2013年03月31日
下北沢Ｘ新聞(2290)〜桜祭り、街談義＆都市談義〜
（一）
「踏切がなくなって、時間にめりはりがなくなりました。何かがすぽっと抜けたような感じがして……」と米澤邦頼さん。
「しかしね、あれは恐ろしいものだね。ついこの間まで、銀色に輝いていた線路がたちまちに錆び付いて黒くなっていくんだからね」と金子善幸さん。
昨日、代沢小安吾文学碑の前で「下北沢文士町文化地図」第五版を道行く人に会の仲間と配った。毎年恒例の行事である。しかし、花見ができる最後の週末だったが、冷え込みが厳しく、人通りはかなり少なかった。
「３月２２日は、小田急の地上線運行の最後で沿線に人が大勢いたのですよ。そういう人に『下北沢文士町文化地図』あげたら、これが人気だったんですよ。『代田連絡線』も載っていますよと言ったら、『え！』っと驚いて、集まっていた人が次々に手をだすんですよ。たちまちに９０部ぐらいがなくなってしまいましたね。おまけに、代田連絡線の跡を何人か案内しましたよ。『え、ここか？、こんなとこか？』って驚いていましたよ」
これも米澤邦頼さんの話だ。
「踏切もなくなってみると寂しいものです。踏切も遠くなりました。小田急も代々木八幡あたりまで行かないと見られない…」
「そういえば、うちの近くの東横線にはまだあるよ。ええっと幾つだ？。都立大１号、２号、３号、そして亀屋万年堂近くの４号、まだ四つもあるよ。踏切に立っていると、埼玉方面から横浜に向かうおばさんの顔が見えて、顔に中華、中華って書いてあるんだよ…」
そんな冗談を私は言った。
「それはうらやましいですね！」
踏切のことを書いていて、ふと思い出したことがある。家の近くの鉄道交差駅は自由が丘だ。東横線と大井町線とがX状にクロスしている。ここには今もなお踏切がたくさんある。そうだった。自由が丘は踏切の街だった！。下北沢には踏切がない。（井の頭線にはあるが）踏切が無くなって寂しい思いをしている人が少なくない。そういう人はここにくれば気持ちが落ち着くかもしれない。
街の魅力、踏切のあるなしで、集客の差別化ができる？、よくは分からないが発想は面白い。
（二）
東横線の地下化、そして下北沢の地下化、この春の激変だ。このことについて、私にある人がメールをくれた。
特別に踏切に思い入れがあったわけではないのですが、いまだに渋谷に出るのをためらい、下北沢・東北沢・代田の駅にも行きたくない。できるだけ、今までとちがった姿の場所を歩きたくない、という抵抗感の中で、どうしても行かなければいけないところを別ルートで行く形を探している自分に困惑しています。
それでも、昨日は下北沢の銀行まで行く必要性があり、オオゼキの脇の踏切を通りました。今までならば、いつも人溜りが出来ていて踏切のカンカンいう音があって、やっと開いた踏切を渡るざわめきがあって、こっち（オオゼキ側）から駅前市場に入っていく一種隠微な闇市の名残街区に入るときめきがあったのに、なんだか間が抜けた通路、緊張感のない堕落した空間、どうしようもない後味の悪さ的な場所になっていると感じました。
この踏切のない空間しか知らずに育つ若い人は、広がっただらしなさは感じることもなく、解放された新しい場所となるのだと思いますが。
下北沢駅前市場の中の貝屋さんのおばさんに「つまんなくなったね」といったら「便利になったよ、待たなくていいもの」。お客さんの流れは増えたけれど、オオゼキにいく人は通り抜けるだけ、ピーコックに行く人はもとからお客さんだからあんまり変わらない、そうです。買い物客は増えたわけではないようです。
人溜りがあって、解放されて散っていく万華鏡的な動きがあって、だから街は面白かったんですよね。24時間、同じ速度でしかない街はだらしない街になってしまうのだろうか、ズルズルした片隅でズルズルした腐敗が生まれていく。
こうなると早く跡地整備をしてもらって、駅構内はスムーズな動線整備をしてもらうしかありません。
これは都市論である。街中における人の万華鏡的な動きというのは批評語として巧い。人びとの雑多な動きこそが活力である。踏切によって止められ、そこに溜まり、やがて三々五々人がそれぞれに向かう。遮断した踏切が一定の緊張を生んでいた。ところがそれがなくなって、めりはりがなくなった。
（三）
一方、渋谷地下化も不評だ。東横線が地下鉄直通となったとたん、カルチャーショックが襲った。これまでは行き先表示が全て渋谷だ。それが、こつ然と変わった。飯能、小手指、保谷、石神井公園など、行き先が読めないと行き先もくらい。
「ほたに？ほや、なにこれ、わかんない……」
都立大学駅にやってきた電車をみて若い女の子が言っていた。
新地下駅、わかりにくい、狭い、階段がきつい、評価する声は聞かれない。
「渋谷駅再開発でどんどん高層ビルを建てるっていうけど、これ以上便利にしてどうなるっていうの？」
何人もの人から聞いた感想だ。
多くの人から街について聞いた。自分が思っていた街とはかけ離れた街にどんどんなっていく。街というものへのイメージが崩壊しつつある。未来へ対する不安がある。
東北大震災、そしてこれに伴う原発事故、私たちは、このことを通してはっきりと知った。私たちがターニングポイントに来ていることを。資源の枯渇や払底である。そしてまた地球温暖化も深刻である。経済も紙幣という紙切れが舞っている。
急速な成長や進歩は、その速度を緩めなくてはならない時代になっている。ところが、このことが顧慮されることなく、破壊と建設が今まで通りに進んでいる。そういう動きに今私たちは大きな不安を感じはじめている。
（写真、一、代沢小安吾文学碑前で配布活動。二、２２日夜、世田谷代田一号踏切、三、地図の配布活動仲間での記念写真。四、２２日夜小田急世田谷代田１号踏切。一のみきむら、後は、米澤邦頼さん提供）
