2008年03月16日
下北沢Ｘ物語（1058)〜文学と風景の掛け持ち１〜
昨日の午後はハードスケジュールだった。まずは森茉莉を巡る小さな旅、そして、風景資産活動人発表会への参加、文学と風景の両方の掛け持ちである。
「茉莉を歩いて茉莉に会う」、この企画も恒例となった。今回のツアーコンダクターは「邪宗門」マスターの作道さんである。後でアシスタントの米澤さんから連絡があったが参加者は１９名とのことだった。わたしたちの企画の中では教会巡りにつぐ人気である。
森茉莉がチョコを買いに来たという駅前食品市場をまずは巡った。あらかじめメージンスポーツの関根さんに森茉莉の印象について話をしてほしいと頼んでいた。
「なんかね、猫背の、こう、なんかむすっとした人でしたがここをよく通られましたよ。ごく普通の人でしたよ。」
「そう、この市場だとチョコはこの裏手の長谷川さんところで買ったのだと思いますよ。あそこは外国もののチョコをたくさん扱っていましたからね」
「そうそうＰＸ流れの品物ってここは豊富でしたね。それでもあっち、横田とか福生みたいにアメリカナイズされていませんでしたよ」
この最後の話はとても興味深いと思った。戦後になって進駐軍がワシントンハイツに駐留した。そこから近い鉄道交点一帯のお屋敷が接収されたり、借り上げとなったりして米兵が多く住まうようになった。その彼らの生活が日常的に一帯でかいま見ることができた。その米兵目当ての女性も下北沢近辺に集まってきた。そこに派手さはあった。そして、米軍から流れた出た闇物資が駅前食品市場に大量に流れてもいた。そういうことからアメリカ文化がかなり浸透してはいた。ところが、すべてアメリカナイズされてはいなかった。街の気取りだったのかもしれないと思った。
森茉莉の紹介で使われる代表的な写真がある。その一枚が栄通りを通りかかる彼女である。横縞柄のカーデガンを羽織った姿だ。その撮影地点に作道さんは一行を案内してくれた。その写真はよくみると背後に電柱があり、「巴屋」という質屋の看板がかかっている。そして、そのすぐそばには洋品店があって、端切れがぶら下がっている。看板には「コットン」と書かれている。なんのことはない、映画「大当たり三色娘」でのロケで使われた洋品店だった。
家に帰って写真と映画の両方を見比べてみる。背景の店はほとんど変わりがない。ともに「コットン」が写っている。映画は昭和三十二年七月に封切られた。写真もその頃に撮られたのではないだろうか。（写真は現在、今も洋品店である）
映画では江利チエミ、写真ではは森茉莉が写っている。女優と女流だ。映画と文学である。それは下北沢文士町を読み解くキーワードでもある。
順路は、栄通、旧「青柳」、「コットン」、現「青柳」（和菓子）、そこは「風月堂」跡でもある。さらに栄通から出て、一番街の「八幡湯」に行った。森茉莉が女湯と男湯とを取り違えて入ってしまった銭湯である。
森茉莉がよく行っていたという洋食屋「スコット」は閉店してしまった。内部は改装中だった。われわれがしばらくそこを眺めていると買い物かごを下げた人がやってきた。「スコット」のお上さんだった。
「そうなんですね、閉めちゃったんですよ。主人が急に亡くなったものですからね……」
「何か記念になるものありませんか、なんでもいいんですが、写真とか、メニューとか、お店で使っていたコップとか？」
「ああ、それはあらかた捨ててしまいましたね。でも、探せば、何か残っているかもしれません」
奥さんはそう言って二階の自宅へ階段を昇って行かれた。われわれは彼女が何を持って現れるのか心躍らせて待っていた。
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この記事へのコメント
たしかに想像できませんね（笑）。
森巌川の源流域は『下北沢通史』など、机上のフィールドワークに頼ってます。
じっさいに歩いて、街の方々にインタビューをして愉しみたいです。
特別枠、ぜひ、よろしくおねがいいたします！
森厳寺川の源流探査は特別枠でやりませんか。源流部は複雑です。三つも四つも枝分かれしているようです。この場合の待ち合わせ駅は代田橋の方がいいかもしれませんね。
邪宗門マスター作道さまにもよろしくお伝えいただければ幸いです。
森茉莉の淡島風景をぞんぶんに愉しませていただきました。
小説を書く際には、舞台となる街の地図を詳細につくる。
と、ある作家の方からうかがいました。
