2011年12月07日
下北沢Ｘ新聞(1971) 〜下北沢の小盆地の近代史２〜
（一）
沢は、土地の溜であり、たまりである。手がかりであり、とっかかりである。人はそういう場に折々は立ち止まっては人と話したり、あるいは神に祈ったりもしていた。
溜は文明にとっては邪魔だ。その曲がりは退治の対象となる。緑ヶ丘サラダボールから見おろされた築堤付近は障害物だった。踏切があり、カーブがあり、傾斜もきつい。電車を運行させるには障害物が多かった。
事実ここでの踏切事故は多かった。その歴史痕跡が現下北沢二号踏切脇にある踏切地蔵に歴史として刻まれている。この踏切で事故に遭った人の霊を慰めるために建立された。過去の話でもない、今も一帯の人は怯えることがある。電車の急ブレーキの音だ。
「あれ、聴くとぞっとしますよ」
付近の人の話だ。何度も何度も人身事故が起こっていた。追突事故もあった。昭和二十七年八月のことだ。
二十二日朝八時二十分ごろ、世田谷区代田二ノ六八八先小田急線（鎌倉踏切り）で、停電のために上り準急小田原発二〇八電車＝運転士大井悦郎君（21)＝が停車中、後から来た成城学園前発六二六電車＝運転士宮口進(23)=が追突、両電車とも一部を大破、乗客中重傷十一名、軽傷百十三名（下北沢駅調べ）を出した。
朝日新聞 昭和２７年８月２２日
「現場はカーブと傾斜のため見通しが悪くこのための事故とみられている」。８００Ｒのカーブと２５パーミルの傾斜が災いした。地形の因縁が災いしたと言える。ここでの人身事故にせよ追突事故にせよ、これがほとんどの原因である。
「わたしの親父が新聞記者やっていたんで、写真を撮りに行かされましたよ。その写真が載ったかどうかわかりません」と証言した人もいた。
「この事故以来、わたしは、切り身のシャケを食えなくなりました。」
これは現場のそばに住んでいた佐山一雄さんの話だ。
（二）
下北沢から代田にかけて線路は右にカーブしている。その個所は切り通しにもなっているために見通しがわるい。そのため、そして、たまりには多くの物語が潜んでいる。
カーブがあって踏切がある。運転士は警笛を鳴らす。曲線抵抗は、パンタグラフに負荷がかかりスパークして青い光を発していた。この線路の南側に住んでいた人は、それを爆弾の閃光と思ったり、また、警笛を空襲警報のサイレンと勘違いしたりしていた。電車が通るたびに怯えていた。一色次郎の「東京空襲」にこれが記録されている。
このカーブは、音もたてた。かつて小田急は砂利を運んでいた。深夜に運行されるがＥＤ１０４１に牽引された貨車、ホキフはずしりと重い。これが通ると緑ヶ丘サラダボールの底にある家は地盤が悪いので大きく揺れた。
世田谷代田側の２５パーミルを下ってくる機関車はゆっくりと走る。ブレーキを掛けて停まるとき、「ぎゃ」「ぎゅ」「ぎょ」という音がした。この点は自己の想像で書いたものだ。しかし、「下北沢Ｘ惜別物語」にこれを書いたが、読んだ人が、そうそう、そういう音を立てていましたねと言っていた。
（三）
昭和二十年、日本は米国に負けた。それで、東京に、占領米軍が九月に東京に進駐してきた。小田急の電気機関車に牽引された無蓋車は、砂の代わりに米兵を運んだ。この列車が入ってくるときに、外を見てはいけないというお触れが事前に出されていた。線路側の雨戸はみんな閉め切って息を潜めてこれが通過するのを待った。
やがて小田急の茶色に黄色の帯を巻いたＥＤ型機関車が表れた。世田谷代田側からの傾斜をゆっくりと下ってくる。ぎゃ、ぎゅ、ぎぐという音が聞えてくる。電気機関車の後続の無蓋車には土嚢が見えた。それを盾にしてヘルメットを被った兵士が銃を水平に構えていた。皆色が白い、第一陣を担ったのは第八軍第一騎兵師団だ。ヘルメットにはその証として馬のマークがついていた。
家々では息を潜めてこの通過を待った。
「ところがね、うちの家の前でこの機関車が停まったんですよ」
怖かったですね。佐山さんの別の兄弟から聴いたことだ。
（事故で大破した電車の車内。新聞写真）
下北沢から代田にかけて線路は右にカーブしている。その個所は切り通しにもなっているために見通しがわるい。そのため、そして、たまりには多くの物語が潜んでいる。
