢山います。私もその一人です。私の終焉の地となるであろう、この世田谷という町をこれからも大切にしていきたいです。
２，文士町と福田正夫について きむらけん
文士村というのは一時代を画した文士たちの集まりをいうものだ。田端文士村や馬込文士村である、昭和の時代の数十年間、当地に文士達が集まり、文学詩歌が創作された。が、人間には寿命がある、皆年老いていく。ゆえに一過的なものだったと言える。
ところが、下北沢周辺にも多くの文学者が集まって来た。昭和3年に横光利一が阿佐ヶ谷から越してきてここに文士達が集まるようになった。が、これよりもっと前にき詩人たちは集まってきた。これは詩人の福田正夫が大正12年12月「世田谷下北沢809番地」関東大震災の影響を受け、ここに小田原から彼が引っ越してきた。詩人として面倒見のいい彼のところには詩人たちが集ってきた。これが文士町の始まりではないか。
文士たちの参集は営々として続いている。当初は詩人が多かったが下北沢での鉄道開通が機縁となった。鉄道が交差するところには文化人も多く参集してきた。時が経って文学のジャンルも多様化してきた。近年では漫画家集団も集まってきている。途切れることのない歴史が今も継続して形成されている。ということは、当地には文化史が形成されてきたとも言えるのである。
福田正夫の下北沢への転入が1923年である、今年は2024年、つまりは百年が経過しているということだる。それで福田正夫について松山信洋さんにまとめてもらった。二回続きでここに掲載するものである。
３、福田正夫という詩人（上） 松山 信洋
一、
福田正夫は１８９３年、神奈川県足柄郡（現小田原市）に小田原藩士族堀川家の五男として生まれた。八歳で父親を亡くし、以後、親類に預けられたり、病院に書生として住み込んだりして苦労を重ねた。そして１９１０年１７歳のとき、そのころ寄寓していた福田誠信の正式な養子になった。養父誠信は当時小田原小学校教師、のちに早川小学校校長を務めた。二宮尊徳の信奉者として知られる。このころから福田は詩歌に興味を持ち、実作を始めた。１９１２年神奈川師範学校（現・横浜国立大学）卒業。その後、東京高等師範学校体操科に入学するも中退して１９１５年川崎市の教員となった。同年、処女詩集『農民の言葉』を自費出版し、詩壇に〈民衆詩人〉として注目された。１９１８年、富田砕花、井上康友、白鳥省吾、川崎長一郎らと同人誌『民衆』を創刊する。雑誌の巻頭を飾った福田の辞。
「われらは郷土から生まれる。われらは大地から生まれる。われらは民衆の一人である。世界の民である。日本の民である。われ自らである。（以下略）」
では福田は実際どんな詩を書いたのか。
「石工の歌」
山遊びの帰りの路で石工の歌、／曇り日のちらちら雪のふる日、／いたましいメロデイでひびく石工の歌／その歌には労働の神聖がこもる、／その歌には汎労働の精神がこもる、／そして家に働く妻と父を待つ子供の愛慕とが。（以下略）
山遊びからの帰り道で、作者はたまたま石切り場で石を切り出している石工たちの姿を目にした。野天で石工たちは槌を揮って働いている。その日はあたかも曇り日で、おまけにちらちら雪の降り出すような寒い寒い日であった。すると作者の耳に金属的な槌音が響くのにともなって、石工たちの口ずさむ唄が聞こえてきた。地をはうような低い歌声、それは厳しい労働から生まれた「いたましいメロデイ」ではあったろう。しかし作者は彼ら石工たち＝民衆の立場に立って、その唄に込められたものを「労働の神聖」「汎労働の精神」と呼ぶのである。
こうして福田を始めとする一群の詩人たちは〈民衆詩派〉と呼ばれるようになった。彼らは民衆の側に立ち、労働者、農民を歌い、そして必然的にそこに止まることなく、社会へも批判的な眼も向けていった。当時、第一次世界大戦が終結し、帝政ロシアは崩壊しソビエトロシアが誕生した。日本は列強とともに、シベリアに出兵し、赤軍と戦うことになった。
「一つの列車とハンケチ」
一つの列車が、／わつと魂ぎるやうに万歳をわめきながら、／西伯利亜（シベリア）出征兵士をのせて、／通過していく瞬間━━。／窓から争うやうにふるハンケチ／沿道の人々は呆然として見送る、／一人の老いた車夫だけが、／万歳と叫んだ、帽子をふった／私の魂はまず驚く、／なんという悲壮だ、／まるでやけのやうに呼ばはる彼らの叫喚、／死にに行くのだ、／なんという国民的の悲劇だ（以下略）
