2012年10月07日
下北沢Ｘ新聞(2178)〜「代田の丘の６１号鉄塔」由来碑完成〜
（一）
昨日、６二日午後、この由来碑が完成した。花見堂小学校の学童によって、被せられていた幕が引かれれた。北沢川緑道にあたらしい新名所ができた。我らには念願のものだった。
鶴ヶ丘橋のたもとには大勢の人が集まった。その数、６０名ほどだ。ことによかったのは花見堂小学生の手になる序幕式だ。後世に文化を伝える、この場合、子どもの存在は欠かせない。未来を担っていく子どもたちである。
「きっとね、参加した子どもは忘れないと思いますよ」
会員の一人がそんな感想を洩らしていた。学童らも学童らで練習をしてきていた。すべてを暗唱していた。萩原朔太郎詩「竹」を大きな声で朗唱した。
萩原朔太郎は、この鉄塔下で、『氷島』を編み、「昭和九年二月」にここで序を記した。その序の末尾に記している。「すべての詩編は『朗吟』であり、朗吟の情感で歌はれて居る。読者は声に出して読むべきであり、決して黙読すべきではない。」と述べている。
開始時間の二時には大勢が集まってきた。学童たちには晴れ舞台だ。花見堂小学校の代表六人である。その姿を写真に撮ろうとお母さん達がきていた。我らの会の、作道明さんが進行役だ。これを行うことが数日前からプレッシャーだったようだ。自分でしっかりと台本を作り、それに基づいてプログラムを進行させた。
まずは、会長が、ビール瓶の箱の上にたち、開会の挨拶をした。この碑は「世田谷区地域絆再生事業」の助成を受けている。これだけでは不足することから、会長に協力を仰いで完成した。「文化が濃厚な地域がこれによっていっそうに活力を帯びてくるはずだ」と。 つぎに東京電力の渋谷支社送電保守グループチーフの足立武夫氏の紹介があった。「鉄塔の歴史を文化的に意義づけてもらえるのは嬉しい」とのことだった。
（二）
つぎに、「鉄塔由来碑」のことについて、私が、話をした。大人へのメッセージではなく、子どもたちへ、花見堂小学校四年生へのメッセージとした。私はこう述べた。
◎世田谷代田には二人の巨人がいます。一人はダイダラボッチ、これは伝説の巨人です。かつてここには足跡が残っていました。民族学者の柳田(やなぎた)国男はそれを確かめ、代田を「巨人伝説の一箇の中心地」と言っています。それに倣うと、この６１号鉄塔は「詩人伝説の一箇の中心地」と言えます。
◎ 詩人は誰か。萩原朔太郎です。あの鉄塔の下に家を建て、ここで亡くなりました。この後、花見堂小学校の皆さんが彼の作品「竹」を朗読してくれます。言葉を読み上げるとたちまちに想像世界の竹が生き生きと根を生やしてきます。細い細い根までが目に見えるようです。このように彼は見えない世界に言葉を当てて新世界を切り開きました。それで、彼の弟子の三好達治は、師匠を「詩界のコロンブス」日本にまたといない「唯一最上の詩人」だと言っています。詩の世界の巨人です。
◎この鉄塔は、昭和元年に建ちました。丘上には多く緑がありました。そこに高々と聳え建つ銀色の鉄塔でした。詩人はここで、「故郷上州の平野の空を、いつも心の上に感じ」ていたといいます。この高圧線は電源のあった利根川上流に繋がっていました。線を通して故郷前橋を思っていたとも言えます。詩人が住んだ跡には何もありません。しかし、この鉄塔だけ当時そのままの姿で残っています。詩人を偲ばせるたった一つのものです。それで、ここに鉄塔由来碑を建てました。
◎最後に伝えたいことがあります。彼は言葉で世界を切り開いた人です。言葉が大きな可能性を持っていることを知らせてくれています。この言葉は、皆さんがこれからを生きていく上で大切なものです。大事なことは、二つです。一つは声に出して読むこと、もう一つは、自分でどしどし書くことです。努力すれば一人一人の可能性が開けてきます。
（三）
花見堂小学校学童による「竹」の朗読が始まった。あらかじめ学校で練習をしていたようで、声が揃っていてみごとだった。この詩をしっかりと暗唱しているということを聞いていた。パートパートに別れて、その部分を高らかに朗唱した。谷間に「竹」が響いた。
