2012年10月26日
下北沢Ｘ新聞(2190)〜Game Cook Charleeの航跡再び〜
（一）
独歩『武蔵野』の主調音が奏でられていたのは東京内輪線、駒沢線ではなかったか？。そのような問題提起を「代田の丘の鉄塔文学論」でしている。
東京内輪線は縁辺線、つまりは、「田舎の人にも都会の人にも感興を起こさしむるような物語、しかも哀れ深い物語」（『武蔵野』）が隠れ潜んでいる場にほかならない。人知れずこっそりとある。その一つは根津山だ。これは高圧鉄塔線からの距離を言うのではない。物語が渦を巻いて存在する場だということだ。
山本さんは就学前の男の子と、二人暮しの女の人だ。けれども、未亡人ではない。主人は同じ東京で、ほんとの奥さんと暮らしている。みんなどうして、父のない子を生みたがるのだろう。
『日本空襲記』を描いた一色次郎が述べた一節だ。暮らしている場所は分かっている。旧番地、代田二ノ八二三である。ここに西丸荘というアパートがあった。記を書いた一色次郎が住んでいた。彼は、現小田急線下北沢３号踏み切近くの静泉閣に居住していた。が、東京大空襲後に、線路沿線に防火帯を作るということで強制疎開に遭って、ここに転居してきた。
彼は、所謂２号さんに憤慨している。前にいた静泉閣はそういう女性が多くて辟易している。空襲警報が鳴って防空壕に入ると他は皆女性で色香が臭う。鉄道交点一帯には男が囲っていた女性が非常に多かった。語られないことであるが、事実だ。
が、色香物語だけではない、つい二三日前に知ったことがある。これは代田二ノ八四八での話だ。ここには駒田芳久という画家が住んでいてアトリエを持っていた。彼は、沖縄戦で戦没している。無言館にその名が刻まれているようだ。二十四歳だったという。そのアトリエがまたアトリエとして使われている。昭和二十四年、そこに洋画家の脇田和が越して来てアトリエとして使ったという。
この家のすぐ北を井の頭線の切り通しが通っている。向かいには今も蔵のある家がある。墜落する直前のＢ２９が落とした焼夷弾の直撃を受けて屋根は壊れたと聞いた。それが修復されて今も残っている。
（二）
西丸荘に居住した一色次郎は、戦争中の空襲の記録を丹念に取っている。私はこれによって戦時中の鉄道交点一帯の様子を知った。今となっては貴重な記録である。ところが、歴史事実を記したものとして取り上げられることはほどんどない。
このところ世田谷文学館で開かれいる「斎藤茂吉と『楡家の人びと』」展にちなんで二回続けて文学散歩を行った。北杜夫の少年時代の原点ともされる根津山のことを度々話題にした。彼は、この西側にあった青山脳病院が五月二十五日夜半の空襲で焼けたと書いている。ところがこれは正確ではない。
一つは、青山脳病院は昭和二十年(1945)五月十八日には、東京都立松沢病院 梅ヶ丘分院に代わっていることだ。戦時で経営が難しくなり、院長の茂吉は自身の老いもあって、診療の限界を感じて譲渡したようだ。これを契機に彼は山形へ疎開している。（典拠ウィキ）
もう一つは、全焼とあるが、半焼のようだ。それと日付である。二十五日夜半ではなく、二十四日夜半ではないかと。その根拠は、一色次郎が記した『日本空襲記』にある。
改めてこれを読み直してみた。すると今までは分からなかったが、どうもこれには、Game Cook Charleeのことが記されているのではないか。そう気づいた。赤堤に墜落したＢ２９である。
（三）
そしてまた、思い当たったのは、根津山は近代史の観望地点であったいうことだ。
文学散歩をした折も、対岸の丘の背尾根を牛が荷車を引いていく様が見えたと言った。これは「昔の代田」に今津博氏が書いていることによって知った。昭和七年の春のことだ。山から見える光景が次のように記されている。
田圃に蓮華草が咲き乱れているのである。そしてその先には林の中に洒落た洋風の家が建っており、点景としては絶妙な調和を保っている。斎藤茂吉氏の青山脳病院だそうだ。
彼は、「梅ヶ丘駅はまだない」と言う。この駅の開業は、昭和九年(1934)四月一日である。先の、『日本空襲記』には、この駅に関連する記述が出てくる。
（四）
