2014年02月12日
下北沢X新聞(2501)〜講演「文学と鉄道と世田谷」〜
（一）
言葉のあてがいは事象、現象の存在を価値づける役割を果たす。１０日に開催された「世田谷区生涯大学文化講演会」でのタイトルは、まさにその一例だ。玉川電気鉄道から小田原急行鉄道へのシフト、変換こそは世田谷の近代史であった。思うに、これは地域にはとどまらない。この底流には、日本近代文化史・文学史が隠されている。予習をしながら改めてこのことを再認識したことだ。
「講演のタイトルに直結していれば売れたのでしょうけどね」
会場へ出版社の人が来て、『鉛筆部隊と特攻隊』、『 特攻隊と（松本）褶曲山脈』を販売した。が、講演の入りが大盛況だったにも拘わらず、本は売れなかった。
しかし、編集者は無駄足ではなかった。出版不況はこれからも続く。出張販売の成果は上がらなかったが講演会のタイトルを主題にした本を作れば売れる。需要動向のリサーチだったと考えれば無駄ではない。人口八十万都市世田谷は出版業界に取っても侮れない。
「文学と鉄道と世田谷」、聴講に来られた方は、このテーマに郷愁を感じられたのではないかと思う。会場は百人入る、来場者は来ても四五十人ではないかと思っていた。それで、資料「下北沢文士町文化地図」は七十部、を持っていった。ところが、
「地図がなくなったのですよ！」
受付を始めてしばらく経つと、係の人が言ってきた。
一体どのくらいの人が来たのか、講演が終わって、その数を尋ねたら１０６名だった。
何年前だったろう？世田谷区内の団体に請われて「下北沢文士町」の話をした。講演として行ったのは初めてだった。会場は四五十人も入るのに聴講者は十名程度だった。ところがそれ以来、活動は地道に続けてきた。そういう経過あっての今だと思う。やはりなんと言ってもフィールドワークである。
「今日、私はここへ来るのに歩いて来ました。ちょうど来がけに手紙が届いて、なんと駒沢二丁目にあった高射砲陣地の跡が記してありました。その場所を確認してきました」
蛇崩川支流の右岸北のり面にその場所はあった。
『やっぱりなあ、この辺り高射砲陣地は北のり面にあるんだよなあ』
腰をかがめて地形傾斜を眺めながら私は呟いていた。
（二）
「世田谷で汽車は走りましたか？」
見た人がいれば幸いだ。
会場から反応があった。砧公園で走行したことがあったようだ。
「世田谷公園！」という声もあった。が、これはミニＳＬだ。
「私は、実際に見たという人から話を聴いています。下北沢在住の飯田さんからです。今の茶沢通り、踏切は小田急地下化で無くなりました。下北沢の交番前に踏切があったでしょう。旧東北沢４号踏切です。そこのところに居たら東北沢の方向から蒸気機関車が煙をもくもくと吐きながら下りてきたそうです。この小田急線は、昭和二年四月に小田急線は開業しますが、その前です。工事運搬用に蒸気機関車を使っていたのは間違いないことなので飯田勝さんの証言は確かです」
「もう一つ、これは未確認情報なのですが、戦時中に東海道線の代替ルートとして、Ｃ５８乗機機関車の走行実験を小田急線で行ったという話です。この情報を聞きつけて世田谷代田でカメラを構えて待っていた人がいました。
「待てど暮らせど来ませんでした」
当事者の証言である。伝聞では実際見た人もいたらしい。他には代田連絡線に機関車投入があったとの情報もあるが、これも裏が取れていない。
（三）
路面電車から郊外鉄道へ、この発達と興亡こそが世田谷の歴史である。
「世田谷区内で最初の鉄道は、玉川電気鉄道です。これが明治四十年（１９０７）三月六日、道玄坂上、三軒茶屋間を走りました。この時はどうだったのか、大坂をどうやってくだったのか興味が湧いてきます。」
恐らく沿道には多くの人々が集まってきたと思う。試験走行も済ませていたはずだ。それでも大坂に掛かったときは大変だったろう。ブレーキハンドルをぐるぐる回して、おそるおそる下ったのではないかと思う。想定斜度は四十パーミルぐらいか。鉄道で一番怖いのは坂道での逸走である。
「電車が降りてくるよ。あんな箱みたいなものが馬無しで走ってくるよ」
そういう場面を想像すると、どきどきしてくる。
電車との遭遇は、近代との出会いだ。これを嚆矢として世田谷が近代化していく。このことが近代文学の描写にも現れてくる。講演では、玉電沿線風景が描かれる寺田寅彦の『写生旅行』を取り上げたことだ。
（写真は別宮通孝氏提供）
「世田谷で汽車は走りましたか？」
見た人がいれば幸いだ。
会場から反応があった。砧公園で走行したことがあったようだ。
「世田谷公園！」という声もあった。が、これはミニＳＬだ。
「私は、実際に見たという人から話を聴いています。下北沢在住の飯田さんからです。今の茶沢通り、踏切は小田急地下化で無くなりました。下北沢の交番前に踏切があったでしょう。旧東北沢４号踏切です。そこのところに居たら東北沢の方向から蒸気機関車が煙をもくもくと吐きながら下りてきたそうです。この小田急線は、昭和二年四月に小田急線は開業しますが、その前です。工事運搬用に蒸気機関車を使っていたのは間違いないことなので飯田勝さんの証言は確かです」
「もう一つ、これは未確認情報なのですが、戦時中に東海道線の代替ルートとして、Ｃ５８乗機機関車の走行実験を小田急線で行ったという話です。この情報を聞きつけて世田谷代田でカメラを構えて待っていた人がいました。
「待てど暮らせど来ませんでした」
当事者の証言である。伝聞では実際見た人もいたらしい。他には代田連絡線に機関車投入があったとの情報もあるが、これも裏が取れていない。
（三）
路面電車から郊外鉄道へ、この発達と興亡こそが世田谷の歴史である。
「世田谷区内で最初の鉄道は、玉川電気鉄道です。これが明治四十年（１９０７）三月六日、道玄坂上、三軒茶屋間を走りました。この時はどうだったのか、大坂をどうやってくだったのか興味が湧いてきます。」
恐らく沿道には多くの人々が集まってきたと思う。試験走行も済ませていたはずだ。それでも大坂に掛かったときは大変だったろう。ブレーキハンドルをぐるぐる回して、おそるおそる下ったのではないかと思う。想定斜度は四十パーミルぐらいか。鉄道で一番怖いのは坂道での逸走である。
「電車が降りてくるよ。あんな箱みたいなものが馬無しで走ってくるよ」
そういう場面を想像すると、どきどきしてくる。
電車との遭遇は、近代との出会いだ。これを嚆矢として世田谷が近代化していく。このことが近代文学の描写にも現れてくる。講演では、玉電沿線風景が描かれる寺田寅彦の『写生旅行』を取り上げたことだ。
（写真は別宮通孝氏提供）
