2012年10月23日
下北沢Ｘ新聞(2188)〜地形と文学：再び杜夫と茂吉を歩く２〜
（一）
「歩く」には、たずねる、たずねまわるという意味がある。自らの足でそこへ行き、確かめる。土地のたたずまいや空気をそれによって知る。そういう点では、地域をよく歩いていたのは茂吉である。反対に杜夫はあまり歩いていなかったようだ。
茂吉の場合は、近隣の用足しはもっぱら歩きである。電車も使い分けていた。新宿へ行く場合は小田急線の世田谷代田駅へゆき、渋谷へ行く場合は井の頭線代田二丁目駅へ行っていた。往事の日記を読むとまめに歩いていた。渋谷までとうがらしの苗を買いに歩いていったとも書いてあった。
東京のはるゆかむとしてあらがねのせまきところに麦そよぎけり
歌集『つきかげ』より
散歩途中にふとみかけた東京の農の風景である。家並みを過ぎたところに狭い畑があって、そこに麦の穂が風に吹かれていた。
恐らくは代田近辺だろう。北沢川河畔の右岸には多く麦畑があった。この川辺に道があって、そこを通って伊藤祷一さんの第二書房に行っていた。この息子が伊藤文学さんで、つぎのように書いている。
その頃の僕は、世田谷学園の中学三年生のときだったと思う。地下たびをはいて、ひげをはやして色が黒くて、田舎のおじいさんのような人だったから、そんなに偉い人だとは思わなかった。
「短歌現代」 １９９１年１０月号 短歌新聞社
斎藤茂吉は代田では地下足袋を履いていた。歩くのに好都合だったからだろう。
「徳明地蔵尊の近くのガソリンスタンドにアルバイトしていたころがあります。北杜夫さんを乗せた車はよく家に来ていましたよ。車はコロナでした」
米沢さんの話だ。近隣への用足しは車で済ませていたようだ。とすれば、歩きたずねることはあまりしていなかったようだ。土地勘が鈍かったのかもしれない。
（二）
墓はらのとほき森よりほろほろと上（のぼ）るけむりに行かんとおもふ
『赤光』に収められている一首だ。響き、リズムが勝れている。五七五に始まって一気に結句までを引っ張っている。
野辺の向こうの森に荼毘に付されている誰かが煙になって立ち昇っていく。その情景と詠み手の心までもが浮かんでくる。
北杜夫は、父の短歌を通してリズム感を、また、字面をも学んだという。耳に入ってくる響き、そして、見た目の柔らかさのことを言うのだろう。その影響の一端を具体的に述べている。『楡家の人びと』、の末尾を漢字にしないで平仮名にしたという。
「『この消え去りゆく物語』は、この羽根木公園を舞台にしたものもありますね。晩年に描いた短編ですが味がありますよね。文章のリズム感というのは確かにある…」
「ええっとね、私は、北杜夫作品の朗読CDを持っているんですよ。滞ることなく、聞いただけで頭の中にすっと入ってきます…」
初参加された高松さんがそう言われた。
（三）
北杜夫はリズム感、そして字面を学んだ。が、風景観は恐らく違っていただろう。歌人は野天で歌を詠んだ、小説家は書斎で書いた。
歌人は土地に密着している。が、小説家は、土地から遊離している。
（羽根木通りの分か去れにある徳明地蔵尊、杜夫も常に眺めていた風景だ）
◎下北沢文士町文化地図改訂五版（下北沢アートタウン）
下北沢文士町地図、改訂五版は、文士町にアートタウンというルビを入れる。それで一帯に在住した芸術家に青丸をつけることにした。
青丸候補については、物故者であること、アトリエを持っていたことを基準とした。が、作曲家古関裕而と吉田正については後者は当てはまらないが、その業績の大きさから今回入れることにした。
芸術家リストについては作っている。よく分からないところがあって、今日は、世田谷美術館を訪ねた。すると後ほどメールでの回答があって、「世田谷美術展のカタログ」に当方で知りたい情報が載っているとのことだった。担当者は、下北沢文士町文化地図を「たいへん興味深いプロジェクトのご成果」と述べ、「さらに充実された地図制作となりますよう、お祈りいたしております。」とのこと。是非五版は充実させたいものだ。
墓はらのとほき森よりほろほろと上（のぼ）るけむりに行かんとおもふ
『赤光』に収められている一首だ。響き、リズムが勝れている。五七五に始まって一気に結句までを引っ張っている。
野辺の向こうの森に荼毘に付されている誰かが煙になって立ち昇っていく。その情景と詠み手の心までもが浮かんでくる。
北杜夫は、父の短歌を通してリズム感を、また、字面をも学んだという。耳に入ってくる響き、そして、見た目の柔らかさのことを言うのだろう。その影響の一端を具体的に述べている。『楡家の人びと』、の末尾を漢字にしないで平仮名にしたという。
「『この消え去りゆく物語』は、この羽根木公園を舞台にしたものもありますね。晩年に描いた短編ですが味がありますよね。文章のリズム感というのは確かにある…」
「ええっとね、私は、北杜夫作品の朗読CDを持っているんですよ。滞ることなく、聞いただけで頭の中にすっと入ってきます…」
初参加された高松さんがそう言われた。
（三）
北杜夫はリズム感、そして字面を学んだ。が、風景観は恐らく違っていただろう。歌人は野天で歌を詠んだ、小説家は書斎で書いた。
歌人は土地に密着している。が、小説家は、土地から遊離している。
（羽根木通りの分か去れにある徳明地蔵尊、杜夫も常に眺めていた風景だ）
◎下北沢文士町文化地図改訂五版（下北沢アートタウン）
下北沢文士町地図、改訂五版は、文士町にアートタウンというルビを入れる。それで一帯に在住した芸術家に青丸をつけることにした。
青丸候補については、物故者であること、アトリエを持っていたことを基準とした。が、作曲家古関裕而と吉田正については後者は当てはまらないが、その業績の大きさから今回入れることにした。
芸術家リストについては作っている。よく分からないところがあって、今日は、世田谷美術館を訪ねた。すると後ほどメールでの回答があって、「世田谷美術展のカタログ」に当方で知りたい情報が載っているとのことだった。担当者は、下北沢文士町文化地図を「たいへん興味深いプロジェクトのご成果」と述べ、「さらに充実された地図制作となりますよう、お祈りいたしております。」とのこと。是非五版は充実させたいものだ。
