2013年12月03日
下北沢X新聞（2455)〜地形と文学と街〜
（一）
近代化は、平準化、均質化することである。これによって規格化された街は、日々表情を失っていく。道路が直線的に延びていて、電信柱と白線が続いている。なんとも味気ないものだ。
先日、テレビでベトナム交響楽団を指揮している日本人ことを話題にしていた。本名哲次である。彼はベトナムに住み続けている。なぜベトナムとマイクを向けられたとき。飛行機で着いて夜に街中に入った。そのときに家の中にぼっと点っているオレンジ色の灯りに強い懐かしさを覚えたという。これには共感を覚えるものがあった。ふと思い出したのは石川啄木の短歌である。
雨に濡れし夜汽車の窓に
映りたる
山間の町のともしびの色
街中や山あいに点ったぼんやりとした灯りが人を切なくさせる。一昔前には至る所に寂しい灯火は点っていた。懐かしい風景は今はどんどん壊され消えていくばかりだ。
外国から世界遺産を見に来た人が、なぜ電線で富士景観を遮るのかと指摘したという。電線はどこに行ってもある。ごく普通だと思っていたが、言われるとそうだ。空さえもずたずたにこれが切られている。景観よりも電気優先だ。
このベトナム交響楽団は日本公演で武満徹「レクイエム」を演奏することになった。そのときに武満の逸話が紹介された。
彼は貧乏でピアノも持っていない。携えているのは紙で作った鍵盤だ。それに指を走らせて想像の音を鳴らす。が、それでは我慢できない。彼は、散歩に出ては、ピアノが聞こえてくる家を探す。そして、ぜひにピアノを弾かせて欲しいと頼んだ。これは世田谷代田二丁目時代のことのようだ。代田二丁目だったらピアノはある。詩人、声楽家、作曲家なども住んでいたからだ。
一帯は左岸の坂だ、音曲をつま弾くと響きは転がる。音楽文化の土壌としての代田二丁目というのは興味深い。
（二）
鉄道交点を座標軸と形容してよじれたX表象を提示したのは清水博子である。
下北沢のことを二線の私鉄を軸に取った座標に置き換えてかんがえていたから、小説家と自分の栖が同じ象限に入ると知って衝撃を受けた、と白状すると、それはいかにもイナカモノのやりそうなことですと、と嗤われ、他人に座標のことを打ち明けたのは、自分で造り上げた妄想に拘泥する無様をさらけだす醜い行為だったと悟った。
『街の座標』 清水博子 集英社文庫
主人公が卒論の研究テーマにしようとした小説家が同じ象限の中に住んでいた。この交点には小説家が住んでいた。一人居れば必ず二人、三人といる。それは文士町地図を見ても分かる。
街を形に置き換えて捉えるのはイナカモノだと言う。初手から住んでいる者は形は考えない。が、よそ者は、形で捉えて理解するしかない。
「ここは二線がゆがんで交差して『ひしゃげた座標軸を作っているんだ』というのは外来人のことばだ。目黒区民である自分にはこれがよく分かる。
（三）
清水博子の訃報を聞いて以来。彼女の土地地形感覚が気になった。関東と関西の比較を彼女はしている。
大阪府から神戸側へと太陽が移動し、六甲山がけわしくなる。山並みがとぎれずつづく風景は画子の育った東京郊外でもみられたが、傾斜がまるで違う。関東平野には出口も入り口もない。 「Vanity 」 清水博子 新潮社
荏原的感覚でいうと明確に山は日常的に意識されない。たまに丘上の景色が見える場に行って富士を見たり、丹沢あたりに目をやりはする。山並みが、丘の起伏が、関西と空気がまるで違う。
地形というのがどういうふうに精神構造に影響を与えているのだろうか？。
（横光利一文学顕彰碑のデザインをされた道吉剛氏と）
鉄道交点を座標軸と形容してよじれたX表象を提示したのは清水博子である。
下北沢のことを二線の私鉄を軸に取った座標に置き換えてかんがえていたから、小説家と自分の栖が同じ象限に入ると知って衝撃を受けた、と白状すると、それはいかにもイナカモノのやりそうなことですと、と嗤われ、他人に座標のことを打ち明けたのは、自分で造り上げた妄想に拘泥する無様をさらけだす醜い行為だったと悟った。
『街の座標』 清水博子 集英社文庫
主人公が卒論の研究テーマにしようとした小説家が同じ象限の中に住んでいた。この交点には小説家が住んでいた。一人居れば必ず二人、三人といる。それは文士町地図を見ても分かる。
街を形に置き換えて捉えるのはイナカモノだと言う。初手から住んでいる者は形は考えない。が、よそ者は、形で捉えて理解するしかない。
「ここは二線がゆがんで交差して『ひしゃげた座標軸を作っているんだ』というのは外来人のことばだ。目黒区民である自分にはこれがよく分かる。
（三）
清水博子の訃報を聞いて以来。彼女の土地地形感覚が気になった。関東と関西の比較を彼女はしている。
大阪府から神戸側へと太陽が移動し、六甲山がけわしくなる。山並みがとぎれずつづく風景は画子の育った東京郊外でもみられたが、傾斜がまるで違う。関東平野には出口も入り口もない。 「Vanity 」 清水博子 新潮社
荏原的感覚でいうと明確に山は日常的に意識されない。たまに丘上の景色が見える場に行って富士を見たり、丹沢あたりに目をやりはする。山並みが、丘の起伏が、関西と空気がまるで違う。
地形というのがどういうふうに精神構造に影響を与えているのだろうか？。
（横光利一文学顕彰碑のデザインをされた道吉剛氏と）
