2008年03月29日
下北沢Ｘ物語（1067)〜鉄道連隊の元兵士との出会い〜
言葉は記憶を耕すクワである。
クワを記憶という畑に入れると古い土が掘り起こされ、そこから思いがけないことが分かることがある。それは昨日のことだった。
来月、５月２４日に「戦争経験を聴く会、語る会」を代沢小で開くことにした。それで、手作りのポスターを作って下北沢、一番街の大月商店に行った。するとおばあちゃんが居た。
「これでは白いから目立たないわよ。赤のマジックで枠を書いて貼るといいよ。」
彼女は赤マジックを出して来た。それをこちらに呉れるなり、店をほっぽらかしてさっさか出て行ってしまった。マジックで赤枠を記しているとお婆ちゃんが帰って来た。
「飯田さんを連れて来たからね」
「あれ、飯田さんだ、ご無沙汰しております。」
大月商店のはす向かいの飯田勝さんである。
「この飯田さんは戦争に行っていますからね、連れて来たんですよ。」
お婆ちゃんは素早い、たちまちに一人を連れて来た。
「どこへ行かれたんですか？。」
「中国へ、行きましたよ」
「出征されたのは何時ですか」
「昭和十七年十二月八日ですね」
「あれ、開戦記念日ですよね。」
「そうそう、もう開戦から一年経っていましたからね、兄貴と違ってわたしはひっそりと行きましたよ。そこの真竜寺で、送別会をやってもらいましたけど、もう大々的にはできませんから静かにやりましたよ」
「下北沢駅から出征されたんですか」
「ええ、そうですね、朝早く行きましたよ。母親と二人きりでね」
「どちらの方へ行かれたんですか」
「千葉ですね」
「とすると新宿まですね」
「ええ、新宿で乗り換え津田沼まで行きましたよ。」
「津田沼ですか？。」
「ええ、わたしは『てつに』ですから」
「『てつに』ってなんですか？」
「鉄道第二連隊のことをそういうのですよ」
「えっ！」
驚きのあまり声が出なかった。飯田さんとは何度か話をしている。今の東北沢４号踏切で蒸気機関車を見たというのはこの飯田さんから聞いた話だ。小田急線が開通する前に資材運搬の蒸気機関車が通っている。そのことについて話をしてくれた人だ。そのときに鉄道第二連隊の話は出てはこなかった。
「そこの、代田連絡線は津田沼の鉄道連隊が敷設したんですよね？」
「いや、そんな話は知らないな」
後で考えてみて、それは当然だと思った。彼が戦地に行っていたときの話であった。
「じゃあ、津田沼に行かれて訓練したんですか」
「そうそう、鉄道連隊はきつかったですね。だってね、歩兵と工兵の二つをやるわけですからね。背嚢背負っての訓練、銃の使い方などは歩兵ですね」
「じゃあ、鉄道の訓練は主には何をやったんですか。」
「枕木に犬釘を打つんですよ、これがきつくてね、大きなトンカチでがんがん打つんですけどなかなかうまくはいきませんね。わたしはそのとき腰を痛めてしまいましてね、今でも痛いんですよ」
「そうなんですか。で、向こうでは何をやっておられたのですか」
「鉄道連隊の通信兵ですよ。トンツー、トンツーですよ」
「中国には何時行かれたのですか。」
「昭和十九年の三月ですね」
家に帰ってネット検索したら「ウイキペディア」に鉄道連隊のことが記されている。この年の三月に当てはまるのは、「第十二連隊（1944年3月9日・津田沼→湖南省長沙） 通称号 統二一四七、最終連隊長 坂元三男中佐」という記述である。これであろうか。今度飯田さんに確かめてみようと思った。
「どんな仕事をされたんですか。連隊の仕事は？」
「鉄道の保守ですね。それで枕木なんかないんですよ。それで山の中に入って切って来るんですよ。」
「へえ、場所はどこなんですか。」
「まず、北京と漢口を結ぶ、京漢線を確保する仕事ですね。華北と華南を結ぶ重要ルートですからね。これを京漢作戦と呼びました。その次が湘桂作戦ですね……」
「へえ、なんか聞いていて、うまく整理できないんですよ。記録に書いてもられませんか」「P51にも、B29の空襲にも向こうでやられましたよ…」
「やっぱり、書いてください。」
飯田勝さんにお願いをした。メモと地図を書いてくれると言う。
（先だってテレビを見ていたら「イースタン＆オリエンタル・エクスプレス」が鉄道連隊が敷設した泰麺鉄道の木橋をゆっくりと渡っていった。思いがけず写真を撮ってしまった）
○付記
１，今日、北沢川緑道「橋場橋」の安吾文学碑前で、「下北沢文士町文化地図」の配布活動を行った。明日も行う予定だ。（雨の場合は中止する）
２，「代沢せせらぎ公園協議会」主催で、明日１０時から１０周年チャリティーウォークを行う。代沢せせらぎ公園に集合する。女優の竹下景子さんなども出席の予定だという。公園から安吾文学碑まで歩く。この前では由来の説明をすることになっている。
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この記事へのコメント
第十六連隊（千葉→内地）
通称号 東部八六、最終連隊長 江畑広雄大佐
第十七連隊（津田沼→内地）
通称号 東部八七、最終連隊長 黒石茂喜大佐
という連隊が編成されたことがわかりました。
３月１０日の大空襲をうけて、首都圏を中心とする内地の鉄道の復旧のために急遽編成されたのだと思いますが、これらのいずれかあるいは両方が代田連絡線にかかわっていた可能性が極めて高いと思われます。
ただ、鉄道の敷設で一番大変なのは路盤作りであり、時節柄、おぞらく、予備役をかき集め、それに急いで格上げした訓練生を加えて作った部隊だと思われますが、それでも、焼夷弾の空襲跡なら路盤へのダメージもほとんどなく、それなりに対処できたでしょうが、連絡線の場合、路盤から作らねばならないわけですので、大変な工事だったと思われます。
