2011年12月23日
下北沢Ｘ新聞(1982) 〜下北沢の芸術文化と疎開学童〜
（一）
生きることにおもしろみがあるとすれば何だろう？。
わたしは気づきだと思うようになった。調べたり考えたりしてわからなかったことが、ある瞬間、氷解する。それは喜びだ。
このところずっと疎開学童にまつわる話のまとめをしている。最後の最後のツメである。建物の総仕上げみたいなものである。その築き上げたものを眺め見るとあちこちに綻びがある。その一つ一つを塞いでいくと、今まで分からなかったことにハッと気づくことがある。
疎開学童と特攻兵とがふれ合っていた。このことに機種が機縁を作っていたことに気づいた。初代知覧特攻平和会館館長をされていた板津忠正氏と手紙のやりとりをして分かったことだ。軍艦は母港に帰る、戦闘機も同じだった。とくに古い機種は、そこに帰る必要があった。なぜ各務原に飛んできたか、それは川崎航空機製作所がここにあったからに他ならない。彼等の乗機を製造したのはここであった。
気づきが気づきを生むということはある。この頃思うようになったのは、昭和十九年の下北沢鉄道交点近辺からの学童の大量疎開は、地元にとっては大変なものだったと分かってきた。
「わたしは学校にお話に行くときに暗記をしていくのです。浅間溫泉全体の疎開学童の数も細かい端数まで覚えていきます」
日曜日に鳴瀬速夫さんのクリスマスコンサートが下北沢の都民教会で行われた。このときに松本明美さんに会った。彼女は疎開経験の語り部をしている。
「改めて考えると、凄い数ですよね。約４０００人ですね」
（二）
鳴瀬さんは代沢国民学校の鉛筆部隊の一員だった。疎開生活の一齣をつぎのように描いている。
集団ならではの、屋内の楽しみの一つに「演芸会」があった。各児童がそれぞれ智恵をしぼり、才を競って、劇、歌、踊りなどを披露するのである。私は宿舎中の子どもから画用紙を集めて、数十枚に及ぶ紙芝居を自作自演したり、得意のハモニカで軍歌を吹いたりした。旅館の子どもたちも参加した喜劇もあり、中から現在の某映画監督も出た。
欠食児童集団の一年間 中央公論 歴史と人物 昭和４９年８月号
この「才を競って、劇、歌、踊りなどを披露する」というところは鉄道交点一帯の文化の反映である。ここの部分に既に「伝え」が生きている。
芸術文化は、人が見てどう感じるかである。演ずる彼等が既にそのことを知っていた。一つは鉄道交点に集った文化で磨かれていた、一つは家庭環境そのものに文化的な雰囲気があった、一つは親が高等教育を受けていてその知性も高かった、それは明白である。ゆえに「演芸会」で演ぜられるものもかなりレベルが高かった。
（三）
人に見せられる芸を彼らが持っていたというのはある。鳴瀬さんはこう語っている。
松本から北へ走る大糸南線の沿線に、決部隊の駐屯地があって、われわれ学童音楽隊員はよく慰問演奏に出向いた。軍歌と軍国調の曲ばかりを、木琴、ハモニカ、ドラム、アコディオンなどで合奏し、おおいに兵隊さんたちに歓迎され、かつ特別のごちそうにありついて、意気揚々と帰ってきたものである。（同上）
この決部隊は、松本五十連隊だったようだ。本土決戦に備えて、大糸線沿線の国民学校に分駐し訓練をしていた。その彼等を慰問している。楽器を持っていって演奏しているというところは格別である。音楽文化の素地が既にあった。鉄道交点一帯の文化の間接的な反映である。（東京都民教会で行われた鳴瀬速夫さんのハーモニカコンサート）
〇お知らせ
「北沢川文化遺産保存の会」会報、第６６号、新年号は、１２月２５日、午後２時ごろに邪宗門に届けます。会員の皆さんのご自宅にはいつもよりも早めに着くでしょう。ＷＥＢ版は、２０１２年１月１日零時にセットしてアップします。
鳴瀬さんは代沢国民学校の鉛筆部隊の一員だった。疎開生活の一齣をつぎのように描いている。
集団ならではの、屋内の楽しみの一つに「演芸会」があった。各児童がそれぞれ智恵をしぼり、才を競って、劇、歌、踊りなどを披露するのである。私は宿舎中の子どもから画用紙を集めて、数十枚に及ぶ紙芝居を自作自演したり、得意のハモニカで軍歌を吹いたりした。旅館の子どもたちも参加した喜劇もあり、中から現在の某映画監督も出た。
欠食児童集団の一年間 中央公論 歴史と人物 昭和４９年８月号
この「才を競って、劇、歌、踊りなどを披露する」というところは鉄道交点一帯の文化の反映である。ここの部分に既に「伝え」が生きている。
芸術文化は、人が見てどう感じるかである。演ずる彼等が既にそのことを知っていた。一つは鉄道交点に集った文化で磨かれていた、一つは家庭環境そのものに文化的な雰囲気があった、一つは親が高等教育を受けていてその知性も高かった、それは明白である。ゆえに「演芸会」で演ぜられるものもかなりレベルが高かった。
（三）
人に見せられる芸を彼らが持っていたというのはある。鳴瀬さんはこう語っている。
松本から北へ走る大糸南線の沿線に、決部隊の駐屯地があって、われわれ学童音楽隊員はよく慰問演奏に出向いた。軍歌と軍国調の曲ばかりを、木琴、ハモニカ、ドラム、アコディオンなどで合奏し、おおいに兵隊さんたちに歓迎され、かつ特別のごちそうにありついて、意気揚々と帰ってきたものである。（同上）
この決部隊は、松本五十連隊だったようだ。本土決戦に備えて、大糸線沿線の国民学校に分駐し訓練をしていた。その彼等を慰問している。楽器を持っていって演奏しているというところは格別である。音楽文化の素地が既にあった。鉄道交点一帯の文化の間接的な反映である。（東京都民教会で行われた鳴瀬速夫さんのハーモニカコンサート）
〇お知らせ
「北沢川文化遺産保存の会」会報、第６６号、新年号は、１２月２５日、午後２時ごろに邪宗門に届けます。会員の皆さんのご自宅にはいつもよりも早めに着くでしょう。ＷＥＢ版は、２０１２年１月１日零時にセットしてアップします。
