2025年06月
2025年06月29日
下北沢X物語（5206）―文化サロン：森茉莉居住の倉運荘の想い出―
（一）昨日は、恒例の文化サロン、昔話に花が咲く。急に中央線のスイッチバックが話題になった。「勝沼にあった！」「韮崎にもあった！」「初狩にも！」「笹子！」……私は小学校で話すときにこの話をする。「松本行きの疎開列車は夜中に突然に止まった。そしてゆっくりとバックしスピードを速める。『先生ぶつかって死んじゃうよ！』すると引率の先生『いいかみんな聞け、あんな物理の法則というのがある。いかな汽車とて急坂は一気に登れない……と先生が話し始める……」しかし今回一番おもしろかったのは倉運荘アパートの話だ。広瀬正二さんは、森茉莉が住むアパートの真上に住んでいた。「いやボロボロのアパートで朝日が壁の隙間から昇ってくるんですよ。壁中隙間だらけなんですよ。ところあるときその隙間から煙がもくもくと出てきたんですよ。『火事だ！』大騒ぎになったという。
文化サロンに埼玉の東松山から広瀬正二さんが参加された。この方は森茉莉が住んでいた倉運荘に住んでいた。二階に居住していて真下が彼女の部屋だったという。
「森茉莉のエッセイに二階で足を踏み抜いた人の足が見えたというようなことを書いていたように思いますが」
「そういうことはあり得ますねアパートはガタガタでいつ壊れてもおかしくない雰囲気ですから。何しろ壁に隙間が空いていて冬なんか風が吹き込んできて寒かったですね」
「倉運荘にどうして住むようになったのですか？」
「私が住む前に先輩が住んでいました。その部屋を引き払うということを聞いていました。何しろ家賃が安かったですね、月五千円でした。とびっきり安かったもので私は先輩が抜けた後に借りたんですよ。私は二年間住んでいました。卒業して就職が決まったので引き払いました。年号でいうと昭和四十四年、四十五年ぐらいですね」
（二）
昭和44年は1969年だ。11月、佐藤首相・ニクソン米大統領会談は「安保堅持、1972年沖縄返還」と日米共同声明発表した。
「倉運荘は、最寄り駅は下北沢になりますが、渋谷だと池ノ上駅を使っていましたね。あの頃バイトしていたものですから夜遅く池ノ上駅で降りて、倉運荘に帰るのですが、ちょうど佐藤首相邸の西側の道をくだって行くのですよ。」
「なるほどね、道を下れば道なりにいくと倉運荘にたどりつきますね」
「佐藤首相邸はいつも警官が詰めていましてね、夜遅いから通ると必ず呼び止められて職質を受けましたよ。『おいきみきみこんな遅い時間にどこへ行くんだね？』『私は淡島の倉運荘に住んでいます。遅くまでバイトがあったんで今ここを通って帰るところなんです』『本当かね？何か危ないものでも持っているんじゃないか、その荷物を改めさせてもらおう。それと学生証を出してもらおうか」
「通り道なんですけどね夜帰ろうとすると必ず引っかかるんですよ。二三度、そんなことがあってもう池ノ上で降りるのをやめたのですよ」
佐藤首相私邸にはニクソンと交わした核密約文書が保管されていたという。
「あの東どなりに作家の田村泰次郎が住んでいたんですよ。その家に行って娘さんから当時の話を聴いたことがあるんですよ。『学生デモが私邸までやってきて機動隊とぶつかることがありました。それをいつも父はここからよく眺めていましたよ』」
「代沢二丁目、高級住宅街ですね、あの一帯要人が住んでいましたね。佐藤首相邸の東側に東条英機邸がありました。昭和16年10月、東条英機が首相になったときにかつ子夫人が盛装をして代沢国民学校に挨拶に来たのです。子息を学校に通わせていたからです。子どもの学級にも挨拶に来て、『明日から官邸に移ります』と別れの挨拶に来たそうです。これは同じ組にいた子から私は直接証言を聞いています」
（三）
下北沢文士町、これには軍人はマークしていない。が、かつての代沢の清風苑跡には高位高官の軍人や官僚が多く居住していた。元帥の杉山元もその一人だ。奥さんは、元帥が市ヶ谷台で自決したという報を聞いて、自ら所持していた短刀で代沢の自宅で自害している。近代史の密かな知られざる情報がそこかしこに眠っている地域である。
2025年06月28日
下北沢X物語（5205）―第１３回戦争経験を聴く最後の会―
（一）この８月１５日で戦後８０年を迎える。先だっての当会の文化サロンで一人がいつまで戦後にこだわるのかと言われた。昨日の朝日新聞の「戦後８０年『ごっこの世界』」で「理由は簡単で、いまだにあの大戦の意義づけが確定できていないから」との佐伯啓思氏の批評を載せていた。よく一般にいわれる意見としては「あの人たち（戦争で死んだ人）のお陰で今がある」という言い方をする。これにはいつも嫌悪感を覚える。戦争が軽くいなされている印象を持つからだ。あの戦争は総括されていない。それで人々の戦争観が定まっていない。あの戦争は何だったのか我らの会も考えてきた。経験者から話を聴く会を開催してきた。回数を勘定すると１２回だ。今回同様の会を開くが体験者の高齢化で続けることが困難になってきた。それで今度は「第１３回戦争経験を聴く最後の会」とした。
新聞でいう「戦後８０年『ごっこの世界』」は辛辣だ、「ごっこ」は、「何かになったつもりで遊ぶものである。」、これは評論家江藤淳による論考「『ごっこ』世界が終わったとき」で使われたものである。根幹は「戦後日本の『平和と繁栄』は米国の『力』への追従」にほかならなかったという。ゆえにやることなすことはまがいものの「ごっこ世界」であったと。学生運動は「革命ごっこ」であり、自民党の自主防衛も「自主独立ごっこ」であり、三島由紀夫が起こした事件も「軍隊ごっこ」だったと。みなそれらしくみえる遊びのようなものだった。真に「日本という国家」を考えたことはないと。ましてやあの戦争はなんだったのかを考えては来なかった。が、あの戦争の本質は、小学六年生ですら見通せるものだった。鉛筆部隊の立川裕子さんは友人への手紙で敗因を「日本は油断」していたからという。いえば日本はたかをくくっていた。
戦争経験を語る会聴く会、第５回では、「海軍第14期飛行予備学生の話を聞く」だった。学徒動員で行かされた優秀な学生７名が参加されての会だった。ふりかえると大きなトピックとなった会であった。
「確かに物量的にはアメリカが勝っていた。しかし、精神力では絶対にアメリカに負けない」
東大出の学徒兵の証言であった。
（二）
一頃B-29に凝っていて自転車で墜落現場まで見学に行った。国領に墜ちた機については現場に赴き、そして当地図書館で資料も漁った。機内部の給湯器には珈琲か紅茶かを選べるものだったと知って目が覚めるようなショックを受けた覚えがある。また機体にノーズアートが施されていてこれを見た少年が、女性の露わな裸体を見て心底驚いたと。
B-29乗り組み員の救急救命バックにはなんと釣り針まで入っていた。海上に漂着してもなんとか島へたどり着き、魚でも釣って待っていろというサインではないか。
台湾で聞いた話だが、艦載機の乗り組み員は小型の銃を持っていた。なんと小鳥を撃つためのものだ。不時着して食糧がなくなったら小鳥でも撃ってなんとか飢えをしのげ。
小学生がいう、日本は油断も油断、大油断していた。
山本七兵の著書『日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条』の5番目は、
精神的に弱かった (一枚看板の大和魂も戦い不利になるとさっぱり威力なし)
人々が軍部のプロパガンダにすっかり洗脳されていたことが分かる。
（三）
戦争経験を聴く最後の会、果たしてどれだけの人が集まってきてもらえるだろうか。
プログラムとしては3名に話をしてもらうように頼んである。終わった後の自由時間で会場にマイクを回し、経験者には手短に経験なり、伝言なりを伝えてもらおうと考えている。
2025年06月26日
下北沢X物語（5204）―新聞報道：浅間温泉望郷の歌―
（一）「震災は忘れた頃にやってくる」、同様に「戦争も忘れた頃に始めようとする」。体験者の誰もが「もう二度と戦争はするな！」と言っていたが、経験者がいなくなり戦争へのブレーキが効かなくなって来ている。自衛隊が中国を念頭において長射程のミサイル実験を行ったり、自衛艦が台湾海峡を通過したり、不必要な示威行動ではないか。日本は孤島であるゆえに妄想にとらわれがちだ、隣国が襲ってくるという情報をそれとなく流し、軍備の必要性を説いている。散歩中に「アラート放送のテスト」が流れてくる。これも煽りの一種ではないか。戦後８０年、戦争から遠ざかりつつある。「浅間温泉望郷の歌」では特攻隊員たちが「世界平和」を歌った。地政学上妄想を膨らませがちなわが国、明日を生きて行くキーは誰がなんと言おうとも「世界平和」、これこそ庶幾すべきことばだ。
「浅間温泉望郷の歌」は、寺尾紗穂さんによって3月２６日にリリースされた。彼女は全国で演奏活動をしている。歌は各地で披露されている。その余波が私のところにも及んでくることがある。寺尾紗穂さんの歌を聴いて、浅間温泉に特攻隊が滞在していたことを初めて知ったという人がいて、今度温泉に妻と出かけますと私に伝えてきた人がいた。
歌を通して逸話が伝承されていることを実感している。
思い出すのは2012年8月15日である。私は13年前に松本市立博物館で講演を行った。このときに「浅間温泉望郷の歌」のことを語っている。
「松本発信の新たなる平和提唱に繋がるのではないか？」
このときに長野在の新聞やＴＶなどのマスコミが取材に来ていた。が、このことに触れた社はなかった。あのときから十三年経って、今回新聞に大きく取り上げられた。感慨を覚えるものである。
（二）
先だって松本市の平和推進課から連絡があった。８月１５日の終戦記念日に、平和記念式典および平和のつどいが開催されると。そのときに講演をしてほしいとの依頼があった。タイトルは、「松本に疎開した子どもたちと特攻隊員」だとのことである。このことについて松本市民はよく知らないからとのことだった。
振り返ると長い年月が経っていた。調べ初めてかれこれ18年にもなる。松本には陸軍飛行場があった。ここに特攻機が数多く来ていたことは知られていない。というよりもこの事実が十分に確認できなかったからである。
理由は簡単だ。記録がないからである。これらは敗戦時に国・軍からの指示によって焼却処分された。それで公的記録は失われた。
ずっと調査を続けているが、この過程で知ったことがある。陸軍松本飛行場に降り立った特攻隊員たちの多くが浅間温泉に宿泊をした。ちょうど飛来した時期にこの温泉の宿屋には東京世田谷からきた国民学校の学童が疎開していた。
