2012年12月30日
下北沢Ｘ新聞(2229)〜2012年総括、鉄道交点情報の旅〜
（一）
今年一年を振り返ると濃密という語で言い表される。
何が濃密かというと情報である。圧倒されるほどの情報を前についには倒れてしまったといってよい。解読すべき情報は山積みになっている。新しく見つかった鉛筆部隊の隊員の日記は五冊もある。
国木田独歩は『武蔵野』で述べる。「なぜかような場処が我らの感を惹くのだろうか。自分は一言にして答えることができる。即ちかような町外れの光景は何となく人をして社会というものの縮図でも見るような思いをなさしむるからであろう。」と。その場処というのは武蔵野の都会と田舎とのはざま、あわいである。
そこは鉄道交点とは言わない。が、ここにこそ社会の縮図としての物語が数多眠っている。私は集まり過ぎた情報を前に困惑しているばかりだ。
鉄道交点の物語探訪で行き着いたことの一つは色香である。性風俗史は面白おかしく語られるだけで記録はされない。が、文化事象を掴み取る上では重要な情報である。
「昔は、言っていたものだよ。蒲田、五反田、下北沢」
某氏は会うとこの話をする。B級風俗地帯だったことをいう。ひそやかな地であったことは興味深い。
聞き書きの過程で戦後史の一端を覗き見たことがある。駅前市場近辺に多くの夜の女性が群がっていた時期があった。往事、人はパンパンと呼んでいた。
当時、貴重なのは絹のストッキングだ。娼婦の商売道具だった。破れたこれを専門にかがる店があったということは事実である。
これら女性は米兵目当てだ。鉄道交点一帯、いわゆる進駐軍の接収家屋や借り上げ家屋が多かった。そこにいる兵士が彼女らのお客さんだった。
彼女らは公娼ではなく私娼である。パブリックなものではなくプライベートなものだ。
（二）
「社会の縮図」は時代とともに移り変わる。戦後のどさくさもどさくさの中に過ぎて行った。徐々に人が食べられるようになると街に立っていた女性も、家に引っ込むようになる。一例は、忍び女である、隠し妻ともいう。
鉄道交点では多くの人に出会って、多くの話を聞いてきた。そのプロセスの中で随所にこの女性が多くいることを知った。これも鉄道交点に限ることではないだろう。が、それにしても分かってみると驚くほどに居たのは事実だ。
ついこの間、鳴瀬速夫さんのハーモニカコンサートが終わった後、山梨の矢花克己さんと鉛筆部隊の田中幸子さんと私の三人で下北沢二子通りの「ふるさと」で飲んだ。そのときに意外なことが分かった。
田中幸子さんの古里が、この「ふるさと」の隣りだった。部屋を貸していたが二階には議員の、一階には三味線のお師匠さんの隠し妻がいたということだ。
興味本位のことでいうのではない。意味があるのは「隠し女」という「隠し」だ。つまりは、交点一帯には隠れた情報がそこらじゅうにあって、物語が層をなしてあることだ。たまたま私は、それらをはいでいってぶちあたったに過ぎない。
「隠し」というのは文士町の要因を言い当てる理由の一つでもある。芸術文化の逸話は随所に隠れて存在する。潜む話は鉄道クロスがこっそりと運んできた。
（三）
人間はそこに止まっていることができない。発見した紐がどこに繋がっているのか探そうとする。するうちに縁はどんどん繋がっていく。
この頃の発見はまた新たなものだ。鉛筆部隊は淺間温泉に疎開していた。彼らは近くの五十連隊に度々行っている。ここには決部隊がいた。本土決戦に備えた部隊だ。この部隊が演習していた有明演習地まで鉛筆部隊の一員は慰問にも行っていたようだ。
最近分かってびっくりしているのは『安曇野』を書いた臼井吉見は、決部隊の小隊長だったことであったことだ。
鉄道交点に端を発した物語は、果てもなく続いて行く。それは人間物語だ。女であったり、男であったり……。
〇お知らせ
会報７８号は２０１３年１月１日０時にブログにアップする。
「社会の縮図」は時代とともに移り変わる。戦後のどさくさもどさくさの中に過ぎて行った。徐々に人が食べられるようになると街に立っていた女性も、家に引っ込むようになる。一例は、忍び女である、隠し妻ともいう。
鉄道交点では多くの人に出会って、多くの話を聞いてきた。そのプロセスの中で随所にこの女性が多くいることを知った。これも鉄道交点に限ることではないだろう。が、それにしても分かってみると驚くほどに居たのは事実だ。
ついこの間、鳴瀬速夫さんのハーモニカコンサートが終わった後、山梨の矢花克己さんと鉛筆部隊の田中幸子さんと私の三人で下北沢二子通りの「ふるさと」で飲んだ。そのときに意外なことが分かった。
田中幸子さんの古里が、この「ふるさと」の隣りだった。部屋を貸していたが二階には議員の、一階には三味線のお師匠さんの隠し妻がいたということだ。
興味本位のことでいうのではない。意味があるのは「隠し女」という「隠し」だ。つまりは、交点一帯には隠れた情報がそこらじゅうにあって、物語が層をなしてあることだ。たまたま私は、それらをはいでいってぶちあたったに過ぎない。
「隠し」というのは文士町の要因を言い当てる理由の一つでもある。芸術文化の逸話は随所に隠れて存在する。潜む話は鉄道クロスがこっそりと運んできた。
（三）
人間はそこに止まっていることができない。発見した紐がどこに繋がっているのか探そうとする。するうちに縁はどんどん繋がっていく。
この頃の発見はまた新たなものだ。鉛筆部隊は淺間温泉に疎開していた。彼らは近くの五十連隊に度々行っている。ここには決部隊がいた。本土決戦に備えた部隊だ。この部隊が演習していた有明演習地まで鉛筆部隊の一員は慰問にも行っていたようだ。
最近分かってびっくりしているのは『安曇野』を書いた臼井吉見は、決部隊の小隊長だったことであったことだ。
鉄道交点に端を発した物語は、果てもなく続いて行く。それは人間物語だ。女であったり、男であったり……。
〇お知らせ
会報７８号は２０１３年１月１日０時にブログにアップする。
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この記事へのコメント
1. Posted by starfield 2012年12月30日 20:57
今年も色々ありましたよね。１年が経つのは早いものです。