臆することなく高々と声に出していた。
光る地面に竹が生え、青竹が生え……
彼らは鉄塔を背にして朗唱しているが、萩原朔太郎が居住していた地所は、「竹藪の土地を開き」、ここに「新しい家が建った」（『蕁麻の家』）。という「竹」とは因縁が深い。
（前の写真、会長の挨拶。後の写真、「竹」を朗読する児童）
◎「代田の丘の鉄塔文学論」
これについては国立国会図書館、近代文学館、代田図書館に寄贈した。東京電力史料館には参加された足立さんに託した。配布することはしていない。ただ必要とする人にはあげることにしている。
次号、２号、３号の「北沢川文化遺産保存の会」紀要の資金をこれによって集めたい。３００円ほどの寄付をお願いしたい。邪宗門にこれは置いてある。遠方の場合は、当方にメールをください。
◎序幕式については多くの会員の手伝いを得た。幕をどのように作るのか、これを作った及川園子さん、気苦労されたようだった。しかし、うまくできていて、子どもらが引いたとたん、由来碑がさっと現れた。下見をしたり、縫ったりと大変だったようだが、序幕式は成功だった。右下は、当日参加者に配られた冊子と鶴の子、鶴ヶ丘橋にちなんでいる。中に紅白の鶴の子饅頭が入っている。
◎追記（2012/10/08、21:00)
「代田の丘の鉄塔文学論」については、今日、会の米澤が代田図書館に１０冊届けた。地区の図書館として北沢川文化遺産保存の会の会報も所蔵している。当会発行のものはすべて揃っている。
館の方では、余裕があるのならもっとほしいとの連絡があった。区には十四の図書館がある。全図書館に備えるとすれば確かに不足だ。この冊子には世田谷代田で詩人に触れていた人の証言も載せている。資料としての価値はある。会員の一人が「日頃のフィールドワークが生きている」と評していた。地元ならではという点、地形がらみからの考察という点は、確かにある。
つぎに、「鉄塔由来碑」のことについて、私が、話をした。大人へのメッセージではなく、子どもたちへ、花見堂小学校四年生へのメッセージとした。私はこう述べた。
◎世田谷代田には二人の巨人がいます。一人はダイダラボッチ、これは伝説の巨人です。かつてここには足跡が残っていました。民族学者の柳田(やなぎた)国男はそれを確かめ、代田を「巨人伝説の一箇の中心地」と言っています。それに倣うと、この６１号鉄塔は「詩人伝説の一箇の中心地」と言えます。
◎ 詩人は誰か。萩原朔太郎です。あの鉄塔の下に家を建て、ここで亡くなりました。この後、花見堂小学校の皆さんが彼の作品「竹」を朗読してくれます。言葉を読み上げるとたちまちに想像世界の竹が生き生きと根を生やしてきます。細い細い根までが目に見えるようです。このように彼は見えない世界に言葉を当てて新世界を切り開きました。それで、彼の弟子の三好達治は、師匠を「詩界のコロンブス」日本にまたといない「唯一最上の詩人」だと言っています。詩の世界の巨人です。
◎この鉄塔は、昭和元年に建ちました。丘上には多く緑がありました。そこに高々と聳え建つ銀色の鉄塔でした。詩人はここで、「故郷上州の平野の空を、いつも心の上に感じ」ていたといいます。この高圧線は電源のあった利根川上流に繋がっていました。線を通して故郷前橋を思っていたとも言えます。詩人が住んだ跡には何もありません。しかし、この鉄塔だけ当時そのままの姿で残っています。詩人を偲ばせるたった一つのものです。それで、ここに鉄塔由来碑を建てました。
◎最後に伝えたいことがあります。彼は言葉で世界を切り開いた人です。言葉が大きな可能性を持っていることを知らせてくれています。この言葉は、皆さんがこれからを生きていく上で大切なものです。大事なことは、二つです。一つは声に出して読むこと、もう一つは、自分でどしどし書くことです。努力すれば一人一人の可能性が開けてきます。
（三）
花見堂小学校学童による「竹」の朗読が始まった。あらかじめ学校で練習をしていたようで、声が揃っていてみごとだった。この詩をしっかりと暗唱しているということを聞いていた。パートパートに別れて、その部分を高らかに朗唱した。谷間に「竹」が響いた。