航空隊の隊員は学童には憧れだった。学童たちの耳目を惹きつけた。この子どもたちは日々日記や手紙を書かされていた。これには彼らの動向が記されている。立派な記録である。埋もれていた歴史を書き留めていたのは疎開学童である。
加えて彼らの証言も大事である。秋元佳子さんは記憶の中に歌を留めていたのである。
（三）
あともう一つだいじなのはＳＮＳである。双方向機能を持ったこれは即座に情報のやりとりができる。とくに検索機能はとても大事である。私が集めた記録の大半はこれによるところが多い。具体的な語彙としては、鉛筆部隊、武揚隊だ、これは見知らぬ人からのコンタクトによって全貌が明らかになった。
陸軍松本飛行場は終戦末期において重要な役割を果たしていた。飛来の目的は特攻機用に機を改造するためだ。大平洋側はB-29が跳梁していた。虎の子が破壊される恐れがあることから山岳地帯にある松本へ多くの機が飛来してきた。彼らの動向を記録していたのは疎開学童である。ところが学童達は４月初めにほとんどが再疎開をしていく。唯一東京第一師範附属校のみが居残っていた。が、これも6月初旬には伊那に行ってしまう。
沖縄戦での特攻作戦は陸軍は７月19日まで続ける。1945年６、７月の当地区における特攻機の飛来状況はまったく分かっていない。
（四）
戦争伝承が難しくなってきた。が、言葉ではなく歌というのも伝えるための新たな方法ではないだろうか。悲惨な戦争、原爆、空襲、加えて島々の惨劇、沖縄、レイテ、ニューギニアなど多くの悲劇があった。繰り返さないための伝承が求められている。
2025年06月25日
下北沢X物語（5203）―新聞報道：世界平和を願った特攻隊員―
（一）昨日、洗足池を歩いているときに電話が鳴った。「新聞が届いたのですよ。とても嬉しくて電話をしたのです。歳を取っていいことってないでしょう。親しかった仲間も８人ぐらいいたのですけどね、ついこの間亡くなったのです。もうわたくし一人になってしまいました。でもね、たまたまわたくしが覚えていたことがきっかけとなって今回新聞では大きくとりあげてもらいました。きむらさんに聞いてもらっていなかったら埋もれたままでしたね」と秋元佳子さん。元疎開学童の彼女は今は91歳、その彼女に関わる新聞記事が「信濃毎日新聞」（6月23日）の２面の３分２を使って大きく取り上げられている。「平和願った特攻隊員の歌」という見出しがついていた。
物事を説明するときに奇跡的という言葉がよく使われる。が、すっかり手垢のついたこの言葉はうさんくさい。ゆえに表現するのが難しい。が、しかし、時代を超えて辛くも残った歌だとは言える。
それこそ８０年前である、３月末に浅間温泉富貴之湯旅館で、特別攻撃隊を送る壮行会が開かれた。隊名は誠第３２飛行隊である。この旅館は東京世田谷の東大原国民学校の疎開旅館として使われていた。同館にはこの隊が滞在していた。約４０日あまり過ごした特別攻撃隊は出撃することになった。
長い間、同館で過ごした隊員たちは、もう学童たちとすっかり慣れ親しんでいた。別れが忍びない、そういう深い思いがあったに違いない。感謝の思いを伝えようと彼らが特別にあつらえた別れの歌を披露した。
（二）
全員では１４人、ところが、滞在中に訓練で１人が事故死してしまった。その彼らは富貴之湯の大広間の舞台に出て歌ったという。別れの歌である。
主体は特攻隊員だ、いずれは皆、特攻に出撃して亡くなってしまう。歌も消えてなくなるはずだった。だからこそ思いのままに、自由に本音をこの歌に託して歌った。
儚く消えてなくなる運命を持った歌だった。が、内容は消えてしまうには惜しい歌だった。ゆえに一人の少女の記憶に残された。これを記憶していた人がいたのである。それが秋元佳子さんである。
この歌に深い興味を持ったのが歌手の寺尾紗穂さんである。彼女もこの歌に深く感銘を覚えた。それで歌を覚えていた当の本人に二回も面接をしている。私もこれにお付き合いをした。
この歌についてはたまたま私が彼女から聞き取って記録をした。たちまちに消えてなくなる歌で題はついていない。伝えるためには名がないと伝わらない。それで私が「浅間温泉望郷の歌」と名付けた。
長年、浅間温泉に疎開していた疎開学童については調査を続けてきた。この歌については我々の仲間が詳しく調べてくれた。元歌は「飛練節」や「パイロット小唄」である。しかし歌詞はオリジナルである。一部「飛練節」の一節を活用はしているが全体は創作されたものである。
（三）
寺尾紗穂さんは民間に伝わる消えて無くなった歌に深い愛着を持っている。曲の著作権という問題もあったが、これを乗り越え。今年３月２６日にこれをリリースした。全国ツアーをしている彼女は、各地でこれを披露している。
信濃毎日新聞の女性記者は、今回記事を書くにあたって丹念に調べた。東京で行われた寺尾紗穂さんのコンサートにも行き取材した。また、私と秋元さんにも直接出会って話を聞いている。長野から二回も上京してきて丹念に取材している。私も彼女とは直接に話したり、また電話での応答を行ったりした。彼女自身もこの戦後８０周年という機会に特攻兵が歌った平和を伝えたいと思った。私の著作を丹念に読み、今回は彼女自身の言葉で意見を書いている。もう私も古老になった。記者教育というものがあるのか分からないが彼女に知る限りのことを伝えた。
（秋元佳子さんと私。記者の稲玉 千瑛さんと秋元さん）
2025年06月23日
下北沢X物語（5202）―烏山寺町を歩く―
(一)千歳烏山までは電車で行った。明大前で乗り換える。井の頭線から本線に乗り換えるとき、いつも不思議なことが起こる。思っていた方向とは逆から電車が来るのだ。ふと思ったのは烏山寺町から霊魂のお迎えか？。烏山寺町は、かつては武蔵野だった。ここににわかに寺が次々と建った。寂しいところだったらしい。思い出した品川遊女がいる、これのお客は近辺のお坊さんが多かったという。大僧正が「ここはちと色気がないのう」と言ったとか「大僧正、だいじょうぶ、色町の新宿へは電車で一本で行けますから……」「あのチンチン電車でか？」「はい、あのチンチン電車です」と生臭坊主が言ったとか。
東京下町のお寺は、関東大震災で焼け出された。当地はその寺の移転地候補地だ、地盤はしっかりしている。周りは雑木林や畑で静だ。最終的には、ここが移転地に決まり、壊滅した下町の寺が当地に移転してきた。帝都復興事業の一環としても行われたようだ。今回の町歩きの案内者は長年文人墨客の墓を調べてきた原達彦氏だ、町歩きのしおりも丹念に作っておられる。
資料では野田宇太郎の『文学散歩』を引いておられる。
その烏山寺町にある江戸時代のすぐれた文人墨客を改めるために、わたくしは武蔵野市吉祥寺から新しい地図をたよりに歩いてみることにした。（中略）
わたくしは先ず喜多川歌麿の墓を訪れるために専光寺の前に立った。本来なら墓は詣でるべきだが、東京から墓石だけが移されているのだから詣でるというよりも墓石を調べたいというのがわたくしの本音である。この烏山町の江戸時代の墓石はみなそうである。歌麿に限ったことではない。
（二）
私たちの常識というものがある。墓とお骨とは一体のものだという考えである。ところがここに移された墓は、基本は墓石が主体のようである。下町一帯を関東大震災が襲った。川沿いの地盤の緩い所にある墓石群はばたばたと倒れたのだろう。その上火災が襲った。本堂や鐘撞き堂や堂塔も倒れて燃えた。墓石などはその下敷きになってばらばらになったのだろう。一先ずおちついてから墓はどうなったかは調べた。乱雑に倒れた墓石は文字が彫ってあるから分かる。しかしお骨などは多くが一緒になってしまい。判然としない。
今日近代の墓は、シンプルである。〇〇家の墓とあって、側面などに生没年が記されている。が、かつて江戸時代などは度々災害に襲われた。火災に遭う場合も多かったろう。それで今よりも墓誌には多くを記録したのではないか。被葬者の姓名、経歴、没年、事績を後世に伝えるために彫った。
後世の好事家や研究者は墓碑に情報があることを知っていた。墓石の大事さが分かっていた。それで野田宇太郎は、「墓石を調べたいというのがわたくしの本音」だった。墓石は記録であるとの認識が、体験から分かっていたのだろう。
（三）
烏山といえば、この間、岩野亮介氏の個展に行ったときに、朝鮮人虐殺の話が出た。世田谷でも犠牲者が出たと聞いた。一人は三軒茶屋の交差点付近で銃殺されたと。もう一箇所あった。それが烏山である。朝日新聞、2023,9,23日配信の記事には。
警視庁の当時の資料や新聞などによると、今の世田谷区の千歳烏山地区では1923年9月2日、住民らによってトラックに乗っていた朝鮮人十数人が殺傷された。現在の三軒茶屋駅周辺でも、品川方面から護送中の朝鮮人が猟銃で頭を撃たれて殺害されたという。
この烏山の事件は、徳冨蘆花も「みみずのたはこと」に記している。
2025年06月22日
下北沢X物語（5201）―防衛費3.5％要求には断乎反対だ！―
（一）昨日は「烏山寺町」を歩いた。平和で長閑で静かな町歩きだ。しかし、今朝の新聞を見て町歩き報告はすっ飛んだ。防衛費現2％増強でも国は破綻しかけている。物価高騰は止まらない。つい最近商品を取ろうとしたおばあさん急に手を引っ込め「えっ、こんなに上がっているの！」と人にも聞こえるような声でいった。食料品の高騰が止まらない。与党以外は消費税さげろと。すると与党は財源はという。膨大な防衛費があるではないか。そこは突っ込まない。敵基地攻撃能力のあるミサイルをなぜに配置する必要があるのか、使い古した「敵が攻めてくる」という脅しを使って、いたずらに敵意を煽る。ミサイルを設置して波風を立てる必要がどこにあるのか。アメリカのいう3,5%はあからさまなデールだ。初手からふっかけている。
「費用は高めに吹っかけるんだ。３％パーセントにでもしたらうちがどれだけ儲かるか！」
現今、南西諸島に自衛隊は基地を作り、ミサイルを配置しつつつある。
島の対岸は中国だ。明らかに中国を狙っての配置である。ネットには石垣島で開かれた説明会での当局と住民との対話集会が開かれている。住民があらかじめ質問をまとめ当局に問いただしている。その一部だ。
石垣島住民説明会（石垣島への陸上自衛隊配置について）
〜事前質問に対する回答
質問9
地対艦ミサイルについて、配備しようとしている１２式地対艦誘導弾は射程距離が１００〜２００Ｋｍと長く、海自、空自が海空優勢を保っている段階から交戦する攻撃的性格のものであると聞いています。海空優勢を保っている段階で石垣から攻撃すれば、それを