いったい何のために自分たちは戦場に送られるのだろう？第一次世界大戦後の混乱の中で、国際情勢にからめとられ、何もわからないまま戦場に駆り立てられていく兵士たち。「一人の老いた車夫」が万歳を叫ぶ以外、呆然としてただ見送るだけの人々。作者もまたどうすることもできない自らの無力を感じ、後ろめたさと兵士の運命を予測し、暗澹とした思いを抱きながら列車を見送ることしかできない・・・。
『民衆』創刊後、こうした民主的傾向を持つ詩や詩人たちは民衆詩派と呼ばれるようになり、〈民衆詩派〉という名称はしだいに一般化していった。１９２１年福田は教師を辞め、以後、文筆業に専念することになった。
４，疎開学童８０周年
1944年夏に学童疎開は始まった。今年は疎開から８０年経過した。当時４年生で９０歳となられた。疎開体験が風化している。このところ代沢小で「鉛筆部隊と特攻隊」の伝承を三年ほど続けている。伝承していくべき話だ。が、体験者の高齢化によって伝えることが難しくなってきている。戦争第二世代が受け継いでほしい。
体験者の高齢化によって日記や手紙などの資料が散逸している。学術的にも貴重なものだ。そういう資料はあればみせてほしい。が
５、町歩きの案内
毎月、皆が楽しめる町歩きを行っています。公募して希望者が４名集まったら成立します。雨天の場合は中止です。希望コースも募集しています。
第１９６回 築地本願寺和田堀廟所掃苔行 案内者 原敏彦さん
６月１５日（土） １３時３０分 京王線明大前駅改札前
コース：明大前駅→キッド・アイラックホール跡→築地本願寺和田堀廟所→明大前駅
築地本願寺和田堀廟所は、震災後に陸軍火薬庫跡地の払下げを受け、築地から墓地を移転したことに始まり、わが国最初の公園式墓地といわれます。
◎文化人・芸能人では、樋口一葉、古賀政男、海音寺潮五郎、中村汀女、内田吐夢、水谷八重子、九条武子、嶋中雄作、渡辺淳一、大藪春彦、吉本隆明、横綱照国・吉葉山、さらに最近再ブレークの笠置シヅ子、服部良一、その長男服部克久・・・その他多数の著名人がここに眠っている。
第１９８回 日時 ７月２０日（土）１３時３０分 三軒茶屋駅中央口集合
鎮魂の夏：戦争遺跡と平和特別展の見学 案内者 きむらけん
駅→昭和女子大学（近衞野砲兵連隊跡）→下馬韓国会館・馬魂碑（野砲兵第1連隊跡）→ 子どもの広場公園（野戦重砲兵第８連隊跡）→下馬図書館で開催の平和展の見学。
下馬図書館の展示「学童疎開・特攻から８０年 世田谷から平和を考える」
＊雨天の場合２７日に延期、この行事、世田谷区教育委員会の後援申請をした。またこの行事については世田谷広報７月1日号に掲載される。
◎申し込み方法、参加希望（開催の一週間前までに申し込む）費用については 資料代含めて通常は５００円 希望者はメールで申し込んでください。k-tetudo@m09.itscom.net
■ 編集後記
▲先号でカフカ研究家、東大名誉教授の辻王+星（ひかる）氏のことを取り上げた。この5月14日、101歳で逝去された。ご冥福をお祈り申し上げます。
▲エッセイを募集しています。ちょっとした情報、町の思い出など、ぜひ書いてください。▲新版９版については富山県射水市の人からぜひ欲しいとの連絡があった。また神戸在住の研究者奥谷俊輝さんから森茉莉の足跡を案内してほしいとのことで関係箇所を歩いた。対外的な一種のサービスである。今後、要望があれば対応していきたい。
▲会報は会員と会友にメール配信しています。後者で迷惑な場合連絡を。配信先から削除します。会費は銀行振り込みもできます。芝信用金庫代沢支店「北沢川文化遺産保存の会」代表、作道明。店番号０２２。口座番号９９８５５０６
▲「北沢川文化遺産保存の会」は年会費1200円、入会金なし。
▲町歩き情報に特化したメール回覧板を作り、2023年11月1日から発行している。配信希望はきむらへ。k-tetudo@m09.itscom.net
▲当方Outlookが不調でメールが届かないかもしれない。会報が届かなかったら連絡を。
◎当会への連絡、問い合わせ、感想などは、編集、発行者の きむらけんへ。
