2013年10月22日
下北沢X新聞（2427)〜聴き耳を立てたくなる文学碑２〜
（一）
文学と音というのは響き合うものだ。武蔵野の丘上に居を構えた作家は音に敏感だった。彼は俳句を嗜んだ。五、七、五は音である。響き具合、繋がり具合に腐心した。散歩中にも句作に耽っていた。
手の平の茶の花捨てて行きにけり
昭和三年十一月に土地検分に来たときに、「北沢へ着いたときは、野道の茶の花が薄闇の中に際立って白く見えていた」と『睡蓮』には記している。とすれば期日は、昭和二年の秋ということになる。小田原急行鉄道の開通はこの四月だ。開通して間もない鉄道の評判が悪くないことから彼は下検分に来たものだろう。
北沢の丘には明治政府の殖産政策に基づいて茶畑ができた。旧家阿川家のものだ。その名残が付近一帯に残っていたものだろう。自家用にと残していたものであろう。
先の句は、散歩途中にふと目についた茶の花を詠んだ。戯れ心を起こしてそれを手折った。しばらく行くうちにその可憐な花をうち捨て、私は散歩を続けたことだ。「けり」には軽い悔やみがあるのか？。
横光利一は茶の花に目を留めた。この北沢の丘の下には加藤楸邨が一時期住んでいた。彼も一帯の自然に触発されている。虎落笛、もがりぶえを聞いて、旅心を誘われた。代田七人衆の一つ柳下家の大欅に吹きつける北風の音を聞いていた。これがきっかけとなって隠岐にへの旅に出る。
加藤楸邨の場合の住まいは坂下だった。横光利一の場合は丘上だ。一帯にはよけいに虎落笛が響き渡っていたろう。虎落笛 石踏み渡る 下駄の音、そんなシーンもあったかもしれない。
（二）
１９日のことだ。街歩きを終えて、邪宗門でお茶を飲んでいるときに面白い議論になった。文学碑の下に置く、石をどのように配置するかである。
「もともと横光家では、三列に並べてあったものです。だから手に入れている二枚の石は、碑に向かって縦に二枚並べて置く方がよいと思います。」
これはデザインの道吉剛さんの考えである。
「いや、それだと足音が聞こえてきません。二枚の石を一定の間隔を置いて離して設置する。横に並べるのです。この際、もともとあった場所のイメージを捨てないといけません。第一この石が三列で並べてあったなどということは、通り掛かってこれを読む人は、全く知りませんから」
これは私の主張である。
当初は、店の燐寸を使ってイメージを高めていた。一つはこれを縦にして文学碑代わりとした。後の二枚が、敷石だ。これを横に置いたり、縦に並べたりしていた。そのうちに金子美和子さんがいう。
「まっすぐに横に置くよりも、すこし互い違いに置くようにするといいのではないでしょうか」
新鮮な提案だった。人間、まっすぐには歩かない、雪上に残る足跡は互い違いだ。ずらせばリアリティも湧いてくる。
燐寸では実感が湧かない。道吉さんが本物を持ってきて置いた。すると石の厚さが違っていた。これをどう揃えるかでも議論した。
（三）
石の置き方については、ああでもない、こうでもないという議論が続いていた。が、横に並べて、ずらして置くというものへの賛同が多かった。そんなところに文学碑整備主任がやってきた。金子善幸さんである。
その金子さん「横光利一文学顕彰碑植栽計画」という図を持ってきていた。碑全体の図面が引かれている。
「あれ、これ誰が引いたのですか？」
「金子さんですよ。彼はもともとは大手家電メーカーのデザイナーだったんだから…」
米澤邦頼さんが教えてくれた。
それとなく知ってはいた。しかし、その腕は分からない。今回は具体的な図面を見せられて分かったことだ。我々の仲間、しばらく経ってからその人物の正体を知ることが多い。
（四）
「あれ、金子さんの図は、やっぱり石をずらしているよ」
「本当だ、びっくりだね、今その話をしていたんだよ」
幾らか違うのは、石を縦に置いていることだ。が、ずらすというのは皆が考えていたようだ。人と同じようなことを書いても仕方がない。人がやりそうにないことをやって始めて伝わる。彼の石畳文学に繋がる。
デザイナー主任の道吉さんには不満が残るようだが、横にずらして置くということに落ち着いた。
１９日のことだ。街歩きを終えて、邪宗門でお茶を飲んでいるときに面白い議論になった。文学碑の下に置く、石をどのように配置するかである。
「もともと横光家では、三列に並べてあったものです。だから手に入れている二枚の石は、碑に向かって縦に二枚並べて置く方がよいと思います。」
これはデザインの道吉剛さんの考えである。
「いや、それだと足音が聞こえてきません。二枚の石を一定の間隔を置いて離して設置する。横に並べるのです。この際、もともとあった場所のイメージを捨てないといけません。第一この石が三列で並べてあったなどということは、通り掛かってこれを読む人は、全く知りませんから」
これは私の主張である。
当初は、店の燐寸を使ってイメージを高めていた。一つはこれを縦にして文学碑代わりとした。後の二枚が、敷石だ。これを横に置いたり、縦に並べたりしていた。そのうちに金子美和子さんがいう。
「まっすぐに横に置くよりも、すこし互い違いに置くようにするといいのではないでしょうか」
新鮮な提案だった。人間、まっすぐには歩かない、雪上に残る足跡は互い違いだ。ずらせばリアリティも湧いてくる。
燐寸では実感が湧かない。道吉さんが本物を持ってきて置いた。すると石の厚さが違っていた。これをどう揃えるかでも議論した。
（三）
石の置き方については、ああでもない、こうでもないという議論が続いていた。が、横に並べて、ずらして置くというものへの賛同が多かった。そんなところに文学碑整備主任がやってきた。金子善幸さんである。
その金子さん「横光利一文学顕彰碑植栽計画」という図を持ってきていた。碑全体の図面が引かれている。
「あれ、これ誰が引いたのですか？」
「金子さんですよ。彼はもともとは大手家電メーカーのデザイナーだったんだから…」
米澤邦頼さんが教えてくれた。
それとなく知ってはいた。しかし、その腕は分からない。今回は具体的な図面を見せられて分かったことだ。我々の仲間、しばらく経ってからその人物の正体を知ることが多い。
（四）
「あれ、金子さんの図は、やっぱり石をずらしているよ」
「本当だ、びっくりだね、今その話をしていたんだよ」
幾らか違うのは、石を縦に置いていることだ。が、ずらすというのは皆が考えていたようだ。人と同じようなことを書いても仕方がない。人がやりそうにないことをやって始めて伝わる。彼の石畳文学に繋がる。
デザイナー主任の道吉さんには不満が残るようだが、横にずらして置くということに落ち着いた。
