2006年04月10日
下北沢Ｘ物語（５５４）〜代田の丘の豆腐屋物語（１）〜
○お知らせ
２００６年４月１０日
北沢川文化遺産保存の会有志
代田連絡線の跡を歩く会
昭和２０年５月２４日、２５日の二日にわたって世田谷一帯はB２９による空襲を受けました。そのときに帝都線と呼ばれたいまの井の頭線は大きな被害を受けました。永福町車庫に焼夷弾が多数落ち、留置していた電車のほとんどが焼失し、運転不能になりました。神泉トンネルに待避していた二両のみが無傷だったと言われています。
電車のほとんどが動かず、帝都線の運転は危ぶまれました。そこで急遽小田急線世田谷代田から新代田駅の間に仮設線が敷設されました。船橋の鉄道連隊が出動してこの工事に当たったと言います。鉄橋一連、木橋一連も架けたともあります。
小田急線から帝都線への電車の移送を行いました。架線がないのでロープで電車を牽いたようです。それは困難を極める作業だった、現在その跡はほとんど消えております。が、当時の地図などがあり、そこを辿ってみるのも面白いということで今回の歩く会を企画しました。
当日は自宅の上を代田連絡線が通っていたという春宮ご夫妻に案内をしてもらいます。参加は自由です。会員の東盛太郎氏が資料を用意します。資料代がいくらかかかります。
４月１５日（土）
集合場所 小田急線世田谷代田駅 出口は一箇所 北出口前（線路北側）
時間 午後１時 雨天の場合は中止
参加希望者は世田谷邪宗門にご連絡ください。（全体の参加は１０名内外としたい）
０３−３４１０−７８５８（木曜定休）
豆腐屋はその町の文化の一端を象徴している。作り手の個性によっても味は異なりはする。が、どの場所で豆腐を作っているかで味も違って来る。かつては井戸水でそれは作られていた。水の味が豆腐の味を決定していた。土地土地の水、空気、それに住んでいる人々の味覚を反映しているのが豆腐である。
池ノ上の丘の豆腐屋、池田屋豆腐店は北沢の丘の豆腐の味を守ってきた。ご主人に聞いたところ昭和３年からの営業だと言う。なるほど木造建築のその店構えは古い。屋根上の店の名を描いたペンキもはげかかっている。が、そういう佇まいが豆腐の味覚をも表している。
これまで荏原の里を何千キロとペダル巡行してきた。文学遺跡探査だけでなく、味覚の探査もしてきた。おいしいものが売られているお店、それを見分ける目もついてきたように思う。
通りかかった和菓子屋の栗饅頭の表面のテカリを見ただけで菓子の味が想像できる。店先の親爺が焼き鳥を手さばきよくひっくり返す、そのときの肉汁のしたたり具合で噛んだときの食感が予想できる。豆腐屋は経験的に言うと佇まいが味を語る場合が多い。妙に店構えが綺麗だったりすると豆腐が水っぽくて味は今ひとつだったりする。
池田屋豆腐店は豆腐にこだわりをもって作っている。それは買った豆腐を食べると分かる。固からず柔らかからず、箸を入れると相応の抵抗がある。箸に載った一片の豆腐、それを口に運ぶ。食べると程よい固さの塊が崩れる。豆腐は舌の上でのドラマだ。噛んだ瞬間に大豆の味が広がる。
池ノ上に越してきた半藤末利子さんはこの豆腐屋を見つけて以来、この店をずっと贔屓にしている。つい先日、わたしたちが行っている鉄道交点一帯の文化発掘運動に賛同してもらえないかとお願いに行った。
半藤家の玄関のチャイムを押した。すると二階のベランダから彼女が顔を出した。前に会ったことがあって二度目だ。そのときは夏目漱石のお孫さんだとは知らなかった。ベランダと玄関という距離で豆腐の話をするわけにはいかなかった。そのうちに玄関から半藤一利さんが出てきた。
文芸春秋の「週刊文春」「文芸春秋」編集長、取締役などを経て作家となった方だ。昭和史についても造詣が深い人だ。運動の趣旨を説明して賛同者になってほしいと伝えた。すると快く了解してもらった。彼は運動の方向も示唆してくれた。
「代沢一帯には軍人、政治家が多く住んでいたから、そういうものも残して置くと、昭和という時代にこの地域がどう関わったかわかるかもしれないよ」
やわらかい話を思い描いて行ったら固い話になっていた。豆腐が昭和史に変わっていた。が、一利さんの指摘は頷ける。旧軍人などの居住分布を地図上に入れていくと昭和史が見えてくるように思う。やわらかい豆腐の話はつぎに聞けばよいと思って、半藤家を辞去した。
前置きが長くなった。が、これからの話と関連してくることだ。
下北沢駅の東に北沢の丘は南北に延びている。その反対には代田の丘がやはり南北に延びている。下北沢を中心としての一方の丘上にある豆腐店が池田屋豆腐店だ。もう一方の丘上にあったのが関豆腐店である。
両方とも丘上にある豆腐店だ。住んでいる階層も丘上に住める人々だ。それだけに人一倍、豆腐の味にはうるさい。丘上で豆腐を作るにはそれなりの苦労があるはずだと前々から思っていた。
池田屋豆腐店のご主人や奥さんには何回か話を聞いたことがある。が、営業しているときに長々と話を聞くわけにはいかない。機会があれば豆腐作りの話を聞いてみたいと思っていた。ところが、思いがけず代田の丘上に豆腐店を構えていたという関さんに出会えた。彼から丘の上の豆腐物語を聞くことができた。文化発掘運動の過程で知り合った小飯塚一也氏はこの豆腐店を長い間贔屓にしていた。その彼に関正雄さんを紹介してもらった。
（写真は関さんが長年使っていたラッパである）
