2015年07月04日
下北沢Ｘ物語（2830）〜ＭＰ第４弾「ああ、代田連絡線」�掘�
（一）「代田連絡線の地域文化史における位置づけ」という観点が成り立たないだろうか？MPでは、この線の歴史について触れた。敷設に始まって撤去に終わる。この間に大きな時代の変転があった。戦争が終わって戦後が始まった。代田連絡線も少なからずこの影響を受けている。つまりは、大東急解体における大きな変化だ。
先にも触れたが、この代田連絡線については某、月刊誌に記事を載せた。
（大東急解体・分離）
昭和２３年、戦時統制下にあって大東急は形成される。これの戦後における分離劇においては井の頭線はキーラインとなる。渋谷から吉祥寺へと抜ける短い線だがドル箱路線だった。この線はもともと小田急系列の会社だった。ところが、分離するに当たって京王は本線だけではやっていけなくなった。元々京王は電力供給で利潤を上げていた会社だ。けれども、電力の国家統制でそれができなくなった。京王の本線だけでは採算が取れない。再編計画の事実上の作成者である大川博は、やむなく帝都線を小田急に戻さずに、京王にくっつけてしまった。小田急と京王との確執は、今も残っている。
京王、小田急ともに社史で連絡線に触れている。京王社史は、小田急側からの「応援車両を得て車両の需給関係に一息入れている間に、戦災車輌の復旧が行われた…（中略）…損傷した車両の復旧に努めるなど井の頭線の車両体制を整えるとともに、応援にやってきた大部分は返却された」と記す。
一方の『小田急五十年史』は、「新宿管理部関係では小田原・江ノ島線から延べ１０両を井ノ頭線に転用した。しかし新宿管理部としても、直接空襲による車両の被害はほとんどなかったとはいえ、在籍八七両中、可動車は五〇両そこそこしかかなかったのであるから、この応援車提供は非常に苛酷なことで、満足なダイヤを組むべくもなかった」と。
この両社の歴史認識のトーンが微妙に違う。京王は冷静だ。ところが、小田急は感情的である。大東急分離劇における別れの悔しさが尾を引いている。戦争中に被害を受けた井の頭線に車両を小田急から供給するということで代田連絡線は敷設された。自社間援助ということもあった。が、戦後になって、別々の会社になり、代田連絡線は他社間連絡線となった。
（二）
鉄道線のクロスと言った場合、二通りの交わり方がある。一つは他者間連絡であり、もう一つは自社間連絡である。後者の好例が自由が丘である。東急東横線と大井町線とがここでクロスしている。ここを中心にして街は広がっている。一帯は東急一色的である。
異種が交わることで文化は深まる。昭和十年代は小田急線と帝都線は系列会社であった。が、この両者は色合い風合いが異なっていた。この辺りの事情に詳しいのは子供だ。当時、彼らは帝都線を「上の電車」と、小田急線を「下の電車」と呼んでいた。
『小田急五十年史』は、この辺りの事情を興味深く語っている。
ガードの上を通る前者の方が、車体がスマートで軽快、警笛がステキ、運転台が、正面下まで座席がある、ドアエンジンが完備している、などなどの理由から、人気が高かった。確かに窓一つをとってみても「下の電車は」は枠が小さくて、それも下へ落とす旧式の一枚窓なのに、「上の電車」のほうがすべてにアカ抜けていて評判がよかった。しかし、「下の電車」には急行があり、列車種別、編成がバラエティに富んでいるうえ、路線が汽車のように長くて、車窓の眺めが美しいことを知っている子供は「下の電車」にも高い評点をつけていたものである。「上の電車」は帝都電鉄、「下の電車」は小田急電鉄であった。
会社も歴史も違うから電車の色合いや形が違う。子供達から見た比較電車論である。後者の方で重要なのは「路線が汽車のように長い」ことだろう。この点は、旅路の長さである。はるけさが感じられる点は想像力の刺激としては素晴らしい。行き着く先に相模湾があったり、箱根富士があったりすることは詩心を刺激した。
（三）
戦後になって井の頭線と小田急線は、別々の会社になった。
「分離したことで代田連絡線は用済みになったと思います。同系列の会社だったら、あるいは渋谷から江ノ島行きの海水浴団臨が出たかもしれませんね。」
MPでこんな話をしたことだ。
戦後を機に、小田急線、井の頭線、それぞれに自社色をより強める。例えば、小田急独立の社告ポスターである。昭和二十三年六月一日づけのものだ。
六月一日からおなじみの小田急となりました。
あおい海も みどりの山も 小田急とよんでいます
力つよく 立ち上がった小田急です
どうぞよろしくお願いします
海へ山へと繋がる路線の特徴を改めて強く打ち出している。旅浪漫性を強調している。京王はこうはいかない。が、決別はくっきりと線の独自性を訴えるきっかけだった。この線が交差する街の色合い、文化がより違っていったたとも言える。
マッピングは、「アレ」と「コレ」との違いを探訪して、楽しみ、その痕跡を地図に落とし込む、文化的営為だ。
（上、上の電車、下の電車、かつての下北沢駅のわきの高架橋、下は、東急東横線と大井町線が交わる自由が丘だ）
