2013年12月04日
下北沢X新聞（2456)〜地形と文学と街２〜
（一）
山あり川あり、沢あり、その土地が弓なりに連なっているのが列島だ。この地形こそが文化の源泉である。春夏秋冬があって、その景観は季節ごとに刻々と変わる。日本列島の物語は、土と空との際にある。その大地と大空との間を描写すると文学が生まれる。
独歩は『武蔵野』で、この土地の特徴を、「大洋のうねりのように高低起伏している。」と形容している。彼は地形の物語をこう綴る。
萱原の一端がしだいに高まって、そのはてが天ぎわをかぎっていて、そこへ爪先あがりに登ってみると、林の絶え間を国境に連なる秩父の諸嶺が黒く横たわッていて、あたかも地平線上を走ってはまた地平線下に没しているようにもみえる。
地形こそがドラマである。人の心の置き場所でもある。しかし、近代文明はこれをことごとく壊し始めている。まったく手加減をしない。そこに人間の驕りがある。
先だって、「深沢・桜新町開発100周年記念のつどい」が桜新町区民集会所開かれた。
「新町住宅地は西端の古道を境目としていてあっちとこっちに傾斜しています。敷地全体は東のり面にあります。歩いていると分かるのですが、東のり面は、空気がしっとりとしているんですよね、だから新町住宅地に住んでいた宮本百合子もそれを描いているように思えます……」
支那や日本の絵にはよく竹が出てくる。絵の習い始めの人さえ描かせられるものだが、一般化しすぎているため却て本当の美しさがわからなかった。今住んでいる新町へ去年の五月見に来た時、彼方あっちこっちにある竹やぶの中を歩き、こうまで美に溢れているものかと驚いた。いつくと猶しみじみとそのさわやかさ、優美さ、特に夏の晴れた青空があいをはきよせたように濃やかな細葉のすき間にたたえられた調子など愛を感じる。朝、白い蚊帳の中に横たわってその戦ぎをながめる、ほとんど音楽が流れているようだ。
『竹』 宮本百合子 〔一九二六年八月〕
昭和元年頃の深沢の風景だ。傾斜面には竹が植えられていた。東のり面に吹きつける南風は、竹の葉を大きく揺らした。
「いや、この間、大雨が降ったとき、西からうちの教会に水が流れ込んできたんですよ」
聖母教会の尼僧が言われる。「深沢八丁目無原罪特別保護区」の所有者だ。ここにはかなり大きな池がある。ハケからは今なお水が湧いている。
雨水が西から流れる、これは一帯が東のり面にあるからだ。
「東のり面がしっとりとしているというのは初めて聞きました。」
フォーラム副代表の稲垣道子さんが言う。
（二）
このところ地形と文学と政治とに関わる地点を見つけて、このところの荏原逍遙は北西方面に向かうことが多い。私の居住地は目黒区八雲で、隣がこの深沢だ。地域を貫いている川が呑川である。これを遡っていくと桜新町にたどりつく。
呑川も私の言う左岸高い論が通じる。左岸の深沢中学へは坂は急である。反対の右岸は緩やかだ。これを活用して新町住宅地は造成された。当初は荒蕪地だったと聞いた。畑地には向かないが住宅地には向いている。
このところ調べているのは用賀の地形だ。背尾根を境にした西のり面である。微傾斜がずっと続きやがては矢沢川に転げ落ちていく。
用賀一丁目は一つのステータスである。今でも緑が濃い。日清製粉の清珠荘がある。テニスコートは正田家の美智子様がプレーをされたという場所である。
この地域の北側は国道２４６号が東西に貫いている。切り通しで抜けている。この区画は西に延びた舌状台地になっている。ここの先端基部に「八幡社跡」という石柱が建っている。ここはかつて八幡山と言われ、ここに八幡様が祀ってあったようだ。
舌状台地の先端はまさに今でも山になっている。この西には矢沢川がある。
（三）
この舌状台地の先端にはかつて有名人が住んでいた。誰もが知っている歴史上の有名な人物である。なるほど眺望はよい、富士の眺めを独り占めできる場所である。
私は、その歴史上の人物を述べようとしているのではない。ここの土地に魅力を感じて、そこを買い求めようとした文学者の話である。地形と文学、そして街に繋がる話ゆえに興味深い。（現今、用賀西のり面の八幡山、今日撮影）
