2013年03月26日
下北沢Ｘ新聞(2287)〜東京西郊交通ネットワーク異変２〜
（一）
「私は人よりも誇れることは、記憶に貯め込んできた風景です。これまでむさぼるように風景を見てきました。列車で旅をするときは窓辺にへばりついて飽きることなく風景を見てきました。夜も、曇った窓ガラスを拭いて、ぽつんぽつんと点った遠灯りが過ぎていくさまを眺めてきました。」
先だってYMCAの集まりに呼ばれて、卓話をしたときにこんな話をした。本当に飽きるほど見て来た。
思い起こすのは平知盛である。壇ノ浦の決戦で源氏に追い詰められた彼は、「見るべき程の事をば見つ。今はただ自害せん」と言い残して入水したという。もうあらかた飽きるほどに見るべきことはみてきたので、この世に未練はないと言って死んだ。享年三十四歳であった。
死ぬときに自分をどう納得させるかということはある。うまいものをたっぷり食ってきたからとか、恋をいっぱいしたからとか、が、私にはその理由はつまらない。
「もうね、なんというか、いい景色はたっぷり見て来たからね。見るべきほどの事は見た」
私はこうはいえる。冬の羽越線、車窓から見た光景は忘れられない。ひょいと通りかかった断崖の縁にお墓があって、そこに荒波が打ち寄せ、今にもさらわれそうだった。一瞬の光景だが今も忘れられない。
風景こそ心の糧だ。人間にもっとも必要なものだ。私の散歩コースでもっとも好きなのは世田谷深沢の畑だ。一面に農の風景が広がっていて向こうに一本の欅が空に大きく枝を張っている。心底気持ちが安らいでくる場だ。
都会の進歩発展は、風景をどんどん奪っていく。建物の高層化、構造物の地下化である。このことそのものは別の破壊を招いている。セメントの原料は石灰石だ。都会の建築構造物を作るために山がどんどん削られている。一山ごっそりとなくなったというのも珍しくない。
私たちは、飽くなき利便を求めてきた。が、もうそれは限界にきている。巨大な建築構造物は、人間の力を見せつけはする。しかし、これに対して寺田寅彦は警告をしている。
「いつも忘れられがちな重大な要項がある。それは、文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその劇烈の度を増すという事実である。」（『天災と国防』）
（二）
巨大構造物は、一旦作ったら、作り替えられない。福島第一原発で使われている原子炉マークワンは早くから欠陥が指摘されていた。ところが、作り直しや修理ができない。そのままで使用されてきた。
渋谷新駅も一つの巨大な構造物である。しかし、これは使い勝手の悪さが指摘されている。まだ慣れないという点はあるだろう。
今日は、この駅、一体どうなっているのか。じっくりと見学してきた。地下化した駅だけに構造がよく飲み込めない。まるで地下迷宮を探検するようだった。
ターミナル駅での鉄道交差をどうするかという問題はある。この渋谷駅は複雑な構造ではあった。しかし、古くからあった国鉄、今のJRを中心にして作られた駅だった。それなりに乗降客は流れていた。
鉄道交差ということでいえば十字クロスである。明大前は、十字クロス、下北沢はXクロスだった。渋谷駅の場合、旧国鉄を基軸にした十字クロス駅だったと言える。
縦ラインが山手線である。横ラインが西から来た井の頭線と東にいく地下鉄銀座線だった。この十字クロスの懐から出ていたのが東横線である。
（三）
現場を知るには周辺から歩け、鉄則だ。家からは歩いて東横線沿いに渋谷まで行った。このフィールドワークで知ったのは、祐天寺駅周辺の閑散化だ、一頃よりも寂れていた。
渋谷地下駅では、あちこちと通路を巡りながら考えた。そのうちに直観したことは、ダブルスタンダードができたことだ。中心となる鉄道交差部が二つできていた。
まず一つ目は旧来の、JRを中心とした地上駅だ。南北の縦軸は山手線だ。東西の横軸は、井の頭線であり、地下鉄銀座線である。
つぎが新しい、東横線の地下駅だ。南北の縦軸は東急東横線であり、地下鉄副都心線だ。東西の横軸は、東急田園都市線であり、地下鉄半蔵門線である。
つまりは、JR系と東急系の交差ができて、それぞれが我を張っていることだ。交差、交点がずれてしまった。東急系は自社系列の田園都市線への乗り換えを優先して、位置をかつての駅よりも北へ動かした形になっている。よって二つの鉄道交差部の連絡が今までよりも却って不便になってしまった。地下鉄銀座線や井の頭線は置き去りにされた形である。
東急系の出入り口の呼称が「ヒカリエ口」だったことに気づいた。自社ブランドのお手盛り命名のように思える。JR口の方が親切であるように思うが…。
（四）
東横線旧駅はシートで覆われていた。これから改築、改造し、周辺建物の整備を進めていくようだ。
「渋谷のサグラダ・ファミリアだね」
スペインバルセロナ市に建築中の教会だ。建築家アントニ・ガウディの未完作品は作られ続けられている。完成までは三百年かかるといわれるものだ。
