2013年04月27日
下北沢Ｘ新聞(2308)〜嗚呼、東横線渋谷駅〜
（一）
長野松本に取材に出かけた。帰る段になってどこのターミナルで降りようかと思った。こんなこと今まで考えたこともなかった。いつもなら何も考えることなく、渋谷で降りて、東横線に乗り換えていた。が、渋谷では降りたくない。ここを旅の終わりにはしたくないという思いである。
篠ノ井線経由で長野から新幹線で帰ってきた。途中、篠ノ井線では各停に乗った。途中、聖高原駅で対向特急との交換があってここに数分停車した。床下で電車のコンプレッサーが動いていて音がしていた。が、しばらくしてそれが停まった。一切の音が消えて急に静寂が訪れた。向こうの座席で話している外国人の声が聞こえた。「ゼンコウジダイラ」「ヒガシヤマカイ」などの単語が耳に入った。
窓の外を見ると盛りを過ぎた桜がふるふると風に揺れていた。かつての汽車旅の風情が思い起こされた。列車が駅に着いて、ぎぃ、ごっとんとしゃっくりをして停まる。とたんに襲ってくる静寂。「うんだばや」という方言、空の牛乳瓶が転がって停まる音、自分という存在が強く意識された。旅が実感できた。
この駅、聖高原駅だが、かつては麻績といった。いい響きだ。駅員がいて、列車が着いたとたん、おみぃー、おみぃーと言った。旅の想がにわかに湧いてくるときだった。
次の姨捨駅も間合いの駅だ。一旦停まって、おもむろにバックする。車窓向こうには深く抉れた善光寺平、その真ん中に千曲川の川面が銀色に輝いている。
旅の醍醐味は溜だ。一拍置いて、次がある。かつては、JRから乗り換えて東急東横線の頭端式ホーム行く、それまでの間が、旅のフィナーレだった。が、その渋谷駅はない。けじめのない駅に今はなった。
切符は都区内までだ。大井町まで行って大井町線で帰るという手もあった。が、これも馴染みのない旅の終わり方だ。そのときふと思いついたのがターミナル上野だった。よし上野で降りようと思ってここで降りた。ただ降りるだけではもったいない。アメ横を冷やかそう。
と、ここに向かうときに碑が目に入った。「ああ上野駅」だ。「上野は俺らの心の駅だ」とこれにはあった。「渋谷駅頭端ホームは旅情の終点だった」が、それは過去のことで、今は全く馴染みのない異国の駅となった。
（二）
「まあ、渋谷駅に行って驚いたのなんのって、前は、ほら明るかったでしょう。ところがね、何よ、あれは穴蔵だわね、狭くて、窮屈で、上に出るまでとんでもない時間がかかるのね。大ショックよ…大体、どっか出かけるときに、渋谷通って行っていたでしょう。それでね、帰ってくるときに、渋谷に着くと、ああ、帰ってきたなという感じがあったでしょう。あれが全くないのね。全く馴染みのない駅になっちゃったね。もう行きたくないわね。何かね、そう思う自分が寂しいわよ」
家の近くの商店のおかみさんの話だ。来る客来る客、地下化した渋谷駅のことについてはいちゃもんをつけるそうだ。肯定評価をする人はいない。
「東急って何考えているのだ！」
決まってしまいにはそんな話になるという。
今朝の朝刊に、「東急東横線・メトロ相互運転一ヶ月」という記事があった。その見出しは「直通効果、泣き笑い」とある。「東横線渋谷駅の不便さを指摘する声が相次いでいる」とは書いている。が、どっちつかずの記事だ。庶民、市民の、心のターミナル、東横線渋谷駅頭端式ホームは旅情の終点だった。そんな斬り込みの深い記事にはお目に掛かったことがない。世間世の中経済効果一辺倒、利便追求第一の高評価しか載せていない。郷愁に満ちた頭端ホームが消滅して、利用客の多くが失望している。地下ホームに降りて、長い階段を登っていくときに「ああ東横線渋谷駅」を密かに歌っているのを耳にすることがある。
青蛙に揺られて着いた
遠いあの夜を思い出す
渋谷は俺らの心の駅だ
文化会館行く道で
とめて聞いている浜なまり
（三）
私は、アメ横を冷やかして、結局は上野駅から地下鉄日比谷線に乗った。中目黒行きだ。東横線には終点で乗り換える。
地下鉄を降りると、向かいが東横線下りホームだ。ややこしい渋谷駅を通らずに、いつもと風景の変わらない中目黒で旅の終点を迎えた。
「まあ、渋谷駅に行って驚いたのなんのって、前は、ほら明るかったでしょう。ところがね、何よ、あれは穴蔵だわね、狭くて、窮屈で、上に出るまでとんでもない時間がかかるのね。大ショックよ…大体、どっか出かけるときに、渋谷通って行っていたでしょう。それでね、帰ってくるときに、渋谷に着くと、ああ、帰ってきたなという感じがあったでしょう。あれが全くないのね。全く馴染みのない駅になっちゃったね。もう行きたくないわね。何かね、そう思う自分が寂しいわよ」
家の近くの商店のおかみさんの話だ。来る客来る客、地下化した渋谷駅のことについてはいちゃもんをつけるそうだ。肯定評価をする人はいない。
「東急って何考えているのだ！」
決まってしまいにはそんな話になるという。
今朝の朝刊に、「東急東横線・メトロ相互運転一ヶ月」という記事があった。その見出しは「直通効果、泣き笑い」とある。「東横線渋谷駅の不便さを指摘する声が相次いでいる」とは書いている。が、どっちつかずの記事だ。庶民、市民の、心のターミナル、東横線渋谷駅頭端式ホームは旅情の終点だった。そんな斬り込みの深い記事にはお目に掛かったことがない。世間世の中経済効果一辺倒、利便追求第一の高評価しか載せていない。郷愁に満ちた頭端ホームが消滅して、利用客の多くが失望している。地下ホームに降りて、長い階段を登っていくときに「ああ東横線渋谷駅」を密かに歌っているのを耳にすることがある。
青蛙に揺られて着いた
遠いあの夜を思い出す
渋谷は俺らの心の駅だ
文化会館行く道で
とめて聞いている浜なまり
（三）
私は、アメ横を冷やかして、結局は上野駅から地下鉄日比谷線に乗った。中目黒行きだ。東横線には終点で乗り換える。
地下鉄を降りると、向かいが東横線下りホームだ。ややこしい渋谷駅を通らずに、いつもと風景の変わらない中目黒で旅の終点を迎えた。
