2013年04月28日
下北沢Ｘ新聞(2309)〜陸軍長野飛行場跡を求めて〜
（一）
吾々は日々一定の刺激に反応しそれに相当する一定の動作を繰り返す。同じことの繰り返しをしていると神経が緩んでくる。そんなときに異物が舞い込んでくるとどうなるか。
「長野飛行場に行きたいのですが？」
「えっ、長野飛行場？」
「はい、昔の陸軍長野飛行場です」
「あったのですか、ええ、ほらこれ市立犀稜中学のところ……」
「ああ、そこですか……それではですね」
長野駅前の観光案内所の女性職員は一枚の地図を取り出した。長野市ロードマップだ。
「ええっと、ここですね。」
「大してありませんよね。」
「いやありますよ。歩いてだと三十分はかかるでしょう。」
「ああ、そんなの歩くの慣れていますから…」
机で作業していた男の事務員がこちらを見て笑う。
ここに来る多くの人は予想できる範囲の問題を持って来る。「善光寺にはどのように？」などというのはありきたりで、事務的に処理されるだろう。
「陸軍長野飛行場に行きたい」という人は年間、一二回はあるだろうか。めったにないことなので応対も丁寧だ。係の女性は地図に線を引いてくれて、行き方を教えてくれた。
「長野飛行場のことを調べたいのですが？」
「えっ、長野飛行場ですか…ちょっと待ってください。調べますから」
これは市立図書館でのことだ。ここではコピーを頼むと、係員の人がやってくれる。複写を待っているときに「あそこは、もう今は何にもないんですよね」と言う。
やはりここでも親切だった。というよりも変なことを調べる手合いに興味を持つものらしい。
（二） 、
「ああ、飛行場ね、陸軍の、だいぶ昔の話だね、いやあとんでもない、名前なんて、もう記憶も定かで無くて、自分が言ったことが書かれると困ります…」
九飛行場近くで畑を耕しているお婆さんに話を聞いた。
「二枚羽の飛行機で練習していましたね。空にぐうんと上がって、それから急降下してくるんですよ。何度も何度もやっていましたね。」
「ずっと向こうの畑の中には飛行機を隠すところがあって、掘り下げた溝みたいなものがありましたね。上からだと丸みえだね」
「あのころが食糧事情が悪くて、ときどき兵隊さんが、挨拶をして入ってくるのですよ。そうすると母が、なにかのきれっぱしみないなおやつをあげると兵隊たちは喜んでたべていましたね」
（三）
「飛行場跡の石碑がこの辺りにあるのですが？」
「ここをちょっと行ったところの奥にあります」
これは若い母親だった。
行って見るとたしかにあった。
NHKラジオ深夜便で戦時経験を全国から募集したところ多くの事例が集まった。これによって終戦時に全国いたるところで飛行場を作っていたことが分かった。
「飛行場の回りには堀を巡らしてあるのですよ。」
これはどこでも同じだったらしい。長野飛行場跡にもこれは残っていた。この堀を見て知ったことは、滑走路では水は大敵だ。それで排水をよくするためにこれがぐるりと掘られてあったことを知った。
一定の刺激に反応してそれに相当する一定の動作を繰り返すだけである。
聞き慣れない名前への興味を人は持つ。奇妙なものを探そうとする
(途中長野営林署構内）