ある人がこれに例えて、渋谷駅の未来を評していたが、そうかもしれない。が、完成したときに人類はどうなっているのだろう？。
「もう、俺達も何年生きているか分からないからね、どうなってもいいけど」
東北沢６号踏切で、老年夫婦とここが廃止された翌日に話をした。ご主人はいささか投げやりな口調で言っていたのを思い出す。（上は、代官山駅の地下化部分）
巨大構造物は、一旦作ったら、作り替えられない。福島第一原発で使われている原子炉マークワンは早くから欠陥が指摘されていた。ところが、作り直しや修理ができない。そのままで使用されてきた。
渋谷新駅も一つの巨大な構造物である。しかし、これは使い勝手の悪さが指摘されている。まだ慣れないという点はあるだろう。
今日は、この駅、一体どうなっているのか。じっくりと見学してきた。地下化した駅だけに構造がよく飲み込めない。まるで地下迷宮を探検するようだった。
ターミナル駅での鉄道交差をどうするかという問題はある。この渋谷駅は複雑な構造ではあった。しかし、古くからあった国鉄、今のJRを中心にして作られた駅だった。それなりに乗降客は流れていた。
鉄道交差ということでいえば十字クロスである。明大前は、十字クロス、下北沢はXクロスだった。渋谷駅の場合、旧国鉄を基軸にした十字クロス駅だったと言える。
縦ラインが山手線である。横ラインが西から来た井の頭線と東にいく地下鉄銀座線だった。この十字クロスの懐から出ていたのが東横線である。
（三）
現場を知るには周辺から歩け、鉄則だ。家からは歩いて東横線沿いに渋谷まで行った。このフィールドワークで知ったのは、祐天寺駅周辺の閑散化だ、一頃よりも寂れていた。
渋谷地下駅では、あちこちと通路を巡りながら考えた。そのうちに直観したことは、ダブルスタンダードができたことだ。中心となる鉄道交差部が二つできていた。
まず一つ目は旧来の、JRを中心とした地上駅だ。南北の縦軸は山手線だ。東西の横軸は、井の頭線であり、地下鉄銀座線である。
つぎが新しい、東横線の地下駅だ。南北の縦軸は東急東横線であり、地下鉄副都心線だ。東西の横軸は、東急田園都市線であり、地下鉄半蔵門線である。
つまりは、JR系と東急系の交差ができて、それぞれが我を張っていることだ。交差、交点がずれてしまった。東急系は自社系列の田園都市線への乗り換えを優先して、位置をかつての駅よりも北へ動かした形になっている。よって二つの鉄道交差部の連絡が今までよりも却って不便になってしまった。地下鉄銀座線や井の頭線は置き去りにされた形である。
東急系の出入り口の呼称が「ヒカリエ口」だったことに気づいた。自社ブランドのお手盛り命名のように思える。JR口の方が親切であるように思うが…。
（四）
東横線旧駅はシートで覆われていた。これから改築、改造し、周辺建物の整備を進めていくようだ。
「渋谷のサグラダ・ファミリアだね」
スペインバルセロナ市に建築中の教会だ。建築家アントニ・ガウディの未完作品は作られ続けられている。完成までは三百年かかるといわれるものだ。
ある人がこれに例えて、渋谷駅の未来を評していたが、そうかもしれない。が、完成したときに人類はどうなっているのだろう？。
「もう、俺達も何年生きているか分からないからね、どうなってもいいけど」
東北沢６号踏切で、老年夫婦とここが廃止された翌日に話をした。ご主人はいささか投げやりな口調で言っていたのを思い出す。（上は、代官山駅の地下化部分）
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この記事へのコメント
6. Posted by きむらけん 2013年04月18日 21:29
[東北沢の構内踏切]
懐かしいの一言。やはり地表線はいい！。
懐かしいの一言。やはり地表線はいい！。
5. Posted by きむらたかし＠三田用水 2013年04月18日 21:12
[東北沢の構内踏切]
どこかで見たというか、写真をダウンロードした記憶から調べてみたら、ありました。
日本の名機・名車１００撰 小田急電鉄３０００系
http://hokuso-kashiwa.com/meiki/html-meiki-ac-08.html
小田原方から３両目の下が、件の構内踏切です。
旧東京ジャーミーの尖塔が写ってるし、なかながの名写真です。
東京ジャーミー、確か、当時は、タレントとして活躍してた、ロイ・ジェームスさんのお父上が、神官というか、住職というか、素人用語で一番正確にいえば筆頭聖職者だったと記憶してます。
どこかで見たというか、写真をダウンロードした記憶から調べてみたら、ありました。
日本の名機・名車１００撰 小田急電鉄３０００系
http://hokuso-kashiwa.com/meiki/html-meiki-ac-08.html
小田原方から３両目の下が、件の構内踏切です。
旧東京ジャーミーの尖塔が写ってるし、なかながの名写真です。