うらの畑地を出てみる。空はかすかに明るんでいる。南のほうの突き当たりにある松林も樹木の形がハッキリ見えた。この松林は丘になっていて、そこまで行くとすぐ目の下に、小田急線の線路と、それからちいさな梅が丘の駅が見える。
西丸荘から南へ行くと二百メートルほどで松林、雑木林に行き着く。そこは人びとが根津山と呼んでいた丘である。その丘の突端に行くと、線路と駅が見えた。「ちいさな梅が丘駅」は、成瀬巳喜男監督が撮った『驟雨』を思い起こす。その時代の映像がこれを見るとよくわかる。
空襲記の日付は、昭和二十年五月二十四日だ。根津山は山手空襲の観望地点・観察地点だったということだ。（羽根木公園、旧根津山の中村汀女句碑）
◎下北沢文士町文化地図改訂五版に向けて
世田谷に居住した芸術家の旧居跡が、世田谷美術館での過去カタログの末尾に記載されていることを知った。ライブラリーにそれらが所蔵されている。リストをそれによって点検した。受付の女性は親切で一緒になって探してくれた。目星をつけていた人のあらかたは分かった。新たに大山魯牛の代沢の旧居も知れたことだ。
西丸荘に居住した一色次郎は、戦争中の空襲の記録を丹念に取っている。私はこれによって戦時中の鉄道交点一帯の様子を知った。今となっては貴重な記録である。ところが、歴史事実を記したものとして取り上げられることはほどんどない。
このところ世田谷文学館で開かれいる「斎藤茂吉と『楡家の人びと』」展にちなんで二回続けて文学散歩を行った。北杜夫の少年時代の原点ともされる根津山のことを度々話題にした。彼は、この西側にあった青山脳病院が五月二十五日夜半の空襲で焼けたと書いている。ところがこれは正確ではない。
一つは、青山脳病院は昭和二十年(1945)五月十八日には、東京都立松沢病院 梅ヶ丘分院に代わっていることだ。戦時で経営が難しくなり、院長の茂吉は自身の老いもあって、診療の限界を感じて譲渡したようだ。これを契機に彼は山形へ疎開している。（典拠ウィキ）
もう一つは、全焼とあるが、半焼のようだ。それと日付である。二十五日夜半ではなく、二十四日夜半ではないかと。その根拠は、一色次郎が記した『日本空襲記』にある。
改めてこれを読み直してみた。すると今までは分からなかったが、どうもこれには、Game Cook Charleeのことが記されているのではないか。そう気づいた。赤堤に墜落したＢ２９である。
（三）
そしてまた、思い当たったのは、根津山は近代史の観望地点であったいうことだ。
文学散歩をした折も、対岸の丘の背尾根を牛が荷車を引いていく様が見えたと言った。これは「昔の代田」に今津博氏が書いていることによって知った。昭和七年の春のことだ。山から見える光景が次のように記されている。
田圃に蓮華草が咲き乱れているのである。そしてその先には林の中に洒落た洋風の家が建っており、点景としては絶妙な調和を保っている。斎藤茂吉氏の青山脳病院だそうだ。
彼は、「梅ヶ丘駅はまだない」と言う。この駅の開業は、昭和九年(1934)四月一日である。先の、『日本空襲記』には、この駅に関連する記述が出てくる。
（四）
うらの畑地を出てみる。空はかすかに明るんでいる。南のほうの突き当たりにある松林も樹木の形がハッキリ見えた。この松林は丘になっていて、そこまで行くとすぐ目の下に、小田急線の線路と、それからちいさな梅が丘の駅が見える。
西丸荘から南へ行くと二百メートルほどで松林、雑木林に行き着く。そこは人びとが根津山と呼んでいた丘である。その丘の突端に行くと、線路と駅が見えた。「ちいさな梅が丘駅」は、成瀬巳喜男監督が撮った『驟雨』を思い起こす。その時代の映像がこれを見るとよくわかる。
空襲記の日付は、昭和二十年五月二十四日だ。根津山は山手空襲の観望地点・観察地点だったということだ。（羽根木公園、旧根津山の中村汀女句碑）
◎下北沢文士町文化地図改訂五版に向けて
世田谷に居住した芸術家の旧居跡が、世田谷美術館での過去カタログの末尾に記載されていることを知った。ライブラリーにそれらが所蔵されている。リストをそれによって点検した。受付の女性は親切で一緒になって探してくれた。目星をつけていた人のあらかたは分かった。新たに大山魯牛の代沢の旧居も知れたことだ。
