2011年12月08日
下北沢Ｘ新聞(1972) 〜開戦と終戦、父子の思い〜
（一）
軍艦行進曲が厳かに流れる。ぷっぷんぷんぷんぷぷうん。臨時ニュースを申しあげます。臨時ニュースを申しあげます。…大本営陸海軍部１２月８日午前６時発表 帝国陸海軍は今８日未明、西太平洋において米英軍と戦闘状態に入れり。
日米開戦を告げる臨時ニュースである。これを聞いて人は様々な感懐を覚えた。来るときがきた。いったいこれから世の中はどうなっていくのだろう。自分も戦争に行くことになるかもしれないなどと思ったろう。
このときに世田谷区下代田二二八に住んでいたのは加藤楸邨である。「北沢川文学の小路」の一本橋の近くである。
十二月八日の霜の屋根幾万
冬霧の深夜月あり血のごとし
わが死後も寒夜この青き天あらむ
これら五七五にみられるのは行く末の不安である。折しも寒気が強く、家々の屋根には霜が下りている。一帯の家々、いや東京中の白い霜の下りた家々ではみんなじっとこの臨時ニュースを聞いている。物音一つしない、自分たちはこれからどうなるんだろうと誰もが案じていたに違いない。
冬霧のかかった深夜ふっと払われて月が見えた。赤みを帯びたそれはまるで血を流しているかのように見えた。
未明の臨時ニュースは、淡々とした声で開戦を告げた。たった数十字の言葉だがが幾百万の心に重くのしかかってきた。下代田の未明に柳下家の大欅が空を貫いていた。俳人はもしや澄明な青き天まで失われるかもしれないと思った。
（二）
このご子息が加藤穂高さんである。昨日、再び電話取材をしたことである。
「八月十五日は、疎開先の郷原広丘の郷福寺にいました。玉音放送の内容は分かりませんでしした。終わった後に柳内達雄先生が『日本は負けたのだ』と話されたのだと思います。このときのことで深く印象に残っていることがあります。男の子たちが口々に言っていたのは自分たちが再起をしてアメリカに復讐をしてやるというようなことを言っていました。わたしもその方の口です……ところが女の子は違うのです。本堂に車座になって座って泣いているのです。抱えているお人形を持って、アメリカ人は、こんなお人形までもっていくのかしらなどと言っていました……なにか男と女の違いがはっきり分かれていたのでわたしは今も印象に残っています。」
（三）
「いや当時みんな軍国少年だったと思うのです。浜松から飛龍に乗ってきていた重爆撃機の乗組員にはあこがれていました。前夜、あしたはお別れに来るからって言って翌朝旅館を出ていくんです。それで待っていると、とつぜんにですよ。旅館の屋根の上ににゅっと胴体を見せるんですね。とくに飛龍は好きな飛行機でした。前部の丸っこい風防、後部座席の銃座などかっこいいのです。」
「郷福寺だったか、浅間温泉でだったかわかりませんが。機種を見分ける勉強会みたいなことをしていました。飛行機はみな音が違いました。Ｂ２９だと金属音がしました。わたしたちは暗いところにいて、上空の音だけを聞いているんです。その音を聞いて機種を見分けていました」
「そういえば東京の学校に戻ってきて、自分たちが軍国主義に染められていたことが分かって、その反動は大きくみんな革新的な考えを持つようになりました」
「分かります。戦後の討論会の様子を描いたもの見ました。率直に意見を述べています」
都市はどうあるべきか。戦争が終わって間もないときに、都市計画家の石川栄耀は代沢小五年生と討論討議をしている。児童雑誌「赤とんぼ」昭和２３年５月号にそのときのやりとりが記されている。
小学五年生の、往事と今では批評精神に格段の差がある。いちゃもんをつけにくくなったり、つけなくなったりすると決していいことは起こらない。今の社会、いちゃもんをつけにくくなっていると思う。(広丘郷福寺）
このご子息が加藤穂高さんである。昨日、再び電話取材をしたことである。
「八月十五日は、疎開先の郷原広丘の郷福寺にいました。玉音放送の内容は分かりませんでしした。終わった後に柳内達雄先生が『日本は負けたのだ』と話されたのだと思います。このときのことで深く印象に残っていることがあります。男の子たちが口々に言っていたのは自分たちが再起をしてアメリカに復讐をしてやるというようなことを言っていました。わたしもその方の口です……ところが女の子は違うのです。本堂に車座になって座って泣いているのです。抱えているお人形を持って、アメリカ人は、こんなお人形までもっていくのかしらなどと言っていました……なにか男と女の違いがはっきり分かれていたのでわたしは今も印象に残っています。」
（三）
「いや当時みんな軍国少年だったと思うのです。浜松から飛龍に乗ってきていた重爆撃機の乗組員にはあこがれていました。前夜、あしたはお別れに来るからって言って翌朝旅館を出ていくんです。それで待っていると、とつぜんにですよ。旅館の屋根の上ににゅっと胴体を見せるんですね。とくに飛龍は好きな飛行機でした。前部の丸っこい風防、後部座席の銃座などかっこいいのです。」
「郷福寺だったか、浅間温泉でだったかわかりませんが。機種を見分ける勉強会みたいなことをしていました。飛行機はみな音が違いました。Ｂ２９だと金属音がしました。わたしたちは暗いところにいて、上空の音だけを聞いているんです。その音を聞いて機種を見分けていました」
「そういえば東京の学校に戻ってきて、自分たちが軍国主義に染められていたことが分かって、その反動は大きくみんな革新的な考えを持つようになりました」
「分かります。戦後の討論会の様子を描いたもの見ました。率直に意見を述べています」
都市はどうあるべきか。戦争が終わって間もないときに、都市計画家の石川栄耀は代沢小五年生と討論討議をしている。児童雑誌「赤とんぼ」昭和２３年５月号にそのときのやりとりが記されている。
小学五年生の、往事と今では批評精神に格段の差がある。いちゃもんをつけにくくなったり、つけなくなったりすると決していいことは起こらない。今の社会、いちゃもんをつけにくくなっていると思う。(広丘郷福寺）