東京ジャーミー、確か、当時は、タレントとして活躍してた、ロイ・ジェームスさんのお父上が、神官というか、住職というか、素人用語で一番正確にいえば筆頭聖職者だったと記憶してます。
4. Posted by きむらたかし＠三田用水 2013年04月01日 22:55
［代々木上原４号踏切］
代々木上原から、下り方向４番目の踏切、つまりは、今回廃止となった代々木上原３号踏切から、旧・三田用水水路を挟んで西にあったのは、東北沢駅の上り側にあった駅舎内というか駅舎北端の改札口から下りホームに渡るいわゆる構内踏切ですね。
ところで、youtube で昨日偶然見つけた
「ロマンスカー さよなら走行会 1882年の記録!!!」
http://youtu.be/Hsp8l2ZY_Mg
さして内容に期待できないタイトルに反して、その19分ころから28分ころまで、なんと、3000系SE車の冷房化前の映像が！
参宮橋、代々木八幡に加え、東北沢通過時の後方画像もあるのですが、列車通過直後に３号踏切を大勢の人が渡っています。
おそらく、このモノクロ映像が撮影された昭和30年代半ばころ、この「駒場道」には、北は水道道路こと井の頭通りとの交差点から、東は駒場の航空研（現・先端研）の東まで、それなりの商店街があったせいか、昼間でも結構人通りがあったことがわかります。
代々木上原から、下り方向４番目の踏切、つまりは、今回廃止となった代々木上原３号踏切から、旧・三田用水水路を挟んで西にあったのは、東北沢駅の上り側にあった駅舎内というか駅舎北端の改札口から下りホームに渡るいわゆる構内踏切ですね。
ところで、youtube で昨日偶然見つけた
「ロマンスカー さよなら走行会 1882年の記録!!!」
http://youtu.be/Hsp8l2ZY_Mg
さして内容に期待できないタイトルに反して、その19分ころから28分ころまで、なんと、3000系SE車の冷房化前の映像が！
参宮橋、代々木八幡に加え、東北沢通過時の後方画像もあるのですが、列車通過直後に３号踏切を大勢の人が渡っています。
おそらく、このモノクロ映像が撮影された昭和30年代半ばころ、この「駒場道」には、北は水道道路こと井の頭通りとの交差点から、東は駒場の航空研（現・先端研）の東まで、それなりの商店街があったせいか、昼間でも結構人通りがあったことがわかります。
3. Posted by きむらけん 2013年04月01日 15:25
［代々木上原４号踏切］
送ってきてくださったS41年目黒区住宅地図見ていて、代々木上原３号踏切の西側に４号踏切があったのですね。そして、いわゆる東北沢の急行通過線も延伸されていたのだと今頃になって気づきました。
代々木上原３号と４号の線路そいに「東北沢荘」というアパートがありました。二階の１号室の住人、ちゃぶ台においたビール瓶の揺れ方で、デハ１６００系は分かったもんだ…
送ってきてくださったS41年目黒区住宅地図見ていて、代々木上原３号踏切の西側に４号踏切があったのですね。そして、いわゆる東北沢の急行通過線も延伸されていたのだと今頃になって気づきました。
代々木上原３号と４号の線路そいに「東北沢荘」というアパートがありました。二階の１号室の住人、ちゃぶ台においたビール瓶の揺れ方で、デハ１６００系は分かったもんだ…
2. Posted by きむらたかし＠三田用水 2013年03月31日 09:51
［小田急初期ダイヤ・補遺］
件のダイヤを子細にみると…
小田原行きは「直通列車」と呼んでいたようです。
この直通列車は、新宿・稲田登戸間無停車ではなく、経堂には停車。
所要時間は、新宿・経堂間１３分、新宿・小田原間８２．５分
件のダイヤを子細にみると…
小田原行きは「直通列車」と呼んでいたようです。
この直通列車は、新宿・稲田登戸間無停車ではなく、経堂には停車。
所要時間は、新宿・経堂間１３分、新宿・小田原間８２．５分
1. Posted by きむらたかし＠三田用水 2013年03月31日 07:29
［小田急初期ダイヤ］
鉄道ピクトリアル アーカイブスセレクション１
小田急電鉄１９５０〜６０ p.43
に、坂戸直輝氏所蔵の「１９２７（昭和２）念４月 開業時の列車ダイヤ」の一部（略午前６時５０分〜１０時）が掲載されています。
これによると、昨日話題になった、新宿・下北沢間の所要時間は、東北沢での小田原行き（こちらは４０分間隔、稲田登戸−現・向ヶ丘遊園−まで無停車）の
・退避有で、１８分
・退避無で、１３分
となっております。
鉄道ピクトリアル アーカイブスセレクション１
小田急電鉄１９５０〜６０ p.43
に、坂戸直輝氏所蔵の「１９２７（昭和２）念４月 開業時の列車ダイヤ」の一部（略午前６時５０分〜１０時）が掲載されています。
これによると、昨日話題になった、新宿・下北沢間の所要時間は、東北沢での小田原行き（こちらは４０分間隔、稲田登戸−現・向ヶ丘遊園−まで無停車）の
・退避有で、１８分
・退避無で、１３分
となっております。
