2013年10月11日
下北沢X新聞（2420)〜北沢川文化遺産保存の会紀要第２号〜
（一）
土地の固有性と文学の影響とを物語的に論じているのが我らの紀要だ。昨年は、創刊号として「代田丘の鉄塔文学論」を、今年は第二号として「北沢の丘の石畳文学論」を発行する。その原稿がほぼ出来上がった。
紀要は一般的には学術雑誌である。が、我らの場合は純粋な論文ではない。名前からして分かるが、想像的文学論、簡単に言えば物語である。一種独特、小説的な紀要である。
「『旅愁』の中で欧州旅行から帰って、渋谷から車で帰る場面がありますね。あれなんか現実的な場面を想像しますね。淡島通りか、滝坂道を通って、家に帰り着いて、あの固い門を開ける場面がありますね。引き手を開けようとしたら開かずについ力入れて開いたというのは実際的なこととして書いてあると思ったのですよ」
「あの戸はは今はないけどもね、重かったです…」
今日、荏原逍遙の途次、用賀の横光佑典さんに文学碑の原案を持って行った。すると、お手伝いさん、ちょっとそこまで出ていきました。本人に直接話されると喜ぶでしょうと言われた。近くで待っていたら何となく親父さんに似た人だなと思って話しかけたらまさに当人だった。
出会った道端でとうとう一時間以上も話をした。「頭脳構造的にもお父さんに似ておられるように思いました」と私は言った。旅愁帰着場面のことも、ご本人は笑っておられた。
昨年は、「代田の丘の鉄塔文学論」を出した。テーマは萩原朔太郎と鉄塔である。郊外文学論の一つの切り口だったと思っている。今回のものは「北沢の丘の石畳文学論」である。鉄塔も石畳には共通する点がある。
何が共通するか、響きである。鉄塔は風が吹くと鳴る。雨が降るとじぃじりと泣く。石畳もやはり大事なのは響きだ。人が歩けば鳴る。鳴り方の具合に意味がある。
これら石畳みにせよ。鉄塔にせよ、当時の環境は大事だ。前者は、昭和三年から、後者は、昭和八年からである。今はほとんど樹木はなくなったが、当時は武蔵野のまっただ中だった。横光利一は、「初め移つたころには左右の隣が森で、夜など女子供はは一人では通れたものではなかった。」（『日記』横光利一全集第十二巻）と述べている。深閑とした中に音が響いていた。
（二）
数日前に、荏原逍遙で会ったお婆さん、「やっぱり歩いて行くのは大事だよね」と言っていた。本当に大事だ。
昨日は、オリンピック道路といっても、「幻の東京五輪」の方である。野沢通りを歩いて行った。すると駒繋小があった。この学校の卒業生については調べた経緯があって懐かしい。学校のぐるりを回っていると、それらしき人をみつけた。駒沢練兵場のことを聴いているうちに…
「淺間温泉に疎開に行きました？」
「ああ、行った」
「どこですか？」
「目之湯だ」
「特攻兵がいたでしょう」
「うん、いた……」
何とも不思議だ。路傍の古老に聞くと、即、特攻兵と疎開学童の触れ合いが帰ってくる。これは世田谷だけの話である。
そういえば横光家の石畳みも疎開の音を響かせている。次男の佑典さんが疎開に行かれている。昭和十九年八月十二日、代沢小で夜九時から壮行会が行われた。もしかしたら横光利一もこのときに送っていったのではないかとかねてから思っていた。
（三）
今回、世田谷区絆再生事業の助成、東邦薬品株式会社の協賛、ならびに横光家の協力を得て、来月末に北沢川緑道に「横光利一文学顕彰碑」を建立する。
横光作品ゆかりの「石畳」を顕彰碑に用いることから今回の紀要は「北沢の丘の石畳文学論」とした。
言葉は物差しだ。一つの形容語をみつけて考えてみると見えなかったものが見えてくる、測れるようにもなる。とくに私が着目しているのは土地と文学だ。土地の固有性が文学にどのような影響を与えているかだ。
石畳に土地の、どうんな風が吹いたか、どんな音が響いたか、これを作品に基づいて考えていくと固有性が見えてくる。それは北沢の固有性だ。
今日横光佑典さん出会ったところで聞いたことだ。
「疎開に行かれたのですよね？」
「行きました。淺間温泉菊の湯」
「ということは、八月十二日の夜にはお父さんも代沢小に送りに行ったのですよね」
「いえ、私は、第一師範だから…」
「ああ、そうなんですか、あれは渋谷駅東横の地下に集まったのですね…」
「いやそこまで覚えていない。」
横光佑典さんは言われた。
数日前に、荏原逍遙で会ったお婆さん、「やっぱり歩いて行くのは大事だよね」と言っていた。本当に大事だ。
昨日は、オリンピック道路といっても、「幻の東京五輪」の方である。野沢通りを歩いて行った。すると駒繋小があった。この学校の卒業生については調べた経緯があって懐かしい。学校のぐるりを回っていると、それらしき人をみつけた。駒沢練兵場のことを聴いているうちに…
「淺間温泉に疎開に行きました？」
「ああ、行った」
「どこですか？」
「目之湯だ」
「特攻兵がいたでしょう」
「うん、いた……」
何とも不思議だ。路傍の古老に聞くと、即、特攻兵と疎開学童の触れ合いが帰ってくる。これは世田谷だけの話である。
そういえば横光家の石畳みも疎開の音を響かせている。次男の佑典さんが疎開に行かれている。昭和十九年八月十二日、代沢小で夜九時から壮行会が行われた。もしかしたら横光利一もこのときに送っていったのではないかとかねてから思っていた。
（三）
今回、世田谷区絆再生事業の助成、東邦薬品株式会社の協賛、ならびに横光家の協力を得て、来月末に北沢川緑道に「横光利一文学顕彰碑」を建立する。
横光作品ゆかりの「石畳」を顕彰碑に用いることから今回の紀要は「北沢の丘の石畳文学論」とした。
言葉は物差しだ。一つの形容語をみつけて考えてみると見えなかったものが見えてくる、測れるようにもなる。とくに私が着目しているのは土地と文学だ。土地の固有性が文学にどのような影響を与えているかだ。
石畳に土地の、どうんな風が吹いたか、どんな音が響いたか、これを作品に基づいて考えていくと固有性が見えてくる。それは北沢の固有性だ。
今日横光佑典さん出会ったところで聞いたことだ。
「疎開に行かれたのですよね？」
「行きました。淺間温泉菊の湯」
「ということは、八月十二日の夜にはお父さんも代沢小に送りに行ったのですよね」
「いえ、私は、第一師範だから…」
「ああ、そうなんですか、あれは渋谷駅東横の地下に集まったのですね…」
「いやそこまで覚えていない。」
横光佑典さんは言われた。
