2013年04月03日
下北沢Ｘ新聞(2292)〜消滅踏切、現役踏切比較論〜
（一）
遮断機が下りると人は押しとどめられる。電車が通過すると棒がぱんと跳ね上がり、人はそれぞれに踏切を渡っていく。ところが、小田急地下化によって、地表にあった踏切群が一気に消滅してしまった。当局は、除去したという。邪魔者は消し去られた。
しかし、特に、東北沢６号、下北沢逆１踏切あたりは間が抜けてしまった。何ともいいようのない空白が辺りに漂っている。心棒が欠落してしまったような印象だ。
私の仲間が踏切を評して言った。「人溜りがあって、解放されて散っていく万華鏡的な動きがあって、だから街は面白かったんですよね。」と。だれもかれもが遮断機で押しとどめられる。あの溜まりも、何か卑猥であったり、色っぽかったりもした。若い男女が接近する場であった。香水のにおいもした。じいさんも、ばあさんも、人ごみに押されることなく、ここでは腰に手を当てて休めた。
待っている者は一様な用事を抱えているわけではない。踏切向こうの歯科医に、美容院に、アジアン料理店へ…、目的は雑多だ。そして、踏切がぽんと空くと、人はそれぞれに散っていく。「なんだピンクのセーター着た彼女、そっちへ行くのか？」と彼女に目をつけていた男はがっかりする。黒は、あっち、白は向こう、紫はもどる。まさに「万華鏡的な動き」である。
人を押しとどめて、そして、解放する。秩序がある。規則がある。が、人間のたまりは卑猥である。期せずしてお祭りの場ともなる。中にはステップを踏むものもいた。
踏切は、街を区画していたものだ。障害物ではあった。が、それが溜であり、溜まりであった。機械的なものではあるが、そこには人間臭さが漂っていた。
今朝、メールを開けたら、仲間の米澤邦頼さんからこんな便りが来ていた。
昨夜、９時過ぎに自転車に乗って小田急閉鎖９踏切を回りました。下北沢は人の往来はあるものの、無人で真っ暗な下北沢の地上駅をみると、終電後の時間帯だと勘違いしてしまいます。
（二）
「私の家の近くには、踏切はまだ幾らでもあるよ」
「うらやましいっすね！」
こう言ったのは米澤邦頼さんだ。
灯台下暗し、私の居住区は自由が丘に近い。買い物にはよく行く。踏切のことはもちろん知っているが、あまり気にしていなかった。が、他人に指摘されるとわかる。この自由が丘は踏切の街だった。
昨日、雨の中、踏切群を辿った。都立大学駅から自由が丘の間には五つも踏切がある。呑川と九品仏川とに挟まれた台地ゆえに高架化されずに残っている。
都立大学２号踏切で電車が通るのを待つ。警報器が鳴る。くわんくわんくわん、これも懐かしいものだ。東横線も地下鉄への乗り入れ以来、車両が多様化した。各社入り乱れての乗り入れである。早くから試験走行は始まっていた。
各社の電車、仕様が異なる。とくにはブレーキの効き方が違う。固かったり、柔らかかったりする。それへの習熟が大変だったようだ。
東急東横線はJR湘南新宿ラインとの競合である。都立大と自由が丘との間は、起伏が激しい。が、この区間、電車は高速で走っていく。カーブや傾斜もあるところから撮影好適地とされていて休みにはファンの姿を見ることが多い。
（三）
踏切としては都立大３号踏切がよい。ここには古道が走っている。東へ行くと、すぐに
長昌山立源寺がある。さらに行くと大きな長屋門、下って川を渡り、上りになるがそれは鉄飛坂だ。
踏切へは自由が丘から急勾配で登っている。２５パーミルだ。ここから自由が丘駅がのぞきみえる。自分の感覚からすると、ここは東北沢２号踏切だ。下北沢駅が俯瞰できた。
現役踏切を渡ってみた。消滅踏切の線路の踏み面はとたんに錆びていく、ところが現役踏切のそれは銀色に輝いている。殺気を帯びている。これこそが街の緊張ではなかったか。
自由が丘に着いた。ここは鉄道Xの街だ。線路によって地域が区画されている。移動して他に行く場合は、踏切を渡る。大井町線自由が丘１号踏切はほどよく人の通行を遮断する。くわんくわんくわんと警報器、が、最大編成六両はそんなには長くは行く手をふさがない……。
（上、都立大学３号踏切、下、自由が丘駅を俯瞰する）