カーブがあって踏切がある。運転士は警笛を鳴らす。曲線抵抗は、パンタグラフに負荷がかかりスパークして青い光を発していた。この線路の南側に住んでいた人は、それを爆弾の閃光と思ったり、また、警笛を空襲警報のサイレンと勘違いしたりしていた。電車が通るたびに怯えていた。一色次郎の「東京空襲」にこれが記録されている。
このカーブは、音もたてた。かつて小田急は砂利を運んでいた。深夜に運行されるがＥＤ１０４１に牽引された貨車、ホキフはずしりと重い。これが通ると緑ヶ丘サラダボールの底にある家は地盤が悪いので大きく揺れた。
世田谷代田側の２５パーミルを下ってくる機関車はゆっくりと走る。ブレーキを掛けて停まるとき、「ぎゃ」「ぎゅ」「ぎょ」という音がした。この点は自己の想像で書いたものだ。しかし、「下北沢Ｘ惜別物語」にこれを書いたが、読んだ人が、そうそう、そういう音を立てていましたねと言っていた。
（三）
昭和二十年、日本は米国に負けた。それで、東京に、占領米軍が九月に東京に進駐してきた。小田急の電気機関車に牽引された無蓋車は、砂の代わりに米兵を運んだ。この列車が入ってくるときに、外を見てはいけないというお触れが事前に出されていた。線路側の雨戸はみんな閉め切って息を潜めてこれが通過するのを待った。
やがて小田急の茶色に黄色の帯を巻いたＥＤ型機関車が表れた。世田谷代田側からの傾斜をゆっくりと下ってくる。ぎゃ、ぎゅ、ぎぐという音が聞えてくる。電気機関車の後続の無蓋車には土嚢が見えた。それを盾にしてヘルメットを被った兵士が銃を水平に構えていた。皆色が白い、第一陣を担ったのは第八軍第一騎兵師団だ。ヘルメットにはその証として馬のマークがついていた。
家々では息を潜めてこの通過を待った。
「ところがね、うちの家の前でこの機関車が停まったんですよ」
怖かったですね。佐山さんの別の兄弟から聴いたことだ。
（事故で大破した電車の車内。新聞写真）
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この記事へのコメント
2. Posted by きむらたかし＠三田用水 2013年04月27日 23:27
［昭和２２年の追突事故］
YouTubeの
【東京迷ループ】第3話・前代未聞の車両トレード【迷列車】
http://youtu.be/CkfMJgblv6U
の9:00あたり以降に
昭和２７年１０月、梅が丘・世田谷中原間で、当時国鉄と相互借り入れして運用していたモハ６００７７＋クハ６５１４６の編成に、デハ１３５５＋デハ１２０７の編成が追突した話が、わかりやすく採り上げられています。
YouTubeの
【東京迷ループ】第3話・前代未聞の車両トレード【迷列車】
http://youtu.be/CkfMJgblv6U
の9:00あたり以降に
昭和２７年１０月、梅が丘・世田谷中原間で、当時国鉄と相互借り入れして運用していたモハ６００７７＋クハ６５１４６の編成に、デハ１３５５＋デハ１２０７の編成が追突した話が、わかりやすく採り上げられています。
1. Posted by きむらたかし＠三田用水 2011年12月08日 03:16
[ロクサン型]
ですよね、この写真の電車。
しかも、窓の中段が固定のオリジナルのまま。
桜木町事故後だけに、さすがに、ドアコックは使えるようになっていたのでしょうけど、それにしても、出火しなくて幸いでした。
もう、昭和も２７年ですので、いくらなんでも自動信号機は作動していたと思うのですが、通勤時間帯なので遅れを少しでも減らすために無理に「赤無視」して閉塞区間に入ったのか、あるいは、完全に信号を見落としたのか、どちらなのでしょうね。
ですよね、この写真の電車。
しかも、窓の中段が固定のオリジナルのまま。
桜木町事故後だけに、さすがに、ドアコックは使えるようになっていたのでしょうけど、それにしても、出火しなくて幸いでした。
もう、昭和も２７年ですので、いくらなんでも自動信号機は作動していたと思うのですが、通勤時間帯なので遅れを少しでも減らすために無理に「赤無視」して閉塞区間に入ったのか、あるいは、完全に信号を見落としたのか、どちらなのでしょうね。