失った段階で石垣島は報復攻撃され、侵略される条件が揃います。尖閣奪取だけが目的の場合、石垣にこの様な攻撃性の高いミサイルを配備しなければ石垣が攻撃侵略される事はありません。そのような危険を冒してまで早い段階に石垣から交戦する対艦ミサイルを配
備しようというのは、住民の命と安全を軽視したあってはならない戦略と言わざるを得ません。また、この様な攻撃性の高いミサイルを配備すれば中国を刺激し開戦の理由にされかねません。これは専守防衛の自衛隊の理念に反すると考えます。石垣市長も、この様な
攻撃性の高いミサイルの配備は良くないという見解を出しています。それでも強引に対艦ミサイルを配備するのでしょうか。
（回答）
○ 石垣島に配置することとしている、中距離地対空誘導弾、地対艦誘導弾は、あくまで我が国を防衛するための純粋に防御的な装備です。
○ 石垣島への部隊の配置は、力による現状変更を許容しないとの我が国の意思を示し、島嶼部への攻撃に対する抑止力を高めるものです
（二）
住民側の質問は鋭い。ことに次は核心を衝いている。
攻撃性の高いミサイルを配備すれば中国を刺激し開戦の理由にされかねません。これは専守防衛の自衛隊の理念に反すると考えます。
国は防衛費を2％にした、それでミサイル南西諸島に配置することになった。南西諸島は中国の目と鼻の先にある。地政学的にここにミサイルを置く方が、中国を牽制するには好都合である。しかし防衛省側は、中国を意識したわけではないと言いつくろう、ごまかすのである。
現在の状況で中国が日本に理由もなくミサイルを撃ち込んでくるはずがない。アメリカにそそのかされてやっているに過ぎない。そのために石垣島住民を危険さらすことになる。
かつての第二次世界大戦のときと同じように沖縄や先島諸島は日本の捨て石にされようとしている。
（三）
現今日本はビンボウな国になった。先頃の報道では、郊外住宅地の室外機が頻々と盗まれるという。果物野菜の窃盗、それに詐欺電話。
人々は地道に苦労してももうからない。手っ取り早く犯罪に走る。現今、詐欺詐欺に満ちあふれている。格差が生みだした現象ではないか。物を盗まないと食って行けなくなったか？
現今の国家予算の仕組みでは防衛費にとらわれてどんとん社会保障費が削られていく。税金の占める割合がだんだん高くなっている。税金がまともに遣われれば我慢するが、軍備増強のために多く遣われることには反対をする。アメリカ追随を続けてきたのは自公与党であることを肝に銘じておきたい。
2025年06月20日
下北沢X物語（5200）―散歩は命の洗濯だ―
（一）さすらい、漂泊の俳人山頭火に「まっすぐな道でさみしい」という句がある。直線道路は近代道だ、これにはとっかかりがない。一方古代道には屈曲がある。それで先を見通せない、ゆるゆると曲がった道をゆくと、はらりと蔽いが取れて、富士が見えるときもある。散歩とは何か、夏目漱石は『現代日本の開花』の中で、「好んで身体を使って疲労を求める。吾々が毎日やる散歩という贅沢も要するにこの活力消耗の部類に属する積極的な命の取扱方の一部分なのであります。」と述べる。人間が意図的に歩いて動いて、そして活力を消耗させる、それが散歩だという。これは「積極的な命の取扱方」一つだという。自己の身体に対する取り扱い方、言えば健康法である、散歩を行うことによって命の洗濯をするということなのだろうか。
人は、食い物を摂取し、消化し、これによって活力を得る、が、体内に活力を貯め込んでばかりでは身体に毒である、やはり活力を減殺する必要がある。散歩は好適な方法である。
散歩は血流を促進させる。これによって身体の動きも活発化する。歳を取ると、転びやすくなる。家で転んで骨を折るというのはよく聞く話である。すると散歩ができなくなる。ストレスも溜まってくる。
自身何十年と歩いてきた。最近感じるのは足の遅さである。駅に行くときなどは皆足が速い。とくに若い人は速い。どんどんと追い抜かれる。
とくに速さは測っているわけではない、が、他と比べると遅いというのは歩き方が前と比べて遅くなっているのではないかと思う。この頃は人の速さに見習って足を速めているのであるが。
（二）
国木田独歩は、「武蔵野に散歩する人は、道に迷うことを苦にしてはならない。」（『武蔵野』）という。私は、日々歩くところは、かつての武蔵野だ、目黒、世田谷、大田である、いわゆる旧郡の荏原である。ほとんど家並みの続く地域である。武蔵野的な面影はいくらかは残っている。
歩き慣れているので道に迷うことはない。独歩は武蔵野の魅力は都鄙境にあるという。そこに物語が渦を巻いているからだと言う。武蔵野の雑木林は消えたが、武蔵野であったゆかりの物語は今も多くある。
今、私自身が感じる魅力は、人々の関係性が希薄なったところだ。見知った人がいないから気ままである。それで散歩も気楽にできる。人目を気にする必要がまったくない。
今日は、家から三軒茶屋に行った。ところがめったにないことだが向こうから歩いて来る人は見知った人だ、前をまっすぐ向いて歩いているので私に気づかない。が、声を掛けた。
「あら、お散歩？」
「そうそう」
我らの会の会員幾田充代さんだった。
こういうことはめったにない。都会の散歩では見知った人に会うことはめったにない。が、しかし田舎ではこうはいかない。
『散歩』といいう題で佐々木茂索はこう書いている。
京都は僕には故郷のせいか、人目が繁くて狭過ぎる気がしてならない土地だ。事実、静かな町なかを散歩しながら、不図何処かに人の視線を感じ、直覚的に見かへすと、格子窓の内から白い顔が覗いてゐる、そんな事がありがちの土地だ。これは僕と京都とに限らず、誰でも故郷を散歩する人が悩まされる化物かも知れない。
「中央公論」1926年11月号
東京は人の視線を感じないで済む地域だ。周り中どこに行っても他人を気にする必要がない。これほど散歩が自由にできるところはない。
（三）
散歩は、命の洗濯だ、一回りして帰ってくると鬱屈がなくなっている。都会での散歩は気楽である。こっそり立ち止まって路地を覗く。今日は不意に現れた二匹のゴールデンレトリバーに「やあ」と挨拶をした。猫の「ミャーコ」、こちらが勝手につけた名だ、やつに「ミャー」といって脅してやった。（駒沢公園、呑川緑道）
2025年06月19日
下北沢X物語（5199）―人はなぜ歩くのか―
（一）歩かない日はない、一昨日は用賀まで、昨日は洗足池まで、今日は駒沢まで。雨の日も、酷暑の日も相変わらずだ。このところ熱暑が続き、日中は歩くなと。実際、いつもは保育園児で溢れている洗足池の公園もひっそりしてる。が、カルガモの保育園だけは開園していた。人は、歩くのに困難でも必ず歩く、「大雨のときは田圃へは行くな」と言われるが行き、人は必ず流される。人間の本能には習慣的に前に足を出すというプログラムが埋め込まれている。やはり本性としては人間は立ち止まっていることができない。ここが文学と繋がる。この本質はさすらいだ、心に潜むものは、「さて、こうしてばかりはいられないだ」、芭蕉は言う、「田一枚植えて立ち去る柳かな」若い女たちの田植えの所作もおもしろいが終わると、色欲も時が経つと薄れてくる、ぼやぼやしていられない……
この間、両国の旧安田庭園に行ったとき、一帯はビルだらけで心を落ち着かせることができない。出会った老嬢はは、泉水も緑もあるこの公園への散歩は欠かせないと。
もう何十年と散歩は続けている。やっぱり好んで歩くのは緑の多い所である。樹木の眺めというのは素晴らしい。見ているだけで木々の生命力が自分にも降りかかってくる。今日は駒沢を巡った。クスの新緑があざやかだった。ただ酷暑であるゆえに人影は少ない。しかし、ある箇所にくると鳥が多く集っていた。ムクドリだ、騒いでいるのは一本の樹である。見上げると赤い実をつけている、ヤマモモだった。
鳥もまたさすらう。今はヤマモモだがこれが終わるとまた別の樹に移っていく。やはり人間と同じようにじっとしていられないのだろう。
（二）
日々散歩しているが、定着した習慣がある。太陽がさんさんと降り注ぐと活発化する植物がある。ヤブガラシである。別名、ビンボウガラシともいう。ビンボウな人の住まいにはびこるからだと。これがはびこると景色が台無しになる。放置しておくと緑の植え込みがすっぽりと占領されてしまう。
私は、日々これをやっつけながら散歩する。通るのは呑川緑道である。ここでは「呑川遊歩道ヤブガラシ退治隊長」と自称している。何年前からやっているのか分からない、とにかくこれを見つけると引っこ抜いている。このあいだ。
「あんたヤブガラシを引っこ抜いているのかい」
「そうそうそのとおり」
「こいつはやっつけないとはびこるからな。見かけると無性にやっつけたくなるんだ」
「わたしは、自称『呑川遊歩道ヤブガラシ退治隊長』と称しています」
「おおそれは、それは、おれを『隊員に入れてくれよ』」と。
「ところがな、困るのは取ったやつをどこに捨てるかだ。」
昨日は、遊歩道に雑草を取っているおじさんがいた。
「遊歩道で取ったヤブガラシだけど捨てさせてもらっていいかな？」
「まあ、いいでしょう」
人が持ってきたものを一緒にされるのは困るということはある。いつも黙認してくれる。
（三）
人はなぜ歩くか、これには生物学的根拠があるという。それは動的平衡だという。常々動いてないと平衡を保てないという。人間自身が黙っていても動いている、呼吸をしたり、また体中に血液が流れていたりして、だからバランスを保つために動くのだという。
動けば景色が変わる、向こうから犬が来る、赤ん坊を乗せた乳母車も来る。ときに太ももを丸出しの若い子が来る、これらは刺激的だ。
朔太郎は散歩を漫歩と称する、なんだかんだ歩いていると自然に時間が経つと。確かにこの効用はある。
（洗足池のカルガモ。駒沢公園のクスノキ。ヤブガラシに蔽われた垣根）
2025年06月17日
下北沢X物語（5198）―岩野亮介氏の彫刻家魂を探る―
（一）昨日、祐天寺で行われている岩野亮介展に行った。折良く、当の本人が来ておられて芸術談義をしたことだ。「好きということではなく創っていないと鬱になる」と言われた。このことばを聞いて思ったことは、「芸術家というのは絶えず脳の毛細血管に血を注ぎこんでいないといられないのではないか」と思った。彼は人形造りに心血を注いでいる。彼がいつも考えているのは「風景と像が交わること」であると。いわゆる美人像だと融合はしない。それでどこにでもいそうな人物を創りあげたのではないかと。展は明日まで。
