2013年10月04日

下北沢X新聞（2415)〜下北沢のよじれた座標〜

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（一）
「何を持っているかって？、これはマルハヤクリーニングでもらったハンガーではない、パワースポット探知機なんだよ。これをこうやってあてがうと、パワーが出ているところが分かるんだ、ほら、強烈だぜ、こんなになるんだからな…」
　ハンガーに付けた二つの鈴がちんちりと強く鳴る。
「こここそがあれだ。『私立学園前のよじれた四つ角』だ。よじれ、ねじれにはパワーが集まって来る。下北沢、いや、違う、東京でもここは最強のパワースポットだ…」
　
　「バーレスQ」−下北駅前伝説−ここでの役は、北沢川文化遺産保存の会の、きむらけんで出ることになっていた。劇中にぽっかりと空いた、時間空間、そこに出て口上述べる。脚本は志田歩さんだが、この部分のセリフは自前である。何を言おうかと考えたときに「よじれた四つ角」がテーマに浮かんだ。成徳ミモザホールのそばである。

　この劇の始まりは踏切警報器が鳴るところから始まっていた。が、小田急地下化によって踏切は当局によって「除却」されてしまった。警報器の鳴らない、電車の音が聞こえない下北沢は去勢されたように感じる。

　精神疾患の一つ、下北沢精神症候群も消えたという。「小田急線と井の頭線が交差するひしゃげた座標軸が、頭蓋骨をじわじわと締めつけてくる」（『街の座標』清水博子）という症状だ。線路が無くなって病状は軽くなったが、心を預ける場がなくなった。苦悩が自分を存在させていることはある。

　オオゼキ前の町にいっても電車の音も聞こえない、姿も見えない。ずっとこれまであったものがすっかりなくなって悩みがなくなった。

　当局は踏切除去完了と大々的に謳う。が、何か大切なものをなくしたように思う。踏切を渡ることは苦難だった。が、今は遮蔽物もなく自由に行き来できる。あれほどまでに怖かった場が平気の平左で渡れる。ふぬけのようだ。街にメリハリがなくなった。

　ひしゃげた座標軸はなくなった。寂しくなったと思っていたらもう一つ残っていた。　
鎌倉通りと一番街の交差点である。道にこそ「ひしゃげた四つ角」が残っていた。鉄道近代の交差地点は機械が作り上げたものだ。が、四つ角は人間が創った。


（二）
　このパワースポットにはとんでもない秘密が眠っている。大見得を切って断言した。一つは、伝説上の大人物が関係する。

「このよじれはダイダラボッチが作ったんだ。お隣代田のダイダラボッチ、巨人の右足の縁を迂回するように作られた。そのけっか北から回り込んでくる形になって斜めに一番街の通りに突入してしまった。一番街こそ一番の先駈け、ここを基準に街は作られた。斜めに曲がった、しかも傾斜のある道である。この街の原初を作った地形である。下北沢の街が全体にゆがんでいるのはこのためだ」

　奇妙なねじれ、ゆがみこそがパワースポットだ。妙なものを集めていた。集まっていたといってよい。恐らくこれほど無頼派がぶらぶらしていたことはない。一人だけいないだけである。

　しかし驚いたことがある。池の上の三勝酒店には折々に訪ねて土地の話を聞いた。近くに志賀直哉の妹が住んでいと聞いた。これは調べてみると本当だった。「代沢の暗夜行路」は、分かってみて明るくなった。

　いつだったか重要情報を知らせてくれた。織田作之助が住んでいたというのだ。びっくりしてしまった。しかし、年譜とか資料で当たるがその事実は出てこなかった。

（三）
　かつて街歩きでは「下北沢の無頼派を歩く」というのを実施した。田中英光は住んでいた。石川淳もあちこちと転居していて文士町には二箇所の居住地点があった。坂口安吾もこの一派だ。

　最近になって分かったことがある。池の上の森敦のところには壇一雄が来ており、その関係で、太宰治も来ていたことを知った。

　下北沢鉄道交点には無頼派のほとんどがあちこちにうろうろしていた。面白いのは一同に会したわけではなく、気づいてみると勝手にさすらっていた。無頼派には沢が似合う、どぶくさく、そしてまた路地の奥にはひっそりと隠れ住む場もある。池の上のその路地のあたりは、いかにも無頼派が来そうなところだった。


rail777 at 20:00│Comments(0)││学術＆芸術 | 都市文化
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