2012年12月24日
下北沢Ｘ新聞(2226)〜鉄道交点の映画陰影〜
（一）
「下北沢文士町文化地図」には映画監督旧居は入れていない。この映画も交点文化に陰影を落としている。下北沢には東宝、代田には日活の寮もあった。俳優、女優、そして監督の住まいもそこかしこにあった。
文学もまた映画の影響を受けていた。特には新感覚派だ。横光利一の「雨過山房」では水曜会が催されていた。ここに坂口安吾の口利きでこれに通っていた人がいた。森栄晃氏だ。「これからは文学ではなく映画だ」と横光利一に言われ映画界に入ったと彼から直接聞いた。水曜会に出入りしていた川端康成が松竹大船撮影所を知っているというのでここの入社試験を受けて合格した。
調べてみると森栄晃氏が松竹大船撮影所に助監督として入社したのは昭和十三年のことだ。従って彼が水曜会に出入りしていたのは昭和十年ぐらいのことだと思われる。
映画と鉄道交点との関係はレールが取り結んだ。松林宗恵監督は成城から都心の本社に行くには下北沢で乗り換えたと聞いた。下北沢駅前のカフェマコトにほとんどの映画監督が来ていたのも小田急繋がりである。
松林宗恵監督は亡くなられた。生前折々に代田「邪宗門」に来ておられて、何度かお話を伺ったことがある。
「有りがたうさん」という題の映画を知ったのは監督を通してだ。「あれはいい映画だ」と言っておられたのを覚えている。伊豆の山中をゆくバスの運転手を主人公にしたという話だった。つい数日前、この映画をBSの番組表でみつけて録画した。この頃興味のある映画があっても一気に見終わることはない。が、これは見てしまった。
原作が川端康成だ。水曜会の映画談義でこの「有りがたうさん」も話されたのかもしれない。主役の上原謙は、雨過山房の近くに住んでいた。鉄道交点文化とと因縁浅からずだ。
（二）
「有りがたうさん」は１９３６年、昭和十一年に製作にされたものだ。伊豆の山中をゆくバスの道行き物語だ。未舗装の道路をもうもうと土ぼこりをあげてバスは走っていく。乗り合いは多くの人を追い抜いていく。その折に運転手は声をかける。それが「有りがたうさん」である。
伊豆山中の街道をゆくバスは、旅芸人、行乞僧、馬車引き、牛飼いなど多くの人と出会う。バスに乗るのももったいないということで多くの人が歩いている。
懐かしいと思ったのは背景に映っている自然である。山や谷などが元の自然のままにあってそれがどこまでも続いている。今だったら山にトンネルぶちあけ、谷を埋めて道路を通している。かつての面影もないほどに自然は変貌させられている。
現在風景は、高圧鉄塔が山中のどこにでもひょいひょいと建てられていて目にうるさい。が、映画には一本たりとも出てこなかった。
（三）
山中を埃を立ててバスは走っていく。途中、農家の娘から流行歌のレコードを運転手は頼まれる。彼はそれを快く引き受ける。
自然の真っ只中にある村。何の楽しみもない田舎にあっては一枚の音盤がどれだけ多く人の気持ちを慰めてくれるか、そのことを乗り合わせた女性が説明していた。
しかし、この映画、のんびりとはしているが社会風刺性を強く持ったものだ。時代の暗い背景をさりげなく伝えている。（映画の一齣）
「有りがたうさん」は１９３６年、昭和十一年に製作にされたものだ。伊豆の山中をゆくバスの道行き物語だ。未舗装の道路をもうもうと土ぼこりをあげてバスは走っていく。乗り合いは多くの人を追い抜いていく。その折に運転手は声をかける。それが「有りがたうさん」である。
伊豆山中の街道をゆくバスは、旅芸人、行乞僧、馬車引き、牛飼いなど多くの人と出会う。バスに乗るのももったいないということで多くの人が歩いている。
懐かしいと思ったのは背景に映っている自然である。山や谷などが元の自然のままにあってそれがどこまでも続いている。今だったら山にトンネルぶちあけ、谷を埋めて道路を通している。かつての面影もないほどに自然は変貌させられている。
現在風景は、高圧鉄塔が山中のどこにでもひょいひょいと建てられていて目にうるさい。が、映画には一本たりとも出てこなかった。
（三）
山中を埃を立ててバスは走っていく。途中、農家の娘から流行歌のレコードを運転手は頼まれる。彼はそれを快く引き受ける。
自然の真っ只中にある村。何の楽しみもない田舎にあっては一枚の音盤がどれだけ多く人の気持ちを慰めてくれるか、そのことを乗り合わせた女性が説明していた。
しかし、この映画、のんびりとはしているが社会風刺性を強く持ったものだ。時代の暗い背景をさりげなく伝えている。（映画の一齣）