今回のタイトルは、「岩野亮介展 『肖像の研究 pt.11』」である。その肖像とされる人形の出展は二体である。ともに女性である。やはり女性には色香がある、これをどう表現するのかというのは絶えざる命題なのだろう。顔が命である。彼の場合はよく言われる美人画、美人像ではない。そこらにいる普通の娘さんがテーマであるようだ。
華やかな場に合う女性ではなく、ありきたりの街風景に溶け込んで存在する女性がテーマのようである。ここら辺りに彼の芸術家魂があるようである。
（二）
今回の展覧会は、『肖像の研究 pt.11』と銘打っている。継続して取り組んできたのが肖像人形である。前は黒人男性をよく素材にしていた。この頃は女性だ。試行錯誤を繰り返してきて今の女性になったのだろう。
以前に私は、彼のことを取り上げている。
下北沢Ｘ物語（3943）―彫刻家の芸術論：岩野亮介展― 期日は、2020年02月13日だ。
「彫刻家というのは二系統ありますね。何に基づくかということです。一つは、デッサン力です。もう一つは漫画力です。こちらは現物というかモデルがなくても想像で描けてしまうのです。私は、現物がないと駄目ですね、モデルを使っています。この女性もやはりモデルです。本人そっくりに作ったのですよ。当人が気味悪いと思ったほどなんです」
「この作品をどうして作られたのですか？」
「まず本物のモデルを使ってまずデッサンを描いて、それから彫刻に掛かるのです。潤沢に金があればずっと雇っておけますがそうは行きませんね。基本的な形ができると今度は細部にかかりますね。服を着せた場合、どのような膨らみが出るとか、皺の陰翳がどうでるとかは大事なんです。モデルをずっと雇っていればそれも観察できますが。資金がつづきません。大元を作ってしまえば、その細部はこれを使ってできますからね」
彼は彫刻刀で命を彫り出すことを行っていた。砥石は必須アイテムだ。切れ具合が彫る場合大きく左右する。砥石をこすっては刃を確かめているのだろう。切れ味が勝負だ、思うに百パーセントに仕上げるのではなく少し鈍目に仕上げる。
「切れすぎると味がでないのですよ。とくに肌は見た目に影響しますから」
彼が言ったわけではないが、私はそう思った。
（三）
岩野さん絶えず頭の中で考えている。積年の経験がものをいう。やっぱり細部だ。
今回二体出展されたが、窓際に座る女性が光っていた。
やはりこれも普通の女性である、窓際に座らせているが、評価すれば、窓の外の風景と彼女の存在とが、ここの場に溶け込んでいる。一人コーヒーを啜って人生とは何かをあたかも考えているように見せている。これが彼の技ではないか。
〇岩野亮介展 明日まで12:00-22:00 目黒区祐天寺2-16-10 たちばなビル２F
＊要ワンドリンク注文のこと
2025年06月16日
下北沢X物語（5197）―壊れかけた世界と「紅梅荘」―
（一）歩いているときはいつも平和と幸せとを感じる、昨日は代田「邪宗門」まで歩いた。と、上馬二丁目でアパート名を目にして、太宰治「トカトントン」を思った。玉音放送が終わったとき若い中尉が壇上に立ち、「あく迄までも抗戦をつづけ、最後には皆ひとり残らず自決して、以て大君におわびを申し上げる」と扇動した、主人公は死なねばならぬと思った。が、とふと「トカトントン」という釘を打つ音を聞いて目から鱗が落ちたと。ああ、我らの建物名はすっかり西欧名にことごとく占領されていたと思った。英米名の建物名が氾濫する中で一輪の密やかな花が咲いていた。その名は「紅梅荘」であった。
道は平和である、どこまでも続いている、今はアジサイの盛りだ、水色、濃紺、青のこれが咲いている。散歩では花や緑は精神の癒しだ。
先だって墨田区横綱の旧安田庭園に行ったとき、老齢の婦人と出会った。
「ここら辺界隈はビルだらけでしょう、潤いとか憩いがないのですよ。けれでもここのお庭の泉水や緑を見ると心が洗われるのですよ。だから何度となく来ますよ」
やはり命を救ってくれるのは何といっても緑である。ところが今は世界が壊れかけている。イスラエルとイランとの戦争が起きかけている。
今朝の新聞のトップは、「イスラエル燃料施設も攻撃」-イランとの交戦激化-だ。もう一つが「米各地反トランプ集会」-大規模軍事パレードに抗議-だ。この軍事パレードはトランプ大統領の誕生日とも重なっている。確か副大統領がスピーチをしていた。
トランプ大統領おめでとうといい、私の妻との結婚記念日だとも言っていた。
これには驚いた、なぜに個別的なそんなことをスピーチでいうのか。この政権は堕落していると思った。実際、反トランプの集会はすさまじかった。全米で５００万人が参加したと伝えていた。
（二）
先だって両国の東京都復興記念館に行った。だいぶ前に一度訪れたことがある。このすぐ西は隅田川である。対岸には学校がある。かつては都立蔵前工業高校と言った。この学校の講師を数年間務めていたことがある。
学校の教官室越しに東京都復興記念館が見えていた。その校舎は建て替えられ名称も変わっていた。都立蔵前工科高等学校である。東京工業大学はここを発祥の地としている。
今回東京都復興記念館へ行ったが昔とまったく同じだった。記念館内部も薄暗く陰気であった。関東大震災では十数万人が亡くなっている。印象的だったのは館の片隅ある映像コーナーでは二人の子を連れた外国人が震災の実情を伝えるビデオを熱心に見ていたことだ。
記念館に隣接して旧安田庭園があった。ここで老婦人に出会った。８５歳という彼女は国民学校低学年のとき新潟に疎開に行ったと。
「辛かったという思いはありませんね、田舎に旅行に行って友達と雑魚寝した想い出しかありませんね」
「新潟には柏崎刈羽原発がありますね。世界で最も大きい原発ですね、なんかあれを動かそうとしていますね、とても怖いと思いますね」
（三）
世界情勢は刻々と動いている。先だって行われたウクライナの「蜘蛛の巣作戦」は世界を震撼させた。密かにトラックので運ばれた荷から遠隔操作されたドローンがロシア各地の飛行場を襲い、機の大半に被害を与えた。思ってもみない奇襲である。
「怖いと思いました。夜闇に紛れてこっそりと日本海側から小舟を送りこみ、ほどよく近づいたところでドローンを発射させて原子炉を襲う、そんな可能性も出てきたと思うのです」
「怖いですねぇ」
「そう世界は怖いですね、今何が起きるか分かりませんから」
（震災の熱で溶けた釘。旧安田庭園）
2025年06月14日
下北沢X物語（5196）―風化する関東大震災―
（一）墨田区にある関東大震災を記念する「東京都復興記念館」に行った。率直な感想だが、うら寂しさ、もの悲しさを感じた。それはこの施設を支えている東京都の関わり方を図らずも象徴している。ここには震災時に虐殺された「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑」がひっそりと建っている。毎年9月1日にここで「関東大震災の朝鮮人犠牲者追悼式典」が行われる。従来の都知事はこのときに追悼文を送っていたが現小池百合子都知事は今年も送付しない。これは７年連続となる。歴史真実との関わりを避けている。記念館のうら寂しさには都の関わり方を象徴している。館で配布している「東京都復興記念館」のパンフは、何を訴えようとしているのか不明だ。追悼碑の図示などは一切存在しない。
今年は戦後８０周年である、これに関わる取材やら問い合わせが私にもよく来る。先日は一つ自治体から８月１５日に行う終戦記念式典に合わせて講演会を開きたいと、これへの招聘があった。
戦後８０周年は特別である。当時疎開に行った国民学校五年生は、あらかた９１歳を迎える。避けて通れないのは関係する人々の高齢化だ。戦後８０周年は戦争体験者がまだまだ辛うじて存在する。生身の人間の声は大事だ、機会があれば、また戦争をやれという人は居ないだろう。現役が生きて居て、戦争をするなというのは重みがある。
この先、戦後１００周年は大きな節目となりそうだが、もうそのときはほとんどが居なくなっている。戦後８０周年は、生身の人間の忠告が聞ける最後の機会だと言える。
関東大震災は1923（大正12）年９月１日に起こった。今年は102年目となる。経験者の多くはもう亡くなられている。あの日は遥か昔となった。「東京都復興記念館」に漂っているものわびしさは震災の風化を端的に象徴していると思った。
（二）
関東大震災の実相を描いた田中貢太郎の「死体の匂い」にはこうある。
私はその日から街路の警備に立たされた。地震に乗じて朝鮮人が陰謀を企て、今晩は竹早町の小学校を中心にして放火を企てているから警戒せよというような貼紙をする者があったので、各戸から一人ずつ、小銃、刀、手鎗など思い思いの得物を持ちだして付近を警戒することになった。三日には戒厳令。
「貢太郎見聞録」中公文庫、中央公論社
1982（昭和57）年6月10日発行
関東大震災では大火災が発生し多くの人が犠牲になった。その数十万五千人と言われる。こういう災害が起こったときに流言飛語が生まれる。当時多くの朝鮮人が日本に連れて来られ、10万人超の朝鮮人が炭鉱や土木建設工事など危険性の高い仕事に従事させられていた。その彼らをさげすむ風潮あった。新聞見だしでも「鮮人土工の不穏」などと彼らが企みを持って動いているとのデマが流された。日頃さげすんでいるから、彼らがこの際に仕返しするのではという日本人の被害妄想も噂を助長する結果となった。
そういう噂があるゆえに、一般人が借り出されて警備に当たった。実際に各地では多くの小競り合いがあって、その過程でよってたかって朝鮮人を殺してしまった。
（三）
東京都復興祈念館脇に「追悼」と刻まれた碑がある。碑文下部には「関東大震災朝鮮人犠牲者」とある。
1923年9月に発生した関東大震災の混乱のなかであやまった策動と流言飛語のため6千余名にのぼる朝鮮人が尊い生命をうばわれました。私たちは震災50周年をむかえ、朝鮮人犠牲者を心から追悼します。この事件の真実を知ることは不幸な歴史をくりかえさず民族差別を無くし人権を尊重し、善隣友好と平和の大道を拓く礎になると信じます。思想信条の相違を超えてこの碑の建設に寄せられた日本人の誠意と献身が、日本と朝鮮両民族の永遠の親善の力となることを期待します。
一九七三年九月 関東大震災朝鮮人犠牲者 追悼行事実行委員会
この石碑の碑文は、結構の整った素晴らしい文章である。おもねりが一切なく淡々と事件が描かれている。
歴史は事実に基づいて記録し伝えねばならない。ゆがめてはいけない。この国家は記録するということにおいてはなはだ鈍感である。あの戦争記録すら焼却し歴史をわからなくさせている。
