2013年03月20日
下北沢Ｘ新聞(2283)〜近代踏切文化史探訪最終章３〜
（一）
東北沢２号、３号、４号の間の急坂、鉄道用語で言えば、２５パーミルは景色の深みだった。岸田劉生「切通之坂」の構図に似ている。彼の弟子高須光治が描いた「下北沢風景」は、ここの景色を描いたものだ。小田急線が開通したばかりの郊外風景が描かれている。
森厳寺左岸崖線を描いたものだ。この近くに昭和三年に家を建てた小説家横光利一は、友人から聞いた話、「家を建てるのなら北沢」ということが発端だった。
理由は、鉄道も通っていて便利、武蔵野がまだ残っている、眺望がいいということに尽きるのではないだろうか。
「下北沢風景」は、その様子を見事に描いている。赤土に文化住宅に武蔵野に青い空というのは今ではもうすっかり無くなってしまった。
東北沢４号踏切で、かつて小田急バスが通っていたと言ったら、「乗った､乗った」という人がいた。車の通行量が一番多いところである。かまぼこ型の築堤になっていて大雨になるとこれが水を遮り北側が水浸しになったこともあった。
東北沢３号では面白いことがあった。各踏切にはガードマンが立っている。ここの警備の男が言った。
「懐かしい写真を持っていますね」
東北沢４号側から５号を撮ったものだ。右手に大谷石でできた蔵がある。質屋巴屋が写っている。
「あれ、お兄さんこれ知っているんですか？」
「うん、小さいときよく親に連れられていって通っていたところだから…」
彼、電車好きのようだ。踏切につくねんと立っている警備員は退屈だろうと思う。しかし、電車好きであれば警備員も悪くない。電車は見放題だ。
（二）
東北沢６号踏切は、小田急線ではワーストワン踏切だ。もっとも人が多く通過する踏切だ。それゆえにここでは多くのドラマが生まれた。鷺澤萌『遮断機』もその一つだ。
ここで説明するのを一つ忘れていた。昭和２０年８月１２日の夜のことだ。代沢国民学校の疎開学童がここを発っていった。親はこの踏切で、万歳を唱えて送った。悲痛の見送り風景だった。
ノンフィクション前作では、ここでの見送り風景を書いた。今度のでは、私は出迎え風景を記した。昭和二十年十一月七日のことだ。
下北沢駅に新宿からの電車が着いた。ブレーキがキィキキィと軋んで、一つシャックリをしてことんと停まった。ドアが開いた。疎開学童にはホームが眩しく見えた。夢にまでみた到着だ。そっと踏んだコンクリートの叩きが固い。まるで嘘のようだ。二歩、三歩と歩いてみる。ふと柱を見る、するとそこには「しもきたざわ」と書いてある。本当に下北沢駅に着いたんだ。
「まいったな」
「なんかなつかしいな」
学童たちはなんともいいようない思いがした。
駅の跨線橋を列を作って登っていく、上に着いて今度は北口の出口へ降りていく、木の階段がミシリミシリと鳴る。そして、外に出ると、大勢の人達が待っていた。出迎えの親たちだ。
学童の先頭が姿が見せるとたちまちに拍手がわき起こった。それは段々に大きくなった。そして、一人一人の顔が見えるようになると親が子どもの名前呼びはじめる。出発の時は、「火の点いたような声」を出して名を呼んで見送った。が、今日は「柔らかく優しい声」で「さちこ！」、「やっくん」、「ともくん」、「みちこ」とか口々に呼んでいる。
つぎの下北沢２号踏切はなんといっても地蔵尊だ。幾たびも２号や３号で子どもが轢かれる事故が起こった。踏切でなくなった人を供養しようと昭和十七年七月に建立された。碑文には、「一万五千余名ノ賛同」を得たとある。子を持つ親が多く協力したはずだ。
電車は地下化して守るべき踏切はなくなる。このお地蔵さんも寂しそうだ。
（三）
踏切はどこも危ないが、もっとも多く事故を起こしているのは下北沢３号踏切ではないだろうか。理由は幾つかある。道がクランク状に曲がっていることだ。
道一杯に広がって走ってきたダンプに轢かれた人もいる。
碑に名前が刻んで古関清君は昭和十年七月二十一日に亡くなっている。夏休み初日、守山公園でラジオ体操が開かれた。終わって、自転車に跨がった。そして、帝都線の踏切を渡った。すぐに急坂がある。ここを勢いよく下っていって、下ったところからその反動を利用して、一気に小田急線３号踏切のところまでいく。ちょうどそのときに世田谷代田側から下ってきた電車にはねられてなくなってしまった。
（写真、消失踏切を走破しての記念撮影、世田谷代田１号踏切。）
〇桜祭り、地図配布活動予定（代沢小安吾文学碑前）
北沢川文化遺産保存の会
桜が予定より早く咲きはじめました。例年通り、地図の配布活動を行います。
