2012年10月29日
下北沢Ｘ新聞(2191)〜Game Cook Charleeの航跡再び２〜
（一）
人間は忘却する。とくに恐かったことは思い出したくない。たちまちに忘れてしまう。しかし、記録はそれを蘇らせてくれる。重爆撃機Ｂ２９の巨体がが帝都の山手の空を覆い尽くした。昭和二十四年五月二十四日夜半のことだ。
根津山からその様子を見ていた一色次郎はいう。
こんやはいったいどういうことなのだろうか。私は、胸の奥がしんとつめたくなった。敵はどうして、こんなにもたくさんの飛行機を飛ばすのだろう。
『日本空襲記』一色次郎 大和書房刊 昭和４７
彼はこの日の空襲は尋常ではないと直感した。とんでもない数の爆撃機が飛来してきた。敵が東京壊滅作戦を実施した日である。この日だけでも東京周辺で七機も爆撃機が墜落している。
根津山の南、若林にいた海野十三は、この日「〇放送でも『今日の敢闘は賞賛に値する』といった」（『海野十三敗戦日記』中公文庫）と記している。実質は、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるだった。この日飛来したＢ２９は５２５機にも上る。いわゆる３月１０日の東京大空襲では、その数は３２５機だった。このことからすると敵が東京を徹底的に叩こうとしたことが分かる。その予感を地上で見ていた一色次郎は感じ取った。
私は、首をかしげないではいられなかった。いくら考えてもわからなかった。東からの爆撃機の縦隊は、正確な間隔をたもち、落ち着いて、すべるように入ってくる。（同著）
冷静冷酷、彼らは綿密な作戦のもとにきっちりと絨毯爆撃を仕掛けてきた。今日は、よくやったぜ、味方も頑張って敵を撃ち落としたんだからなという味方の分析とはおよそかけ離れた、数理的に計算しつくされたやり方で攻めてきた。ゆえにいっそうに恐い。
（二）
一色次郎の観察も冷静である。現に起こっている事実を克明に記している。それは理由のあることだ。標高４６メートルの根津山の頂上から南都一帯の空を眺めていたからだ。一方の海野十三は、およそ１４００メートルほど南、標高は３５メートルだ。北のりめんで空全体の見通しは、根津山よりも劣る。
〇爆撃されるＢ２９が火達磨となって尚飛んでいるすさまじさ。そのうち空中分解をしたり、そのまま石のように燃えつつ、落ちて行く。闇の方より、拍手と歓声が起こる。そして地上防空活動も、士気大いにあがった。（『海野十三敗戦日記』中公文庫）
五月二十四日の記述だ。「拍手と歓声」は下手、堀之内道沿いの若林商店街の方からのものだろう。海野は全体が見えない分、放送が述べる「敢闘は賞賛に値いする」を大いに信じている。が、敵の作戦の全容を見ている一色次郎は違う、「東京は今夜でおしまいだ」と考えたように思う。
（三）
根津山からは西の空もよく見えた。最初に敵機はこちらから帝都を襲ってきた。西からも東からも飛来してくる。一体これは何なのだ？。強烈なショックである。
敵は西の空から一機ずつ侵入してくる。例の波状攻撃である。照空灯に送られながら、丘の稜線の上へ次々に一機ずつ出てくる。空の色が、月の光で青みがかっている。（同著）
五月二十四日は月夜の晩だったのだ。稜線は武蔵野である。西は八幡山、ここは四十五メートルだ。この向こうからＢ２９は、にょっくりと現れる。銀色のジュラルミンの機体が月夜に輝いている。
（戦没学生記念像「わだつみのこえ」 本郷 新、世田谷美術館前）
〇北沢川文化遺産保存の会会報第７６号
2012/10/28、事務局の邪宗門に届けた。
一色次郎の観察も冷静である。現に起こっている事実を克明に記している。それは理由のあることだ。標高４６メートルの根津山の頂上から南都一帯の空を眺めていたからだ。一方の海野十三は、およそ１４００メートルほど南、標高は３５メートルだ。北のりめんで空全体の見通しは、根津山よりも劣る。
〇爆撃されるＢ２９が火達磨となって尚飛んでいるすさまじさ。そのうち空中分解をしたり、そのまま石のように燃えつつ、落ちて行く。闇の方より、拍手と歓声が起こる。そして地上防空活動も、士気大いにあがった。（『海野十三敗戦日記』中公文庫）
五月二十四日の記述だ。「拍手と歓声」は下手、堀之内道沿いの若林商店街の方からのものだろう。海野は全体が見えない分、放送が述べる「敢闘は賞賛に値いする」を大いに信じている。が、敵の作戦の全容を見ている一色次郎は違う、「東京は今夜でおしまいだ」と考えたように思う。
（三）
根津山からは西の空もよく見えた。最初に敵機はこちらから帝都を襲ってきた。西からも東からも飛来してくる。一体これは何なのだ？。強烈なショックである。
敵は西の空から一機ずつ侵入してくる。例の波状攻撃である。照空灯に送られながら、丘の稜線の上へ次々に一機ずつ出てくる。空の色が、月の光で青みがかっている。（同著）
五月二十四日は月夜の晩だったのだ。稜線は武蔵野である。西は八幡山、ここは四十五メートルだ。この向こうからＢ２９は、にょっくりと現れる。銀色のジュラルミンの機体が月夜に輝いている。
（戦没学生記念像「わだつみのこえ」 本郷 新、世田谷美術館前）
〇北沢川文化遺産保存の会会報第７６号
2012/10/28、事務局の邪宗門に届けた。