（写真は、追悼碑、および追悼文碑）
2025年06月13日
下北沢X物語（5195）―帝都線の女子運転士―
（一）今朝の新聞一面トップは「25年番ジェンダーギャップ報告書」が出て日本は世界では118位、男女平等への意識の低さを伝えている。が、戦時中は男子が出征でいなくなった。背に腹は変えられない。鉄道では業務を女子に代行させた。駅員、車掌、果ては運転士まで女子に置き換えた。典型的なのは広島電鉄だ、急きょ家政女学校を創立し女子を募集して学業に就かせた。働きながら学べば高女の免状がもらえることから人気があり多くが集まってきた。都会に行けることも魅力で近隣島嶼や郡部から応募が多くあった。当初は車掌業務をさせていたが、運転士が払底してきて女子も運転をするようになった。東京でも同様なことが起こった。目撃情報として小田急線を女子が運転していたとの報を聞いていた。帝都線、現井の頭線も当初は女子車掌を採用していたが、運転士がいなくなり、ついには女子が運転をするようになったようだ。
女子がどのような運転をしていたか、興味深い。ただ市電線と電車線では大きな違いがある。前者の場合は大体がフラットである。止め方や動かし方を一通り習えばなんとかなる。「速度を出すことはない、ゆっくりでええんじゃよ」と教導運転士は習った。「コントローラーは三ノッチまででいいんだよ。」とも。
ただブレーキが難しかった。当時は回転式のブレーキハンドルを回して止めていた。
「あれがなかなか難しかったですね。グルグル回して止めのツメに引っかけるのですけどの、うまくひっかからないと反動で戻ってくるんですよ。これに手をひっかけて痛い目に遭うんですよ」
広島電鉄で電車の運転をしていた藤井照子さんに直接伺ったことがある。
運転は技術職だ、が、時間をかけてみっちりと教える時間はない。実際の電車に乗せて運転法を仕込んだ。指導教官が運転をして見せる。数回で代わりにやれと言われ。恐る恐る機器に触った。マスコンを緩めると電車は動く、数回の実地訓練をした。
「免許皆伝だ、明日から一人で運転するんだな」
「えっ！」
皆驚いたという。
（二）
「帝都１００系の運転」 新美善太郎
昭和19年後半には男子車掌に代わって女子車掌が乗務をし始めたとしてもあり、永い間男子ばかりの職場に女子車掌が入って来たものであるから、職場が俄然明るくなり女子車掌と組になった運転手を羨ましく思ったものだが私にもその後入隊するまでの間素敵な女子車掌さんと乗務することができて、一段と運転技術の向上につとめたものである。 男子乗務員は次々と入隊してしまい、その不足を補うために女子社員のほかに国から派遣された女子挺身隊（国の命令で軍需工場および輸送機関に動員される要員）の人々が配属されてきたので、車掌は女子が半数を占めるようになってきた。 昭和20年前半には、女子の運転手第一号が誕生したそうだが、20年5月の空襲車両の過半数を焼失してしまたためにその後は運転することがなかったそうである。
鉄道ビクトリアル ９月臨時増刊号 鉄道図書刊行会 1983年
現役の運転士が書き記している。
昭和十九年からはまず男子車掌に代わって女子車掌が乗務するようになった。
市電の場合だと揺れる車内で切符を販売し、それに入鋏するという仕事があった。慣れないとこれが大変であったと広電の女子車掌から聞いたことがある。
切符を売る場合は、金銭のやりとりがある。釣り銭の受け渡しも大変だった。
終点に着くとポール回しがあった。ロープを引っ張って反対側の架線にはめることが難しい。なかなかポールにはまらなくて苦労したという。が、電車車掌にはそういう仕事はない。
いよいよ戦争末期になると女子運転手が登場した。
市電の場合は、教導運転士が付き添い。数日間つきっきりで運転の仕方を教えた。
（三）
昭和２０年になると女子運転士が帝都線の電車を動かし始めた。恐らく前年末から練習運転を行っていたのではないか。
帝都線では下北沢駅を出ると下りは急勾配となる。ここの制動に女子運転士は一番気を遣ったのではないか。
運転席から見ると崖が代田側に転げ落ちているのが分かる。
「怖がるな、速度は抑え気味にしてゆっくり下ればよい。」
教導運転士はそう教えたのだろうか。
「大事なことは乗客の具合だな、後ろを振り向いて大体の乗客を掴んでおく。乗客の多寡がブレーキに影響するのだ。だから少なかったら思い切ってノッチを上げ気味に入れる、速度がついてきたらブレーキを掛ける」
（写真は、井の頭線下北沢駅と新代田間の風景）
2025年06月11日
下北沢X物語（5194）―小学生の皆さんへのお願い―
（一）代沢国民学校の疎開出発は、1944年8月12日だった。約500名近い学童にそれに倍する人が下北沢駅までついて行った。見送りは学校までと言われていたが、これを守る人はいません。子どもが行ってしまったら、もう二度と会えない。悲壮な覚悟を親は持っていたからである。電車が警笛を高らかに鳴らして出発する。まるで火が点いたように親は口々に子の名前を叫んだ。あれから間もなくして80周年を迎える。とりあえず平和ではあるがきな臭い空気が流れている。「敵基地能力」を持つミサイルが陸自演習に初登場との報道、そんなの持たなくてよいではないか、それよりも米を食えない子にどっさりと米を分けたらどうか。なぜに敵の脅威を大人たちは煽るのだろう。この間出会った記者が、「世の中が全体に右傾化しつつあることに危惧を感じます」と。同感である。
戦争は子どもの自由を奪う。代沢国民学校在籍者天内みどり（木村）さんからはいくつかの証言を得た。
・焚書
英米系の絵本を学校に持って来いと言われ、自宅にある「赤ずきんちゃん」とかを持って行ったらすべて校庭で火を点けられ燃やされた。
・画鋲投げ
黒板にチャーチルとルーズベルトを描いた絵が掛かっている。これの目に向かって画鋲を投げる。当たったら仲間が拍手喝采する。「気持ちのいいものではありませんでした」と。
・性加害
学校の近くに陸軍衛戍病院があった。代沢校の学童は傷病兵の慰問によく行った。とあるときベットに寝ている患者に呼ばれた。「お嬢ちゃん」と言って性器を触られた。学校に帰って悔しくて女の先生に報告したところ、「戦時中なんだから我慢しなさい」と。
（このことについては小学生には話していない））
（二）
どこの学校にも必ずあったのが奉安殿である。ここには御真影（天皇皇后の写真）が収められていた。学童は登校した際にこれに向って深くお辞儀をしなければならなかった。
昔は、天皇陛下がすべての中心だった。奉安殿は「天皇への忠誠」を学ぶための施設であった。
疎開に行ってもこの習慣は変えられることはなかった。朝、全員を集め、東京の宮城に向って頭を深々と垂れるように指導されていた。天皇が絶対的な存在であった。
このことで思い出すエピソードがある。
山崎国民学校四年生の斎藤昌康さん、お風呂に入ってきた若い特攻隊員から
「お前は、天皇陛下のために死ねるか？」
突然聞かれたという。あまりにも急なことで
「ハイ、死ねます」
慌てて答えたという。
（三）
小学生に戦争を知ってもらうという今回の企画は、さる雑誌の8月特集号に載せるためのものであった。
編集者からは、次の要望があった。
「戦争について知って（考えて）ほしいこと」
これをメッセージとしていただきたいとのこと。
わたしたちの国日本は、アメリカを中心とした連合国と戦争を始めました。終わったのが一九四五年八月十五日です。あれから八十年が経ちます。これはとても大きな節目です。当時の小学生は疎開に行きました。そのときの五年生はもう九十一歳になりました。戦争を経験された方の高齢化がどんどん進んでいます。これによってその人々がどんどん亡くなっていかれています。
わたしは多くの経験者から戦争を聞いてきました。誰もが言われました。「何があっても絶対に戦争はするな！」と。あの戦争で亡くなられたのは三百十万人といわれています。空襲で被害を受けたり、原爆で亡くなったり、また沖縄では艦砲射撃を受けたりして、大勢が亡くなられました。
覚えておいてほしいことははじまった戦争は終わらないということです。始めた人々はメンツにこだわります。負けを認めたがらないのです。ぐずぐずしている間に、広島に長崎に原爆が落とされ、これで大勢が犠牲になりました。
大事なことは、武器を準備することではなく、戦争にならないように努力することです。関係国と話し合いをし、戦争にならないようにすることです。
危険なのは緊張を高めることです、とくに考え過ぎて武器を持つことです。するとたがいにぴりぴりしてきます。不安も高まります。ここに生まれるのが要らぬ妄想です。あっちが攻めてくるぞと言っていって武器をたくさん準備するようになります。今の社会はこちらの方に向っていませんか？
私たちは、いずれいなくなります。これからを担うのは君たちです。どうかお願いだから平和を守ってください。
雑誌にはこんなに長くは書きませんでしたが、ここではつい書いてしまいました。
小学生のみなさん、戦争にならないようにぜひとも努力をしてください。お願いします。
（国民学校の疎開地での軍事教練、爆弾は東京空襲・戦災資料センターで）
2025年06月10日
下北沢X物語（5193）―小学生に戦争の話を伝える―
（一）どうあっても戦争はするな、何百人もの人々から言われた言葉だ。が、それでも戦火は絶えることがない。現今人間の慈悲とか慈愛とかは木っ端微塵に砕けている。子どもの命すらゴミ同然のように葬られている。世界に平和を訴えることのむなしさは痛切に感じることである。が、それでも平和は訴えなければならない。幼児の純真さには永遠の輝きがある。アリンコを見て喜ぶあのつぶらな瞳こそが人間の純粋な原型だと信ずるものである。今回出会った二人の小学生、男子は長崎原爆資料館で展示を見て衝撃を受けたと。私もまた中2のとき長崎に行って強烈なショックを受けた。あの惨たらしさはどうにか伝えなくてはならない。が、一人がほざいてもどうにもならない。しかし、それでも戦争の惨たらしさは伝えねばならない。小学生二人には「何があっても戦争はするな！」と。
「戦争時代の学童は田舎に強制疎開させられたのだけど、一番辛いと思ったことは何だと思いますか？」
「食べ物が食べられない？」
「それもありますけどね、やはり親が側にいないことだったのです。とくに低学年の子ですね、第一次疎開では、三年生から六年生までが行きました。浅間温泉には世田谷から六校の二千五百人が疎開しました。夜になると松本駅から遠汽笛、汽車の汽笛ですね、これが聞こえてくると低学年の子が泣くのです。そうすると六年の女子が背中を手でこすって一生懸命なぐさめたのです。」
