2015年07月15日
下北沢Ｘ物語（2837）〜やむにやまれず国会へ〜
（一）時代時代には固有な空気が流れている。例えば、戦時中、一人の中学生は「人生二十五年」と思いどうせなら華々しく散ってやろうと考えていたと。社会の閉塞的な空気が若者の夢を奪った。社会は自由であってほしい。ところが今、この社会がおかしい。人々の思い、民意が踏みにじられている。原発再稼働、沖縄辺野古問題、新国立競技場問題など民意とは反対の方向で舵が切られようとしている。
そしてまた安保法案が近々強行採決されるという。国家の形を大きく変えるものなのに、法案に対する答弁はあいまいで、よく分からない。自民党は数をたのみとしてなりふり構わず強行採決に踏み切ろうとしている。これを聞いていてもたってもいられない、何とか自分で行って意志表示をしたい、昨日、日比谷野音にはそんな人が大勢来ていた。一人できたおじさんであったり、おばさんであったり。切羽詰まった思いで来ていた。
日比谷から国会まで請願デモに加わった。デモをすると歩道をゆく人は奇異な目をむける。原発デモのときはいちゃもんをつけてくるやつまでいた。今回は道ゆく市民とデモ隊との間にはそういう垣根がなかった。デモを行って意志表示をするのは当然という雰囲気を感じた。
まずは日比谷野音だ。行くと大勢の人で溢れていた。「戦争法案廃案！強行採決反対、７.１４大集会」その会場には入れない。仕方なく会場の外で中から漏れてくる演説を聴いている。そして見知らぬ人同士が会話をしている。
「ここでくるしかないよと思ったのよ、千葉からね」
「家にいてテレビ見ていても腹が立つのよ、みんな市民の思いなんか届いていないよね、だから神奈川から来たの」
労働組合の旗も目だつが、個人参加も多い。小グループで来ていたり、また私のように一人で来ている人も多い。
今朝の新聞などでは主催者発表二万人とか書いてあった。が、数の中身は報道されない。強行採決が明日なされるとすれば、今夜一人でも参加して見せつけてやりたい。やつらは気持ちとして白褌に履き替えて強行採決に望むだろう。その思いを前夜のうちに打ち砕きたい。参加者のボルテージは高い。
折々に、「戦争法案反対」のシュプレヒコールがあがる。爺さんも婆さんも皆元気だ。
（二）
「民主主義の眼目は、率直で力を込めた討論である。」が、安保法制を巡る議論は討論になっていない。野党の質問の刃は鋭く切れ込んでいく。「確実に自衛隊員のリスクは高まるではないか」という問いに対し、「高まらない、国民が安全になる」という。筋違いの答弁ばかりがなされていて彼らの言っていることが理解できない。
また集団的自衛権を行使するさいの前提条件「存立危機事態」をどう判断するかについては、「総合的に」判断してという、基準が曖昧でそのときどきの政府によって恣意的に変えられて行使されるという危険がある。またあの道を歩いて行くことにならないか？
今回の特徴は、安全保障関連では十一本の法案がだされている。一二本ならまだしもこれを一括して通そうというところにそもそもムリがある。説明は伝わってこそ了解がうまれる。が、彼らは多くの時間をかけたから説明は終わった、だから採決するのだという姿勢である。言えば国民を目くらましにしてその間に、数を頼んで通してしまえばいいという悪巧み的戦術だ。
（三）
夕暮れの国会周辺にデモ隊が発する声がこだまする。日比谷からは潮見坂を登って行く。国会議事堂が据えられているところは淀橋台東端だ。淀橋台から派生した舌状台地の上に築かれたものだ。かつての武蔵野の一画だ。ところが国木田独歩は『武蔵野』でいう。
僕の武蔵野の範囲の中には東京がある。しかしこれはむろん省かなくてはならぬ、なぜならば我々は農商務省の官衙が巍峨として聳えていたり、鉄管事件の裁判があったりする八百八街によって昔の面影を想像することができない…中略…このようなわけで東京はかならず武蔵野から抹殺せねばならぬ。
官庁街は彼には敬遠すべきところだった。人間の思惑が渦巻いている場ゆえに忌避的だったのだろう。そう政治は思惑だ。議員会館前にさしかかるとたすきをかけた国会議員が我等にエールを送ってくる。
「座り込みしてでも通すなよ！」
「徹底抗戦するんだぞ！」
隊列から声がかかる。野党といっても民主党、共産党、社民党だ。維新の党はいない。自民側にシフトしてしまったのだろう。
人間は我欲の動物、徒党を組んでその勢力が大きくなると歯止めなく恣意的に、政治を私物化する。自民党に議席を与えないことで市民は自由を確保できる。心したい。