臆することなく高々と声に出していた。
光る地面に竹が生え、青竹が生え……
彼らは鉄塔を背にして朗唱しているが、萩原朔太郎が居住していた地所は、「竹藪の土地を開き」、ここに「新しい家が建った」（『蕁麻の家』）。という「竹」とは因縁が深い。
（前の写真、会長の挨拶。後の写真、「竹」を朗読する児童）
◎「代田の丘の鉄塔文学論」
これについては国立国会図書館、近代文学館、代田図書館に寄贈した。東京電力史料館には参加された足立さんに託した。配布することはしていない。ただ必要とする人にはあげることにしている。
次号、２号、３号の「北沢川文化遺産保存の会」紀要の資金をこれによって集めたい。３００円ほどの寄付をお願いしたい。邪宗門にこれは置いてある。遠方の場合は、当方にメールをください。
◎序幕式については多くの会員の手伝いを得た。幕をどのように作るのか、これを作った及川園子さん、気苦労されたようだった。しかし、うまくできていて、子どもらが引いたとたん、由来碑がさっと現れた。下見をしたり、縫ったりと大変だったようだが、序幕式は成功だった。右下は、当日参加者に配られた冊子と鶴の子、鶴ヶ丘橋にちなんでいる。中に紅白の鶴の子饅頭が入っている。
◎追記（2012/10/08、21:00)
「代田の丘の鉄塔文学論」については、今日、会の米澤が代田図書館に１０冊届けた。地区の図書館として北沢川文化遺産保存の会の会報も所蔵している。当会発行のものはすべて揃っている。
館の方では、余裕があるのならもっとほしいとの連絡があった。区には十四の図書館がある。全図書館に備えるとすれば確かに不足だ。この冊子には世田谷代田で詩人に触れていた人の証言も載せている。資料としての価値はある。会員の一人が「日頃のフィールドワークが生きている」と評していた。地元ならではという点、地形がらみからの考察という点は、確かにある。
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この記事へのコメント
2. Posted by きむらけん 2012年10月08日 08:07
［花見堂という地名]
由緒ある名前が学校名に使われて残っています。スピーチでは述べなかったのですが、三好達治は花見堂小学校辺りを散策していました。彼のエッセイの中に書かれている学校は多分花見堂だろうと思います。
橋のたもとに付近に住んでいた文芸人の文学碑や詩碑などを建てたいと考えています。もしも三好達治のものができるとすれば、「花見堂辺りをよく散策していた」などと説明文言には書きたいものです。
さしあたっては、横光利一文学碑碑、森茉莉文学碑を提唱しています。三好達治は当初、提案していたのですが、すっかり忘れていました。彼が居住していたところで文学碑がないのは代田だけです。大阪市、三田市、坂井市、小田原市にはあります。「昭和期を代表する最大の抒情詩人」、しかも当地は終焉の地です。
由緒ある名前が学校名に使われて残っています。スピーチでは述べなかったのですが、三好達治は花見堂小学校辺りを散策していました。彼のエッセイの中に書かれている学校は多分花見堂だろうと思います。
橋のたもとに付近に住んでいた文芸人の文学碑や詩碑などを建てたいと考えています。もしも三好達治のものができるとすれば、「花見堂辺りをよく散策していた」などと説明文言には書きたいものです。
さしあたっては、横光利一文学碑碑、森茉莉文学碑を提唱しています。三好達治は当初、提案していたのですが、すっかり忘れていました。彼が居住していたところで文学碑がないのは代田だけです。大阪市、三田市、坂井市、小田原市にはあります。「昭和期を代表する最大の抒情詩人」、しかも当地は終焉の地です。
1. Posted by 丸山 2012年10月08日 07:49
６１号鉄塔由来碑完成おめでとうございます。何より次世代へ伝承させるために花見堂小学校の生徒の参加は素晴らしいことです。続くは小学校の統廃合により「花見堂」という名称がなくならにように考えていかなければなりませんね。