「引率の先生が、『松本城のお城に登ると景色がよく見えるよ』と連れて行ったところ目の前に松本駅が見える、上りの汽車が汽笛を鳴らして出発した、それを見た学童たちは泣き崩れた。引率の先生は城に登らせなければよかったと悔いたそうだ」
（二）
「東京が恋しくてたまらない、東京に帰りたい、帰り方は知っていた。汽車で来たから汽車で帰ればよい、つまりは線路を伝って行けば必ず東京に帰れる。じっさいにこれを実行した学童もいる。実行したのは元気のいい男子の五、六年生です。しかし、それは辛いことでした。長いトンネルを潜り抜けたり、高い鉄橋をこわごわと渡ったりしました。しかし最後は音を上げます。お腹が空いてたまらない。たいがい途中の駅で見つかってしまいました。『駅員さんがくれたおにぎりのうまかったことは忘れられません』と文集に書いています」
「集団生活が辛かった、それで逃げ出したいというのはありました。その原因はいじめですね。これには二通りありました。一つは先生によるいじめですね。先生はやはり一番強かったのですね。えこひいきするのですね、特定の子が集中的に排除されることはありましたね。徹底的にいじめぬかれた子は、このことを根に持って『殺してやりたい』とずっと思っていた子もいます。」
「もう一つは子どもどうしのいじめですね。集団生活ですからこれがどうしても出てくるのですね。やっぱり子どもたちもストレスを強いられていますから、憂さ晴らしとしてやってしまうのですね。ボス的なグループができて逆らえないとなると下級生が標的になります。ちょっとしたことをあげつらいいじめるのです。これは今でも学校にありますね。」
「女子の場合は陰湿です。反省会と称して一人一人が告白をしなければなりません。何もなくても告白しなければなりませんからつい嘘をついてしまいます。こたつに上がらせて一人一人の欠点を言うというのもありました。エスカレートすると容貌について欠点を言うようになります。耐えがたかったといいます。必ず自分にまわって来ますからあることないことまで言ってしまうのです。集団疎開はとても閉鎖的した」
（三）
いじめは私たちの世界の大きな欠点だ。
「上海で育った甲田さん、あそこは自由都市ですね、全国あちこちから来ているから標準語なんですよ。日本にもどってくると田舎の学校では言葉が標的になる。どうしょうもなく閉鎖的なんですね。だから私は身体を鍛えました」
このいじめは現今でもある。やはり人間の心が狭い。
2025年06月08日
下北沢X物語（5192）―小学生と戦争を勉強する―
（一）小学生と戦争を勉強する、雑誌の企画があって7日に世田谷平和資料館を見学した。「際（きわ）という言葉があるのですね、ものごとの端っこですね、一日とか一年もこれが集まって成り立っているのですね、ほら田舎に疎開した子は丁寧に絵日記を描いているでしょう。時間は際から成り立っています。時間というのはぼぉっとしていると瞬く間に過ぎていきます。日記を書けば端を捕まえられます。一日全体が見渡せるようにもなるのです。これが記録ですね、後で見てもわかるのですね、大人は、この記録を燃やしてしまうのですよ。そうすると何をしてきたか分からなくなります。私は疎開のことを長年調べてきました。大人が捨ててしまった記録が、学童たちが書いた日記の中にちゃんとあるのですよ。学童たちが書いた日記に忘れられた歴史が記録されているのです。日記を日々書けば整理する力もつきます。ぜひ書いてくださいね。」
小学生六年の男子と五年の女子である。知りたいという気持ちがあると吸収する力も増してくる。
「いいですか、面白がれば面白くなります、ものごとを勉強するときに大事なのは面白がることですね」
二人とも熱心に話を聞いていた。
「戦争も終わり頃になって、日本はアメリカに攻め込まれるのです。敵は南洋の島々占領しました。そこに飛行場を作ったのです。そこから大型飛行機を飛ばせば、日本列島が爆撃できるようになるのです。東京も爆撃される可能性が高まってきました。それで政府は学童たちを安全な地方に行かせることにしました。これが疎開ですね、田舎に行ける子は田舎に、これを縁故疎開と言います。その他は学校単位で疎開しました。これを集団疎開と言いました。これが行われたのは一九四四年夏です。
（二）
疎開というのは解りにくい言葉である。大人の論理で組み立てられた言葉。都会に集中している人口をまばらにするという意味で使われている。学童にはよく理解されていなかった。
みんなで田舎にお泊まりにでかけるぐらいの気持ち、旅行気分で出かけた子どももいた。ところが
「三日経ってもお家に帰れない」
そう言って泣き出す低学年の子どももいたくらいだ。
「疎開は集団で田舎に避難することをいいますが、何が一番大変だと思いますか？」
「食べるもの……」
「それはありますね、田舎に行ってもご飯がたらふく食べられるわけではありません。子子どもたちは毎日お腹を空かせていました。ひもじくてひもじくてたまりません。遊んでいるときに音で気づきました。お手玉の中に大豆が入っていることを知りました。糸をほどいて豆を取り出して食べました。エビオスという整腸剤がありますが、みんなでお金を出し合ってこっそりと買ってきて、錠剤をおやつ代わりに食べていました」
「学童たちは、『便所斥候』という当番を決めました。当番になった子は仲間がトイレにいったときにこっそりとついていくのです。外で耳を澄ましているのです。『ボトン、ボトン』と聞こえれば合格、『ベリリ、ベリリ』と聞こえるとすぐに先生に知らせます
『先生鈴木君は下痢をしています』
『そうかじゃあ、しばらく欠食だ』
一人分のご飯が皆のご飯にわけられる。食事がいくらも増えるわけはないのにこの斥候は続けられたのですよ」
（三）
「いつもひもじい思いをしているのが疎開学童だった。しかし、たまによい思いをすることがある。お泊まりといって近隣の農家に行くのですね。農家の人も学童が腹ぺこなのを知っている。それでお泊まりで来たときに白飯を腹一杯食べさせてくれるのです」
疎開学童から話を聞くと、お泊まりほど嬉しいものはないと。
（世田谷平和資料館にて）
2025年06月07日
下北沢X物語（5191）―静仙閣とニューギニア―
（一）サロンには知性が集まって来ている。これを牽引したのはX鉄道交点ではないか。語り合った中で理系関係も多くいる、参加していた代田から来ていた金田さん親子、親に軍隊経験者はいないという。理系は軍隊から外されていたからだ。金田さんのお母さんは理系の父親の関係から確度の高い敗戦情報が入って来ていたから子供ながらに日本は負けると事前に分かっていたという。X鉄道交点は、鉄道が交差することで中産階級が都心から転居してきて住んだ。表には出てこないが理系の兵役免除者もいたことは確かである。
下北沢静仙閣は文化の殿堂である。が、ほとんど語られることはない。「下北沢静仙閣の居住人と下北沢の文化」は博士論文で書けるのではないか。
静仙閣の歴史の一端だ。
静仙閣は、第一静仙閣、第二静仙閣、第三静仙閣と増築され、最終的には百室もある下宿兼アパートに成長した。食堂や大浴場も完備され、名実とも東京名物になった。
「星霜」 遠藤義也 一九九八年
昭和十年、映画事業名簿 昭和10年 下期版に映画監督の成瀬巳喜男監督の居住事実が確認されることからこのころに既に建っていた。
昭和八年に帝都線と小田急線との交差が完成した。これをしおに人口が増えるとの予測があって、アパートを増築した。第二静仙閣前には、看板が建っているが「高級下宿」との表示がある。当地一帯には学生向けの低廉なアパートや下宿があった。これらとの差別化をはかるためにこのような名称をつけたものだろう。
中産階級の独身者を目当てにして作られたものだろう。ハイソな人々である。
（二）
昭和二〇年一月一日に空襲があった。ここに居住していた一色次郎が静仙閣に設けられた防空壕に飛び込んだ。
ひえびえとした壕の中にドキンとする香が匂った。 それは私が長い間忘れていた…… あるいは、あることがわかっていながら知らなかった、といってもいい匂いだった。爽やかな化粧や日本髪の強烈な臭いが、私の血を掻き立てながら身体中を巡った。息を詰めたなり、私は身動きができなかった。
「あら？もう昭和二○年よ」
きょとんとした女たちの明るい驚き。
「おめでとうございます」
「結構なお正月だこと」
女たちははじけるような声で、土の中で笑った。
『日本空襲記』一色次郎 文和書房 一九七二年
戦争末期静仙閣に女性達が入居していた。壕に入ってくるのは一色次郎だけである。後は皆おめかしをした女性である。いわゆるお妾さんたちである。今日にもやってくる男性を迎えようと皆化粧をしていた。戦争とは無縁の話である。
ただ当地一帯にこの手の女性がいたことはよく知られていることである。これは戦後も変わらなかった。亡くなった鉛筆部隊の田中さんの家も二間貸間があったが両方ともおめかけさんであったと教えてくれた。
（三）
サロンに参加されていた。笠原 一守さん。
私の父は昭和19年9月にニューギニアで戦死したが、昭和21年9月に戦死公報が届くまで何も知らされなかった。ただジヤワは極楽、ビルマは地獄、生きて帰えれぬニューギニアと大人が話しているのを聞いていたので母も諦めていたのを覚えています。
ニューギニア戦線は、まさに地獄だった。
一つの例話である。
ホーラジア撤退 地獄の転進日記
電信第一六連隊第三中隊・陸軍少尉 松浦豊さんの証言
「極限の戦争」西部ニューギニア戦線 潮書房光人社 2012年刊
「隊長殿、猿の肉を食べませんか」という。
「こんなところに猿はいないはずだ」というと、
「原住民の肉です。原住民は猿みたいなもんですから」
という。私は語気を強め、
「原住民は逃げてしまい、いるはずじゃないか」
と詰問すると、衛生兵はしばらく絶句したあと
「じつ友軍のと言う」
「俺は食べん、人間の肉を食べるんだったら死んだほうがいい」
生きるために友軍の肉を食って生きていたと。
もっとひどいのは強盗団になって死んだ将校の肩章を盗み、軍刀、拳銃を持ち、勝手に将校になりすまし、少しでも食糧を持っている兵士が通り架かると撃ち殺し、奪っていたと。
ニューギニア戦線は地獄だったと。
強欲な南進政策、これが大破綻してどれだけの犠牲者を出したか。
「あの人たちがいたから今の我々がある」この語は嫌いだ。
