2013年04月24日
下北沢Ｘ新聞(2306)〜文学と汽車と墓地２〜
（一）
日々のどきどき感をどう持つのか。生きていく私たちの課題である。子規庵一帯は鶯谷のラブホテル街だ。そこの一つからひょいと中年のアベックがでてきて歩いて行く、こういう子光景をみてもどきどきする。時間からするとご休憩だったんだとか…、どんな関係なんだろうとか想像が湧いてくる、女は一歩さがってゆっくりと歩いて行く。
「ほらほら、あの路地奥に線が見えますよ。日本鉄道だったところですね」
同行の人が教えてくれる。正岡子規の寝床と鉄道線路との距離が分かる。思っていた以上に近い。
子規庵では坐って案内テレビを見た。終わってひょいと見ると「終焉の間」にいた。四季の寝床のすぐ側だ。「へちま咲いて たんのつまりし 仏かな」書いて、ころんと死んでしまったところだ。これにもどきっとした。
「終焉の間と書いてあるけど、ここって戦災で燃えたんだよね。」
往事のままでなかったことに安堵した。空間だけがその場だったというのはリアリティがない。
子規作品の中で『夏の夜の音』が一番好きだ。彼自身は病床にあって動けない。が、五官は鋭敏である。音を、臭いを、風を肌に感じている。その中で中心となるのは、近くを通る汽車の音である。
この場所に興味が惹かれる。上野の山を抱いた懐にある。山の根にあって、川に向かって岸になる。根岸の里である。静寂の地、温暖の地、隠居人が住んで和歌をたしなむ。
明治１６年に日本鉄道が開通した。根岸の里にも近代が押し寄せてきた。が、時が経ってみると汽車の音は一つの風景になっていた。
南へ一町ばかり隔てたる日本鉄道の汽車は衆声を圧して囂々と通り過ぎた。
『夏の夜の音』の一節だ。子規は汽車の音を一心に聞いている。
（二）
「文学の中の汽車を考えるときに標準線というのは北原白秋に求められます。なぜか、彼は汽車の音をカダンスと形容しているからです。耳にいい音楽として聞こえるということですね……これを基準線と考えてこれより上にくるか、下にくるかで汽車の許容度がちがってきます…」
「上にくるのは、汽車を目に入れてもいたくないというほどの人です。だから文句無く内田百�里覆鵑�はいりますね。宮澤賢治なんか入るでしょう。
「漱石は、入りませんね、汽車を嫌っていますから…
このときに田村さんが言った。
「国語の先生が生徒に聞いたのですよ。文学の作者で好きなひとは？と。大体ほとんどが漱石だとか鴎外だとか言っていました。独りだけ内田百�里�好きだというやつがいました。こいつは秀才でね…」
（三）
今回、もう独りの詩歌人の墓を訪ねた。立原道造である。彼の場合は、カダンスの上に入るだろう。次の一節を読んだだけでもわかる。
豊岡で山陰線に乗り換えたばかりだ。……汽車はいくつものトンネルをとほつて海の方へ行こうとしてゐる。やがて日本海が見え始めるだろう。ちいさなプレリュードのやうに天橋立のあたりで日本海が見えはじめるだらう。
立原道造全集 第五巻 角川書店
「日本的なものを目ざしていた子規にとって汽車はどんな意味があるのですか？」
「根幹のところは『鉄道は風雅の敵』と言っていますから、批評的であったでしょう。が、しかし、彼は身体が弱かった。旅をするにしても汽車の恩恵を受ける。受けなければ旅はできなかったと思います…汽車への郷愁は強かったと思います…」
漱石と子規、汽車への身の置き方が違う。そこが興味深い。
「文学の中の汽車を考えるときに標準線というのは北原白秋に求められます。なぜか、彼は汽車の音をカダンスと形容しているからです。耳にいい音楽として聞こえるということですね……これを基準線と考えてこれより上にくるか、下にくるかで汽車の許容度がちがってきます…」
「上にくるのは、汽車を目に入れてもいたくないというほどの人です。だから文句無く内田百�里覆鵑�はいりますね。宮澤賢治なんか入るでしょう。
「漱石は、入りませんね、汽車を嫌っていますから…
このときに田村さんが言った。
