2011年12月16日
下北沢Ｘ新聞(1977) 〜聖夜が繙く近代史：北白川宮家ゆかりの杉２〜
（一）
都市の発達と樹木というのは興味深いテーマだ。
「自然林の樹木が伐られるとそこにまっ先に生えてくるのは赤松ですね。あれは同級生でみんな一緒になって伸びていくんです」
この秋に樹木医の石井誠治先生の話を聴く会があった。大和朝廷が開かれて、街が形成される、そこに樹種が関係するのだという説明にはつい聴き耳を立てた。都市ができ森が切り開かれれると樹種が次第に変化していく。
都市東京の肥大化、そして、生活の変化も樹種を大きく変化させる。
東京が大分攻め寄せて来た。東京を西に距さる唯三里、東京に依って生活する村だ。二百万の人の海にさす潮しおひく汐の余波が村に響いて来るのは自然である。東京で瓦斯を使う様ようになって、薪の需用が減った結果か、村の雑木山が大分拓かれて麦畑になった。道側の並木の櫟楢ならなぞ伐られ掘られて、短冊形の荒畑が続々出来る。武蔵野の特色なる雑木山を無惨〻〻拓かるゝのは、儂にとっては肉を削そがるゝ思だが、生活がさすわざだ、詮方は無い。 みみずのたはこと 上 徳富健次郎作 岩波文庫
東京近郊千歳村粕屋の話だ。近代化、瓦斯への転換が森を荒廃させ、そこが耕されて麦畑になった。今ではすっかり住宅地になってしまった。
ヒマラヤ杉も都市東京の変化と関連するものだ。文明開化からの変化とも関連する。この樹は明治初期に日本へ導入されたものだ。庭園木の代表例である。
旧来の樹種で言うと松、欅、楠などがある。日本的な、和的な風景の典型だ。が、ヒマラヤ杉は異国的な風情を醸す。すっくと高く伸びた幹、左右にバランスよく枝が張っているさまは洋館には似合う。
（二）
近衛野砲兵連隊は明治三十一年(1898)に竹橋から世田谷三宿に移転してきた。洋風の兵舎群は都市近郊に新しい景観を造った。そのシンボルとして何がふさわしいのか。恐らく検討はされたろうが、ヒマラヤ杉に落ち着いた。
北白川宮成久王殿下と房子内親王殿下が結婚されたのは明治四十二年(1909)年四月二十九日である。恐らくお手植えのヒマラヤ杉はこの年に植えられたものであろう。
この三十年後に近衛野砲兵連隊に二等兵として入隊したのが門屋古寿氏だ。このときにこの木の由来についての説明を受けた。もうそれは「一本の大きなヒマラヤ杉」となっていた。
ヒマラヤ杉は、成長の早い木である。すでに連隊本部の建物とマッチする大きさになっていて近衛野砲兵連隊を象徴する、説明できる樹の高さになっていた。そのことは話す側の誇りでもあったからに違いない。
「へぇ、入隊は近衛野砲兵ですか。それは、それは……」
誉れである、地方であればなおさらであった。
（三）
「大学構内には数多くヒマラヤ杉はあるんですよ。でもみんな他は若いんですよね」
総務部の比嘉さんは、ツリーを飾ったヒマラヤ杉の側にある建物の三階に案内してくださった。たしかにこの北側に同じほどの高さの木があった。まっすぐに伸びていて、枝のバランスもいい。木の表情にもハリがある。
「こちらの方は、部分的には折れたりはしたんでしょうけど、何かバランスが良かったのでしょうか。そんなことで残ったように思います」
当該の木は上から眺めると樹全体に皺がある。風格だとも言換えてもよい。お手植えだとすれば百年余の樹齢を考えなくてはならない。
比嘉さんも確信が持てない部分があるがほぼ間違いないのではないかと言われる。わたしも木全体の佇まいを見て同感したことだ。（電飾が施されたヒマラヤ杉）
近衛野砲兵連隊は明治三十一年(1898)に竹橋から世田谷三宿に移転してきた。洋風の兵舎群は都市近郊に新しい景観を造った。そのシンボルとして何がふさわしいのか。恐らく検討はされたろうが、ヒマラヤ杉に落ち着いた。
北白川宮成久王殿下と房子内親王殿下が結婚されたのは明治四十二年(1909)年四月二十九日である。恐らくお手植えのヒマラヤ杉はこの年に植えられたものであろう。
この三十年後に近衛野砲兵連隊に二等兵として入隊したのが門屋古寿氏だ。このときにこの木の由来についての説明を受けた。もうそれは「一本の大きなヒマラヤ杉」となっていた。
ヒマラヤ杉は、成長の早い木である。すでに連隊本部の建物とマッチする大きさになっていて近衛野砲兵連隊を象徴する、説明できる樹の高さになっていた。そのことは話す側の誇りでもあったからに違いない。
「へぇ、入隊は近衛野砲兵ですか。それは、それは……」
誉れである、地方であればなおさらであった。
（三）
「大学構内には数多くヒマラヤ杉はあるんですよ。でもみんな他は若いんですよね」
総務部の比嘉さんは、ツリーを飾ったヒマラヤ杉の側にある建物の三階に案内してくださった。たしかにこの北側に同じほどの高さの木があった。まっすぐに伸びていて、枝のバランスもいい。木の表情にもハリがある。
「こちらの方は、部分的には折れたりはしたんでしょうけど、何かバランスが良かったのでしょうか。そんなことで残ったように思います」
当該の木は上から眺めると樹全体に皺がある。風格だとも言換えてもよい。お手植えだとすれば百年余の樹齢を考えなくてはならない。
比嘉さんも確信が持てない部分があるがほぼ間違いないのではないかと言われる。わたしも木全体の佇まいを見て同感したことだ。（電飾が施されたヒマラヤ杉）
