2014年02月06日
下北沢X新聞(2497)〜赤い屋根の『小さいおうち』はどこ６〜
（一）
「これから下北沢文士町の旧跡を巡っていきますが、これは小さな谷を巡る旅です。坂を上ったり、下ったりします。幾つかの凹みを巡っていきます。その一つ一つに何かの物語があります……」
今日、カルチャースクールの下北沢文士町入門の二回目が行われた。下北沢駅北口でこう話したことだ。
『小さなおうち』も、一つの小さな谷の小さな物語だと思える。これらの物語のほとんどは昭和二年の小田原急行鉄道の開通に端を発している。これによって一帯は大きく変化した。
例えば、お茶は、斎田茶園で採れた荏原茶があった。程よい渋さの美味いお茶、これも東海道線が開通することによって、低廉な宇治茶が入って来て廃れた。
小田急線の開通で沿線に入ってきた人々は、赤い屋根のおうちで紅茶を飲んだ。『小さなおうち』の「奥様は染め付けに金の縁取りのある、香蘭社のティーカップ」で喫した。田舎から出て来た女中奉公の主人公にとってはモダン近代との出会いである。
この物語は、遭遇、邂逅、巡り合いの高揚感がある。例えば、女中奉公の彼女は、「わたしはいまでも、あのころのウキウキした東京の気分を思い出すと楽しくなる」と回顧している。東京オリンピックの開催である。戦争で中止になったあの五輪である。
都会人が、まったく初めてのものに遭遇する、そういう期待感はあったろう。戦争で中止になった東京五輪はすでに開催された。それがまた今度巡ってくるという。２、５回目の五輪である。もうすでに一回開催されたことは紛う方ない事実だ。女中奉公の彼女が感じた、あのウキウキ感はどう転んでも手に入れることはできないだろう。
（二）
人は成長てゆく、『小さいおうち』のぼっちゃんも小学校へ進学する。「最寄り駅から東へ二駅ほど行ったところにある小学校」である。
そこらあたりは大正時代に分譲が始まった新興住宅地で、誠之小や白金小の近くのような昔からあるお屋敷町ではなかったが、お医者様やら大学の先生やらが移り住んで、ハイカラで文化的な村を作っていると評判になっていた。 文春文庫 第八刷
郊外住宅の先駈けは「新町」住宅地だ。これは大正二年(1913)に分譲が始めている。しかし、これは玉電沿線だ。
小田急線沿線の新興住宅地で軍の高位高官、また知識階級が住んだのは「清風園」である。が、この広告が載ったのは昭和二年で、当てはまらない。ここだと代澤小だ。
他に当てはまるのは、成城学園だ。ここは大正十三年(1924)「 区画整理と成城学園の校舎建設の開始。第1期の分譲により成城学園の生徒の父兄を中心に178人ほどが土地を購入。売出の当初、一区画の敷地は400坪ほどであった。」とウィキにはある。小田急線沿線ではここしか考えられない。
（三）
成城学園駅の西へ二駅が「おうち」の最寄り駅となる。すると狛江になってしまう。困った狛江。この間には喜多見がある。先だってここには街歩きで訪ねた。
「学校の同級生にここから通っている仲間がいて、よく遊びに来たけど、もうど田舎で、辺りにはスイカ畑が一杯あって、それを盗んで帰ったもんだよ」
代沢小から筑駒に進学したＴさんが言っていた。香蘭社のティーカップで紅茶を若奥様に飲ませる場としては似合わない。何しろ戦前のことだ。
後になってわかるが、『小さなおうち』は山手空襲で焼けている。もっと都心に近い位置でないといけない。もしかして世田谷代田か、そんな想像が楽しい。
(下北沢文士町入門では、大谷藤子旧居から世田谷カトリック教会へ向かった。関根神父さんは会堂に暖房を入れて我等を迎えてくださった。その上、お話までしてくださった）
人は成長てゆく、『小さいおうち』のぼっちゃんも小学校へ進学する。「最寄り駅から東へ二駅ほど行ったところにある小学校」である。
そこらあたりは大正時代に分譲が始まった新興住宅地で、誠之小や白金小の近くのような昔からあるお屋敷町ではなかったが、お医者様やら大学の先生やらが移り住んで、ハイカラで文化的な村を作っていると評判になっていた。 文春文庫 第八刷
郊外住宅の先駈けは「新町」住宅地だ。これは大正二年(1913)に分譲が始めている。しかし、これは玉電沿線だ。
小田急線沿線の新興住宅地で軍の高位高官、また知識階級が住んだのは「清風園」である。が、この広告が載ったのは昭和二年で、当てはまらない。ここだと代澤小だ。
他に当てはまるのは、成城学園だ。ここは大正十三年(1924)「 区画整理と成城学園の校舎建設の開始。第1期の分譲により成城学園の生徒の父兄を中心に178人ほどが土地を購入。売出の当初、一区画の敷地は400坪ほどであった。」とウィキにはある。小田急線沿線ではここしか考えられない。
（三）
成城学園駅の西へ二駅が「おうち」の最寄り駅となる。すると狛江になってしまう。困った狛江。この間には喜多見がある。先だってここには街歩きで訪ねた。
「学校の同級生にここから通っている仲間がいて、よく遊びに来たけど、もうど田舎で、辺りにはスイカ畑が一杯あって、それを盗んで帰ったもんだよ」
代沢小から筑駒に進学したＴさんが言っていた。香蘭社のティーカップで紅茶を若奥様に飲ませる場としては似合わない。何しろ戦前のことだ。
後になってわかるが、『小さなおうち』は山手空襲で焼けている。もっと都心に近い位置でないといけない。もしかして世田谷代田か、そんな想像が楽しい。
(下北沢文士町入門では、大谷藤子旧居から世田谷カトリック教会へ向かった。関根神父さんは会堂に暖房を入れて我等を迎えてくださった。その上、お話までしてくださった）
