2015年07月22日

下北沢X物語(2842)〜戦火を潜り抜けた児童楽団�供�

032(一)鉄道交点に端を発する歌物語を論考にまとめている。タイトルは、「郷福寺学寮歌が切り開いた戦争近代」である。今夏、70年目を迎える終戦記念日に我等の会の紀要4号を発行する。これに載せるためである。
 
塩尻郷原郷福寺に代沢国民学校の一つが疎開していた。ここで学寮歌が歌われていた。この響きを深く心に刻んでいる人がいた。とおに失われたこれを復元させたい。その熱い思いからこの歌曲を探した。それがこのブログに繋がってついに歌は蘇った。これが眠っていた戦争近代を紐解く端緒となった。

 この歌の響きは鉄道交点の文化に深く関係する。鉄道によって集まってきた文化はおしゃれだった。赤い屋根と武蔵野の緑に調和する都市郊外的感覚に満ちていた。

 郷福寺学寮の歌、三番の最末尾は、「松林風がわたるよ/ふるさとへ風が運ぶよ」である。ここでいう「ふるさと」こそは鉄道交点である。都会へ帰りたいという望郷の念を歌ったものである。

 自分たちが慣れ親しんだところに帰りたい。これを具体的な絵画としてあげれば、高須光治が描くところの「下北沢風景」である。丘上にある赤い屋根と武蔵野の緑が描かれる。広丘郷原の松林に吹き渡る風が、ここに運ばれる、「僕たちが高く歌えば/僕たちの明るい声を」ここに届けてくれる。学童たちは下北沢近辺に住む父母に届けと、声を一段と高くした。そのハーモニーは最高潮に達した。

「なんてさわやかなんだ!」
 聞いている方が強烈なインパクトを受けた。この歌には都会的センスとリズムとが満ちあふれていた。地元の子どもたちは衝撃を受けた。見知らぬ都会地への憧れを生んだ。

 この音楽には源泉があった。それは隣り村で歌われていた「真正寺学寮歌」である。ここが児童楽団の本拠地だった。


(二)
 歌の響きが近代戦争史を掘り起こした。一つの情報が他につながり、それがまた新たな情報を掘り起こす。つぎからつぎに、「他にもこんな情報がありますよ」と届けてくれている。終わりのない物語だ。

 先の論考はまとめ近くになっている。今は神林国民学校の学童だった藤牧和彦さんの証言をまとめている。この学校のすぐそばに陸軍飛行場はできた。昭和十九年三月、授業中に突然に爆音が響いた。「何だ!」、外を見ると飛行機だった。学童たちは騒然となった。一斉に外に飛び出し、500メートルの向こうの飛行場まで走っていった。一番機の飛来である。藤牧さんはこれをはっきり覚えていた。松本中学の動員生徒は、飛行場での作業中に着陸してきた飛行機を見て一番機だと思った。藤牧さんの目撃はそれよりも半年も早い。

 音の感覚史なるものがあるとすれば面白い。が、これは多くが消え果てていく。それでも片鱗に残されていれば、想像ができる。最近手に入った音は当時の空気感を伝えているように思った。

 「ミドリバンド」のテープが手に入ったと先に書いた。これをようやくパソコンに取り込んで聴くことができた。カセットテープの最初にガッガッという音が入っていた。
「レコードを録音したものだ!」
 記録された音源があるのだと分かった。調べるとこのレコード、ネット検索で出てくる。国立国会図書館に所蔵されていた。

 フォスタ-歌謡曲 子供の音楽 フォスタ-、曲 浜館菊雄、編曲 東京都代沢小学校 児童ミドリ楽団 アメリカン、メドレ-同上、曲 同上、編曲 日本コロムビア、1951.黒.簡易楽器模範合奏

詳細情報には、「出版地 東京/出版社 コロムビア/出版年 1951/大きさ、容量等 録音ディスク 1枚 : アナログ (SP) , 78rpm ; 25cm」とある。恐らくこれではないかと思う。出版年は、昭和31年である。ミドリバンドが最も活躍していた頃に、レコード化されたものだ。

 この情報、ポイントとなるところは、「簡易楽器模範合奏」である。この音盤を聴いて簡易楽器の演奏方法を学ばれたし。そういうメッセージが読み取れる。

(三)
 ミドリバンドはこれが出版された頃、米軍の慰問などをして華々しく活躍していた。アニーパイル劇場での公演の最初は昭和二十三年九月だ。ここではアメリカの将兵向けの器楽演奏を行っている。フォスターの曲を中心とした「アメリカンメドレー」がレコードに組み込まれている。劇場で演奏された歌がこれに収録されたものだろう。

 レコードにして売り出す、それはミドリバンドの演奏がトップクラスにあったからである。その演奏は戦後に始まったものではない。戦中の活動が関係する。疎開先での絶えざる練習、これによってその技量が保持されたことが大きい。
(写真、上は広丘郷原郷福寺、下は洗馬の真正寺、いずれも笛吹市矢花克己さんの撮影による)



rail777 at 20:00│Comments(0)││学術&芸術 | 都市文化

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