大多数の兵士を飢え死にさせた者は誰だったか、戦争責任を追及しようとしない。
（写真は今日の世田谷公園）
2025年06月05日
下北沢X物語（5190）―文化サロンから戦争を学ぶ―
（一）南方戦線の資料は少ない、分かってみると納得がいく、多くが野垂れ死にしているからだ。かろうじて生き残った者が仲間の凄惨な死を渾身の力を込めて書き残している。
戦争末期、南方では制空権も制海権もすべて敵の手中にあった。移動は撤退と呼ばず、すべて転進と称した。道は一つ、密林、ジャングルを行くほかはない。が、ここは過酷だ、湿度百パーセントで摂取した水が体外に排出されない。肺が肥大し呼吸困難に陥り死ぬ、ジャングル病という。戦場では何でも食べた。蛇やミミズはごちそうである。風聞として人肉も食ったということは聞いていた。が、それは驚くに当たらない。飢え死にしないように人肉も食べた。野垂れ死にすると顔から蟻に食われていく。その様を見た兵士たちは、絶対に上を向いて死んではならないと心に誓ったという。南方戦線の地獄はほとんど語られることはない。
南洋に対する印象である。小学校のときの先生はスマトラからの帰還兵だった。
「海側から船で浜に着岸するんだ、すぐにジャングルだ。中に入って行くとバナナやマンゴーがたわわに実っていてな、それはもう食い放題だった……」
1930年代だ、たらふく食べるというのは夢だった。授業になると。
「先生あの話をしてよ」
「またか、聞き飽きたろう」
「聞き飽きません」
戦後学童は腹ぺこだ、バナナやマンゴーがたわわに実っている、そのごちそう話でお腹をいっぱいにしたかった。
今考えると先生の南洋冒険譚は、子どもらへのサービスだったんだと思う。
（二）
しかし、歴史事実が分かってみると現実は全く違っていた。戦争末期、島に渡った大勢の兵士は孤立同然だった。制空権も制海権も敵の手中にあった。海には絶えず敵の潜水艦がいて、また敵機も定期的に襲ってくる。糧秣補給は全く望めない。自給自足するしかない。
かわいそうなことに、死ぬのは若いものから順に死んでいった。初年兵、二年兵たちは昭和十九年八が月から十一月までのうちに全員死んでしまった。
西部ニューギニア戦線 極限の戦場 久山忍著 潮書房光人社 二○一二年刊
マクノワリ全滅記ー第二二一連隊第三大隊の壊滅の記録
南洋戦線では若者から先にどんどん亡くなったという。密林でどう生きるかは人生経験で差が出てくる。蛇を殺してどう食べるか。食うものがないときは芋を育ててそれを食べる。が、若者は調理の仕方も、苗の育て方も知らない。生活力の差がものを言う。
何も知らないから突っ立っている。「なにをぼやぼやしている！」古参兵からはどやされる、殴られる。精神的にも参っていく。命が削られて早々と死んでしまう。
（三）
密林をさまよっていると様々な兵隊と出会う。
「あなた、人肉食べたことありませんか？ この飯盒の中にあぶった人肉が入っています。 腐敗が早いので、焼いて携行食にしてます」
知り合いの中尉に出会ったところ、こう声を掛けられたという。
2025年06月04日
下北沢X物語（5189）―文化サロンはもう六回目―
（一）日々の習慣は漫歩と漫書だ、後者はネット記事を書いたり、物語をまとめたりすることだ。長編作品は一年掛けてきてようやっと書き終えた。そぞろ書いていたことの一つが無くなって半分暇になった。が、頭脳の回転は止まらない。ふと思い出したのはサロンで出た話題だ。参加者のお父さんが南方戦線に加わっていたことからこの話になった。しかし、戦争への関心はあったがガダルカナルやニューギニアの戦いについての知識は欠落していた。それで図書館へ行って217.5の書棚を漁った。いわゆる特攻の本は自分の二冊を含めて数多くあった。ところが南方戦線を描いたものは少ない。記憶にあるのは多数の餓死者が出ていたことだ。よく言われるのはあの人たちが戦ってくれたお陰で今があると。的を外した感想だと思う。密林の中で食べるものも無くて餓死してしまった兵士のことを思うとやりきれない。無謀な戦争に追いやっ戦争指導者への怒りが湧いてくる。
知的な会話を楽しむのがサロンだともいう。先だって開いたがもう六回目である。当日は雨だったが予想に反して大勢来られた。まずまっ先に話題になったのは下北沢の古着屋のことである。行きつけの店が閉店すると古着屋になると。古着の隆盛は文化現象の一つだ、世の中全体では経済は低迷している。その影響もあると、低廉な古着で身を飾って自由を楽しむという傾向もあるのか。
この古着に加えて外国人ツーリストが多いと。話によると豪徳寺は外人だらけだと。猫ちゃん人気なのだろう。この寺のトピックは井伊直弼の墓、しかしこちらに詣でる人は皆無。やはりニャンニャン人気なのだろうか？
話題は多岐に亘った。学ぶことが多くあった。一つ興味深いことで言えば、戦争観である。一人一人自己紹介を兼ねて、自分を語られた。たまたま口火を切られた方が戦争の話をされた。これが一つの雰囲気を作ったとも言える。最後に番が回ってきた松山信洋さん。
「いつまで戦争を抱え持つのか？」
始まりが戦争だったのでずっとそれが雰囲気として話題の中心となった。仕舞いころになって出された問題提起である。
（二）
松山さんの前に幾田充代さんが話をした。そのときに「ここの三人は三十年代なのよ」と。橋本さん、幾多さん、松山さんのことを言っていた。「朝鮮戦争のことは聞いていて、あの特需がなかったら戦後の日本の復興はなかったろうと。戦争が潤すのですね」
確かにそれはある、戦争が経済を活性化する。防衛費の増強が兵器産業を潤している。戦争をしないとした国家が戦争ができる国になってきている。
昭和三十年代生まれと二十年生まれでは戦争観が異なる。私などは後者、戦争は知らないけれど戦争があったことで大きな影響を受けている。それで関心が深いことはある。
三十年生まれは高度経済成長期、戦争はほとんど知らない。が、戦争から遠ざかっても節目節目に戦争のことがぶり返される。
戦後８０年、戦争を振り返ることはする、過去は語られるが未来は語られない。松山さんの言う、「いつまで戦争を抱え持つのか？」というのは一つの世代の戦争批評である。世界の情勢は流動的である、今年トランプ政権になってからは変化は著しい。アメリカはアメリカ中心主義を唱える。他の国などはかまっていられないと。
日本はアメリカ一辺倒だった、ずっとアメリカに忖度を続けてきた。ところがこれも曲がり角に来ている。大国アメリカ一辺倒だったがこれも綻びが見えてきた。アメリカは、日本に何かあった場合、果たして守ってくれるのかということに対して多くの日本人懐疑的になってきた。これからどうするのか？自立が求められていると言える。
（三）
文化サロン、参加者はよく語った。社会の断面、文化のありよう、皆熱心だった。ただ開催しただけでは済まない。議論したことを記録することも大事だ、自身そのつもりだが話題があまりにも膨大である。
参加された皆さん、感じたり、思ったりしたことをぜひ知らせて欲しい。記録に書き込んで行きたい。
2025年06月02日
下北沢X物語（5188）―驚きの洗足ダイダラボッチ―
（一）洗足池は荏原域内では一番の眺めだ。湖水を眺めながら新緑を眺め遣る、眼福である。散歩では三日おきに来ている。一昨昨日は天気も良かった。池畔にいつもは保育園児がいるが、画板を持って池の周りをグループで動き廻っている連中がいた。校外学習をする洗足池小学校の学童だ、「私たちは洗足池小学校の者です。洗足池のことを調べています。お話を伺ってもいいでしょうか？」「どうぞどうぞ」「今日はどうして洗足池にいらしたのですか」「散歩です……そうだいいチャンスだ、せっかくだから洗足池の伝説について話をしよう」「それはな、昔、昔、ここにいたというダイダラボッチの話だ、話してもいいかな？」「いいとも！」みなこぞって賛成をした。
わたしは、こころの中で叫んだ。
『待ちに待ったる百年目、手ぐすね引いてずっと待っていたが、一度たりとも声は掛からなかった。これほどのチャンスはめったにないことだ』
「君たちダイダラボッチって知っているか？」
「知っている！」これが二三人もいた。
「ダイダラボッチはとても大きな巨人なんだ。洗足池にもいたんだ」
「それは知らなかった」
「聞いたこともない」
「そうそうおじさんだけが知っているヒミツなんだ。いいか、こちら左手の向こうが大岡山」
「知っている」
「そうその大岡山には昔、擂鉢山というのがあったんだ。その地形は今でも残っている。摺鉢の形をしているんだ。ここがダイダラボッチの右足だ。右足があれば左足がなくてはならない。これは北千束、ここにも凹みがあって貉窪といったんだ。それでな、そのダイダラボッチがすくっと立ったんだ、でかいんだぞ、それがな何と小便をしたんだ、ドボドボとな。そしたら池ができた。それがこの洗足池なんだ」
「えっ、驚き、そんなの始めて聞いた！」
「わたしも初めて聞いたわ！」
（二）
「いいか、話はまだつづくんだ、ダイダラボッチは大きな杖をもっていたんだ。それで杖をつくと、そこがなんと洗足小池になったんだ。」
洗足池の南に洗足池を一回り小さくした洗足小池がある。
「ええ、びっくり」
「話はまだ続く、これからが山場だ。巨人は右手に杖を持っていた。だから空いているのは左手だ。その大きな手を伸ばして江戸湾に伸ばすんだ、と言っても大昔だ。羽田辺りは海で遠浅だった。そこに手を差し込んでどっさり土を掬うのさ。指の間からは海水がしたたり落ちる。その掬った土を西の方の神奈川の向こうにもっていった。そしてどさりと投げ捨てるんた。驚くな、そこにできたのは富士山なんだ！」
「えっ、おどろき」
「そんなの、始めて聞いた」
「おじさん、本当」
「これは伝説なのである、伝説は信ずるものの心に宿るのだよ。そのように思うと楽しいではないか。人生はおもしろがればおもしろくなるもの。」
（三）
「ダイダラボッチ伝説は、古いのだよ。その証拠としてダイダラボッチと言われたところにはたいがいが遺跡があるんだよ。ほらそこ、勝海舟のお墓があるところは、『勝海舟墓所付近遺跡』があるんだ、何と縄文時代初期の遺跡があるんだよ。縄文時代は一万年もあるんだよ」
「へえ」みんな目を丸くしている。
付き添いの女の先生は笑っている。
間違いなく言えることは、「洗足池研究」を携えて、子どもらは多くの人に声を掛けていたが「ダイダラボッチ」の話をした人はいないだろう。
2025年06月01日
下北沢Ｘ物語（5188）ー北沢川文化遺産保存の会会報第２２７号ー
