2008年03月10日
下北沢Ｘ物語（1054)〜荏原台崖線上のペダル民俗学１〜
荏原自転車巡遊行は果てのない旅だ。鉄道X交点への北上ばかりだと情報が過度に集まって頭脳がパンクしてしまう。それで、意図して気晴らしにのんびりと南下する。
ところが、地勢探検の目は休むことがない。多摩川左岸の崖線に沿ってサイクリングコースを南下し、そして、第二国道の多摩川大橋まで行って対岸に渡る。今度は川崎のサイクリングコースを二子玉川まで北上する。すると対岸の国分寺崖線が眺められる。多摩川左岸に小高い丘が連続して、うねっている様がよく分かる。ところが、じつはその多摩川左岸の崖線は墳墓ラインだった。うすうす気づいてはいたがはっきり分かると驚嘆が胸に染み込んで恐くなってくる。
多摩川下流域左岸の大田区田園調布から世田谷区野毛の地域には、古代の南武蔵野を物語る５０基程からなる古墳群がありました。この古墳群は、大田区側を「田園調布古墳群」、世田谷区側を「野毛山古墳群と呼び、合わせて「荏原台古墳群」と呼ばれています。
多摩川台公園の古墳群 大田区教育委員会 大田区郷土博物館発行 パンフレット
「荏原台古墳群」という名称は興味深いものがある。常日頃、ちょうどそのエリアをいつも巡遊しているだけに、「ああ、なるほどなあ」と思う。それも頭脳が思うのではなく、自分の脚が納得してしまう。いつもその地域の坂を上り下りしている脚は、大きな負荷がかかるところだけによく覚えている。脚が知覚するペダル民俗学だ。
多摩川左岸の高台に古代墳墓が連なっている。崖線上の古墳群は歴史の深い襞をかいま見せてくれるものだ。が、それにしてもなぜこの一帯に古墳が密集しているのか、不思議である。「大田区田園調布から世田谷区野毛」というのは区境を越えてはいるが極めて狭いエリアである。ここにびっしりと古墳が連なっている。
墳墓の連なりがそのまま公園となっている多摩川台公園、ここには「多摩川台公園古墳展示室」がある。そこに古墳の所在を示す立体地図が展示されている。一つ一つの古墳の所在はスイッチを押すことによって知られる。そのスイッチの中に一帯すべての古墳の在処を示すものがある。何気なくそれを押してみて驚いた。いつも通っている、いつも見慣れている多摩川左岸の崖線上に赤ランプが点々と灯った。密集である。（写真）
古墳の造られた時代は、日本が国家として形成された時代です。３世紀後半から７世紀末までのおよそ４５０年の間に、北海道・東北北部と南西諸島を除く日本列島の各地に、巨大な前方後円墳をはじめとする、さまざまな古墳が多く築造されました。
多摩川台公園の古墳群 大田区教育委員会 大田区郷土博物館発行 パンフレット
巨大な古墳を造るには人手が要る。その要員は一帯の地域から駆り出されたことが容易に想像できる。つまり、荏原一帯だ。これら墳墓の中には荏原の首長と思われる人のものもある。となれば、常々、自身が巡遊している地域からも多くの人々が苦役に駆り出され、それに従事しているはずだ。一帯の谷谷には平民である農民が３世紀以降多数住んでいたことが想像できる。が、なぜかくも多くの古墳がここに密集しているのか、非常に興味深いことだ。それで国分寺崖線上の古墳を尋ねる旅に出た。と、言っても、いつもの散歩程度だ。自宅からだとぐるっと回って帰ってもせいぜい十キロ程度である。が、その程度のところに古墳群があるというのは目が覚めるほどの驚きである。