〇注記：国木田独歩、宮本百合子、いずれも青空文庫からの引用。
〇特定秘密保護法案への深い危惧
権力はのさばる。そして、権力は嘘をつく。
現今、参議院審議にふされているこの法案は意図が明確でない。秘密にすべき点は何なのか、どこまでを網掛けするのかよく分からない。秘密の秘密が全く分からない。曖昧な法案だ。
これによって市民の自由が侵害される怖れがある。
「鉄塔を写真に撮ることはいけませんなぜなら、重要なインフラですから、これを写真に撮ってテロが狙うということもあるからです」
「このマンションは撮ってはいけません、国家の重要人物が住まっていますので、テロ側に漏れるとよくないからです」
いかようにも権力側が恣意的に解釈できるのが今度の法案だ。
疑問に思うのは、秘密とされるものを果たして、法の本質において的確に運用できるかということだ。誰も彼もが絶えずそれで良いのかということを閲していくもの。それが民主主義だ。訳分からないうちに何もかにもが秘密にされて閲できなくなりそうだ。
自由にものを言えない恐ろしい国家になっていく。現今政権は「日本を取り戻そう」といっているがあの右傾的な戦時中の日本への回帰のように思う。危険である。
このところ地形と文学と政治とに関わる地点を見つけて、このところの荏原逍遙は北西方面に向かうことが多い。私の居住地は目黒区八雲で、隣がこの深沢だ。地域を貫いている川が呑川である。これを遡っていくと桜新町にたどりつく。
呑川も私の言う左岸高い論が通じる。左岸の深沢中学へは坂は急である。反対の右岸は緩やかだ。これを活用して新町住宅地は造成された。当初は荒蕪地だったと聞いた。畑地には向かないが住宅地には向いている。
このところ調べているのは用賀の地形だ。背尾根を境にした西のり面である。微傾斜がずっと続きやがては矢沢川に転げ落ちていく。
用賀一丁目は一つのステータスである。今でも緑が濃い。日清製粉の清珠荘がある。テニスコートは正田家の美智子様がプレーをされたという場所である。
この地域の北側は国道２４６号が東西に貫いている。切り通しで抜けている。この区画は西に延びた舌状台地になっている。ここの先端基部に「八幡社跡」という石柱が建っている。ここはかつて八幡山と言われ、ここに八幡様が祀ってあったようだ。
舌状台地の先端はまさに今でも山になっている。この西には矢沢川がある。
（三）
この舌状台地の先端にはかつて有名人が住んでいた。誰もが知っている歴史上の有名な人物である。なるほど眺望はよい、富士の眺めを独り占めできる場所である。
私は、その歴史上の人物を述べようとしているのではない。ここの土地に魅力を感じて、そこを買い求めようとした文学者の話である。地形と文学、そして街に繋がる話ゆえに興味深い。（現今、用賀西のり面の八幡山、今日撮影）
〇注記：国木田独歩、宮本百合子、いずれも青空文庫からの引用。
〇特定秘密保護法案への深い危惧
権力はのさばる。そして、権力は嘘をつく。
現今、参議院審議にふされているこの法案は意図が明確でない。秘密にすべき点は何なのか、どこまでを網掛けするのかよく分からない。秘密の秘密が全く分からない。曖昧な法案だ。
これによって市民の自由が侵害される怖れがある。
「鉄塔を写真に撮ることはいけませんなぜなら、重要なインフラですから、これを写真に撮ってテロが狙うということもあるからです」
「このマンションは撮ってはいけません、国家の重要人物が住まっていますので、テロ側に漏れるとよくないからです」
いかようにも権力側が恣意的に解釈できるのが今度の法案だ。
疑問に思うのは、秘密とされるものを果たして、法の本質において的確に運用できるかということだ。誰も彼もが絶えずそれで良いのかということを閲していくもの。それが民主主義だ。訳分からないうちに何もかにもが秘密にされて閲できなくなりそうだ。
自由にものを言えない恐ろしい国家になっていく。現今政権は「日本を取り戻そう」といっているがあの右傾的な戦時中の日本への回帰のように思う。危険である。