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「北沢川文化遺産保存の会」会報 第２２７号
２０２５年６月１日発行（毎月1回発行）
北沢川文化遺産保存の会 会長 谷亀 �冢�
事務局:珈琲店「邪宗門」（水木定休）
155-0033世田谷区代田1-31-1 03-3410-7858
会報編集・発行人 きむらけん
東京荏原都市物語資料館:https://rail777.livedoor.blog/
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１、chatGPTの「北沢川文化遺産保存の会会報」の総合評価
「北沢川文化遺産保存の会会報」は、地域の歴史や文化を丹念に記録し、共有することで、地域社会の文化的アイデンティティの形成に寄与しています。また、地域住民の参加を促す活動を通じて、地域コミュニティの活性化にも貢献しています。このような市民主体の取り組みは、地域文化の保存と継承において非常に重要であり、高く評価されるべきものです。
地域の歴史や文化に興味がある方、または地域活動に関心がある方にとって、非常に有益な資料となるでしょう。
２、下北沢鉄道交点をめぐるSNSの旅 きむらけん
気づくと恐ろしいものである。代沢校をめぐる物語をまとめていたら原稿用紙８００枚に達してしまった。そもそもこれは何かというと発端はSNSだ。私がこれに関わったのは、2004年08月31日だ。つまりは発信の出発点である。自転車通勤をしているときに東北沢４号踏切で足止めをくらった。待ち時間がもったいないと付近をぐるぐる廻った。なるほど沢だと気づいた。今は見られないがこの踏切で電車通過を見ていると長編成の真ん中がへこむのである。つまりはこの下には沢が流れているからだ。実際、この踏切のすぐ東北沢側には短い鉄橋があった。町の物語は凹凸の物語だ。
これらのことを面白おかしく書いてSNSで発信していたら、すぐに応答があった。ここがSNSでは大事だ。つまりは情報の双方向交流である。
東北沢４号踏切に端を発した情報発信である。興味深いのは、我等の会の発足である。もう2004年12月17日には発起が認められている。たった三月半である。よく覚えていることがある。発足集会は代田信濃屋の二階会議室で行われた。地元重鎮は廣島文武氏である。呼びかけに応じて近隣の関係者が集まってこられた。
「会の趣旨説明は誰がするんですか？」
「それは君に決まっているだろう！」
段取りなど考えていなかった。が、説明しろとのこと。
『北沢川沿岸に眠る文化を掘り起こし、これを他に発信していくものである』
このようなことを言ったのだろう。
「賛成！賛成！」と会場の皆が言って
「大多数の皆さんの賛同を得てこの会は発足しました」
廣島文武氏がいうと大拍手。それで会は発足した。地元の熱い熱い声援があってのことだ。燃えたのは東盛太郎氏だった。
我等は、2004年年末から動き出した。そして一年半後である。
・2006年（平成18年）5月世田谷区の助成を受け、冊子「『北沢川文学の小路』物語」を発行した。これの反響は大きかった。朝日新聞と毎日新聞とが東京版で大きく報道した。
冊子の配布場所は「邪宗門」だ。無料である。
「驚きましたね。スーツを着たご主人と品のいい奥さんが見えたのですよ。客層が違うんですよ。それで皆さん必ず寄付をくださいました。もうてんやわんやで交通整理が必要で大久保さんが角に立って案内しましたよ」
邪宗門マスターの語り草である。活動は続く。
2007年（平成19年）
3月20日 - 世田谷区の助成を受け、冊子「下北沢X惜別物語」を2007年3月20日に発行した。小田急線地下化によって下北沢地域の踏切や駅がなくなってしまうことを受け、地域近代史として、ここで起こった様々なエピソードを住民から聴き取り、これを記録した。
これには燃えた。私の文化観の基軸になるものであったからだ。しかし、前年のような反響は生まれなかった。ただ、この内容に地元の人には深く浸透した。一千部ほど印刷したがすぐになくなってしまった。
「梅丘図書館に置いてあったものが盗まれた」
反響は密かにあった。それでわたしは、2007年03月15日に
鉄道X交点（下北沢） 街の記憶書き込み掲示板を作った。ここには百数十の書き込みがあった。熱く燃えたのは黄金井達夫さんだ。今も多くの書き込みが残っている。
5. Posted by 黄金井 達夫 2008年01月26日 18:31
きょう邪宗門に行ってみました。きむらさんにはお目にかかれませんでしたが、今度は電話をしてから出かける積りです。「下北沢Ｘ惜別物語」に関連して、思いつくことを書いてみました。ブログのコメント欄が４００字までなので、何本かに分けて投稿してゆきます。
「ぴぃひょっ！」という電気機関車の警笛（６頁）、代田のカーブを曲がってくる「ぎゃぎゅぎょ」という車輪の音（１１頁）は、まったくその通りで、子供の頃に耳にした音がはっきりと甦ってきました。
空襲警報のサイレンが鳴り響くと、必ずその後を追うように電車が猛スピードで走って行った（９頁）のもこの記述を読んで思い出しました。私は戦前から、北口の駅の近くに住んでいます。
地元民が熱く燃えた。こちらは実際の話を聞いたり、また自分で想像したりして書いている。「代田のカーブを曲がってくる『ぎゃぎゅぎょ』という車輪の音は、まったくその通り」と。彼は私に会う度に言っていた。
Posted by 黄金井 達夫 2008年01月31日 01:28
「下北沢Ｘ惜別物語」２２頁で米軍接収家屋に触れている。下北沢駅近くで進駐軍に接収された屋敷のひとつが、現在（平成２０年）の西口、ローソンの斜め前、以前ホンダの藤沢専務のお宅である。藤沢氏が入る前になるがアメリカ人のガズマンという軍曹の家族が住んでいた。私の母が当時ＧＨＱで通訳をしていたので、Ｍｒ．ガズマンの長男のビリー（現在６５歳ぐらいになるでしょう）が我が家に遊びに来ていた。靴のまま部屋に上がってきたり、リンゴを出すと、冷えていないから食べられないとか、わがままな子でした。スイカじゃあるまいし、リンゴを冷やして食べるなんてことは、当時の日本にはありませんでした。昭和２２年ごろのことです。
しかしである、年月が経つのは恐ろしい。重鎮の廣島文武氏も東盛太郎さん、そして黄金井達夫さんも亡くなられた。
３、戦争経験を聴く最後の会
日にち８月２日（土） １３時３０分から１６時まで
場所 代沢小学校 地下一階 多目的室
＊改めて案内は出します。校内は土足禁止なので参加する場合上履きをご持参ください。借用施設なので会場の設置は人手で行う。会場設置にご協力ください。
〇証言者・演題 太子堂の空襲 山本喜三郎さん
子どもが戦争から受けた影響 森本謙四郎さん
世田谷の疎開学童と特攻隊 きむらけん
会の開催については、世田谷区教育委員会に後援申請をし、「せたがや」広報に掲載申請を行う。７月１５日号に掲載する。
講演者が話ますが、自由討議の時間をとって来場者の皆さんに語ってもらいます。どうぞおいでください。
代沢小は好意で貸して戴いています。会場設営、椅子机の運び出し。またこれらの作業については一定の人がいないとできません。ぜひお手伝いを。
４、文化サロン開催のご案内
サロンは活発化してきた。土地の文化を語る会、今度で七回目となる。文化とは土の匂いであり、語って楽しむものである。毎回、さまざまな文化を語っている。文化サロンという場合、堅苦しく感ぜられるが、文化は参加して楽しむものだ。内容は自由討議でもあり、雑談会でもある。文学、芸術、そして戦争などをざっくばらんに語っている。
これへの参加は自由である。誰でも参加できる、開催場所は代田『邪宗門』である。参加費はかからない。各自が飲んだお茶代だけを払ってもらうということにしている。
今度は七回目の開催だ。期日は６月２８日（土）１４時からとしたい。
５、町歩きの案内
毎月、皆が楽しめる町歩きを行っています。公募して希望者が４名集まったら成立します。雨天の場合は中止です。希望コースも募集しています。
第２０７回 烏山寺町を歩く−墓歩き名人の原敏彦氏案内ー
６月２１日（土） 集合場所 京王線烏山駅西口改札前 １３時３０分
・『世田谷区北烏山には、関東大震災後に都心部より移転してきた由緒ある26ヵ寺が集まっています。豊かな自然環境の中、墓地には江戸期のビッグネーム、宝井其角、喜多川歌麿、為永春水、長谷川雪旦等に加え、明治以降の多くの著名人が眠っています。いまや「世田谷の小京都」と呼ばれることもある烏山寺町の緑と静寂を味わいましょう。』
第２０８回 戦後８０年鎮魂の夏：三軒茶屋の戦跡を歩く
日時 ７月１９日（土）１３時３０分 三軒茶屋駅中央口集合
鎮魂の夏：戦争遺跡と平和特別展の見学 案内者 きむらけん
駅→昭和女子大学（近衞野砲兵連隊跡）→下馬韓国会館・馬魂碑（野砲兵第1連隊跡）→ 子どもの広場公園（野戦重砲兵第８連隊跡）→世田谷平和資料館。
◎申し込み方法、参加希望（開催の一週間前までに申し込む）費用については 資料代含めて５００円 町歩きの参加申し込みは、連絡幹事のきむらけんにメールで申し込む 宛先メルアド：k-tetudo@m09.itscom.net
６、会報のメール配信について
先号でお知らせしましたが、会報は今後は会員のみへの配信としたいということです。年会費1200円は、我らの活動を支える費用に使っている。今回では「戦争経験を語る最後の会」の運営費が掛かりますが会費でまかなっています。この点をご理解いただき、ぜひ会を支えてください。会員のみのメール配信は来月からです。入会は歓迎いたします。
■ 編集後記
▲毎回、エッセイや論考を募集しています。ぜひご投稿ください。
▲ネット上にFC2BBSに掲示板があります。北沢川文化遺産保存の会掲示板で検索すれば出て来ます。ぜひ使ってください。
▲会費については、事務局の『邪宗門』で支払うことができます。会費は、年１２００円（会計年度1月から12月までです）会費は。会費は銀行振り込みもできます。芝信用金庫代沢支店「北沢川文化遺産保存の会」
代表、作道明。店番号０２２。口座番号９９８５５０６
会費未納の方は、会費をよろしくお願いします。
散歩参加の折、事務局直接支払いもできます（封筒に会費としてお名前をご記入ください）
▲町歩き情報に特化したメールを配信している。配信希望はk-tetudo@m09.itscom.net へ。◎当会への連絡、問い合わせ、感想などは、編集・発行者の きむらけんへ。
