2014年02月27日
下北沢X新聞(2511)〜武蔵野西郊：玉電再評価３〜
（一）
常日頃、逍遙して歩いているのは荏原台や淀橋台だ。ここを形成しているのが古くからの地層下末吉面だ。台地が鹿角状に深く浸食されていて谷の密度が高い。面白いことにそこに地形のドラマがあると同時にそこに生活してきた人々のドラマがある。
沢の一つ一つには物語がある。とくには際の物語だ。都市と田園の境界である。都市生活者は田園の静寂を求めた。日々荏原逍遙と称して歩いているところはあれからだいぶ経過しているが宮本百合子がさるきあるいていたところと同じだ。
九品仏その他、駒沢からこの辺にかけて、散歩するに気持よいところが沢山ある。名所ではないが、自然が起伏に富み、畑と樹林が程よく配合され眺めに変化があるのだ。ぶらぶら歩いていると、漠然、自然と人間生活の緩漫な調和、譲り合い持ち合いという気分を感じ長閑になる。つまり、畑や電柱、アンテナなどに文明の波が柔く脈打っているため、威圧的でない程度に自然が浮き上り、一種の田園美をなしている。
初出は「ウーマンカレント」、1927（昭和2）年2月号である。彼女が散策して歩いている延長上に駒沢の「文化的田園理想住宅地」はあった。一帯に存在する田舎的田園の静寂さと文明的なにおいの波である。
『是は現実的な感想』と題されたエッセイの、冒頭はこうなっている。
始めて郊外に住んで、今年は、永く美しく夏から次第に移り行く秋の風景を目撃した。これまで、春から夏になる――初夏の自然は度々亢奮して活々感じたが、秋をこのように、落ちる木の葉の色、雨の音にまで沁々知ったのは初めての経験であった。
玉電沿線の新町住宅地での生活の感想である。都会生活者のストレスを解消する場としての田園はあり得た。
（二）
先に話題にした駒沢「仙緑園」、文化的田園理想住宅地のチラシである。大正末年、震災前のものだと提供者の大槻さんは言われる。
これを見て思ったことは当時の玉川電車のフリクエントサービス、つまり高頻度運転の様子である。チラシではこれを売りとしていた。右隅にこれが書かれている。
渋谷驛ヨリ分譲地迄 電車十五分ニンシテ到ル
渋谷驛ヨリ分譲地方面行 電車毎五分發車
渋谷から駒沢までたった十五分だったのか。大渋滞に巻き込まれていた玉電を覚えていただけにこの速さには新鮮な驚きを持った。もっともこの時代、車はほとんど走っていない。電車は思う存分走れたろう。
「玉電では駆け落ちができない」
言い草であるが、考えてみると案外に早かった。渋谷から程よい距離にあって、文化的生活を送れるというところは魅力だった。電車という近代の乗物は格好良かった。
もっとも昭和十四年時、駒沢電停に止まっている電車を見ると玉電２６号は木造ボギー台車である。集電装置はポールである。が、前と後ろについているところから、ポール廻しはしなくてよいようだ。これで折り返し時の時間短縮を図っていたようである。
（三）
「国分寺崖線のところにある邸宅のお坊ちゃまが玉電で学習院に通っていたんですよ」
先だって世田谷線を歩いたときに出た話題である。
「玉電が走った町今昔」世田谷の街並み変遷一世紀 林順信編著（JTB)の冒頭では、高らかに謳われている。
玉電は渋谷・目黒・世田谷を走った沿線住民の足としてだけでなく、電灯事業も兼業をした。また沿線の住宅、遊園地、演芸場など、このメガロポリス東京が郊外へと発展した時代の要請に大いに寄与して来たことも、他の路面電車とは異なった、特筆に値する地域性を持っていることに注目したい。
武蔵野西郊電車鉄道としての先駆性が玉電にはあった。これによって世田谷が切り開かれた。一帯に都市文化をもたらした。が、これも劇的変化を生じる。関東大震災である。これによって田園都市ラインから下町ごっちゃ乱雑ラインに変化していった。ドラマチックな線である。
（写真は昨日手にした戦時中の風呂敷。戦争経験を聴く会で展示する）
先に話題にした駒沢「仙緑園」、文化的田園理想住宅地のチラシである。大正末年、震災前のものだと提供者の大槻さんは言われる。
これを見て思ったことは当時の玉川電車のフリクエントサービス、つまり高頻度運転の様子である。チラシではこれを売りとしていた。右隅にこれが書かれている。
渋谷驛ヨリ分譲地迄 電車十五分ニンシテ到ル
渋谷驛ヨリ分譲地方面行 電車毎五分發車
渋谷から駒沢までたった十五分だったのか。大渋滞に巻き込まれていた玉電を覚えていただけにこの速さには新鮮な驚きを持った。もっともこの時代、車はほとんど走っていない。電車は思う存分走れたろう。
「玉電では駆け落ちができない」
言い草であるが、考えてみると案外に早かった。渋谷から程よい距離にあって、文化的生活を送れるというところは魅力だった。電車という近代の乗物は格好良かった。
もっとも昭和十四年時、駒沢電停に止まっている電車を見ると玉電２６号は木造ボギー台車である。集電装置はポールである。が、前と後ろについているところから、ポール廻しはしなくてよいようだ。これで折り返し時の時間短縮を図っていたようである。
（三）
「国分寺崖線のところにある邸宅のお坊ちゃまが玉電で学習院に通っていたんですよ」
先だって世田谷線を歩いたときに出た話題である。
「玉電が走った町今昔」世田谷の街並み変遷一世紀 林順信編著（JTB)の冒頭では、高らかに謳われている。
玉電は渋谷・目黒・世田谷を走った沿線住民の足としてだけでなく、電灯事業も兼業をした。また沿線の住宅、遊園地、演芸場など、このメガロポリス東京が郊外へと発展した時代の要請に大いに寄与して来たことも、他の路面電車とは異なった、特筆に値する地域性を持っていることに注目したい。
武蔵野西郊電車鉄道としての先駆性が玉電にはあった。これによって世田谷が切り開かれた。一帯に都市文化をもたらした。が、これも劇的変化を生じる。関東大震災である。これによって田園都市ラインから下町ごっちゃ乱雑ラインに変化していった。ドラマチックな線である。
（写真は昨日手にした戦時中の風呂敷。戦争経験を聴く会で展示する）
