2013年04月18日
下北沢Ｘ新聞(2302)〜小田急廃線跡の踏切をさすらう３〜
（一）地下化した小田急地表線、この線沿いに戦争の歴史が幾つも眠っている。ところが、負けた戦争は日の目にさらされない。これもどんどん消えて行きつつある。
先だってまだ踏切が生きているときのツアーでは、東北沢３号踏切のところで一人の女性に会った。空襲時には、小田急の線路を避難場所にしたという。近隣が焼けてもここを伝われば逃げられる。それと、大型爆撃B29の飛行状況がつぶさに眺められたからだ。
下北沢２号踏切と３号踏切の間は築堤になっている。敵機観望地点である。昭和１９年１２月２７日、一色次郎はついにここの上に立った。
私は、一人で小田急の土手に上がった。何一つさえぎるものもなく、四方の空が頭上にひらけた。ここへ上がれば、よく見えることは、分かっていたが、こわくて、これまでどうしても行けなかった場所である。（『日本空襲記』文和書房）
この一色次郎は、この土手の下にあった静仙閣アパートに住んでいた。ここからは築堤を走る小田急電車の音がよく聞こえた。が、この音とて怖い。「電車が通りすぎるたびに、体中の皮膚がビリビリ痙攣する。」と書いている。平和な生活をしている我々には想像もつかないことだ。理由は次のように明かされる。
電車のスパークや警笛については、新聞の投書欄に苦情が出ていたが、どうしてこんなにも、爆弾の閃光や、警報のサイレンに似ているのだろう。その音が聞こえ始める。心臓が疼くほどに縮こまる。電車の警笛だとわかるまで、ホンの一秒、あるいは二秒だ。その間が苦しい。気がどうにかなってしまいそうなほど苦しい。（同著）
昭和二十年の戦争の末期にあって、東京に居住していた者は、いつB29が来て、焼夷弾や爆弾をいつ落とされるかわからない。日々そんな恐怖に脅えて暮らしていた。
戦争になると常に生命が脅かされる。その恐怖は表現のしようがない。が、平和になるとそれは忘れ去られる。
（二）
下北沢２号踏切と３号踏切の北側に静泉閣があった。伝説のアパートだ。一色次郎はここに住んでいて、往事のことを克明に日記に記している。
静仙閣アパートは、西がわを小田急の土手に区切られた窪地に建っている。一号館と二号館とがあって、どちらも土手に対してほとんどT字形建っている。私たちは二号館に住んでいる。上の一号館は、女子挺身隊の寮に徴発されている。女学生の工員である。坂をのぼって、この一号館の前を右へ折れるとすぐ踏切がある。
この踏切は、小田急下北沢３号踏切である。この当時、ここには踏切番の小屋があり、皆、ここの小父さんに運行情報を聞いていた。
この記述は、昭和十九年十二月一日のものだ。彼は、線路に近い窪地側のアパートに住んでいた。翌年、三月十日、東京大空襲があった。それで、三月二十日、「管理人から、強制疎開の立退きを宣告される。私鉄の線路に隣接しているので、第六次強制疎開に該当した」からである。
静泉閣は、高級アパートだった。とくには一号館には著名な人びとが住んでいた。が、この時期になって、ここは「女子挺身隊の寮として徴発」されていた。具体的には「一号館は、住友通信機製作所の女子挺身隊の寮」として使われていた。
「静仙閣の東どなりには確か日本電気の寮があったんだけど、そこに入りきれなくて女子がそのアパートに入っていたよ。女子挺身隊だね」
前に地元の人から聞いた話である。今その日本電気は、NEC企業年金基金会館となっている。
（三）
住友通信機は、大戦期は陸軍の無線機を一手に引き受けて作っていた。ここに動員されていた女子挺身隊員が宿舎として使っていたと思われる。
工場に通っていたはずだ。それはどこなのだろうか？。小田急線で行ったのか、帝都線でいったのか気になるところだ。
調べると、住友通信機は玉川向工場があった。川崎市中原区 下沼部字玉川向である。最寄り駅は武蔵小杉だ。すると帝都線、東横線を使って行ったのか？。
「帝都線下北沢では一番後ろの扉に乗るでしょう。いっつもその人が乗っていて、私をちらちら見るのよ。一高前で降りるのね…」
女子挺身隊員にもそういう恋話があったように思うが…。（上は、下北沢３号、２１３、３、２４日、まだ生きていた。下は、下北沢２号踏切から見た廃線築堤）
〇写真をアップして気づいた。３号踏切のところに信号機、これをマニアが１０万円で売ってくれと言ったようだ。
