2013年03月29日
下北沢Ｘ新聞(2289)〜「ラジオ深夜便」静かで深い反響２〜
（一）
あの戦争から６８年、風化は避けられない。が、人は年老いても今もなおあのときの辛さを覚えている。電話口で話をした人は皆老齢だ。ラジオ放送を聴いて、思いを伝えたいと考えた人である。局に電話して、事情を話して、そしてようやくこちらへという段取りだ。「満州から引き揚げて参りましてね、女ばかりだったのですよ。どんなに心細かったか、親がよく言うのですね、あのままだと残留孤児になるところだったのよと……」
神戸から電話をかけて来られた女性は、引き揚げの苦悩を長々と語られた。
「終戦の時には因島にいました。船から降ろしたドラム缶を岩穴に運んで、ここに隠すのですけどね……本土決戦に備えてでしょう…」
これは男の人だ。
放送は特攻兵の話だったことから、飛行場での目撃談多い。そんなところに飛行場があったのかと思う名が挙げられる。
ネットで調べると、出てくる。終戦末期になってにわかに作られた飛行場である。一帯の人びとが、大勢勤労奉仕に駆り出されている。しかし、これは日本人だけではない。八日市飛行場で掩体壕を作った人が電話をかけてきたことから、調べてみた。すると、「戦中に行われた飛行場の拡張工事には朝鮮人も用いられた。」とあった。
飛行場作業のなかでも、まったく家に帰ることのできない若者たちがいた。それは日本に強制的に連れてこられた朝鮮人たちであった。彼らはほぼ五百名。飛行場建設の最初から敗戦まで、もっとも苛酷な労働をさせられた。宿舎はバラックの貧弱なもので、冬は北アルプスから吹きおろしてくる寒風にさらされていた。だが、まったく火の気もなく、食糧も非常に少なく力尽きて倒れる人が続出するというありさまだった。
『私の信州物語』熊井啓 岩波現代文庫 ２０１０年刊
これは陸軍松本飛行場のことである。熊井啓監督は松本中学時代の動員経験を語っている。先月、この同期の人が飛行場でつぶさに見たことを送ってこられた。赤トンボでの特攻出撃をされた様子など、子細に書いて送ってくださった。
（二）
戦時経験は事実を赤裸々にする。戦争物ノンフィクションを手がけていると、そういうふうになってくる。「語ってこそ伝わる」と思いこんで、人の口をこじ開けようとする。しかし、語りたくない人もいる。私の取材経験では、とくには被爆経験である。口をつぐんで語らない。一つは、被爆したことを明かすと自分だけではなく、孫子にまで悪い影響を及ぼすということがある。もう一つは、原爆での惨状あまりにも酷い、あの地獄は語ろうにも語れないという場合もある。私は、たまたま後者の人から、六十数年口外しなかったことをつぶさに聞いたことがある。地獄絵図の凄まじさは表現のしようがないと思った。
今回、私は、全般的な戦争経験ではなく、一地域に限っての戦争経験の情報を伝えてほしいと訴えた。昨日は、その一つが手紙に書かれて届いた。これは長野県安曇野市在住の方である。「軍国主義時代に育った私も軍人に身をおいた当時のつらさをはっきりと覚えて」いると書かれていた。しかし、末尾に「恥をしのんでお便りした次第」と書かれていた。６８年という時が経過しても傷は全く癒えていないのだと思った。
（三）
戦争は知れば知るほど苛酷であり、悲惨であり、理不尽であることが分かってくる。人間一箇の生存など紙切れ同然だった。
特攻隊員は、一機一艦必沈を命じられた。しかし、これは選ばれた特攻隊員だけではない。昭和二十年、壮健なものは国民義勇戦闘隊に組み入れられる。この場合は「一人十殺」である。女も竹槍訓練をさせられる。戦争末期においてはもう何も見えなくなっていた。指導者は、戯画的な戦争をしていた。いえば人などどうでもよい。機械の部品どころか、ゴミ同然だった。あまりにもお粗末な戦争だった。とはいうもののあの戦争をもう忘れかけている。
ラジオ放送での発信を通して、私は、戦争というものをまた改めて知った。
（四）
戦争の記憶を知らせる電話も、ひきもきらない。今日は、長野県篠ノ井の高女生だった人からの電話があった。名古屋の軍需工場に戦時動員されていた方だ。
私の現今の取材とは直接関わらないが、こういうのもうち捨ててはおけない。
「ネット掲載でもいいでしょうか？」
この問いに、構わないとのこと。当ブログ、東京荏原都市物語資料館は戦争証言を数多く載せている。できる範囲でのデジタル供用を試みたいと思った。
もうお一方、佐野繁さんからは一時間に亘って聞き取りをした。記録にない特攻出撃のようだ。これはできれば記事として収載したい。
「これで安心して死ねる」と言われた。
（大刀洗平和平和記念館）
戦時経験は事実を赤裸々にする。戦争物ノンフィクションを手がけていると、そういうふうになってくる。「語ってこそ伝わる」と思いこんで、人の口をこじ開けようとする。しかし、語りたくない人もいる。私の取材経験では、とくには被爆経験である。口をつぐんで語らない。一つは、被爆したことを明かすと自分だけではなく、孫子にまで悪い影響を及ぼすということがある。もう一つは、原爆での惨状あまりにも酷い、あの地獄は語ろうにも語れないという場合もある。私は、たまたま後者の人から、六十数年口外しなかったことをつぶさに聞いたことがある。地獄絵図の凄まじさは表現のしようがないと思った。
今回、私は、全般的な戦争経験ではなく、一地域に限っての戦争経験の情報を伝えてほしいと訴えた。昨日は、その一つが手紙に書かれて届いた。これは長野県安曇野市在住の方である。「軍国主義時代に育った私も軍人に身をおいた当時のつらさをはっきりと覚えて」いると書かれていた。しかし、末尾に「恥をしのんでお便りした次第」と書かれていた。６８年という時が経過しても傷は全く癒えていないのだと思った。
（三）
戦争は知れば知るほど苛酷であり、悲惨であり、理不尽であることが分かってくる。人間一箇の生存など紙切れ同然だった。
特攻隊員は、一機一艦必沈を命じられた。しかし、これは選ばれた特攻隊員だけではない。昭和二十年、壮健なものは国民義勇戦闘隊に組み入れられる。この場合は「一人十殺」である。女も竹槍訓練をさせられる。戦争末期においてはもう何も見えなくなっていた。指導者は、戯画的な戦争をしていた。いえば人などどうでもよい。機械の部品どころか、ゴミ同然だった。あまりにもお粗末な戦争だった。とはいうもののあの戦争をもう忘れかけている。
ラジオ放送での発信を通して、私は、戦争というものをまた改めて知った。
（四）
戦争の記憶を知らせる電話も、ひきもきらない。今日は、長野県篠ノ井の高女生だった人からの電話があった。名古屋の軍需工場に戦時動員されていた方だ。
私の現今の取材とは直接関わらないが、こういうのもうち捨ててはおけない。
「ネット掲載でもいいでしょうか？」
この問いに、構わないとのこと。当ブログ、東京荏原都市物語資料館は戦争証言を数多く載せている。できる範囲でのデジタル供用を試みたいと思った。
もうお一方、佐野繁さんからは一時間に亘って聞き取りをした。記録にない特攻出撃のようだ。これはできれば記事として収載したい。
「これで安心して死ねる」と言われた。
（大刀洗平和平和記念館）
