2013年04月21日
下北沢Ｘ新聞(2304)〜小田急廃線跡の踏切をさすらう５〜
（一）
時間は、刻一刻と過ぎていく。その土地に存在したもの、その土地で起こったことは歴史の闇に呑み込まれて全てが消えてしまう。歴史を覚えている樹木や石碑は心して残していくべきだ。そうでないと私たちがどう生きて来たか。全部が消し去られる。
なぜ人は生きているのか？、というよりも、なぜ自分がこの世に生まれて、今にいるのだろうというのは本当に不思議なことである。生まれなければ自分の意識はない。が、生まれたから存在する。通学路に桜あった。通勤路に地蔵尊があった。その記憶を記録していって過去を知ることができる。
下北沢３号踏切脇の老桜樹が児童たちの嘆願で残ったことは特筆すべきことだ。踏切地蔵尊も地域の歴史を刻んできたものだ。地域文化遺産である。
小田急地表線がなくなるとともに歴史も消え去って行こうとしている。が、かろうじて桜が残ったり、また、反対に埋もれていたものが新たに日の目をみたりする場合もある。
「世田谷代田駅前広場ワークショップ整備案」がネット上に公開されている。その整備コンセプトは素晴らしくよい。土地の文化に根ざしているからだ。個人的には「むら」ではなく、「まち」であるほうがよい。武蔵野の都鄙の境、田舎でなく町に軸足を置いたところであるからだ。
おだやかな歴史が日常になるむら〜富士山が見えるダイダラボッチの駅前広場〜
世田谷代田の固有性は、富士の展望がよいこと、ダイダラボッチ伝説の中心地であることだ。それが今回の駅前広場づくりに生かされようとしている。
駅を出たとたんにダイダラボッチ像が目に入る。インパクトのあるものだ。このダイダラボッチ像の建立をと私たちは主張していた。が、巨像を作る予算はなくて「広場の舗装面にダイダラボッチの足跡」を作ることにしたようだ。
昨日街歩きをした。日暮里駅で集合をしたとき世田谷代田駅から電車に乗った人が二人きた。「百六段の階段を下りていくのですが、目が回りそうでした」と。小田急地下化でこの駅は大深度地下駅になった。ホームに辿り着くまで五分もかかる。不便になった。
マイナスを生かすしか方法はない。逆転の発想だ。大深度地下駅は大高度伝説駅とする。巨人ダイダラボッチの足は、これを象徴するものだ。降りたとたん、足跡があって、「一体これは、何なのだ！」というインパクトはほしいものである。
（二）
下北沢２号踏切脇の「をまもり地蔵尊」、これを踏切地蔵と呼んでいる。
碑文 をまもり地蔵尊
近來交通事故ニ依リ不慮ノ災害ニ斃レシ人多キ中ニモ當北澤一丁目千百廿五番地居住ノ小關小三郎氏ノ長女美禰子嬢竝次男清君ハ偶然ニモ同一箇所ニテ不幸犠牲トナリ両親ノ悲嘆見ルニ忍ビザルモノアリ仍テ我等相謀リ二兒ノ靈ヲ弔フト共ニ此ノ附近ノ踏切ニ於テ犠牲トナリタル人々ノ靈ヲモ併セ供養シ今後ノ災害ヲ防ギ遺族一同ヲ慰メン為一万五千余名ノ賛同ヲ得テ茲ニをまもり地蔵尊ヲ庶クハ諸靈來 餐ケヨ
發起人一同 昭和十一年七月
地蔵尊に彫られている文字である。地域の歴史がきちんと刻まれている。昭和十一年時おいて当地踏切での死傷事故が多発するようになった。昭和八年に帝都線が開通し、下北沢は鉄道がクロスする街となった。これにともなって一帯の宅地が開発され、ここに子どものいる所帯がつぎつぎに増えていった。ところが踏切に対する安全策は講じていなかった。踏切は自己責任で渡れということで、遮断機などはついていなかった。
当時の親のしつけは、踏切の向こうに行くなだった。しかし向こう世界にいかないでは済まされない。記録にあるとおり、古関家の姉と弟が七月に続けてなくなった。
（三）
碑文には四人の名が刻んである。そのうち二人は、古関家の姉と弟だ。
小関美禰子 同七年七月十五日歿於鎌倉通 踏切 行年十三才
小関 清 同十年七月二十一日歿於同 右 行年十才
代沢小の小関君は、夏休みに入ってマモリヤマ公園で始まったラジオ体操に参加した。帰りに自転車にまたがった。帝都線下北沢一号踏切を越えると、急坂だ。ブレーキをかけずにここを駆け下りる。そして鍵形になった小田急３号踏切の土手へと駆け上がる。踏切に入ったとたん上り電車がやってきて轢かれてなくなった。家の前にはぐしゃぐしゃになった自転車がしばらくの間置いてあったという。
よりによって二人の子どもがなくなるなんて、子を持つ親にとっては親の気持ちはよくわかる。当時、昭和十年、大勢の賛同者があってこの地蔵尊は建立された。
小田急下北沢２号踏切はなくなった。地蔵尊も今一つ元気がないように思える。が、神は祈ってこそ存在し続ける。踏切がなくなっても、子どもが事故に遭うことなく成長してほしいと思うのはずっと続いていくものだ。
碑文は結んでいる。私たちはお守り地蔵尊をこうして建立した。願わくば行き所なくさまよっている皆々の霊よ、どうかここに集まって寛ぐようにしてください、と言っているのだろうか？。
地域の歴史を刻んだこれは、小田急地表線の歴史としてずっと残してほしいと切に願うものだ。
（上、をまもり地蔵尊碑文、下、撤去される地表線の軌道）
〇第８３回都市物語を歩く
・昨日実施し、ナビゲーターに原敏彦講師を迎えての墓巡りをした。無事に終わったが当日１６名と参加者も多く、資料が足りなくなった。その場で、遅くとも三日前までには予約を入れること。原則を作った。これからはぜひそうしてほしい。
当日雨で回りきれなかった。それで、谷中歩き第三回を十一月第二週に再度実施することにした。私設寺院は見学者を好まないことがわかった。掃苔ツアーをする場合、死者への敬意をもって歩くこと、それを認識した会だった。墓歩きは本番ツアーでは不向きだということを認識した。
・六月の第三週は１５日ではないかという指摘があって、２２からこの日に移す。笹塚で福寿のラーメンを食べることになっているが、やっていなくても去年行ったところでもいいということで期日、集合時間はそのまま。
・九月第二週土曜日は、会報に１２日とあったが、１４日の間違いだった。
