2014年10月12日
下北沢X物語(2662)〜津田山高射砲陣地再訪〜
（一）
同心円を描いて郊外は移動する。その境目にこそ詩趣がある。と、衝いたのは国木田独歩である。都心との離れ具合において人間がどう緊張するのかという問題でもある。
一昨日は、カルチャースクールの街歩きの下見で、代々木山谷田山花袋旧居から渋谷独歩旧居まで歩いた。また昨日は会の街歩き番外編、別宮地通孝さん案内で、久地円筒分水、津田山高射砲陣地跡を訪れ、そして、川崎高津で「国木田独歩文学碑」と出会った。
都心との距離においての時間を歩きで体感した。渋谷の独歩旧居は､都心時間との差が三秒程度、川崎高津あたりは五六秒ほどの遅れがある。
遅れはローカル時間が長くなるということだ。
「微妙に感じが違いますね」
街歩き同行者の米澤邦頼さんが言った。溝の口から歩き始めて、荏原との空気感の違いを感じた。
「ガードマンの服装の皺とか側溝の蓋の隙間に、それはあらわれているね」と私。
都心との距離だけでなく地形も影響している。武蔵野と違って山が高い。崖が急である。登りが体に応える。津田山高射砲陣地は、この山の背尾根にある。
航空写真で見ると高射砲の六門は北西を向いている。東京へと飛行していくＢ２９のコースが推測できる。空に想像の爆撃機を飛ばしてみる。
が、もう７０年も前のこと、この津田山高射砲陣地もすっかり忘れられている。ネットで調べてもなかなか出てこない。わずか一例があった。Ｂ２９が飛来してきたときにここの砲がどんどんと音をたてて放たれるが、その「弾雲の中をゆうゆう飛んでい」く敵機を見上げるばかりだったという。
津田山高射砲陣地跡を歩き回るが、痕跡は一切ない。駒沢高射砲陣地跡では、台座の一部を見つけて、皆と感動したものだが、ここでは皆無だ。
「あっ、あれは」
庭に古いコンクリートがあるのが見えた。
「残念、ここは戦後牧場になって、牛の水場が作られた。その水槽なんだ」
前に来たときにこの家の人から話を聞いていた。
今回は別の人に、昔の話を聞くことができた。どんな話だろう？
（二）
ここ十数年、多くの人から戦争当時の話を聞いてきた。「高射砲がＢ２９に当たって火を噴いた」などと直接の目撃者から話を聴けた。が、そいういう人もめっきり少なくなった。戦争経験が風化するはずだ。
「もう五十何年住んでいるわね。高射砲のことはこの辺り古くから住んでいる人は知っています。子どもがね、残っていた台座のところで遊んでいました。地下道もありましたよ。そこを潜り抜けていましたね。うちの下にもあって、家を建て替えるときにコンクリートで埋めました。それで、お金は百万円ほど余分にかかりました」
高射砲陣地跡、航空写真でこれに付随する兵舎のあったところに住むおばさんが昔を語ってくれた。推定年齢八十幾つかの人だ。
「お嫁に来たときは、最初、車で一気にここに上ってきたのですよ。着いたとたん、ほら、山の上だから眺めはいいでしょう。いいところ来たと思いましたよ。ところが、大変、買い物で山を下るのも、また登るのもね。道がぬかってね。うちの主人なんか電車で通勤していましたけどもね、靴を駅前の新聞販売店においてもらったのですよ。いっつもそこまでは泥靴で行って、履き替えて行っていましたからね…」
「いや、この辺りの変わり様はそれはそれは大変なものでしたね。以前は畑ばかり、牧場と雑木林でしたけどね、高射砲のあったあたりを東急が宅地開発してどんどんと家ができていきましたね。それからこの東向きの崖、どんどんマンションが建ちました。みるみるうちにですよ…」
「この下の崖は大変ですね。崖が崩れたりもしましたし。うちはね、尾根上にあるから風がきついのよ。でもね、雨はいくら降っても大丈夫なの…」
なるほど高いところに降った雨は流れるだけだ。尾根上は豪雨には強い。
（三）
「ああ、そこの切り通しね」
国道２４６のそこは通ってきたばかりだ。山を抉って、両脇がついたてのようになっていた。
「昔はね、ここから尾根伝いに、駅にいけましたね……何年かぶりに昔、住んでいた人がここに来たのよ。尾根伝いに、こちらに来ようとしたら、道がなくて、もうとんでもなくびっくりしてたわね…」
それはそうだろう。山を越えて尾根にかかったところ、深く深く抉れていて、向こうにはいけない。
「ぐへっ！」
その彼、か、彼女かはわからないが、恐ろしく驚いたろう。
この切り通しの工事の時、墳墓がいくつも見つかっている。尾根には古墳、そして高射砲…歴史だ。
（津田山背尾根。下、別宮通孝さん作成）
この記事へのコメント
1. Posted by よねざわくにより 2014年10月12日 20:24
下段の地図、作成は別宮さんです♪
第９９回都市物語を歩く
『京王線高架予定区間を歩く』
誤＝２０月１８（土）
正＝１０月１８日（土）です。
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『京王線高架予定区間を歩く』
誤＝２０月１８（土）
正＝１０月１８日（土）です。
