2014年10月06日

下北沢X物語(2658)〜下北沢文士町と成城文士村4〜

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(一)
 街の階段というのはあるのだろうか。寄留する街、漂泊する街、漂着する街と。

 一つの比喩でいえば下北沢文士町には漂泊者が、成城文士村には漂着者が集った。前者から後者への階梯を経て居住し人もいる。水上勉は修行時代に、大岡昇平は学生時代に、武満徹も無名時代に、それぞれが下北沢に関係し、後に成城に住まった。

 下北沢と成城、都市の間合いということがある。新宿や渋谷という副都心との距離である。前者はつかず離れず、後者は一二拍置いた距離である。

 柳田国男は、徳冨蘆花「みみづのたはこと」に影響を受けての世田谷住まいでもあったらしい。粕屋では、「東京の午砲につゞいて横浜の午砲。」がしたという。成城も都心との距離では同じだ。やはり、東京と横浜の午砲は少しずれて聞こえたのか?。都心との間合いは面白い問題だ。

 成城文士村に住むのか、下北沢文士町に住むのか、迷った詩人がいる。

 萩原朔太郎の場合が面白い。彼は下北沢に住んでいた。が、「下北沢は近く井の頭線も開通されるし、もっと便利になる…もう少し静かな郊外の方がよいであろうということで、父が小田急線では一番好きな成城学園前と、世田谷中原を探した。」(『父・萩原朔太郎』萩原葉子)という。

 文学は際立たせ方である。それとなく本当らしく創り上げて、読み手を納得させる。この父の伝記は娘の視点で書かれたものである。

 結局は世田谷中原に居を定めるのであるが、娘の描き方からすると彼女は鉄塔下は感覚的には好みでなかったようだ。『蕁麻の家』は創作であるが、萩原葉子の心理を反映している。「あの高い鉄塔に登り、感電死するのが私の運命のような気がした。この土地を洋之助と見に来た時、私はまだ小学生だったのに何となく暗い予感」がしたという。丘上に聳え建つ鉄塔は、父には希望に見えたが、娘には不気味に見えた。これは本当だろう。

 萩原葉子は、父が「小田急線では一番好きな成城学園」だと言っている。本当はどうなのだろう?「昭和十年のある春の日」父と娘は白秋を訪ねた。

 一升瓶を下げた父と一緒に小田急の成城学園で降りて、トンネルのような桜の並木を歩いて、かなり行くと、やがて高台の赤レンガ洋風造りの北原さんの家に着いた。(同著)
 

  萩原葉子はこのときの好印象を他にも語っている。この成城の北原白秋が住んでいた跡は、今でも木々が豊かで静かだ。桜の時期はなおさらだろう。成城の好環境は彼女の思いであったろうと思う。

 


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(二)
 北原白秋は成城に住んだ。土地と風光、人はそれぞれに好みがある。白秋城のあった馬込の緑が丘は舌状台地の突端にあって眺望抜群だった。成城の家も似ている。

 この家は東大教授U氏の持ち家で、同氏が三年間ドイツに留学中を借り受けたものだが、表通りから百メートルくらい奥まっていたので全く静かだった。ちょうど台地の突端のような地形で、広い芝生の南斜面はやがてPCL(のちの東宝)撮影所の敷地へと続いていた。裏には雑木林もあった。(『評伝 北原白秋』藪田義雄)

  白秋は眺めのいいところに陣取る。彼の旧居を訪ねると明るさや広さが即座に思われる。それに対して萩原朔太郎はどうだったのだろうか。

 三好達治は、師である朔太郎の普段の姿をこう描いている。

あなたはまるで脱獄囚のやうに 或はまた彼を追跡する密偵のやうに
恐怖し 戦慄し 推理し 幻想し 錯覚し
飄々として影のやうに裏町をゆかれる」
 「師よ 萩原朔太郎」 三好達治詩集 岩波文庫)


 碁盤目状に区画整理されている高級住宅地成城は広くて明るい、一番の難点は隠れるところがないというところだ。自分が脱獄囚になったつもりで、後方を振り返る。すると道がまっすぐ続いていて見通しが利く。「おっと、向こうから警官が駆けてくる」、やはり見えていてはいけない。成城は表町だ、「裏町をゆかれる」朔太郎には似合わない。 
 
(三)
 萩原朔太郎『猫町』は世田谷代田がキーステーションだ。ここから散歩を始めて付近の入り組んだ道に分け入って行く。沢がポイントだ。道がくねくねと入り組み、おまけにドブの臭いもする。たちまちに我が身は密偵だ。誰か追ってきはしないか?。

 比較文学論、下北沢は『猫町』だ、黒猫ジュリエットがいたり、大谷藤子の愛猫ミーヤがいたり、朔太郎の青猫がいたりと、何となく隠微だ。

 一方、成城文士町は、『犬町』だ。歩くとトイプードルを連れたお屋敷の奧さんに何匹も行き交う。その犬は総じて人なつっこい。
(写真は成城学園正門。下は茶屋坂、国分寺崖線)


rail777 at 20:00│Comments(0)││学術&芸術 | 都市文化

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