これへの参加不参加は自由です。楽しみながら配布し見知らぬ人と会話を楽しむ。
３月２３日、２４日、３０日、３１日 いずれも土日。
１０時から１５時３０分ぐらい。仕事、地図を配る、他人とおしゃべりする。
参加時間も自由、いつでもオッケー。
朝は九時半ごろに代沢小から机椅子を借りて文学碑まで運びます。
雨の場合は中止。一応、きむらは出るつもりですが、朝の運び出し
手伝ってくれる人いましたら米澤邦頼さんにでも連絡してください。
〇最後の日の踏切を巡る
３月２２日（金） 午後１時 東北沢駅改札前
主催 東京荏原都市物語資料館
募集人員 若干名（現在２名）
参加費 無料
・最後の日の踏切九つをぶらぶらと散歩がてら静かにめぐる。
申し込みはメールのみで受け付け
きむらけん aoisigunal@hotmail.com へ
東北沢６号踏切は、小田急線ではワーストワン踏切だ。もっとも人が多く通過する踏切だ。それゆえにここでは多くのドラマが生まれた。鷺澤萌『遮断機』もその一つだ。
ここで説明するのを一つ忘れていた。昭和２０年８月１２日の夜のことだ。代沢国民学校の疎開学童がここを発っていった。親はこの踏切で、万歳を唱えて送った。悲痛の見送り風景だった。
ノンフィクション前作では、ここでの見送り風景を書いた。今度のでは、私は出迎え風景を記した。昭和二十年十一月七日のことだ。
下北沢駅に新宿からの電車が着いた。ブレーキがキィキキィと軋んで、一つシャックリをしてことんと停まった。ドアが開いた。疎開学童にはホームが眩しく見えた。夢にまでみた到着だ。そっと踏んだコンクリートの叩きが固い。まるで嘘のようだ。二歩、三歩と歩いてみる。ふと柱を見る、するとそこには「しもきたざわ」と書いてある。本当に下北沢駅に着いたんだ。
「まいったな」
「なんかなつかしいな」
学童たちはなんともいいようない思いがした。
駅の跨線橋を列を作って登っていく、上に着いて今度は北口の出口へ降りていく、木の階段がミシリミシリと鳴る。そして、外に出ると、大勢の人達が待っていた。出迎えの親たちだ。
学童の先頭が姿が見せるとたちまちに拍手がわき起こった。それは段々に大きくなった。そして、一人一人の顔が見えるようになると親が子どもの名前呼びはじめる。出発の時は、「火の点いたような声」を出して名を呼んで見送った。が、今日は「柔らかく優しい声」で「さちこ！」、「やっくん」、「ともくん」、「みちこ」とか口々に呼んでいる。
つぎの下北沢２号踏切はなんといっても地蔵尊だ。幾たびも２号や３号で子どもが轢かれる事故が起こった。踏切でなくなった人を供養しようと昭和十七年七月に建立された。碑文には、「一万五千余名ノ賛同」を得たとある。子を持つ親が多く協力したはずだ。
電車は地下化して守るべき踏切はなくなる。このお地蔵さんも寂しそうだ。
（三）
踏切はどこも危ないが、もっとも多く事故を起こしているのは下北沢３号踏切ではないだろうか。理由は幾つかある。道がクランク状に曲がっていることだ。
道一杯に広がって走ってきたダンプに轢かれた人もいる。
碑に名前が刻んで古関清君は昭和十年七月二十一日に亡くなっている。夏休み初日、守山公園でラジオ体操が開かれた。終わって、自転車に跨がった。そして、帝都線の踏切を渡った。すぐに急坂がある。ここを勢いよく下っていって、下ったところからその反動を利用して、一気に小田急線３号踏切のところまでいく。ちょうどそのときに世田谷代田側から下ってきた電車にはねられてなくなってしまった。
（写真、消失踏切を走破しての記念撮影、世田谷代田１号踏切。）
〇桜祭り、地図配布活動予定（代沢小安吾文学碑前）
北沢川文化遺産保存の会
桜が予定より早く咲きはじめました。例年通り、地図の配布活動を行います。
これへの参加不参加は自由です。楽しみながら配布し見知らぬ人と会話を楽しむ。
３月２３日、２４日、３０日、３１日 いずれも土日。
１０時から１５時３０分ぐらい。仕事、地図を配る、他人とおしゃべりする。
参加時間も自由、いつでもオッケー。
朝は九時半ごろに代沢小から机椅子を借りて文学碑まで運びます。
雨の場合は中止。一応、きむらは出るつもりですが、朝の運び出し
手伝ってくれる人いましたら米澤邦頼さんにでも連絡してください。
〇最後の日の踏切を巡る
３月２２日（金） 午後１時 東北沢駅改札前
主催 東京荏原都市物語資料館
募集人員 若干名（現在２名）
参加費 無料
・最後の日の踏切九つをぶらぶらと散歩がてら静かにめぐる。
申し込みはメールのみで受け付け
きむらけん aoisigunal@hotmail.com へ
