2013年03月17日
下北沢Ｘ新聞(2281)〜近代踏切文化史探訪最終章〜
（一）
踏切とは何か、機械と人間の衝突を避けるためにつくられた装置である。機械を優先して通して、その後に人が渡る。習慣の形成である。踏切は人が立ち止まって待つところだ。踏切風景はすっかり生活している人の日常となってしまった。
この踏切、役割を果たしているときは生きている。ところが廃止になった途端、忘れ去られていく運命にある。何年か経てば、あそこやここの踏切であったことも跡形もなく消えていく。せめてもの記録に思いを共にするものと歩き、その記録をここに記すものである。
３月２２日に小田急の九つの踏切は消滅する。実に多くのエピソードが折り畳まれてきた。子どもは釘をレールに置いて電車に轢かせた。大人は、疎開に旅立つ吾が子を見送った、砂利を載せた貨車も通った、東京に進駐する米軍兵士を満載した貨車も通った、その彼らはてんでに銃を持っていた。踏切を背景に映画撮影もされた。そういうことが歴史の中で繰り返されてきた。
これらエピソードを刻んできた踏切、九つをすべて巡った。一つ一つの踏切について語っているときにそこに漂う霊魂が現れて、それが語りかけてきたように思った。当初考えもしなかったが、このツアーは、巡礼、鎮魂の旅となった。
昭和二年の開通以来、それぞれの踏切では多くの事故が起こった。大勢が亡くなっている。九つの踏切を巡り終え、もう一つ、追加として世田谷代田２号踏切の跡を探訪した。
このときに当の踏切を廃止させた本人が説明した。金子善高さん、ここでの説明は何回か聞いている。
ところが、今回、彼は初めて今まで語らなかったことを証言した。最後の踏切ツアーだからこそしゃべったのだろうと思う。その事実が生々しく語られた。まるで亡くなった人が、彼に取り憑いてしゃべっているようだった。
私たちは、近代踏切文化史の真実を抉る、余りにも生々しい話に動転してしまったほどだ。なんとも言いようのない思いを持った。
踏切と人権、とくには時代の変遷とともに、運行する側と、通行する側の意識が変わって来た。この点については、世田谷代田２号踏切は、踏切文化史にエポックを記したものだと考えることができる。
この踏切ツアー、不思議な旅だった。冥界と現実世界との間をさまようような旅でもあった。霊魂に導かれてのツアーだった。詩魂かもしれない。言えば萩原朔太郎である。しかし、彼ばかりではない。
「この、パンフレットの裏の、『おお、神よ、踏切よ』は、中原中也ですよ。」
近代文学に詳しい会員が私に言った。
（二）
昨日、東北沢駅集合だった。東横線が地下化した。最寄り駅の都立大から、副都心線直通の電車に乗って、明治神宮前で降りて、千代田線に乗り換えれば、代々木上原はすぐだ。この駅の隣は東北沢だ。きっとすぐ着くだろうと思っていたら、とんでもない、集合時間に間に合わなかった。
１３時２分に着いて、改札を出ると、皆さん、全員集合しておられた。それでようやっと、構内の片隅で前説を行った。
まず、踏切について三点の指摘をした。
〇それぞれの踏切には、それぞれに固有性がある。
どんな固有性があるのか見ておく。地形との関係、道路、とくに古道との関係。
〇下北沢鉄道交点の街の特色
一帯は、踏切の街である。現在、井の頭線も含めて１４踏切もの踏切がある。これが九つ無くなって、五つになる。街と踏切の関係
〇踏切及び地表線
街のシンボル性について
作家の清水博子さんがこう言っている。
「小田急線と井の頭線が交差するひしゃげた座標軸が、頭蓋骨をじわじわとしめつけてくる」（『街の座標』）と言っている。つまり街を捉える指標が「ひしゃげた座標軸」だった。それが今回の地下化によって消滅する。これから街をどのように捉えるか課題ではないか。
（三）
「踏切って、どうして踏切なんですか？」
参加者から質問が出た。私は、目の前を歩いてみせた。
「ほら、踏切は、踏み切って渡るのですよ。線路は障害物、それを踏み渡る、何もなければ、踏切ることもないでしょう。意識して踏み切って向こうに行くのが踏切……」
「それは、いつ頃から使われているんでしょうか？明治から？」
東北沢駅構内、初手からもう知的な冒険が始まった。
（上、東北沢２号踏切、下、東北沢３号踏切から下北沢方向）
〇ラジオ深夜便
この放送日について、２６日だと伝えたが、こちらの勘違いでした。
〔明日へのことば〕 疎開児童が見た特攻隊 童話作家 きむら けん
放送日 ３月２７日 ４時５分から約４０分間
参考ホームページ http://www.nhk.or.jp/shinyabin/