「国語の先生が生徒に聞いたのですよ。文学の作者で好きなひとは？と。大体ほとんどが漱石だとか鴎外だとか言っていました。独りだけ内田百�里�好きだというやつがいました。こいつは秀才でね…」
（三）
今回、もう独りの詩歌人の墓を訪ねた。立原道造である。彼の場合は、カダンスの上に入るだろう。次の一節を読んだだけでもわかる。
豊岡で山陰線に乗り換えたばかりだ。……汽車はいくつものトンネルをとほつて海の方へ行こうとしてゐる。やがて日本海が見え始めるだろう。ちいさなプレリュードのやうに天橋立のあたりで日本海が見えはじめるだらう。
立原道造全集 第五巻 角川書店
「日本的なものを目ざしていた子規にとって汽車はどんな意味があるのですか？」
「根幹のところは『鉄道は風雅の敵』と言っていますから、批評的であったでしょう。が、しかし、彼は身体が弱かった。旅をするにしても汽車の恩恵を受ける。受けなければ旅はできなかったと思います…汽車への郷愁は強かったと思います…」
漱石と子規、汽車への身の置き方が違う。そこが興味深い。
トラックバックURL
この記事へのコメント
2. Posted by きむらたかし＠三田用水 2013年04月26日 00:47
［子規庵レプリカの建築写真］
子規庵保存会のHP
http://www.shikian.or.jp
中、「戦後の子規庵の様子」
http://www.shikian.or.jp/sikian1-3.htm
では、現在表示されないのですが、
ここ
http://web.archive.org/web/20040212084538/http://www.shikian.or.jp/image_a.jpg
にアーカイブされていました。
子規庵保存会のHP
http://www.shikian.or.jp
中、「戦後の子規庵の様子」
http://www.shikian.or.jp/sikian1-3.htm
では、現在表示されないのですが、
ここ
http://web.archive.org/web/20040212084538/http://www.shikian.or.jp/image_a.jpg
にアーカイブされていました。
1. Posted by きむらたかし＠三田用水 2013年04月25日 00:26
［子規庵レプリカ］
参加者の皆様、寒中＋雨中お疲れ様でした。
週を間違え、１３日午後１時に日暮里駅に一人で「集合」してしまい、折角来たのだからと、先行して、羽二重団子、子規庵、芋坂、谷中墓地と巡ってきました。
子規庵に着いた時には、幸い、先客がおらず、ゆっくりと建物を観察できたのですが、加賀１００万石の、２軒続きの今で言えば「テラスハウス」ですので中級武士の役宅のはずなのには、天井の竿縁などが妙に貧相で、違和感を感じたのですが、なるほど、戦後のレプリカとわかり、疑問が氷解しました。
なお、羽二重団子、お店にあった解説を読むと、岡倉天心も、ここで団子を肴に、気持ちよく酔っていた由。まぁ、美術学校が目と鼻ですので、さもありなん。次回は、是非、庭の縁台で天心してみたいと思います。醤油団子と麦酒で。
参加者の皆様、寒中＋雨中お疲れ様でした。
週を間違え、１３日午後１時に日暮里駅に一人で「集合」してしまい、折角来たのだからと、先行して、羽二重団子、子規庵、芋坂、谷中墓地と巡ってきました。
子規庵に着いた時には、幸い、先客がおらず、ゆっくりと建物を観察できたのですが、加賀１００万石の、２軒続きの今で言えば「テラスハウス」ですので中級武士の役宅のはずなのには、天井の竿縁などが妙に貧相で、違和感を感じたのですが、なるほど、戦後のレプリカとわかり、疑問が氷解しました。
なお、羽二重団子、お店にあった解説を読むと、岡倉天心も、ここで団子を肴に、気持ちよく酔っていた由。まぁ、美術学校が目と鼻ですので、さもありなん。次回は、是非、庭の縁台で天心してみたいと思います。醤油団子と麦酒で。
