2013年03月16日
下北沢Ｘ新聞(2280)〜渋谷駅地下化狂想曲〜
（一）
「俺達の住んでいる街は、変わることがないんだよ。それが俺達の誇りだ」
世界ふれあい街歩きの中で都市に住む老人が言っていたことに、ショックを受けた。常日頃の認識では、街は絶え間なく変わる、諦め似た思いを持っていたからだ。
思い起こすのは鴨長明『方丈記』だ。「大家滅びて小家となる。住む人も、これにおなじ……」、絶え間のない都市の転変だ。何年か経つとすっかり変わって見知らぬ街にきたように思うことはしばしばだ。我々は都市無常観を前提として生きている。
昨日、夜「東京世田谷ワイズメンズクラブ」の例会に呼ばれ講演（卓話）を行った。東急東横線で行き、そして、帰った。頭端式ホームはいよいよ最後の日を迎えた。誰もが皆、電車に、駅舎に、行き先に、電光掲示板にカメラを向けている。
「立ち止まらないでください。そのまま行ってください」
ホーム両脇にずらりと並んだガードマンが呼びかける。異様な熱気だ。
東京に住む人は、構築物は消滅するものだ、そういう無常感を持って生きているに違いない。みんな消えてなくなるから、今のうちに写真だけは撮っておこう。それでこぞってカメラを向けていた。
今ある風景を誰も彼も懐かしく思っているのだろう。自分すらそうだった。
「今日は、東横線高架橋、ほら、代官山を出た渋谷行きは、山手線の上を越えて、渋谷方向に向かって大きくカーブします。そのときに、くききくききと擦過音を響かせるのですよ。私はこの音をずっと聞いて来ました。ついさっき聞いてきたばかりですが、帰るときにも耳を傾けていきます。最終楽章です……」
卓話の中でもしゃべった。
今朝の新聞には、さらなる建築物無常転変の話が出ていた。
「まず２０１７年度に、東横線の地下化により生まれる渋谷駅から代官山駅までの跡地が、地上３３階、高さ約１８０メートルのビルに生まれ変わる。近くを流れる渋谷川一帯も含め整備する。」
渋谷駅再開発は終わらない。壊して作ってまた作る。
「俺達の誇りは、街が常に変わっていくことだよ。それが俺達の誇りだよ。俺達が生きてきた痕跡なんてすっかりなくなってしまうんだよ…」
近隣の老人は、そういうだろうか？。
（二）
渋谷駅が地上二階から、地下五階に移動する。この地下化について、批評的、批判的に書いている記事はほとんど見あたらない。もっとも地元商店街は、乗客の流れが変わって「素通り」を心配しているとは書いてある。
便利になっていいというのがほとんどだ。が、間違いなく不便になる。私には下北沢が遠くなる。地下五階で降りて、また地上二階まで行って井の頭線に乗る。大変な遠回りだ。JRへの乗り換えだって不便になる。
思い起こすのは建て増しに建て増しを重ねた温泉旅館だ。時代時代に応じて、増設をしていく、すると迷路のようになってしまって分からなくなる。
現行渋谷駅を設計した人は、ターミナル全体の乗客の動線を考えて、今のような渋谷駅を考えたに違いない。ここで乗り換える人の利便性を最優先した。ところが、今回は、経済性優先で、乗客全体の利便性は考えられていない。渋谷駅は、建て増しを重ねた温泉旅館と同じになってしまった。
比喩的に言うと、元国鉄が陸軍で、元大東急が海軍だ。陸軍、海軍の仲は悪い。国民全体の便利優先などは考えない。渋谷駅の乗降客の全体をどうするか話し合って決めたとは思えない。
（三）
都市東京は自分中心に物事を考える。自分が肥え太ることのみだ。
地方の疲弊などは考えない。よりいっそう東京を近代化させて最新都市にするということだけだ。東京オリンピック開催などはその典型だ。
私たちは時代が変わっていくことに対して諦めに似た無常感を持っている。が、人間は、実は、ための動物なのだ。
昨日、講演したときに皆さんの顔を見て、思ったことは、皺には多くの何かが畳みこまれていると思った。知性の片鱗だ。
「この本、（「鉛筆部隊と特攻隊」）に出てくる阿山剛男さんは、これは私たちクラブの会員だったのですよ」
「私は、同志社から特別操縦見習い士官に応募して、うかって、軽井沢に集められてそこで訓練をしていました。二千人集まったのです。熊谷陸軍飛行学校の分校です。グライダー訓練をしたのですけど、結局飛行機がなくなって、どうしようもないから南方とかに送り込んでしまったんですよ。たまたま私は病気して助かったんですけどね…」
皺にたたまれた話はつきることなかった。
帰り、十一時頃、渋谷駅へ行った。大勢の人達がやはりみなカメラを、ビデオを、携帯を、電車に、全体の風景に、向けていた。
私は、あの、ぐぅぐるぐぅぐるという渋谷高架橋C曲線音楽の最後の最後の曲を聴いて、家路に就いたことだ。（二枚とも東横線渋谷駅最終日の様子）
〇さようなら踏切最終見学ツアー
３月２３日に地下化される小田急の踏切９個所プラス１（世田谷代田２号）、１０個所の踏切を巡るツアーを今日行った。定員一杯の２０名参加、外国人の参加者も含めて多彩な顔ぶれだった。「一つ一つの踏切が３Dを見ているように立体的に浮かんできました」と参加者のお一人の梁田貴之さんの感想である。
