2011年12月14日
下北沢Ｘ新聞(1976) 〜聖夜が繙く近代史：北白川宮家ゆかりの杉〜
（一）
日々が因縁機縁を巡る旅だ。あっちにあったことが、こっちと結びついたり、そしてまたあなたに繋がったりもする。その小さな発見に心浮き立ってもくる。
千歳村粕屋に住んだ徳富蘆花が、「みみずのたはこと」に「東京の午砲を聞いたあとで、直ぐ横浜の午砲を聞く。」と記していた。聞えてくる音のずれに二つの都市の距離が感じられて面白いと思った。後になって分かったことは、皇居でこの午砲を打っていたのは下馬の近衛野砲兵連隊の当番士官だったということだ。
近衛野砲兵連隊の跡には、今は昭和女子大学が建っている。往事のものは今は全く残っていない。しかし因縁機縁があっちへ飛び、こっちへ飛びして当時のもの、木が残っていることを知った。その手がかりとなった記録、記述がある。
近衛野砲兵連隊に昭和十四年(1939）一月十日に入営した人がいる。門屋古寿氏だ。二等兵だった彼が入営したときに上官から営内の説明を受けている。
「休んだままで聞け。あそこのヒマラヤ杉（連隊本部前の営庭に、一本の大きなヒマラヤ杉がある。これは北白川宮成久王殿下と、ご結婚遊ばされた、明治天皇の皇女、周宮房子（かねのみやふさこ）内親王殿下、お手植えのものである）にむかって、あれが、第二中隊の起点。……」 「近衛陸軍砲兵二等兵」（門屋 古寿 昭和五十三年刊）
近衛野砲兵聯隊の営庭にあった大きなヒマラヤ杉、このお手植えの樹が隊のシンボルであった。
毎夏、ずっと「駒沢練兵場を歩く」を催している。代わり映えのしないものだが、執念みたいなものを持っている。忘れ去られゆく戦跡を巡ることで、ここで汗した兵士や軍馬を思い起こす。自分では大事なことだと思っている。
この七月に訪れたとき、そのお手植えのヒマラヤ杉は今はなくなってしまったと聞いた。大学総務部の比嘉秀之さんからである。ところが、つい最近、比嘉さんからメールを頂いた。「記念樹のヒマラヤ杉が残っているようだ」と。それで昨日、大学へ行った。
（二）
お手植えのヒマラヤ杉への興味は、会員の川口信さんが持って来られた一枚の写真から始まった。それには「晴雲会 第五回 懇話会記念」（昭和三十一年十月七日 旧近衛野砲兵聯隊跡）と記されている。近衛野砲兵聯隊ゆかりの人々が集まって記念写真を撮っている。百数十人が写っている。
背景には大きなヒマラヤ杉が写っている。これを意図的に取り込んで写しているようだ。
もう一つ特徴的なことは、十数人の女性が写っていることだ。
前列まん中には面立ちの整った女性がいる。写真の名簿には北白川祥子様とある。北白川宮永久王の后である。この隣に居る女性は、北白川房子様だ。北白川宮成久王の后である。当地にヒマラヤ杉を植えられたご本人である。
川口信さんは、写真について、つぎのように説明しておられる。
駒沢聯兵場の元兵舎前で集い、北白川宮永久王を偲んだもので、昭和十五年九月に御戦死なされましたので、多分十七回忌(祭)だと考えられますが、その記念にゆかりの兵舎をバックに撮影したものと、推察しております。
川口信さんの父親は、北白川家に仕えておられたと聞いている。この辺りの事情についてはとても詳しい。なるほどと納得がいく。近衛野砲兵営庭のシンボルであったヒマラヤ杉の前で撮ったものに違いない。
（三）
総務部の比嘉さんから戴いたメールにはこうあった。
宮様のお手植えのヒマラヤスギの件ですが、その後2本残っていた当時の写真が見つかりました。倒れた杉をよく見ると、きむら様に見せて頂いた杉と特徴が合わず、現存の杉よりも細く年代的におは若いと推測できます。
実は、数日前、現存の杉にクリスマスツリーの飾り付けをする際、杉の枝を少し整理するのを見上げていましたらナント、杉の8分目あたりが二股に分かれた形跡がありました。
晴雲会の写真のヒマラヤ杉は、頂部が二股に分れている。現存のものはそうはなっていないことからお手植えのものではないとしていた。ところが、片方が大風か何かで折れてしまったのだろう。一本になってしまった。その跡が見つかったという。植木職人が上にのぼったおりにそれを確認したらしい。
昭和女子大に行ってみると、その木にはクリスマスツリーのイルミネーションがつけられていた。まだ明るかったので点ってはいなかった。想像では、他の木にもつけてあるのかと思ったら、この木だけだった。つまりは、今でもヒマラヤ杉は大学を象徴する木としてあった。ところが、それが北白川宮成久王のお手植えになるものとは全く知られていない。（昭和女子大構内、北側かた撮ったものだ。この木を中心としたロータリーがあったとのことである。）
お手植えのヒマラヤ杉への興味は、会員の川口信さんが持って来られた一枚の写真から始まった。それには「晴雲会 第五回 懇話会記念」（昭和三十一年十月七日 旧近衛野砲兵聯隊跡）と記されている。近衛野砲兵聯隊ゆかりの人々が集まって記念写真を撮っている。百数十人が写っている。
背景には大きなヒマラヤ杉が写っている。これを意図的に取り込んで写しているようだ。
もう一つ特徴的なことは、十数人の女性が写っていることだ。
前列まん中には面立ちの整った女性がいる。写真の名簿には北白川祥子様とある。北白川宮永久王の后である。この隣に居る女性は、北白川房子様だ。北白川宮成久王の后である。当地にヒマラヤ杉を植えられたご本人である。
川口信さんは、写真について、つぎのように説明しておられる。
駒沢聯兵場の元兵舎前で集い、北白川宮永久王を偲んだもので、昭和十五年九月に御戦死なされましたので、多分十七回忌(祭)だと考えられますが、その記念にゆかりの兵舎をバックに撮影したものと、推察しております。
川口信さんの父親は、北白川家に仕えておられたと聞いている。この辺りの事情についてはとても詳しい。なるほどと納得がいく。近衛野砲兵営庭のシンボルであったヒマラヤ杉の前で撮ったものに違いない。
（三）
総務部の比嘉さんから戴いたメールにはこうあった。
宮様のお手植えのヒマラヤスギの件ですが、その後2本残っていた当時の写真が見つかりました。倒れた杉をよく見ると、きむら様に見せて頂いた杉と特徴が合わず、現存の杉よりも細く年代的におは若いと推測できます。
実は、数日前、現存の杉にクリスマスツリーの飾り付けをする際、杉の枝を少し整理するのを見上げていましたらナント、杉の8分目あたりが二股に分かれた形跡がありました。
晴雲会の写真のヒマラヤ杉は、頂部が二股に分れている。現存のものはそうはなっていないことからお手植えのものではないとしていた。ところが、片方が大風か何かで折れてしまったのだろう。一本になってしまった。その跡が見つかったという。植木職人が上にのぼったおりにそれを確認したらしい。
昭和女子大に行ってみると、その木にはクリスマスツリーのイルミネーションがつけられていた。まだ明るかったので点ってはいなかった。想像では、他の木にもつけてあるのかと思ったら、この木だけだった。つまりは、今でもヒマラヤ杉は大学を象徴する木としてあった。ところが、それが北白川宮成久王のお手植えになるものとは全く知られていない。（昭和女子大構内、北側かた撮ったものだ。この木を中心としたロータリーがあったとのことである。）
